ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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オラリオへ

 リザさんの集落跡から出発して、野を越え山を越え、谷を飛び越え、枯れた大河をすり抜けてただひたすら東へ向かっていく。

 

 森も、川も、湖もない、だだっ広い荒野が連続していて方角が狂いそうになるが、キャンプシップからもたらされる地形データとシステムによるナビゲーションにより迷うことはない。文明の利器様々である。

 

「なんだか、近づくに連れ敵が強くなってるような気がするね」

 

「よい鍛錬になる」

 

「リザさんは武人だなぁ」

 

 今日もすでに5回ほどモンスターの襲撃を受けており、ファンタジーでは代表的ともいえる巨大な牛人のモンスター(ミノタウルス)が徒党を組んで向かってきたときはちょっとびびった。しかし、リザさん曰く、強いモンスターからとれる魔石は良質になるようで、それを取り込むリザさんの動きもどんどん洗練されていっている。

 

 モンスターの襲撃のない日は、疲れの出ない程度に訓練をしているのだが、日に日に剣撃が重くなっていき、鋭くなっていく。しっぽの力も上がっているのか、跳躍距離や速度も上がっているように思えた。

 

「スゴいですね。私なんて、すぐに敵わなくなるかもしれませんね」

 

「冗談を言うな。未だに本気を出していないだろう」

 

「分かりますか?」

 

「いずれお前に本気を出させて見せよう」

 

「うーん。仲間とはあまり本気で戦いたくはないですね」

 

 基本的に私は甘ちゃんだ。できる限り暴力は振るいたくないし、話し合いの余地があるのなら、話し合いで決着をつけたい。リザさんとの訓練は楽しいが、それはアスリート的な競い合いという側面が強く、命をかけて強くなるというリザさんの思いとはまるで違うのだ。

 

 まあ、それに、戦うリザさんはりりしくてかっこいいので、それを間近で見られてとても楽しいというのもある。

 

 昼間にこの周辺のモンスターが最後の決戦と言わんばかりに波状攻撃を仕掛けてきたので、今では広域マップにも敵性存在のマーカーは存在しない。なので、今晩ばかりは大手を振ってたき火をしてキャンプご飯を楽しむことができるのだ。

 

「マスター、そろそろお米が炊けたと思います」

 

「ありがとう、エルティナ。じゃあ、いったん火から下ろして蒸らしておいて。蓋は取っちゃダメだよ。あと、やけどにはくれぐれも気をつけてね」

 

「分かりました」

 

 今日は石の竈を二基作成して、片方は炊飯、もう片方はカレーを作ることにした。スパイスたっぷりのかけ汁は、オラクル船団でもメジャーで、こういう料理は宇宙共通なのかなと、初めて食べたときは驚いたものだ。

 

「ここに中濃ソースを入れるのが、私風だね」

 

 OL時代……というか、前世の小さい頃にお母さんのカレーにはいつもこれが入れられていて、とても懐かしい感覚に襲われる。最後に食べたのいつだったか。小学校高学年の頃にはもういなくなってしまったから、本当に昔のことだ。

 

「マスター、そろそろ煮詰まったのではありませんか」

 

「うん、そうだね。本当は一晩寝かした方がおいしいけど。それは余ったらにしよう」

 

 キャンプと言ったらカレー。ようやくこれを実現できた。

 

「せっかくなんて、リザさんも一口だけどうですか?」

 

「私は味を感じることはできんが」

 

「試し続けると分かるようになるかも知れませんよ。鍛錬と同じです」

 

「む、鍛錬か。なら試してみよう」

 

「それと、ごめんエルティナ。ご飯を炊いたところでお湯を沸かしておいてくれない? あとでコーヒーを入れるから」

 

「分かりました」

 

 水は貴重だから、できる限り大切にしたいが、今晩はだけはちょっとした贅沢もいいだろう。

 

「もう、半分ぐらいは来たかな」

 

「そうですね。そろそろ半分は超えましたね」

 

「まだ、先は長いな」

 

 結局リザさんはまだ味は分からなかったらしいが、舌を通り越す熱と食材をかみしめる感触は悪くないと言ってもらえた。優しい。

 

「うん。懐かしい味。やっぱり、お外で食べるのはコレだよねぇ。おいしい……ほんと、懐かしいね……」

 

 懐かしさは劇薬みたいなものだ。嘗める程度なら刺激があって楽しいが、取り過ぎれば心と体に負担がかかる。浸りすぎれば中毒となって立ち上がることができなくなり、いずれは心が死ぬだろう。

 

「目をどうした? なにか流れているようだが」

 

「ん? あ……何でも無い。ちょっと昔を思い出してね」

 

 私は目元にすこしだけ流れていた涙をぬぐって笑みを見せた。

 

「そうだ、忘れるところだった……。これ、リザさんにプレゼント」

 

 懐かしさのオーバードーズを払拭するように、私はわざと明るい声を出して、アイテムパックから、本船より支給されたものをリザさんに差し出した。

 

「これは、肩の防具か」

 

 リザさんはそれを受け取り、上から下からよくそれを眺めた。

 

「剣を持っていない方の肩につけるといい感じだと思います。それは、防御力がかなり高いのと、フォトン通信機と敵味方識別信号(IFF)も付いてるので便利ですよ」

 

「よく分からん」

 

「説明は、エルティナ、お願い」

 

「承知しました」

 

 内容を説明するのはエルティナに任せた。私はあまり頭が良くないのでこういう説明は苦手なのだ。

 

 エルティナの丁寧な使用説明を受けて、リザさんは通信機の使い方などなどいろいろ憶えて貰うことに成功した。

 

「これで、離れていてもお話できますね」

 

「仕組みは全く分からんが、便利なものだ」

 

 フォトンによる通信と、MAPに味方として表示されるIFF機能付きのビーコンは、半径一天文単位程度なら遮蔽物の有無にかかわらずリアルタイムで機能してくれる優れものだ。

 

 さすがに、恒星間活動をするアークスが標準装備しているそれに比べるとかなり出力がおちるが、一つの惑星で活動する程度なら何の問題も無いだろう。

 

 なお、強度に関しては超科学の技術がふんだんに使われており、中程度の隕石の衝突程度ではびくともしないぐらい頑丈だ。

 

「ふむ……軽いな。しかし、丈夫だ」

 

「しばらくは違和感があるかもしれませんが、じきに慣れますよ」

 

「とてもよくお似合いです、リザ様」

 

 まあ、何とか妙になりかけた空気も朗らかにもどってくれて良かった。私はせっかくなのでカレーをお替わりして、すっかり鍋を空にしてお腹いっぱいのまますやすや眠ることができた。

 

 旅はまだ半ばを過ぎたばかりなので、明日からも頑張ろう。

 

 

 

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