ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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最近、なんか慌ただしいね

 

 私が「怪盗ネコ少女」(21歳児)としてイシュタルファミリアの本拠地に忍び込み、あの大騒動を引き起こしてから1週間ほどが経過した。その間にライラさんのリハビリ期間も無事に終了して、今度は私とエルティナが万全のサポート体制で随行し、アストレアファミリアの24階層再チャレンジも大きなトラブルなく終えることができて、ようやく一息ついたところだ。

 

「まだまだ本調子にはほど遠いけどね。皆、体が鈍ってるわ」

 

 ジョッキを片手に、アリーゼさんは苦笑いしながら肩をそくめた。確かに、下層でのあの死闘を思えば、リハビリとしては十分すぎる内容だったはずだ。

 

「新しい団員さんを増やす予定とか、あるんですか? ほら、人数がいれば負担も減るでしょうし」

 

 それは、機織り職人を欲しているワカヒルメファミリアにとっても、他人事ではない切実な課題なんだけどね。

 

「今のところはないわね。アストレア様の『正義』を分かち合えるかどうか、新人は一人一人この目で見極めないとダメだから」

 

「なるほど……大切なことですね」

 

 アストレアファミリアは基本的に女性のみで構成され、しかも全員が揺るぎない正義を志す人達ばかりだ。私のような、中身が枯れた元OLの適当幼女なんて、そもそもお呼びじゃないんだろう。……というか、オラリオ広しといえど、9歳児(に見える私)を団員に加える奇特なファミリアは、うち以外に存在しない気もするけれど。

 

「そういえばベルディナ。前回の神会(デナトゥス)の件、どうするの? 大変なら力になるけど」

 

 アリーゼさんが不意に真剣な面持ちで、妙なことを切り出してきた。

 

神会(デナトゥス)……ですか? なにかあったんですか?」

 

 ワカヒルメ様は、神会で起きたことを私にはあまり語りたがらない。神様同士の、神聖な、不可侵で洗練された話し合いの内容は、おいそれと人間(子供達)に聞かせるべきではないんだろうなぁと思っているんだけど。

 

「えっ? 本当に知らないの? アストレア様からの又聞きだけど……神会でイシュタル様がワカヒルメ様に、かなり強く迫ったって聞いたわよ」

 

「……迫った?」

 

「ええ。なんでも、『うちの大切な儀式を台無しにした団員がいる。そいつを引き渡せ』って。もし応じないなら、戦争遊戯(ウォーゲーム)も辞さない勢いだったらしいわよ」

 

「うーん……心当たりがありませんねぇ」(大嘘)

 

 神様がこの場にいたら、嘘の味に顔をしかめてドロップキックしてきそうな白々しい返答をする私だが、内心では疑問ばかりが沸いてくる。

 イシュタル様は、何を根拠に私たちが儀式を妨害したと確信したんだろう。あの日以来、アイシャさんを始め、イシュタルファミリアの人たちとはなるべく交流を断ってきてたんだけどね。

 

「なんだか、本気で潰しにくる雰囲気だったみたいだから、気をつけた方がいいわね」

 

「分かりました。帰ったらワカヒルメ様に詳しく聞いてみます」

 

 私はアリーゼさんにそう告げ、自分の分の伝票を取り上げて席を立った。

 

「あ、いいわよ。今日は私に払わせて」

 

「いやいや。これでも一応、私は団長ですから。対等でいきましょう」

 

 25階層での一件以来、不定期ではあるけれど、こうしてアリーゼさんと二人で食事をする機会が増えた。それ自体は歓迎すべきことなのだけれど、彼女は何かと私をおごろうとしてくるのだ。

 友人として、そして団長同士として、対等でありたい私の意地というやつだ。

 

「…………今日も、いないか」

 

 ここは、ライラさんの退院祝いを開いたのと同じ居酒屋だ。同時に、あの夜、アイシャさんと二人で密談を交わし、実行に移した「悪巧みの出発点」でもある。  あの日以来、アイシャさんがこの店に姿を見せることはなかった。

 

「次は私がおごるって、約束したのになぁ……」

 

 もしアリーゼさんと鉢合わせしたら、それこそ一発触発の修羅場になりそうだけど。それでも、私は彼女を待っているのだ。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 アリーゼさんと別れて、絹糸(けんし)の館に戻ると、リビングにはすでに魔石灯の柔らかな明かりが灯っていた。ソファでは、バイトから帰ったばかりのワカヒルメ様が、心なしかお疲れの様子で、淹れたての茶を啜りながら一息ついているところだった。

 

「お帰りだったんですね、ワカヒルメ様」

 

「ああ、お帰りベルディナ。今日はアリーゼたちとの会合だったっけ?」

 

 ワカヒルメ様がカップを置き、私の姿を認めて少しだけ表情を和らげる。

 

「会合というか、ただの食事会みたいな感じですけどね。ワカヒルメ様は、お夕飯はもう済ませましたか?」

 

「ああ、帰りにね。スクルドと簡単に済ませてきたよ」

 

 友神同士のお付き合いも、大切なことだ。私は相槌を打ちながら、自分用のお茶を淹れ、温かな湯気に包まれたカップを手にワカヒルメ様の向かいの席に腰を下ろした。

 

『エルティナ、そっちはどう?』

 

 私はエルティナへ、通信を飛ばした。

 

『受注した時計の制作と、ムーブメントの図面起こしを並行して行っております』

 

『そうなんだ。あんまり無理しないでね』

 

 サポートパートナーである彼女に、肉体的な「睡眠」は必要ない。けれど、精密な演算を長時間続ける負荷は相当なはずだ。私は心の中で彼女を労い、目の前の主神へと意識を戻した。

 

「そういえば、事業計画書の方はどうでしたか? 店長さんはなんか言っておられましたか?」

 

 今朝、ワカヒルメ様は意気揚々と、やっと完成した織物事業の計画書をバイト先の店長さんに見せると言っていた。職人としてのスタートがかかった、大事な一歩だ。

 

「ああ、そうだね。基本的には『筋は悪くない』って言われたんだけど。細かいところはまだまだ、現場の人間から見れば穴だらけだって、こっぴどく直されちゃったよ」

 

 ワカヒルメ様は力なく笑って、ソファに沈み込んだ。

 

「そうなんですか。やっぱり、商売って難しいですね」

 

「そうなんだよね。何より、まだ資産が少ないっていうか……。いくらアストレアから土地を譲り受けたと言っても、設備を入れるには多額のヴァリスが必要になるしね。借金は、基本的にはしたくないんだけどなぁ……」

 

 先行投資という言葉はあるけれど、返済の目処が立たないうちから多額の融資を受けるのは難しいだろうね。地球では一般的だった株式という概念もここにはないし、零細ファミリアの資金繰りは、いつだって頭痛の種になる。

 

「今度、エルティナに相談してみるといいですよ。きっとワカヒルメ様が思いつかないような、画期的なアイディアを出してくれますから」

 

 少なくとも、私の浅知恵よりは数兆倍は頼りになるはずだ。

 

「そうだね。そうするよ。……うん、このゴーフル美味しいな」

 

 頂き物のお煎餅のようなワッフル(ゴーフル?)を、二人でバリバリと頬張っていると、作業が一段落したのか、エルティナがリビングにやってきた。

 

「お疲れ様エルティナ。休憩にする?」

 

「そうですね。失礼します」

 

 エルティナは慣れた足取りでパルゥム用の椅子によじ登り、ストンと席に着いた。

 

「お茶、飲むかい?」

 

 ワカヒルメ様が立ち上がろうとしたが、エルティナはそれを手で制した。

 

「今は結構です。ありがとうございます」

 

「進捗はどんな感じ?」

 

「順調です。ムーブメントの図面も8割方は完成いたしました。素材の解析データとの照合も済んでおります」

 

「そうなんだ。……でも、これだけの数になると、作れる人を捜さないといけないよね。スィデロさんに相談してみようか?」

 

 機械式時計の心臓部であるムーブメント。これをすべてエルティナのクラフターで出力するのは、時間的にも素材的にも限界がある。今後のことを考えると、時計の生産もヘファイストスファミリアのような金属加工の専門家に委託してしまうのが一番だというのが、私たちの出した結論だった。

 

 半月前、フィンさんとシャクティさんから合計3台の発注を受けた普及型の時計だが、ライラさんの提案通り、1個20万ヴァリスという価格を提示することになった。

 正直、「高すぎないかな?」という疑念もよぎったけど、二人とも「まあ、そんなもんか」と平然と頷いていたので、ライラさんには感謝だ。

 

 さらに、その実用性が認められたのか、追加で5個ずつの計10個という、(私たちにとって)大量発注まで受けることになってしまったのだった。

 

「時計は、2週間に1個ぐらいのペースが、今のエルティナにはやりやすい感じかな?」

 

「そうですね。図面があれば外部への委託も進みますが、私の作業効率を考えるなら、月あたり2個ずつといったところが妥当なラインでしょうか」

 

「だよねぇ。下手にペースを上げると、追加発注が来そうで怖いんだよね」

 

 利便性が認知されるのはいいけれど、私たちは時計屋になるためにここへ来たわけじゃない。あくまで本業はダンジョン探索と織物業なんだからね。

 

「……まあ、焦らずやっていこう」

 

「承知いたしました」

 

 時計関係の方向性は見えたし、そろそろ本題――2日前の神会(デナトゥス)のことに触れておこうかな。

 私はいったん席を立ってお茶を淹れ直すと、ちょっとだけ背筋を伸ばして改まり、ワカヒルメ様に真っ直ぐ視線を向けた。

 

「ん? どうしたんだい、ベルディナ。改まって」

 

 ワカヒルメ様は「そろそろ寝ようかな」なんて呟いてあくびをしていたけれど、私の気配が変わったのを察して、居住まいを正してくれた。

 

「アリーゼさんから聞いたんですけど、神会でイシュタル様となにかあったんですよね?」

 

「……あー、そっか。情報のルートなんていくらでもあるし……ごめん、秘密にするつもりじゃなかったんだよ。私もどう切り出したらいいか悩んでてね」

 

 ワカヒルメ様が困ったように眉を下げると、それまで控えていたエルティナが、スッと私たちの間に入るように席を移した。こういうさりげない気遣いができるところ、本当に助かる。

 

 ワカヒルメ様から話された内容は、アリーゼさんから聞いた噂とほぼ同じだった。

 

 イシュタル様が会議の席で、「ワカヒルメファミリアの団員が自分の館に忍び込んで、重要な儀式に必要なマジックアイテムを壊した」と名指しで詰め寄ってきたこと。さらには、その賠償と下手人の引き渡しまで要求されたということだ。

 

「うーん。でも、私の名前が直接出されたわけじゃないんですよね?」

 

「そうだね。イシュタルは『背丈や身のこなしがベルディナに似ていた』と主張してたけど、確たる証拠までは示せなかったみたいだよ。他の神も『証拠だせよー』って言ってたから……まあそこまで大事にはならないと思いたいけどね」

 

「ということは、物的証拠じゃなくて証言……あるいは『勘』だけで攻めてきたってことかな」

 

 アイシャさんが尋問でも受けたかな。いつまでもお店に現れなかったのはそれが原因かもしれないね。

 

「うーん……もし向こうが本気で仕掛けてきたら、戦いますか?」

 

「……君がそう判断するならね。私は、私の誇らしい団長を信じているよ」

 

 ワカヒルメ様はそう言って、優しく私の頭を撫でてくれた。とりあえずは様子見、というありきたりな結論が出たところで、今夜の話し合いはお開き。

 

「さてと、私はお風呂に行ってきますね。ちょっと考えをまとめたいですし」

 

 私は椅子から飛び降りると、タオルと替えの下着、それにパジャマを準備しに自室へ向かった。

 

「ああ、ごゆっくり。湯冷めしないようにね」

 

 拠点である「絹糸(けんし)の館」にお風呂を作るのは、これからの大仕事だ。今のところは、近所の公衆浴場が私のリラックススペースってことになるのかな。

 あそこは周辺住民の憩いの場にもなっていて、お湯に浸かりながらいろんな噂話を聞けるから結構楽しいんだよ。運が良かったら、気のいいおばちゃんが、風呂上がりのミルクを奢ってくれたりするし。

 

「戦争、か……」

 

 夜の風に当たりながら、私は独りごちた。

 前世の「私」なら、全力で避けたいと思うだろう。けれど、戦うために作られたアークスとしての「私」は、自分たちの安全と居場所を確保するためなら、戦うことに一切の躊躇はない。

 

 もしイシュタル様が、自分たちの強欲を押し通すために本気で戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛けてくるというのなら――。

 

「来るなら来い……だね」

 

 追い詰められた「ネズミ」が何をするか、その目に焼き付けてあげればいい。(ツインテールキャット)だけどね、私は。

 

 








[2026/2/1]
筆の勢いだけでここまで来ましたが、あまりにもプロットとかけ離れてしまったので、いったん全部白紙に戻してストーリーを練り直します。
※予約設定時

―追記―
更新を停止して新たに書き直すという意味にも受け取られかねない表現でした。
白紙に戻すのは今後のストーリー案の事で、この物語自体を白紙に戻すといういう意図ではありませんでした。この場を借りて謝罪させていただきます。


[2026/2/25]
大体のストーリーが練り終わったので、執筆を続行しております。
※投稿時




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