ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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高評価を5件いただきました。大変ありがたいことでございます。
それと、たくさんの誤字報告をいただき大変助かっております。







さあ、開戦の時だ

 

戦争というのは準備段階で殆ど勝敗が決まっていると古今東西の偉人は言葉を残している。私達は、できる限りの準備を行ったつもりだ。では、イシュタルファミリアはどうか。

さあ、答え合わせといこうじゃないか!

 

 


 

 

「もう二度と馬車には乗りたくないなぁ」

 

 私はそう言い残して、ギルドが用意した馬車から飛び降りてお尻をさすった。まともなサスペンションもないくせに、あまりしっかりと整地されていない街道を進むのだから、とにかく地面からの振動がすごいのだ。

 

 アークスの浮遊式車両の快適なシートに慣れきった身体には、この前時代的な揺れは一種の拷問に等しい。

 

 ましてや私みたいにちんちくりんな体型だと、座席に座っても床に足が届かず、リオンのように膝で衝撃を受け流すという事も難しいしね。

 

「私の膝に乗ればよかったんですよ」

 

 私の後についてリオンもゆっくりと馬車から降りてきて、馭者に頭を下げた。

 リオンのお膝はちょっと魅力的だったけど、流石に成人した女性(レディ)としてのプライドが許さないのだ。見た目はこんなの(ガール)だけどさ。

 

「気をつけろよ」

 

 ガネーシャファミリアから派遣されてきた馭者は短くそう告げると、馬を操って来た道を戻っていった。彼は近くの村で待機し、戦争遊戯(ウォーゲーム)終了後に再び私達を迎えに来る手はずになっている。

 

「やあ、待ってたよ猫又(ツインテールキャット)。移動、お疲れ様だったね」

 

 深緑の布地に白い羽根の付いた中折れ帽を指で弾きながら、指をそろえてピースサインを向けてきたのは、何というか、軽薄な感じの神様だった。

 

「えっと、ヘルメス様でしたっけ? おはようございます」

 

 昨夜は近くの村で1泊し、まだ日も出ない早朝から馬車に揺られてきたのだ。生命維持装置と戦闘システムのおかげで眠気は感じていないが、移動による精神的なストレスまでは完全には拭い去れないので、今の私はちょっとご機嫌斜めだ。

 

「おはよう二人とも。今日の俺は審判のような立場だからね。一応、指示には従ってくれよ? それにしても、やっぱり一般小人族(リトル・ノーマル)は来ていないんだね?」

 

「えっと。そろそろ……あ、いたいた。おーい、エルティナ! ここだよ!」

 

 私は周囲を見回すフリをしながら、HUDのミニマップに表示された青いマーカーを確認した。

 予定通り、エルティナは私のフォトン反応を目印に合流地点へと近づいてきているようだね。

 

「お待たせいたしました、お嬢様、リオン様」

 

 木々の隙間から姿を現したエルティナは、2週間近くもこの砦跡で独り潜伏作業を続けていたとは思えないほど、凛とした佇まいを維持していた。私の視界に表示された彼女のステータスログには、問題なし(オールグリーン)の文字が誇らしげに点灯している。

 

 たとえ彼女がどれほど強がったとしても、システムを介せばそのコンディションは全て把握できる。もっとも、サポートパートナーのエルティナに、「無理をして強がる」という概念そのものが存在しないのだけれどね。

 

「大丈夫でしたか? お疲れは?」

 

 事情を知らないリオンは、心配そうに膝を折ってエルティナの両手を取った。その白く繊細な手には、土汚れ一つ付いていない。

 

「問題ございません。全て通常通りです」

 

「えーっと。君、馬車に乗ってこなかったよね? どうやってここまで来たんだい?」

 

 ヘルメス様が不思議そうにエルティナを眺める。オラリオから結構離れたこの砦まで、馬車を使わずに先回りするなど、普通の小人族(パルゥム)には不可能な芸当だからね。

 それに、ヘルメス様もエルティナがフィンさんに囲われているという噂を知っているだろうから、余計にだろう。

 

 それとも、この腹黒そうな(ひと)ならそれがただの情報戦だと理解していたのか――というか、神様なら嘘は見破れるよね、失礼しました。

 

「それは、答えなければ戦闘に参加させないということでしょうか?」

 

 エルティナが感情の起伏を感じさせない瞳でヘルメス様を射抜く。その威圧感に、流石の神様も少しばかりたじろいだように見えた。

 

「いや、そんなルールはないけどね。ちょっと気になっただけだよ」

 

 そういえば、神様は人間の嘘は見破れるらしいけど、機械生命体であるエルティナの嘘は見破ることができるのかな? エルティナは基本的に嘘はつけないようになっているから、検証は難しいけどさ。

 

「終わったら教えてあげますから、今は我慢してください」

 

 私は苦笑いしながらフォローを入れ、密かにアークスの通信回線を開いて最終確認を行った。

 

『エルティナ、状況はどう?』

 

『全て計画通りです。城門および主要施設への遠隔爆破装置の設置は完了。現在のところ、敵方に爆発物の存在を察知された様子はありません』

 

『さすがだね。頼りにしてるよ』

 

 エルティナとの秘密の打ち合わせを終えて、私は通信機のスイッチを入れた。それに呼応する形で、エルティナとリオンも自分の通信機を取り上げてスイッチを入れる。

 

「こちらベルディナ、01より各局、通信テストを行う。本日は晴天なり、本日は晴天なり」

 

「こちらリオン、02です。メリット5、感度良好です」

 

「こちらエルティナ、03です。メリット5、感度良好」

 

「うん、問題なしだね。それじゃ、今日はよろしく。細かい指示とか時間管理はエルティナに任せるよ」

 

「承知しました。万事滞りなく。現在はフェイズ0、戦争開始前を宣言します」

 

「こういう状態だと、ヘッドセットみたいなのがないとちょっと不便だよね」

 

 今は手持ちで扱うしかないけど、両手が塞がる戦闘中などは、ヘッドホンと口元マイクがないとまともに使えなさそうだ。

 

「後ほどサンプルを作成いたします」

 

「うん、よろしく。それじゃ、念のため時計合わせをしておこうか」

 

 私は自分の時計を見下ろして、現在時刻とカウントダウンを口にする。リオンとエルティナはそれに合わせてリューズを押し込んだ。

 

 リオンが使っているのは、一時的にアリシアさんから貸してもらった普及型の腕時計だ。本人は「借り物は緊張する」と言っていたけれど、正確な時間の共有はこの作戦の生命線だからね。ちなみに、リヴェリア様への特注のサプライズプレゼントは、この戦争が終わって落ち着いてから渡すと聞いているね。サプライズはタイミングが命なのにね。まあ、今はそれどころじゃないか。

 

「コンパスは……まあ、いいか。その都度、エルティナが何時方向か指示してくれたらいいよ」

 

「承知しました」

 

「あの……それは、時計の方向を参考にするということですか?」

 

 リオンが不思議そうに、手首の時計と私の顔を交互に見つめてくる。

 

「その通り。リオンの正面が12時。真後ろが6時、右が3時、左が9時。直感的で分かりやすいでしょ?」

 

「なるほど……。移動しながら瞬時に判断するのは慣れが必要そうですが、合理的な手法ですね」

 

 リオンは真面目な顔で頷き、空中で何度か身体の向きを変えて「方位」を確認している。

 私達にとっては基本的なことである方向指示だけど、時計という概念自体が新しいリオン達が馴染むまではまだ時間がかかるだろうね。便利だから、是非とも慣れてほしいところだ。

 

「あと、もう一つ。今回はオブザーバーとして、フィンさんとシャクティさんにもパスワードを伝えてあるから、通信内容はお二人にも聞かれてることを意識しておいてね」

 

「ここからオラリオまでつながるのですか?」

 

「馬車で来る途中の休憩所に中継器を置いてきたから、たぶんいけてるはず。フィンさん、シャクティさん、聞こえていたら返事をお願いします」

 

 基本的にこちらから呼びかけない限りはあちらから通話をするのは控えて貰っているので、今まで発言がなかったけど、実際どうだろうか?

 

『こちらロキファミリアのフィンだ。感度良好。よく聞こえているよ、どうぞ』

 

『こちらはガネーシャファミリアのシャクティだ。感度良好。今日はよろしくお願いする』

 

 遠くのオラリオからしっかりとフィンさんとシャクティさんの声が届いている。帰るときには中継器を全部回収していくから今日だけの特別だ。ガネーシャファミリアにもちゃんと通知して、各場所で一人は警備をつけて貰っているから、盗難の心配もない。

 

「うん。大丈夫ですね。では、よろしくお願いします」

 

 私は一旦通信機を下ろして砦の正面の門に目を向けた。

 

 砦の向こう側、イシュタルファミリアの軍勢が気勢を上げているのが微かに聞こえる。あちらの主力は100を超える戦闘娼婦(バーベラ)の集団で、こっちは、私とエルティナ、そして助っ人のリオンを加えた、たった3名の――よく言えば少数精鋭ってやつだ。

 

 数字の上では、あまりにも無謀な戦力差だけど、私達はそれを覆すだけの準備をしてきたのだ。

 私はHUDに敵要塞の三次元立体映像を表示させ、エルティナが仕掛けた「事前工作」の全容が、頼もしい輝きを放っているようだ。

 

「リオン、抜剣(カタナ)の調子はどう?」

 

 私は、彼女が腰に帯びているホムラノベニレンゲに視線を送った。アストレア様に神の恩恵(ファルナ)を刻んでもらった、オラリオではおそらく唯一の「成長する武器」ってやつだね。ほかにあったらごめん。

 

「今回は積極的に使わせていただきます」

 

 リオンは、静かな決意を込めて柄に手を添えた。そのためにこの二週間近くをかけて鍛錬してきたのだ。イシュタルファミリアの有象無象相手なら、何の問題もないだろう。ただ、第一級冒険者のフリュネさん相手にどこまで通用するかが問題だね。

 

「よし。ワカヒルメ様、聞こえてますか?」

 

 私は通信機の通話ボタンを押し、オラリオに残るワカヒルメ様へと声を投げかけた。フィンさんとシャクティさんはオブザーバーとして、もちろんワカヒルメ様にもこの会話を聞いていただいているのだ。

 

『ああ、聞こえているよ、ベルディナ。君たちの無事を、心から祈っているからね』

 

「もちろん勝ちますよ。ちなみに、いまどこにおられますか?」

 

『バベルの上層階だよ。隣にイシュタルがいるね。神々はここで高みの見物ってやつだよ。本当に胸糞が悪くなる』

 

「ワカヒルメ様、口調が悪くなってますよ。イシュタル様に聞かれたら大変です」

 

『別にいいよ。どうせイシュタルは現地と声をやり取りすることなんてできないんだからね』

 

 ワカヒルメ様の隣で、イシュタル様が怒りに顔を真っ赤にしている様が目に浮かぶようだ。あちらには、声はおろか戦場の情報はせいぜい鏡に映る公開情報ぐらいだからね。この情報の格差こそが、私たちの「勝利への布石」の一つといえるのかもしれない。

 

「あんまり煽らないでくださいね。では、そろそろ行ってきます」

 

『勝ってくれ。私からは以上だ』

 

 ワカヒルメ様の神命は下った。後は、駆け抜けるのみだ。

 

 私は顔を上げ、敵地である砦を睨み据えた。楼閣の至る所に神々の“鏡”が出現し、審判役を務めるヘルメス様の開戦の合図を待っている。

 

 私たちの側に立つヘルメス様の眼前にも鏡が出現し、彼は何度か咳払いをして喉の調子を整えると、一度だけ私たちに視線を向けた。

 

「では、ヘルメスの名において、戦争遊戯(ウォーゲーム)の開始を宣言する!」

 

 神らしい堂々たる口調と共に、開戦の火蓋が切って落とされた。

 

『フェイズ1へ移行。作戦開始です』

 

 通信機からエルティナの冷徹な声が響く。

 

「了解。――行こう、リオン!」

 

「はい!」

 

 私たちは二人伴って、巨大な質量を持つ分厚い城門へと向かって地を蹴った。

 

 




また、中程度の評価を2件、低評価を1件いただいております。

お一方は、独自の評価基準を持っておられる方のようで、その作品との向き合い方に感銘を受けました。これからも精進していこうと思いますので、暖かく見守っていて下さい。
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