ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
イシュタルファミリアとの不可侵条約の締結、および戦後賠償に加え特殊事項について即日でギルドからオラリオ全土に通達され、私たちへの経済封鎖は正式に解除されることになった。
おかげで糸問屋の店主のお姉さんは「本当によかったなぁ……」と涙を浮かべて、すべての生糸を格安で融通してくれたのだ。また、卸先の服飾店の人たちも全員が万歳三唱で、ようやくワカヒルメ様の反物を扱えるとはしゃぎで、ワカヒルメ様は次々と入る注文に嬉しい悲鳴を上げている。これからは存分にそのお力をふるっていただければと思う。もちろん、無理をしない範囲で。
ちょうど半年間ダンジョンに潜れなくなったエルティナが、そのサポートにはいることになったから安心はしているんだけどさ。
ということで、もう逃げ隠れすることもできなくなったので、私はエルティナを伴って、素直にフィンさんを訪ねてロキ・ファミリアへと足を運んだ。
主神のロキ様を筆頭に、フィンさんと他の幹部の方々、それにアイズさんやティオネさんに、ティオナ。さらには野次馬根性のたくましい紳士淑女の方々までが勢揃いしてしまったため、説明会は仕方なく、全員を収容できる食堂の大広間に特設された壇上で行われることになったのだ。みんな仕事早いね。
なんだか、記者会見みたいだ。カメラのフラッシュがないだけ、まだマシかな。
私は謝罪会見さながらの神妙な表情で壇上に上がり、全員に向かい、後ろ手でスカートを押さえつつ、腰を深く九十度まで倒してお辞儀をし、マイクはないのでなるべく声を張り上げつつ、それでも丁寧に言葉を紡いでいった。
「えー、この度は、
私は改めて頭を下げる。ここまでの所作は、エルティナとも何度もリハーサルを重ねて確認した通りだ。
私はHUDにカンニング用の原稿をこっそり表示させ、視線だけは広間に集まった面々に預けつつ、間違いのないように書き起こした文字を丁寧になぞっていく。
「――――以上の通り、貴派閥の団長であるフィン・ディムナ様が、当派閥の眷属エルティナを拐かし幽閉したという噂は、全くの事実無根であります。本件は、エルティナが行う戦場工作を秘匿するため、不肖
一歩下がって、「申し訳ございませんでした」とゆっくりと一言ずつはっきりと発声しながら最敬礼の角度で5秒間。しっかり心を込めて頭を下げてから、直立不動の姿勢に戻った。ここまで本格的な謝罪は、前世を含めて初めてかもしれない。前世は事務員だったから、直接客先を訪ねることもなかったし。
「では、質疑応答に移ります。質問のある方は挙手にてお示しください」
隣に立つエルティナが凛とした声で司会進行を務め、質問者を募る。
「一つ、良いか?」
真っ先に手を挙げたのは、副団長のリヴェリア様だった。その凛然とした佇まいに、アリシアさんをはじめとしたエルフたちが一斉に背筋を伸ばすのが分かった。
「はい、リヴェリア・リヨス・アールヴ様。質問をどうぞ」
エルティナが淀みのない動作でリヴェリア様を促した。
「フィンについての噂に関しては、一応の納得をしよう。もとより、彼がそのような不実を働く男ではないと信じていたからな。それよりも――本筋とは無関係な質問かもしれんが、終盤に起きたあの『爆発』の正体について、説明を願いたい」
さすがフィンさん、人徳だね。それにしても、あの爆発……私が高度3万メートルから自由落下して、特製の弾殻に包んだ巨剣を敵の本拠点に叩き込んだアレのことか。確かに、映像だけでは何が起きたか判りづらかったかもしれないね。
「ご質問にお答えします。といっても、種を明かせばそれほど複雑なことではありません。単純に、私が上空3万メドル――約30キロルまで跳躍し、そこから落下することで速度を稼いだのです。私がいつも使用している巨剣を円錐形の特製外装に納め、そのまま建物に撃ち込みました。着弾時の速度は、最終的におよそ秒速750メドルに達していたと思われます。以上です」
この物理法則剥き出しの説明で理解してもらえるかは怪しいけれど。私はどうにも説明が苦手なので、チラリとエルティナに目を向けてみると、エルティナは小さく頷いてくれたので、事実関係としては概ね問題なかったんだろう。
「リヴェリア様、いかがでしょうか?」
エルティナが、再び質問主のリヴェリア様へと水を向けた。
「……ああ、すまない。理屈は概ね理解できた。しかし、上空30キロルだと? そんな高みへの到達が、果たして現実的に可能なのか?」
「うーん……。そう言われましても、証明するのが難しいですね。流石にリヴェリア様を抱いてそのまま上昇してみせる、というわけにもいきませんので。こればかりは信じていただくより他にないと言いますか……。あ、そうだ。ロキ様! 私、今嘘をついていますか?」
こういう時にこそ、神様嘘発見器を利用させてもらおう。真贋の見極めはできないかもしれないけど、少なくとも嘘ではないと証明していただければかなりの説得力になるだろうし。
「うちか!? あー、嘘はついとらんなぁ。信じられんことに、な」
なぜか酒瓶を片手にこちらを眺めていたロキ様だったけれど、私の言葉に偽りがないことをはっきりと明言してくださった。
これには会場がにわかにざわめき立ち、驚愕の混じった視線が私へと突き刺さる。神様のお墨付きが出た以上、三十キロルの跳躍は「事実」として確定したわけだからね。
「他に質問はございませんか? なければ、これにて釈明および謝罪の会見を終了いたします。本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました」
エルティナの締めの言葉に合わせ、私も深々と頭を下げ、そのまま、嵐が去るのを待つようにゆっくりと壇上から身を引いた。
その後、見知った人達の何人からか声をかけられたが、この後私は、ガネーシャファミリアとギルドに同様の釈明をしに行かないと駄目だから、実は時間が無いのだ。
そういうと、また今度、時間があったらという約束だけして、そそくさとロキファミリアを後にした。
「うーん。疲れた。これがあと2回あるんだよね」
「本日中には終わる見込みです」
「分かった。頑張ろう。エルティナも、サポートよろしくね」
「承知いたしました」
私は地面にへばりつかんばかりの重い足取りを何とか引っぺがして、その場で何度かジャンプをすると、その勢いのままガネーシャファミリアへ突進していった。
勢いが付きすぎたためか、到着し次第、シャクティさんに叱られた。解せぬ。
一応これで、一連の謝罪は終わりとしております。
まだまだ謝意が足りないと思われた方は遠慮無く指摘してください。
また、新たに4件の高評価をいただきました。本当にありがとうございます。
次のメインストリーの構想がなかなか固まりませんが、頑張ります。