ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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調整しないとね……

 

 秋葉さんのために作った大麦の海鮮粥は大変好評で、なぜか涙ぐみながらかき込むものだからちょっとびっくりしてしまった。

 

 歓楽街にいるときは、急いで食事を取らないといけないぐらい切羽詰まっていたということだろうか。

 食欲は問題ないみたいだから、次からは普通のお肉とかお野菜の食事にしてもいいねとワカヒルメ様もおっしゃっておられた。

 

 今日はお昼まで寝て貰い、恐縮する秋葉さんにワカヒルメ様が拠点を案内することになったようだ。ワカヒルメ様の機織りの音は、聞いているだけで心が落ち着くからいいね。私は、お夕飯用のトマトソースの仕込みをしてからエルティナを手伝って拠点の掃除をして、今は中庭で軽く巨剣の素振りをしているところだ。

 

 今週は休息に当てるとはいえ、来週からは私一人でダンジョンアタックをしないと駄目だからね。気を抜かないためにも一日一回はこうして軽めの訓練をしていると言うことだね。

 

「うーん。ちょっとズレてる感じがあるな……」

 

 レベル3になった直後は、それほど身体に変化があるようには思わなかったけど、こうしてじっくり馴らしていると切っ先の軌道が想定よりも若干違うことに気がついた。

 

 振り下ろした巨剣をそのままひねって、今度は逆の切り上げに持って行く。

 

「おっと……」

 

 しかし、その威力が強すぎたのか、巨剣の勢いに少しタタラを踏んでしまった。情けないことだ。

 

 

「結構、深刻かも……エルティナにも手伝ってもらおうかな」

 

 ランクアップ後には感覚のズレがあるから慎重に調整しなくてはならないと、ランクアップを報告したときにエイナさんから何度も念を押されたけど、確かにこれは少し時間をかけて調整しないと駄目かも。

 

「精が出ますね、ベルディナ」

 

 ふと背後からの声に振り向くと、そこには抜剣(カタナ)を腰に帯びたリオンが手を上げてこちらにやってくるところだった。

 

「やあ、こんにちはリオン。今日はどうしたの?」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の準備の時はずっとここで訓練をしていたので、リオンがいないとむしろ違和感を覚えるぐらいになってしまった。

 

「少し報告がありまして、この抜剣(カタナ)なのですが」

 

 そう言ってリオンは、腰の抜剣(カタナ)、ホムラノベニレンゲを鞘ごと引き抜いて私に差し出してきた。

 

「あ、そうか。ひょっとして、経験値得られた?」

 

「はい……それに加えて、アストレア様がおっしゃるには、ランクアップのようなものをしたのではないかとの事でした」

 

「なるほど? ちょっと見させてもらうね」

 

 私はそう言うとホムラノベニレンゲを受け取って、システムにスキャンをかけた。星13以上の武器は、一度装備するとオーナー登録がされて他の人が装備できなくなる仕組みになっているから、私が使うことはできないけど、調べることはできる。

 

「ふむふむ……なるほどなるほど……強化値が+10になって、潜在能力のレベル1が解放されてるね」

 

 スキャンの結果がHUDにその情報が列挙されて私はうなずきながらそれを一つづつ丁寧に説明し始める。

 重要なところだと、【威力が5%上昇。弱点属性で攻撃した時さらに5%上昇】という潜在能力が芽生えたと言うことだ。通常で5%の攻撃力が上昇し、さらに、この武器の属性は光属性なので、それを弱点に持つモンスター――スケルトン系とかかな――に対して5%追加する感じだね。

 

「武器がランクアップするとは戸惑いますね。この潜在能力というのは、スキルに似ていますね」

 

「そう考えると冒険者的にはスッキリするかもね」

 

 私はリオンの言葉に「なるほど」とうなずきながら抜剣(カタナ)をリオンに返却した。武器に紐付いているスキルって考えると確かに分かりやすいね。

 

 ちなみに、威力が上昇するというのはアビリティを上昇させると言うことではなく、最終的に与えるダメージに補正を加えるものだから、元々がカスダメージだとどれだけブーストしてもあんまり意味がないと言うことだけは付け加えておく。

 

「なるほど。ベースとなる私のアビリティによっては宝の持ち腐れにもなり得ると言うことですね?」

 

「うーん。リオンの場合は心配しなくてもいいと思うけどね? 武器の特殊能力でアビリティの強化もされていることだし」

 

 残念ながら経験値を得て、強化値を稼ぐことはできても特殊能力の変化まではしなかったようだ。イクシード・エナジー以外はぱっとしないやつばっかだからなぁ。

 せめてアスエテマナグレが付いてたら「やるなっ」って思えるんだけどさ。

 

「武器のおかげで強くなると言うのも癪ではありますが。少なくともそのおかげでフリュネ・ジャミールを抑えることができました」

 

 複雑そうだね、リオンは。

 アークスとしては、戦闘技能は当然として、強力な装備品を整えることも重要な素質ではあったんだけどね。「弘法筆を選ばず」とはいうけど、それができるのは、最初から最後までコートエッジで貫き通したアッシュぐらいだ。

 といっても、最終的にものを言うのは大量のメセタ(通貨)とエクスキューブと保護材なんだけどね(台無し)。

 

「で、どうする? ちょっとここで試してみる? 私もランクアップしたてで身体の感覚がどうもズレてるみたいなんだ」

 

 私はそう言うと改めて巨剣を構えて、リオンの瞳をまっすぐと見つめて、組み手をほのめかした。

 

「ああ、通過儀礼ですね。私で良ければ協力しますよ」

 

 私の事情をすぐに察してくれたリオンは、静かに抜剣(カタナ)――鞘に納まったホムラノベニレンゲを左手に持ち直し、いつでも抜刀できる体勢を作り上げた。

 

「うん。それじゃ、お願いね」

 

 私は意識を全身の末端へと巡らせ、ランクアップしたてのできたてほやほやと言ってもいいような身体の関節駆動や各部パーツの一つ一つの動きを確かめるように巨剣を大上段に振りかぶると、溜めのない動作でリオンの脳天めがけて振り下ろした。

 

「少し……剣の軌道が右に逸れていますね」

 

 リオンは抜刀することなく、鞘を翻して巨剣の腹を鋭く叩き、衝突のエネルギーを寸分違わずキャンセルしてみせると、流れるような連動で抜刀し、その剣閃から鋭い衝撃波を放ってきた。

 

「リオンも、かなり馴染んだね」

 

 私はその追撃を予見して前足を爆ぜるように蹴り出し、空中で鮮やかな後方宙返りを見せてリオンから距離を稼ぐと、迫り来るカマイタチに巨剣の合わせるように振り抜いて、攻守一体(ガードポイント)の発動と共に、その余波を虚空へと霧散させた。

 

 私のスキルと、フォトンの相互作用に支配された抜剣(カタナ)の双方が、互いの攻撃を事象の上書きによって打ち消し合うこの光景は、泥仕合のような不毛さを感知られてしまうところだ。

 

「さあ、どんどん来てください」

 

「いいね、それじゃ行くよ!」

 

 私は身体を低く沈み込ませ、地面を舐めるような姿勢から爆発的な初速で疾走すると、芝刈り機よろしく地面を削り取るような勢いで巨剣を切り上げた。

 

「体幹と剣の動きがちぐはぐです。剣筋がぶれていますよ」

 

 だがリオンは揺らぐ瞳でその不完全な一撃を読み切り、再び鞘を当てることで物理衝撃を完封すると、間髪入れずに鋭い返しの一撃を放って私を後退させた。

 

「うーん。頭では分かってるんだけどね」

 

 

 私は虚空跳躍(ネクストジャンプ)を瞬時に起動し、巨剣の重い慣性に引かれてのけぞりかけた矮躯を、不可視の足場を爆ぜるように蹴り飛ばす反動で強引に引き剥がすと、一気に後方へと離脱した。

 

「ごめん、もうちょっとだけ付き合って」

 

 短く告げた私は、右足を深く後ろへ滑らせながら巨剣の切っ先を背後へ引き絞り、さらに重心を深く落として再度の攻防に備えた。

 

「もちろんです、私にとってもこれ以上ない鍛錬になります」

 

 リオンは凜とした声音で応じると、抜剣(カタナ)をカチリと音を立てて鞘に収め、私と対峙するように同様の低い構えを取った。受けるだけでなく、次の一撃は彼女の方からも自発的な攻撃が来る――互いの視線が交差した瞬間、言葉によらない了解が中庭の空気を震わせた。

 

 張り詰めた静寂が二人の間を支配し、春の終わりを告げる熱を帯びた突風が芝生を激しく躍らせて、私達にその時を告げた。

 

「「――っ!!!」」

 

 二人の気合が重なり、全く同時に大地を爆ぜさせて飛び出すと、リオンの黄金の髪と私の長いツインテールが桃色の軌道を描いて、凝縮されていく大気を切り裂く渾身の斬撃を繰り出した。だがリオンもまた、私の巨剣よりも遥かに細い刀身を鞘で走らせる神速の抜刀術を描き、私の必殺の剣閃を鮮やかにすくい上げると、最も力の乗る重心をダイレクトに叩き返してきた。

 

「うーん、お見事!」

 

 感嘆の声を漏らす暇もなく、小細工なしに預けた巨剣を跳ね除けられた私の身体は、回転運動に飲み込まれた木の葉のように制御を失い、凄まじい慣性の嵐に翻弄されながら明後日の方向へと吹き飛ばされた。

 

「あ、やば――」

 

 目前にはワカヒルメ様が作業をされている工房の壁が迫っており、私は即座にフォトンの出力を全開まで引き上げると、事象を書き換えるほどの急制動を空間に叩きつけて、強引にその勢いを打ち消した。

「大丈夫でしたか?」

 

 隼のごとき速度で滑空していた慣性がフォトンによる急制動によって行き場を失い、不格好に地面へと叩きつけられた私のもとへ、リオンが弾かれたような速さで駆け寄ってくれた。

 

「ごめん、ちょっと調子に乗りすぎた」

 

 空中で完全に均衡を失った代償として、受け身をとる暇もなく土の上に尻餅をついてしまった私は、ジンジンと熱を持った箇所を両手でさすりながら、立ち上がって一息ついた。

 なんとも情けない姿を見せてしまい、ちょっと恥ずかしいね。

 

 幸い、私のお尻は個人的に少々コンプレックスになりつつある程度には豊かなので、ほどよいクッションとなって衝撃を和らげてくれたようだ。

 

「今日は、このくらいにしておきましょうか」

 

 リオンはほっと肩から力を抜きつつ抜き身の刃を鞘へと滑らせると、腰のベルトへ確実に固定し直し、土埃に汚れた私を助け起こすべく白く細い手を差し伸べてくれた。

 

「そうだね。汗もかいたことだし、これから一緒にお風呂にでも行かない? お昼から開いているところを見つけたんだ」

 

 私はリオンの助けを素直に借りて立ち上がり、スカートに若干纏わり付いた芝生を丁寧に払い落としながら、期待を込めた視線を向けた。

 

「いえ、アリーゼ達にはすぐに戻ると伝えてありますので」

 

「そうなんだ。それじゃ、また今度だね」

 

 また今度がいつ来るのかは全く不明なのが残念だけどね。といっても、これは民族的な思想・習慣に関わることだから無理強いはしてはいけない。

 

 







今回は2件の高評価をいただきました。本当にありがとうございました。

まだしばらく波乱のない展開が続くと思いますが、よろしくお願いいたします。



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