ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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 前方には、イシュタルファミリアが誇る戦闘娼婦(バーベラ)の集団が、轡を並べて城壁を固めているのが見える。視界に映るのは10名足らず。しかし、その後方、城門の内側には数十名の敵集団の反応が、私のHUDにミニマップとして投影されていた。まさにここが最前線というわけだ。

 

「エルティナ、門の前には敵が密集しているみたい。タイミングは任せるよ」

 

『承知いたしました。マスター』

 

 私は通信機を腰のベルトに固定し、リオンと歩調を合わせて徐々に城門へと接近した。私達なら瞬間移動かってぐらいの速度で取り付くことも可能だが、今はまだその時ではない。

 

『ターゲットへの接近を確認。コード101実行まで残り3秒、2秒、1秒――コード実行』

 

 閉域チャンネルとはいえ、オブザーバーであるフィンさんやシャクティさん達もこの通信を聞いている。具体的に何をするかは伏せつつ、あらかじめ設置しておいた仕掛けをエルティナが起動させた。

 

 その瞬間、凄まじい衝撃が砦を揺らした。

 分厚く頑丈な城門の数箇所に仕掛けられた、ライラさん提供の火炎石とエルティナ特製の回路(サーキット)を組み合わせた遠隔爆破装置が、一斉に火を噴いたのだ。支えを失った門扉は自重に耐えきれず、吹き飛んだ巨大な鋲が恐ろしい弾丸となって敵集団へと襲いかかった。

 

「な!? どこから攻撃を受けた!?」

 

「おい、助っ人は一人じゃなかったのかよ!?」

 

 爆煙に巻かれた戦闘娼婦(バーベラ)たちの混乱ぶりは、なかなかのものだ。魔法の詠唱も魔陣の展開もなく発生したこの現象は、彼女たちにとって未知の恐怖だろう。

 

『今のは第三者による介入ではなく、私が事前に仕込んでいたトラップです。あしからず』

 

 エルティナは冷静な声で、オブザーバーの人達へ向けて「ルール違反ではない」ことを淡々と説明した。これは戦争遊戯(ウォーゲーム)だ。こんなところで反則負けを取られちゃたまったもんじゃないからね。

 

「リオン、深追いはしないで。エルティナの指示ですぐに離脱できるように。私はなるべく退路を確保するように動くからね」

 

「承知しました。行きます!」

 

 返事と同時に、リオンが弾丸のような速度で爆煙の中へと消えていく。

 

「だから、あんまり突出しないでって言っているのに……」

 

『フェーズ2への移行を宣言します』

 

 作戦は第二段階だ。ここからは、敵の戦力を少しずつ削り取っていく忍耐勝負になる。

 

 

 ここで一度、私たちの位置関係を整理しておこう。

 

 先ほどリオンが敵集団に突っ込んでいったように、彼女が最前線で積極的に戦力を削り、エルティナは最後方――砦の外から戦場全体を俯瞰し、適切なタイミングで回復テクニックを投入しつつ、通信機で指示を飛ばしてくれている状態だ。

 

 そして私がその中間地点で退路を確保しつつ、エルティナへの接近を許さないのが基本布陣だ。

 

 敵集団が押してくればこちらは引き、引き始めれば逆に押し返す。まるで綱引きのような状況を意図的に作り出しつつ、敵の戦力を少しずつ、確実に間引いていく。まさに、私たちの忍耐力が試される戦いだ。

 

 100を越える戦闘娼婦(バーベラ)の大群を一度に相手にするような無茶はしない。可能な限り敵を分散させ、各個撃破に持ち込む。

 

 押し引きのタイミングはすべて、戦場の「眼」であるエルティナに任せている。私とリオンは、ただその声に従って機械的に動くだけでいい。

 

『02は8時方向へ。01はその場を維持してください』

 

 戦闘中、いちいち通話ボタンを押して返事をする暇はない。私たちは無言のまま、正確に行動で応えるだけだ。

 

『01の1時方向、敵勢力が分厚くなり始めています。攻撃をそちらへ集中してください』

 

「了解!」

 

 私は気合いを入れて巨剣を握りしめ、虚空を蹴り飛ばして敵集団へ切り込んだ。

 

 私たちはかなり狭い範囲で敵味方入り乱れた乱戦を演じている。イシュタルファミリア側は、こちらの位置を正確に把握できていないのか、あるいは同士討ちを恐れているのか、強力な攻撃魔法や魔剣の投入を躊躇しているようだった。

 

 エルティナのシステムにはどこに魔導士がいて、どこに魔剣を持った個体が存在するのか、ある程度把握されているのか、今のところ上手くいっているようだ。

 

『01及び02へ。敵集団の体勢が整いつつあります。コード204』

 

 204はフェイズ2(漸減作戦)における第4の指令ということなんだけど、別にコードにしなくても良かったかなと今更思う。なんとなく、こうした方がカッコイイかなと思って、エルティナに呆れられながらもいろいろ考えたのだけどね。

 

 こういうのは平文で通信せざるを得ない状態で、敵対組織にも通信を傍受されている可能性がある場合に、作戦行動の意図を知られないようにすることが目的だからね。今度は、もうちょっとちゃんと考えるか。

 

「逃げんな、こらぁ!」

 

 私はHUDに映るリオンとの距離を同期させつつ、城門へと向かって疾走する。私たちの退路を断つべく数名のアマゾネスが回り込もうとするが、その背後で乾いた爆発音が響いた。

 

 エルティナが放ったノンチャージのラ・フォイエだ。直撃はさせず、足元を狙うことで彼女たちの意識を強制的に逸らす。アマゾネスへの被害を抑えたというよりは、私の行動を阻害しない事を目的にしたようなかんじだね。

 

「戦場でよそ見するやつがいるかよってね!」

 

 私は怯んだアマゾネスの胸元に、虚空跳躍(ネクストジャンプ)の勢いを乗せたドロップキックを叩き込んだ。衝撃と共に彼女と一緒に城壁の外へと転がり出るが、私は空中で華麗に一回転して、優雅に着地を決めた。

 

 アマゾネスは私の体重とフォトン強化された威力をまともに受け、白目を剥いて沈黙した。武器を持つ右腕が不自然な方向に折れているから、これではもう、戦線復帰は不可能だろう。後で突撃する際に、一緒に連れて行ってやろう。

 

 イシュタルファミリアに少しでも仲間を思う心があるのなら、負傷した同胞を放置することはできないだろう。死者であればその場に捨て置かれることもあるだろうけど、負傷者であれば、それをケアするために戦力が削がれるという理屈だ。

 

「すみません、合流が遅れました」

 

 再び城門をアマゾネスが囲む寸前、リオンがその隙間を縫うように飛び出してきた。

 

「リオンは派手に飛び回っていいよ。 ただし、深追いは厳禁。いつものやり過ぎは、今日は無しでお願い」

 

「分かってはいるのですが……」

 

「お前たち、あんまり外へ出るんじゃないよ」

 

 リオンの言葉を、低く重みのある女性の声が遮った。

 

「お久しぶりですね、アイシャさん。お元気そうで何よりです」

 

 そこに立っていたのは、巨大な大鉈のような大剣を肩に担いだ長髪の美女。

 アイシャさんが、仁王立ちで私たちの行く手を阻んでいた。

 

「ああ、アンタには世話になった。その礼を、ここで返してやるよ」

 

 お礼だというのに、向けられた大刀に宿る殺気は本物だ。私は「怪盗ネコ少女」として彼女に協力し、大切な人の命を救う手伝いをしたはずなんだけどね。

 

『マスター、アイシャ・ベルカより精神操作の痕跡を観測いたしました』

 

『やっぱり、何かされたのか。えげつないことをする』

 

 あの夜の騒動の後、アイシャさんがあの後何らかの非人道的な尋問を受けたことは間違いなさそうだ。噂に聞くイシュタル様であれば、魅了、あるいは呪詛と言ったところか。

 彼女の琥珀色の瞳は、かつての剛胆さを残しながらも、どこか霧がかかったように虚ろだった。

 

「心なしか、アイシャさんから闘気があふれているように見えるね、リオン」

 

「ええ。何らかの強化魔法か、あるいは狂化を伴うスキルか……」

 

 アイシャさんはLv.3。リオンはLv.4。通常なら1つ分のレベル差は絶対的だが、今の彼女から放たれる重圧は、その壁を強引に踏み越えてきているように感じられた。

 

 

 精神操作によってリミッターが外されたのか、それとも何らかの強化魔法を施されたのか。アイシャさんは、もはやLv.3の枠に収まらない。

 その猛攻は獣の咆哮のように荒々しく、しかし研ぎ澄まされた刃のように鋭く、Lv.4のリオンと互角に切り結び続けていた。

 

「アイシャ・ベルカ。あなたは……"なに"をされたのだ!」

 

 アイシャさんによって放たれた魔法、【ヘル・カイオス】を、納刀した抜剣(カタナ)の鞘で受けて打ち消し、カウンターとして自身も抜刀と共にカマイタチのような衝撃を飛ばした。

 

「アンタも大概だね。なんだい、その魔剣は。エルフとしての誇りはどうした?」

 

 エルフの誇りと魔剣の関係は良く分からないが、リオンはそれを聞いてわずかに奥歯を噛みしめたように見えた。

 

「今は友を救うため、エルフの誇りなど捨てて見せよう!」

 

 大剣と抜剣(カタナ)がぶつかり合うたび、火花が曇り混じり陽光の影を裂き、衝撃が地面を震わせる。

 砦の外壁に反響する金属音は、まるで戦場そのものが悲鳴を上げているかのようだった。

 

 その死闘の周囲では、数名のアマゾネスが二人を取り囲もうと動き出していた。

 私は巨剣を振り抜き、彼女たちの進路を断ち切る。

 

「私をお忘れですか?」

 

 アイシャさんに集中するリオンの攻防。その隙間に槍を差し込もうとしたアマゾネスの腕を、私は巨剣で弾き飛ばした。

 リオンとアイシャさんが一対一で戦えるよう、私はただ黙々と、しかし確実に敵の介入を阻む。

 

 そのとき、アイシャさんの鋭い眼光が私を射抜いた。自軍の優勢が崩れかけていると判断したのだろう。

 

「一旦引くよ! 全員、砦の中へ戻りな!」

 

 彼女はびっくりするぐらい素早く状況を見極めると、部下たちを率いて砦内部へと撤退していった。さすがアイシャさんといったところか。本当に、味方になると頼もしいけど、敵に回るとこれほど恐ろしい相手はないね。

 

「……完全に体勢を立て直されたみたいだね」

 

 私は巨剣を肩に担ぎ直し、アマゾネスによって固められつつある城門を睨み付けた。アイシャさんとリオンの戦闘の間に、内部でも体制を整えられてしまったようだね。アレを崩すのは少し骨が折れるか……。

 

「コード201の準備をします」

 

 隣に立つエルティナが、ポーチから火炎石の遠隔起爆装置を取り出し、安全ピンを抜いた。そのまま親指で上蓋を跳ね上げると、紅いボタンに細い指を添えた。

 コード201はこの作戦の要だ。

 

「了解。リオン、突入準備をお願い」

 

「承知しました。いつでも行けます」

 

 リオンはホムラノベニレンゲを鞘に収め、低く重心を落とした。その身から魔力がほとばしるように陽炎が見えるほどで、それに呼応するように抜剣(カタナ)もまた、わずかな燐光が見えるようだ。

 

「コード201実行まで残り5秒。4、3、2、1……コード201実行」

 

 エルティナの淡々としたカウントがゼロを刻み、エルティナはボタンを躊躇なく押し込んだ。その直後、砦の後方で夜空を焦がすほどの巨大な爆炎が噴き上がった。

 

 そこはエルティナが事前調査で「物資の貯蔵庫」として使用されていると断定した場所だ。兵糧と武器を同時に失うような大爆発は、砦全体を揺るがすほどの衝撃を生み出した。

 

「なんだ!? どこから攻撃された!!」

 

「落ち着け! 背後を警戒しろ、体勢を乱すな!」

 

 魔法の詠唱も魔陣の予兆もない。背後からの不可視の強襲に、イシュタルファミリアの前衛には刹那の混乱が生じた。

 

「行きます――!」

 

 リオンはその千載一遇の好機を逃さなかった。風を切り裂くような加速。混乱の渦中にある城門へ向けて、彼女は再び一陣の「疾風」となって駆け抜けた。

 

「私も続くよ」

 

 私も虚空跳躍(ネクストジャンプ)を発動し、虚空を蹴り上げリオンの疾駆に遅れぬよう、その影に潜むように追従した。突入するリオンに備えるアマゾネス集団からは、私の姿は完全に隠れてしまっているだろう。

 

「押し通る! 道を空けろ!」

 

 リオンが戦闘娼婦(バーベラ)達に声を投げつけるが、それが逆に連中をいきり立たせたようだ。

 

「馬鹿にしやがって!」

 

「落ち着け、乗るんじゃない」

 

 今にも突出しそうになった、血の気の多いアマゾネスを、アイシャさんが遮った。

 

 城門を抜け、リオンが先頭集団にとりついたところで私は虚空跳躍(ネクストジャンプ)を前方に展開して急制動をかけて、その場にピタリととどまった。

 その瞬間、城門を固めようと左右の死角から飛び出してきた数名の戦闘娼婦(バーベラ)に挟まれる立ち位置を意識し、その場で巨剣をふるって、その勢いのまま回転撃を加えた。

 

「な!?」

 

「嘘だろ?」

 

「残念でした!」

 

 そこにいたら見えてないと思ってたんだろうけど、私のミニマップにはバッチリと表示されていたからね。アークス相手に奇襲攻撃を仕掛けたければ、ダーカーみたいに空間に突然出現するぐらいしないとだめさ。

 

 私の巨剣により吹き飛ばされたアマゾネスに舌を出して見送ると、私はその場にとどまり、逆に城門を固めてリオンの退路を確保する仕事に専念しよう。

 

 

 

 

 

 





前回に引き続き5件の高評価と4件の最高評価をいただきました。
大変ありがたいことでございました。

本章も佳境を迎えております。今後もよろしくお願いします。


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