ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
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アリーゼさんたちが私たちの拠点で最終調整を行うというので、私も途中で参加し、アークス装備を訓練モードで起動して全員を相手にしてあげた。ぶっちゃけ、ステップ回避に徹していれば攻撃なんて掠りもしないけれど、それじゃ訓練にならない。ガードポイントと共に一部の機能を封印して戦った結果、私にとっても結構いい鍛錬になったと思う。
「全員でかかってこれですか。なかなか先は長いですねぇ……」
訓練後、エルティナにまとめて回復してもらっている輝夜さんが、薄目を細めて私を睨んできた。
「結構、本気でしたよ?」
「いけしゃあしゃあとよく言う……」
輝夜さんは声を潜めて毒を吐いたが、私は聞こえないフリをしておいた。
「うん、いい汗をかいたわね……ごほ、ごほっ。今日はありがとうベルディナ、エルティナも」
アリーゼさんは少し肺に負担をかけてしまったのか、若干咳き込みながらも朗らかに声を上げた。
「アリーゼ、あまり無茶をしないでください」
介抱するリューさんは、まだまだ余裕がありそうだ。今回は双剣の木刀を使っていたけれど、次の機会には『ホムラノベニレンゲ』を使った訓練を提案してみてもいいかもしれない。
「それにしてもさぁ……
ライラさんはふてくされたように言うが、こればかりは仕様なので仕方がない。私はHUDのミニマップとエネミーセンサーで全方位をリアルタイム監視しているから、死角からの奇襲は通用しないのだ。たとえ煙幕で視界を奪われても、視覚を可視光からフォトン探査に切り替えるだけなので意味がない。
「私、ちょっと勘が鋭いみたいですね」
「……ちっ。やり方考えなきゃな」
ライラさんは左目の眼帯を撫でながら呟いた。あの戦いで失った視力に、ようやく体が慣れ始めたところらしい。あれだけ動ければ十分じゃないかと思うけれど、彼女たちの向上心には際限がないようだ。
『ねえ、エルティナ。視覚補助装置みたいなのって作れないよね?』
私は通信機でこっそりエルティナに聞いてみた。
『装置の規模が小部屋のサイズになりますので、現実的ではありません』
『だよねぇ……』
深層の素材をどれだけ注ぎ込んでも、精密な生体再現は別問題だろう。前世の地球ですら完全な再現は難しかったのだから。
鍛錬が終わる頃には、ちょうどお昼時になっていた。ワカヒルメ様はアルバイトに出ていて帰りは夕方なので、お昼は別だ。
「アリーゼさんたち、お昼はどうしますか? 食べていきます?」
今年は珍しく春の新そばが手に入ったので、年末以来の蕎麦打ちでもしようかと思っていたところだ。
「うーん、そうね……今日は止めておくわ。出発は明日だから、自分たちの拠点で最終確認をしたいの」
「そうですか。分かりました。頑張ってくださいね」
◇◆◇◇◆◇
お昼は私とエルティナの分だけ蕎麦を打ち、ざるそばで頂いた。年末に比べてもかなり良くなってきたんじゃないだろうか。食後、中庭の掃除をしていたエルティナに作業を中断してもらい、二人でガネーシャ・ファミリアへと向かう。
通信機を利用したダンジョン・インフラ事業が軌道に乗り始めたため、一度合同報告会を行いたいとの呼び出しだ。今回はギルドも同席するミーティングなので、
結局、一番無難な『アークスブレザー』を選び、黒のストッキングで生足を隠して「それっぽく」まとめることにした。
なお、ストッキングは黒いガーターベルトで留め、それに加えて黒レースのショーツとブラという、大変セクシーなセットアップを仕込んでおいた。こういう大事な局面には、勝負下着を身につけるに限るね。
下半身に力が入り、背筋が伸びてほどよい緊張感に包まれるのだ。「気合の入れ方」としては、私だけかもしれないけれどね。
もちろんダンジョンアタックには全く向かないので、そこだけは注意が必要だ。
「いよいよギルドが本格的に関わってくるとなると、大がかりになるね。ロキ・ファミリアあたりも、そのうち『一枚噛ませろ』って言ってくるかも」
「その可能性は高いですね。ですが、これはオラリオの利権に関わる問題ですので、ギルドが一括管理するのが最適かと思われます」
難しい理屈は分からないけれど、エルティナの言う通りギルドが責任を持って管理するのが妥当だろう。
相変わらず悪趣味の極みな『アイ・アム・ガネーシャ』の入り口を通り、顔見知りになった受付嬢の案内で、広めの会議室へと通された。室内にはシャクティさんをはじめ、イルタさんといったガネーシャ・ファミリアの幹部たちが勢揃いし、配布資料の最終確認を行っていた。
「ああ、君たちか。すまない、準備に少し時間がかかってしまってな」
シャクティさんが申し訳なさそうに出迎えてくれたので、私は資料配りを手伝うことにした。
前世の会議準備といえば、PCとプロジェクターの接続や音響チェックなど、機材トラブルとの戦いだった。それに比べればアナログなこの世界は楽だが、資料は基本すべてが手書きだ。よく見ると今回の資料は「ガリ版印刷」で作られているように見受けられた。なかなかレトロで味があるね。
『ねえエルティナ。コピー機って作れる?』
『可能ですが、出版業界への影響が強すぎます。作成は控えるべきかと』
『だよねー……』
そうこうしているうちにギルドの担当者も到着し、いよいよ会議が幕を開けた。
「今日は時間を取ってもらい感謝する。まずはギルドから、プロジェクトの概念説明をお願いしたい」
議長を務めるシャクティさんの進行で、ギルド職員が起立した。
話をエルティナに要約してもらうと、内容はこうだ。18階層の中継塔により24階層までの通信が安定したこと。これをオラリオの基本インフラとして公表し、当面はギルドとガネーシャ・ファミリアが管理。通信機はギルドへの申請・貸出制とする方針。
『貸し出す機体って、やっぱり私たちが作ることになるのかな?』
私はエルティナにこっそり聞いてみる。
『現状ではそれ以外の方法が存在しません』
『だよね、素材を斡旋してもらってるからしかたないのか。まあ、ギルドが窓口になってくれるなら、変な要求が直接来なくて済むし、気楽でいいかな』
会議ではヘルメスファミリアの団長、『
続いて通信機の生産能力について、エルティナがプレゼンを行う。現状はまだ試作段階であり、将来的なポケットサイズへの小型化と、通信距離の延伸を想定図と共に説明した。
「これほどの小型化が可能なのか? 進捗はどうだ?」
ギルド側の鋭い質問に、エルティナは淡々と、しかし戦略的に回答する。
「確約はできませんが、深層……51階層以下より希少な素材を入手できれば、不可能ではないと認識しております」
あくまで「素材次第」という形にして、ギルド側に希少素材の確保を促す。なかないい交渉術だと思う。私じゃできないことだね。
いずれは月産10台を目標に据えることで合意し、会議は終了した。
「お疲れ様でした、シャクティさん」
難しそうな顔で退室したギルド職員を見送り、私は彼女を労った。
「ああ、ありがとうベルディナ。エルティナも、完璧なプレゼンだったよ。私もこの事業の先が楽しみだ」
今回、ギルドへ5台の機体を納品することが決まった。追加の深層素材はギルドが斡旋してくれるという。
エルティナが「素材のサンプルだけでも提供いただければ、小型化高性能化を進めます」と、はっきりと言ったので多分ギルドもある程度は融通してくれるだろうと期待している。
エルティナは余った機密資料を回収し、シャクティさんに返却した。まだまだ機密の情報なので、万が一にでも外部に流出させるわけにはいかない。といっても、ロキファミリアあたりはすでに何らかの情報を嗅ぎつけているだろうとはシャクティさんも言っているけどね。アミッドさんと前回一緒だったヘファイストスファミリアの人達にも通信機については硬く口止めをして貰っていて、主神にも公言してはいけないという契約書を交わすほどだ。
「しばらくは面倒をかけるが、よろしく頼む」
「いいですよ。元々は私たちが始めたことですからね。……エルティナ、お願いね」
偉そうに言いつつ、実務のほとんどはエルティナ任せだ。私は、彼女の後方支援(?)に徹するのみである。
ひとまずはインフラ事業も一段落だ。またダンジョンに籠ってレベリングかな。前回の遠征でランクアップ出来なかったから、まだ中層止まりだけど、焦らずやっていくしかないか。
(密かに一ヶ月毎日投稿にチャレンジしてます)