ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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宴会と喧嘩はオラリオの華?

 

 

 私たちが新しい時計をテーブルに並べてワイワイやっていると、店の扉に吊るされたカウベルが騒がしく鳴り響いた。

 直後、湿った夜の空気と共に、数人のアマゾネスがご来店の様子だ。いいね、結構繁盛してるじゃない。

 

「相変わらずしけた店だねぇ。店主、とりあえずエールを四つ持ってきな!」

 

 尊大な声が店内に響き渡る。その声に即座に反応したのは、店の奥から響いた店主の怒鳴り声だった。

 

「偉そうに指図するんじゃねぇよ、麗傑(アンティアネイラ)!」

 

 麗傑(アンティアネイラ)――その二つ名に、私の思考が一瞬で切り替わる。

 入口に立つ女性の顔には、はっきりと見覚えがあった。第25階層の大瀑布で、私を不意打ちして奈落へ突き落とした張本人――イシュタル・ファミリアの幹部、アイシャさんが立っていた。

 

 私が彼女の正体に気づいたのと同時、隣に座っていたリオンが椅子を鳴らして立ち上がった。その鋭い眼光は、真っ直ぐにアイシャを射抜いている。

 視線に気づいたアイシャは、こちらを認めると、その艶やかな唇を歪めて挑発的な笑みを浮かべた。

 

「なんだい。死に損ないのアストレア・ファミリアのメスどもか。こんなしけた場所で奇遇だねぇ」

 

「貴様……。よくも平然とそのようなことが言えたものだな、卑怯者」

 

 リオンが低く、押し殺したような声で応じる。一触即発の空気が漂う中、アイシャさんは気圧される様子もなく、今度は私の方へ視線を滑らせてきた。

 

「はっ! 油断した方が悪いんだよ。……なぁ、お嬢ちゃん?」

 

 そりゃあ、油断したのはいけなかったけど、それが私のお腹を蹴る理由にされちゃたまったもんじゃないな。アザも残らなかったから、それなりに手加減(足加減?)してくれたんだろうけどさ。

 私はゆっくりと果実酒(まだバレてない)のグラスを置き、立ち上がって、アイシャさんの目を正面から見つめ返した。そして、これ以上なく丁寧な動作で、ペコリと頭を下げてみせる。

 

「私ですか? えっと……お久しぶり……ですね? 第25階層では大変お世話になりました。近いうちに、ぜひ丁寧にお礼をさせていただきたいので――今度お宿の場所を教えていただけませんか?」

 

 『お礼』という言葉にたっぷりとした含みを込め、顔だけは「攻撃的な笑み」を貼り付けて固定する。アークスのリミッターは解除していないけれど、私の内側から漏れ出るフォトンの熱量が、わずかに空気を震わせた。

 

「――ちっ。不気味なガキだねぇ」

 

 アイシャは不快そうに鼻を鳴らし、目を逸らした。

 

「おい店主! エールはまだかい!」

 

「だったらさっさとテーブルに着きやがれってんだ!」

 

 厨房から再び店主の怒号が飛ぶ。

 せっかくの退院祝いが台無しだよ。今日くらいは静かに引いてくれないかなぁ……。

 

 店内の空気が凍り付く中、アイシャさんの後ろに控えていた舎弟(妹?)のアマゾネスの一人が、卑屈な笑みを浮かべながら私たちのテーブルに身を乗り出してきた。なんか、息からお酒の臭いがするので、たぶんどこかで飲んできた二次会とかだな?

 

「へぇ、なかなか上品な玩具じゃないか。落ち目のファミリアには分不相応だねぇ。アタイが有効活用してやるよ」

 

 その人は、ライラさんが自慢げに眺めていた懐中時計を無作法な手つきでひょいと奪い取った。

 

「てめぇ……返しやがれ。そいつは、テメェらの汚ぇ手で触っていいもんじゃねぇんだ! 阿婆擦れども」

 

 ライラさんが失った右腕の付け根を震わせ、鋭い眼光で女を睨みつける。だけど、酔ったアマゾネスはそれを鼻で笑い、時計を懐に仕舞い込もうとした。

 

「おっと、そこまでだ」

 

 その指先が懐に届くより早く、輝夜さんが座ったままの姿勢で小太刀の鞘を女の手首に叩きつけた。極道の女みたいでかっこいい。

 

「あだっ!? 何しやがる!」

 

「人の物を盗んでおいて、ただで済むと思っておいでで? 速やかに返さないんでしたら……その汚ぇ腕ごと切り落としてやろうか? 売女」

 

 輝夜さんの冷徹な声が響き、一触即発の空気が流れる。だが、それを遮るようにアイシャさんが一歩前に踏み出した。

 

「待ちな。うちのが失礼したね。だが、たかが玩具一つでうちの団員に手を出すってんなら、黙ってられないねぇ」

 

 アイシャさんの背後に立つ数名のアマゾネスたちが、一斉に護身武器(ナイフ)のグリップに手をかける。対するアリーゼさんやリオンも椅子を鳴らして立ち上がり、店内はまさに爆発寸前の緊張感に包まれた。

 

 うーん、私はどうしたらいいかな? 今の私は武器を持っていないから脅しがきかないからなぁ。幼女がいくらすごんでも迫力ないし……。

 

「――そこまでだ」

 

 凛とした、けれどどこか慈愛を感じさせる声が響いた。立ち上がったのは、私たちの主神、ワカヒルメ様だ。

 ワカヒルメ様は、アリーゼさんとアイシャさんの間に割って入ると、迷いのない足取りで略奪を働いたアマゾネスの前に立った。

 

「そんなにその時計が欲しければ、私のをくれてやるよ」

 

 そう言ってワカヒルメ様は、自分の腰に提げていた自身の懐中時計を無造作に取り出し、アマゾネスに差し出した。

 

「ワカヒルメ様、それはあなた様の――」

 

 リオンさんがそれに気がついてが慌てて止めようとするが、ワカヒルメ様は制止するように片手を挙げた。

 

「構わないよ。……さあ、この時計を持って、さっさと帰れ。ここの支払いは私が代わってやる。だから――これ以上、私の子供たちの門出を汚さないでおくれ」

 

 その瞬間、ワカヒルメ様からほんのわずかに『神威(しんい)』が放たれた。

 神としての絶対的な威圧感。

 それまで威勢の良かったアマゾネスたちが、目に見えて青ざめ、ガチガチと歯を鳴らし始める。下界の住人である以上、どれほどの実力者であっても神の権能には抗えないからね。神様としては本当に切り札みたいなものだ。同時に、神にそれを使わせたという意味もまた重いものだ。

 

 事実、アイシャさんですら、冷や汗を流しながら苦々しく唇を噛んでいる。

 

「……ちっ、神様直々のお出ましかい。分かったよ、ここは引かせてもらう。おい、それを返してさっさと行くよ!」

 

 アイシャさんに促され、末端の女は震える手でライラさんの時計をテーブルに戻すと、代わりにワカヒルメ様の真鍮製時計をひったくるように受け取り、逃げるように店を飛び出していった。

 

「……ふぅ。やれやれ、高くついちゃったね」

 

 アイシャさんたちが去り、静寂が戻った店内で、ワカヒルメ様はいつものおっとりした表情に戻って肩の力を抜いた。

 

「ワカヒルメ様……ごめんなさい、私たちが不甲斐ないばかりに」

 

 アリーゼさんが申し訳なさそうに頭を下げるが、ワカヒルメ様はそれを優しく笑って受け流した。

 

「いいんだよ。それよりも、ライラの退院祝いを続けようじゃないか!」

 

 ワカヒルメ様は、空気を直すように明るい口調で席に戻った。

 

『ねえ、エルティナ。発信器は、アイシャさんにつけられた?』

 

『背後の腰布に仕込みました』

 

『分かった、レーダーで追跡しておいてね』

 

『承知しました』

 

 オラリオでは舐められたら終わりだ。だから、落とし前は必ずつけさせる。

 私は、一連の騒動で少し顔をこわばらせていたワカヒルメ様を労うように、ボトルを手に取った。

 

「ワカヒルメ様、お疲れ様です。白ワインのお替わりをお注ぎしますね」

 

「お、おぉ……。ありがとう、ベルディナ」

 

 ワカヒルメ様がワインを一口飲み、安心した様子で表情を和らげるのを見て、私はようやく自分も果実酒のグラスを口にした。

 

「ん? ちょっと待って、ベルディナ。そのグラス、お酒じゃない?」

 

 アリーゼさんが目ざとくそれを見つけて、私は聞こえないように舌打ちをした。

 

「え? そうなんですか? 気づきませんでしたー」

 

 といって、私は奪われる前にグラスを空にして証拠隠滅を図った。

 

「ホントに、仕方ない子ね……」

 

 アリーゼさんは私の代わりに店員さんに、今度こそノンアルのジュースを注文し、追い打ちをかけるように「次からはこの子から注文取らなくていいからね」と釘を刺された。

 

 ちなみに、アイシャさんが注文したエール4杯は、私達のテーブルに運ばれてきて、その分は彼女たちのツケにしとくから、心配するなと言われた。さすが、冒険者相手の居酒屋の店主だ。ひょっとしたら、この人も元々は冒険者だったのかもしれないね。

 

 

 

 

 

 







気がついたらワカヒルメ様の時計がイシュタルファミリアに取られてました。

なぜこうなったのかは作者でも分かりません。




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