ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
ベルディナたちが「星屑の庭」を去った後、応接室に残された空気は、先ほどまでの賑やかさが嘘のように重く沈んでいた。
主神アストレアが見守る中、団員たちの間に漂うのは、命を救われた安堵よりも、己の無力さを突きつけられたことによる苛立ちと悔悟だった。
「――何度、あの子に助けられれば気が済むのだ、私たちは」
沈黙を破ったのは輝夜だった。握りしめた拳が、乾いた音を立てて机を叩く。その横顔には、普段の余裕など微塵もなかった。
「情けなくて涙が出るぜ……。守られる側になっちまうなんてな」
ネーゼが深く椅子にもたれかかり、天井を仰ぎながら毒を吐くように漏らす。
「なんで、あの子はあそこまで優しくいられるのかな」
アスタの呟きは、誰に宛てたものでもなかった。ただ、目の当たりにした「過剰なまでの善意」への純粋な疑問だった。それに答えたのは、今まで一度も視線を上げなかったリューだ。
「自己犠牲精神とは違う。あの子は……どこまでも自然体だ。呼吸をするように、当たり前のこととして、他者を助けようとする」
「それが、あの子の抱く理想ってこと?」
アスタの言葉に、アリーゼは静かに首を振った。
「いいえ。あの子はきっと、理想なんて重いものは背負っていない。ただ、あの子にとって助けないという選択肢は、この世界のどこにも存在しないだけなのよ。だからこそ、その正義を振りかざすことも、内に秘めて苦しむこともない……」
救い、救われるという概念すら超えた、ある種の断絶。その異質さに、輝夜が冷ややかに、けれどどこか畏怖を込めて口を開く。
「おそらく、あの子はダンジョンで死ぬことさえないのでしょうね。たとえ死んでも蘇るなど、本当に人間なのかどうかさえ疑いたくなります」
輝夜は、静止画のような眼差しをアストレアへと向けた。
「いいえ、輝夜。あの子は紛れもなく人間だわ。決して、
アストレアは断言した。その声には慈愛と共に、一人の少女を見守る神としての確信が宿っていた。
「正義を背負わず、振りかざさず、秘めることもない。それを……英雄とでも呼ぶのですか?」
リューの問いに、今度はアスタが力なく笑った。
「たぶん、あの子は英雄っていう肩書きにさえ、こだわってないんだと思う」
「遊ぶがごとく、ということですか。……大したものですね。私では、到底できはしませんよ」
輝夜はそう言って、自嘲気味に目を伏せた。
自分たちが命を賭して守ろうとしている「正義」という名の重石を、あの少女は軽やかに、まるで遊びのように飛び越えていく。その背中は、あまりに遠い。
最後に、アリーゼが独り言のように、けれど揺るぎない決意を込めて宣言した。
「共にありましょう。その先に私たちの願う世界があるのなら――私も、彼女と共にありたい」
誰一人として、その言葉を否定する者はいなかった。
ただ静かに、少女という名の「未知の正義」と共に歩む覚悟が、アストレア・ファミリアの心に深く刻まれた瞬間だった。
(過大評価しすぎです。ベルディナはそんな難しい事を考えていません)