ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

147 / 185
番外編:英雄たるもの

 

 ベルディナたちが「星屑の庭」を去った後、応接室に残された空気は、先ほどまでの賑やかさが嘘のように重く沈んでいた。

 主神アストレアが見守る中、団員たちの間に漂うのは、命を救われた安堵よりも、己の無力さを突きつけられたことによる苛立ちと悔悟だった。

 

「――何度、あの子に助けられれば気が済むのだ、私たちは」

 

 沈黙を破ったのは輝夜だった。握りしめた拳が、乾いた音を立てて机を叩く。その横顔には、普段の余裕など微塵もなかった。

 

「情けなくて涙が出るぜ……。守られる側になっちまうなんてな」

 

 ネーゼが深く椅子にもたれかかり、天井を仰ぎながら毒を吐くように漏らす。

 

「なんで、あの子はあそこまで優しくいられるのかな」

 

 アスタの呟きは、誰に宛てたものでもなかった。ただ、目の当たりにした「過剰なまでの善意」への純粋な疑問だった。それに答えたのは、今まで一度も視線を上げなかったリューだ。

 

「自己犠牲精神とは違う。あの子は……どこまでも自然体だ。呼吸をするように、当たり前のこととして、他者を助けようとする」

 

「それが、あの子の抱く理想ってこと?」

 

 アスタの言葉に、アリーゼは静かに首を振った。

 

「いいえ。あの子はきっと、理想なんて重いものは背負っていない。ただ、あの子にとって助けないという選択肢は、この世界のどこにも存在しないだけなのよ。だからこそ、その正義を振りかざすことも、内に秘めて苦しむこともない……」

 

 救い、救われるという概念すら超えた、ある種の断絶。その異質さに、輝夜が冷ややかに、けれどどこか畏怖を込めて口を開く。

 

「おそらく、あの子はダンジョンで死ぬことさえないのでしょうね。たとえ死んでも蘇るなど、本当に人間なのかどうかさえ疑いたくなります」

 

 輝夜は、静止画のような眼差しをアストレアへと向けた。

 

「いいえ、輝夜。あの子は紛れもなく人間だわ。決して、超越存在(デウスデア)などではない」

 

 アストレアは断言した。その声には慈愛と共に、一人の少女を見守る神としての確信が宿っていた。

 

「正義を背負わず、振りかざさず、秘めることもない。それを……英雄とでも呼ぶのですか?」

 

 リューの問いに、今度はアスタが力なく笑った。

 

「たぶん、あの子は英雄っていう肩書きにさえ、こだわってないんだと思う」

 

「遊ぶがごとく、ということですか。……大したものですね。私では、到底できはしませんよ」

 

 輝夜はそう言って、自嘲気味に目を伏せた。

 自分たちが命を賭して守ろうとしている「正義」という名の重石を、あの少女は軽やかに、まるで遊びのように飛び越えていく。その背中は、あまりに遠い。

 

 最後に、アリーゼが独り言のように、けれど揺るぎない決意を込めて宣言した。

 

「共にありましょう。その先に私たちの願う世界があるのなら――私も、彼女と共にありたい」

 

 誰一人として、その言葉を否定する者はいなかった。

 ただ静かに、少女という名の「未知の正義」と共に歩む覚悟が、アストレア・ファミリアの心に深く刻まれた瞬間だった。

 

 

 









(過大評価しすぎです。ベルディナはそんな難しい事を考えていません)



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。