ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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アリシアさんと打ち合わせ

 

 午前中の納品と仕入れは、途中でイシュタルファミリアと思われる妨害を受けかけたけど、概ね順調に終わったと思う。フォトンレーダーとミニマップを駆使すれば追跡をまくのが楽で本当に助かるよ。

 

 通信機の回路(サーキット)の納品も今回で一段落したので、次の定期納品までは1月ほど余裕ができた。月の頭に10個の回路(サーキット)を納品し、それがヘファイストスファミリアでフレームやスイッチ類が取り付けられる。それが、ガネーシャファミリアで最終調整がされてギルドに納品されるのは、おおむね月末になる。

 

「需要が爆発してるからなぁ。ギルドが欲をかかないといいけどね」

 

 直接会ったことはないけれど、ギルド長のロイマンさんは、エルフにしては珍しいほど欲の皮が突っ張った守銭奴らしい。技術を独占しようとして、無理な注文をつけてこないか少し心配しているところだ。

 

「まあ、そうなったら思いっきり足下を見てやればいいだけだけどね」

 

 需要が高くて供給が限定されているなら、価格交渉で優位に立つのは当然の市場原理だ。エルティナが作る回路(サーキット)には、それだけの価値がある。

 

「さてと……今日は何を食べようかな?」

 

 お馴染みの広場にある屋台の「ジャガ丸くん」でもいいけれど、午後の打ち合わせに向けて、もう少しガッツの付くものが食べたい気分だ。

 

 だったら、お肉だな。流石に真っ昼間から一人でステーキや焼き肉は胃に重いし、準備も大変だ。トンカツ、焼き鳥、唐揚げ……。

 

「エールは自重っていうか、エルティナがいないと売ってくれないしね。見た目幼女の辛いところだよ」

 

 結局、最近できたと噂のハンバーガーショップへ行くことにした。行列ができている店内を横目に、店先でテイクアウトを注文し、ついでにレモネードもつけてもらい、近くの公園へと足を運んだ。

 

「んーっ、外で食べるハンバーガーの美味しいこと!」

 

 いつものベンチによじ登り、宙に浮いた足を無意識にぶらぶらさせながら、小さな口を精一杯開いてハンバーガーを頬張った。大人サイズを注文したから、私にはボリューム満点だ。

 

 通り過ぎる通行人の視線がやたらと温かいのは、「小さな子が一生懸命大きな食べ物にかぶりついている」という微笑ましい光景に見えているからだろう。気にしてはいけない。

 

「さてと、時間は……」

 

 右指に付いたケチャップをぺろりとなめ、左腕の腕時計を確認する。

 

「約束は13時頃だから、そろそろいい具合だね。あんまり早すぎるのも失礼に当たるから……」

 

 アリシアさんも、私と同じデザインの時計を身につけていたので、こうして約束の時間を正確に合わせられるのは、本当に便利だ。この利便性を、もっと広めていかなければ。

 

 私はハンバーガーの包み紙を丸めてゴミ箱に投げ入れると、少し早足で公園を後にした。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 ロキファミリアのホーム「黄昏の館」に到着したのは、13時から5分ほど経過したところだ。

 

 その巨大な門を守る屈強な男性冒険者に「こんにちは」と挨拶をしてから、「アリシアさんをお願いします」と伝えると、すぐに応接室へと通してもらえた。

 

「今日は小人族の聖女(リトル・セイント)はいないのだな」

 

 門番のつぶやきが耳に届いた。

 

「ですねー」

 

 なんか、最近エルティナは小人族の聖女(リトル・セイント)と呼ばれることが多くなったな。今までは、一般小人族(リトル・ノーマル)か、世界最速小人族(レコードホルダー)が殆どだったんだけどね。

 

 私は軽く流して館の中に入ったが、ひょっとしたらエルティナがいた場合はフィンさんに声がかかるようになっているのかもしれないな。さすが、エルティナ。モテるね。羨ましい。

 

「私の婚期は遅れるばかり。わたしゃ仕事に生きる幼女(おんな)だよ」

 

 周りに誰もいないので下手くそな歌を口ずさみながら指定された会議室に足を運んだ。

 

「ようこそいらっしゃいました、猫又(ツインテールキャット)。今日はご足労いただきありがとうございます」

 

 ロキファミリアの本拠地『黄昏の館』。通された会議室では、すでにアリシアさんが席を立って私を出迎えてくれた。少しだけ気まずそうな表情を浮かべているのは、さっきまで廊下で口ずさんでいた私の出たらめな歌が聞こえてしまっていたのかもしれない。まあ、聞かぬが花というやつだろう。私は内心で苦笑しつつ、彼女に向き直った。

 

「いえ、少し遅くなりまして申し訳ありませんでした」

 

 館に到着したのが約束の5分後だったけど、広大な敷地内の門からここまでさらに5分かかってしまったから、実質的には5分の遅刻だ。到着を13時ちょうどに設定すべきだったと反省する。

 

「とんでもありませんよ。この『時計』のおかげで、ここまで細かく予定を立てられることに驚いております」

 

 アリシアさんは自分の手首に巻かれた普及型の腕時計を軽く撫でた。まあそうだろうね。今までのオラリオでは、正午の鐘などの大雑把な時間の刻みしかなかったのだから。

 

「そう言っていただけると安心します。それでは、早速ですが、いただいたデザインを起こしたサンプルがこちらです」

 

 私は木製の化粧箱を開き、中身がしっかりと見えるようにアリシアさんの前に差し出した。

 アリシアさんは小さく息を呑み、震える指先でそれを箱から持ち上げた。

 

「美しいですね……。このユニコーンの細工、森の泉に佇む姿が本当に細かく再現されています。立体になると、よりその高貴さが際立つように感じます」

 

 深い森の泉で静かに振り返る一角獣。その周囲を繊細に囲む蔦の文様。クラフターからできあがった物を、エルティナが精密なアクチュエーターを駆使して彫り上げたそれは、掌の中で一つの芸術作品といってもいいだろう。結局AIじゃんとは言ってはならない。

 

「サンプルは安価な真鍮で作りましたが、完成品は金無垢を使う予定です。さらに気品のある輝きになると思われます」

 

 とはいえ、強度の問題で純金を使うわけにはいかないから、金に別の金属を合金させる必要はあるけどね。

 

「文字盤には宝石が使われるのですね?」

 

 アリシアさんは蓋を開き、細部まで食い入るように確認している。

 

「そうですね。ご要望でしたら、どのような石を使うかも指定していただければと思います」

 

「リヴェリア様にはエメラルドの緑の輝き……いえ、透き通った水晶のほうが相応しいでしょうか」

 

 森をイメージするか、ハイエルフ王女としての高貴さを表すか。アリシアさんは真剣に悩み始めた。流石にダイヤモンドは予算オーバーだろう。私は折衷案を提示してみる。

 

「12時の部分にエメラルドを使い、ほかは水晶にするというのはどうでしょう?」

 

「なるほど……。では、3、6、9、12時の四方にエメラルドの粒をつけ、その他の文字盤には水晶を配置してください。もし予算オーバーでしたら追加でお支払いしますので」

 

「分かりました、エルティナにそう伝えます」

 

 エルティナとはすでに通信機でつながっているので、すぐさま『承知しました』と返答が返ってくる。

 

「裏蓋のロキファミリアの旗章と、リヴェリア様のお名前も問題ありませんか?」

 

「少々お待ちを……。道化師の表情ですが、口元と目の形に、もう少し丸みをつけていただけますか? あとは、リヴェリア様の『リオス』の綴りを少し修正してください。このままでは若干異なる意味に見えてしまいます」

 

「分かりました、確実に直します」

 

 蓋の曲面に彫る都合上、イメージと若干のズレが生じやすい。やはり事前にサンプルを提示して正解だった。

 機構部のデザインについても、秒針を独立させて、ゼンマイとテンプ、そして秒針円の三つが特徴的なデザインとなり全体のバランスを整えている。蔓のような模様が刻まれたフレームは、眺めているだけで時の流れを忘れさせる美しさだ。

 

「では、これをもちまして最終決定とさせていただきます。製作には若干のお時間をいただきますので、完成しましたらまた連絡しますね」

 

「よろしくお願いします。楽しみにしております」

 

「はい、では本日はお時間をいただきありがとうございました。私はこれで失礼いたします」

 

 最後に深々と頭を下げ、忘れるところだった手付金の革袋を受け取り、私は『黄昏の館』を後にした。

 

 ダンジョンに潜れない今の私達にとっては、これが生命線になり得るからね。頑張ろう。

 

 






高評価を貰ったと思ったら、久しぶりにガッツリと低評価をいただき、ちょっとしょんぼり。

といっても、モチベはそれほど下がらなかったので、ほどよいストレステストにはなったかもしれない。その点に関しては感謝!





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