ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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 再び砦内部へ突入した私とリオン。その瞬間、待ち構えていたかのようにアイシャさんが襲いかかってきた。私は城門付近を固め、リオンの退路を確保する形で立ち回っている。

 その配置を見抜いたのだろう。アイシャさんは、崩しやすい私を先に落とすべく、迷いなく距離を詰めてきた。

 

『02へ。現在01が敵主力と交戦中。援護を』

 

 通信機からエルティナの冷静な声が響く。HUDに映るリオンのマーカーは、私の方へ向かっているものの、巧みな戦闘娼婦(バーベラ)たちの妨害で若干の足止めを受けているようだった。

 

 思った以上に敵の体勢が整っている。フェイズ2の陽動は残すところあと一回。最初の城門爆破を含めれば三度目だ。同じ手を繰り返せば、当然ながらその効果も限定的にならざるを得ないだろう。

 

 突入前に受けたエルティナの支援テクニックの効果時間も、残り60秒を切った。そろそろエルティナにも前線へ上がってきてもらうべきか――そんな思考が頭をよぎる。

 

「やっぱり、優秀な指揮官がいると厄介ですね。烏合の衆も、立派な兵隊に変わる」

 

 私は攻守一体(ガードポイント)で攻撃を受け流しながら、アイシャさんの猛攻に苦笑を浮かべた。彼女の動きは鋭く、重く、そして速い。Lv.3とは思えない圧力が、巨剣越しに腕へ伝わってくる。ひょっとして、この短期間でランクアップしたのかと思えるほどの強化具合だ。

 

「お前が言うことかい。たかだかレベル2のメスガキが」

 

 アイシャさんの蹴撃が、まるで地を這う大蛇のように低く鋭く迫る。こうも接近されると、虚空跳躍(ネクストジャンプ)での回避は難しいと言わざるを得ない。あれは直線的な高速移動には向いているけれど、曲線的で複雑な回避行動は少し苦手なのだ。ステップ回避のありがたさを、今ほど痛感したことはない。

 

 仕方なく巨剣を盾代わりに構え、衝撃を正面から受け止めつつ、吹き飛ばされそうになる身体を、虚空跳躍(ネクストジャンプ)の足場で強引に踏みとどまらせた。

 

「うーん。強い……けど、楽しいな」

 

 アイシャさんの攻撃は鋭いが、そこには陰惨な憎しみがない。殺意は本物でも、対峙する相手への敬意のようなものが感じられる。

 戦闘種族たるアマゾネスの闘争本能――その純粋さは、戦うために生み出されたアークスに通じるものがあった。

 

「ねえ、アイシャさん。あの夜、私達は助け合いましたよね? あなたにとって、あれはもう『なかったこと』になっちゃいましたか?」

 

「ああ、そんなこともあったね。だけど、今の私には関係ないことさね」

 

「…………分かりました。今はそういうことにしておきます」

 

 エルティナのエネミーセンサーが、アイシャさんの脳波から強い混乱を読み取っている。精神操作を受けているのは明らかだが、彼女の根底にある意思までは完全に封じられていないのだろう。超越存在(デウスデア)による処置は強力だ。生半可な言葉で解けるものではない。

 

『03より各局。コード202実行まで残り5秒。4、3、2、1……コード202実行』

 

 エルティナが勝負に出た。

 フェイズ2における二度目にして最後の陽動スイッチが押され、先ほどとは別の施設が巨大な炎に包まれた。

 

「またか!」

 

「今度はどこだ!」

 

 エルティナのことだ。これが、負傷者を収容する施設への攻撃ではないと私は信じる。それでも、敵方とはいえ建物が破壊されるのを見るのは、胸が少しだけ痛むね。

 

「春姫!」

 

 もうもうと立ち上る煙を視認した瞬間、アイシャさんが焦燥を剥き出しにした声を上げ、戦線を離脱した。その背中には、ただの戦闘命令ではない、もっと個人的な感情が滲んでいるように思えた。

 

「はるひめ……? 誰?」

 

 一瞬、疑問に身体が硬直しかける。

 だが、その迷いを断ち切るようにエルティナの声が響いた。

 

『03より各局へ。戦線を押し上げます。各自、本丸へ突入を』

 

 その強い指示に導かれ、私は再び巨剣を握り直した。

 砦の本拠点――敵大将の待つであろう本丸へと私は全力で疾走した。

 

『03より各局。ここより私が退路の確保をいたします』

 

 HUDのミニマップに表示されたエルティナのマーカーが城門周辺で停止した。

 エルティナが本気で防衛戦を行うなら、もはや後方の憂いはない。星15武器(リバレイトウォンド)を操るエルティナは、私と違ってテクターとしての能力を十全に発揮できる。並の冒険者では、彼女に攻撃を当てることすら不可能に近いだろうね。

 

 私は少し速度を上げ、前方を駆けるリオンに追いついた。

 

「大丈夫? リオン」

 

 並走しながら問いかけると、リオンは鋭い視線を前方に向けたまま答えた。

 

「問題ありません。そろそろ4割ほど削ったでしょうか」

 

 開戦直後に比べ、襲いかかってくる敵勢力は半減したと言っていいだろう。特に前線を支配していたアイシャさんが離脱した影響は大きく、イシュタルファミリアの戦闘娼婦(バーベラ)たちは統制を欠いた烏合の衆に成り果ててしまっている。

 

 いつどこが爆発するか分からない不安定な砦の状況が、彼女たちの戦意を奪っているのだろう。自分たちの拠点こそが最も危険な場所だと悟った時、平穏を保てる者などそうはいないはずだ。エルティナの広域レーダーには、すでに戦意を喪失して砦から脱走を図る個体すら確認されていた。

 誇り高き戦闘種族(アマゾネス)の名折れだね。

 

「このまま本丸に強襲をかけるよ」

 

「ええ、この勢いのまま決めてしまいましょう」

 

 勝利を確信した瞬間こそが最も危ういとは言うけれど、今の私たちに迷いはない。私は巨剣の柄を握り直し、少しだけ気を引き締めた。

 

「私が先手を貰ってもいいかな? 一応、団長だからね、私」

 

 手柄が欲しいわけじゃない。だけど、この戦争を始めた張本人として、最も万全な状態で大将とやり合っておくべきだ。それに、今の私の「冒険者」としての力が、本調子の第一級冒険者にどこまで通用するのか、確かめておきたい気持ちもあった。

 

「やぁーー!!」

 

 その時、物陰から小柄なアマゾネスの少女が躍り出た。アイシャさんが「レナ」と呼んでいた子だったかな? 彼女はナイフを片手に、最短距離で私へと肉薄してくる。

 

「うん、知ってた――ていっ」

 

 フォトンレーダーを完備する私に、そんな雑な奇襲が通じるわけがない。私は虚空跳躍(ネクストジャンプ)を瞬時に発動して急制動をかけ、レナさんの突き出したナイフをダンボールサイズの紙一重でかわしてみせた。

 だけど、その一撃は予想以上に鋭かったようで、ふわり、と私の視界に、切り落とされた数本のピンク髪が宙を舞っている姿が映った。私の自慢の髪をやった罪は重いぞ!

 

「おっとっと――」

 

 空振りしてタタラを踏んでいる彼女の背後へ、私は間髪入れずに回り込み、散っていった我が頭髪(おんなのいのち)の仇を討つべく、容赦なく延髄蹴りをたたき込んでやった。

 

「ふぎゃっ!!」

 

 かわいそうに地面に顔から突っ込むレナさん。なんか、コミカルだねこの子。敵にしておくには惜しいやつだ。戦争に勝ったら貰おうかな――いや、味方にした方が恐ろしいやつかもしれないな、やめとこう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 足を止めたリオンが怪訝な顔で私を見ていた。

 

「大丈夫、仇は討ったよ」

 

「……あなたは何を言っているのですか?」

 

 考えるな、感じろ。

 

 レナさんのおかげで、なんだかんだ言って肩の力が抜けた気がする。やっぱり、敵に回した方が役に立つ子だったかと、ひどいことを考えつつ、私は再度リオンと共に敵陣の中枢へと飛び込んでいく。

 

「うーん。なんか、本丸から逃げる人達もいるみたいだね。あの子は――アマゾネスには見えないけど?」

 

 どことなくアイシャさんっぽい人に守られるように砦から外へ行こうとしている影が見えた。全身をローブで包み込んでしまっていて正体は分からないが、その体つきからアマゾネスというよりは獣人っぽい雰囲気が見受けられた。足元に尻尾のような「もじゃもじゃ」が見えたからね。戦争に勝ったらモフらせてもらおう。

 

「捨て置きましょう。今は大将(フリュネ)を」

 

 リオンはすでにホムラノベニレンゲの柄に手を置いて、いつでも抜刀できるように準備を整えている。

 

「分かった。それじゃ、行くよ!」

 

 私は通信機を取り上げ、エルティナを始め、この通信を聞いている全ての人へ敵本陣への殴り込みを宣言した。

 

『こちら03了解。これよりフェイズ3への移行を宣言します』

 

 エルティナからも了承を得て、ついに戦争は最終段階へと突入した。

 

 これですめばそれでいい。二人一緒に戦って、素直に勝てれば何の問題もない。もしも、そうならなかったら? 第一級冒険者(レベル5)が、私達の想像を絶するパワーで立ち塞がったらどうするという疑問に、私はこう答えよう。

 

 それは、真の最終兵器をお見せする時が来たということだってね!

 

 






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