ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
私は10年ちょっと前までの記憶が無い……というのは少し語弊がある。
さすがに生まれたときの記憶までは持ち合わせていないが、幼少期の思い出は多少は残っているし、物心ついて以降の記憶は鮮明とはいえないが、一般的なレベルで持ち合わせている。
しかし、それはオラクルにおいてではなくあくまで私の心の故郷である地球においての記憶だ。ちょうど一年前、オラクル船団は地球とコンタクトを取った。それはエーテル通信が発展した、シオンのコピーの一人であるマザーがいる、異世界の地球だ。
同じ地球でありながら異なる発展をした地球、確かにその地球においてもオラクル世界はPSO2というゲームとして認識されていたが、私の故郷である地球はそれをも含めてPSO2というゲームである認識だった。
ややこしくて申し訳ない。簡単に言うと、私は西暦2012年にサービスを開始し、2020年にエンディングを向かえ、翌21年にニュージェネシスとして再スタートした、有名国産MORPG――ファンタシースターオンライン2の世界に転生してしまった元地球人なのだ。
今より10年と少し前。オラクル船団はダークファルス【若人(アプレンティス)】の襲撃によりアークスシップの一隻が壊滅的打撃を受けた。
二代目クラリスクレイスが失われた事件として記録されているが、詳細はどこにも残っておらず、事件当事者の記憶も何らかの改変が行われているのか、曖昧となっていることが多い。
私が目覚めたのはちょうどその事件が終結して、混乱から復帰しつつあるさなかだった。
目覚めれば病室の天井だったことにはとても驚いて、思わず、「知らない天井だ」と某有名アニメの台詞を口走ってしまったことは今でも憶えている。
自分の記憶を探ると、会社でセクハラしてくる上司がようやく離島に左遷されて、仲のいいOL仲間と「祝勝会だ!」と言って、行きつけの安い居酒屋で終電を逃して、仕方が無いのでカラオケでオールをしようといって夜の街に繰り出したところで記憶がなくなっている。
「記憶飛ぶまで飲むとか……学生――の時はそんな飲み方してなかったか――初めて?」
ひょっとしたら急性アルコール中毒で救急に放り込まれたのかと思い、
「まあ、留置所じゃないだけましか。さすがに酔って暴れて傷害事件とか、一発クビだろうし」
上体を起こそうとしてもよっぽど飲み過ぎたのか手足が動かず、少し視線を横にそらすとそこには宙に浮かぶパックが管を通じて自分の腕に貼り付けられていた。
「どう見ても点滴……よっぽど飲んだんだね。次は気をつけよう……今日は休みで良かった……」
セクハラ上司が左遷されて初の休前日だったので羽目を外せたということでもある。
「えーっと、スマホどこかな? みんなからRine入ってるかもだし……」
周辺を見渡しても自分のバックがどこにも見当たらない。
初ボーナスで一念発起して買った有名ブランドのやつで、一番のお気に入りだったのに、ひょっとして酔った勢いでどこかに忘れてきたのかと思うと憂鬱だった。
一応スマホ保険に入ってるから、無償で交換してもらえるし、連絡先などはクラウドに保存しているからいいものの、財布の中の現金やクレカ、免許証をなくすのは大変な痛手だった。
「できれば警察に届いてくれていますように……」
と言ったところで(ようやく)気がついた。私って、こんな声してたっけ? しかも、動かないにせよ感じる身体の大きさが、ずいぶん小さいような気がする。
ちょっとだけ視線を下に向けると、そこには世界を見渡せるほどの大平原が広がっていた。
「ていうか、手、ちっちゃ! 胸も真っ平らだし、アタシのおっぱいどこ行った!」
同僚と比べて背が低くて肉付きも良くないガリチビだったが、唯一誇れるのが張りの良い、大きすぎず小さすぎずちょうどいいバランスの胸だった。
それが失われた今、私のアイデンティティは事実上崩壊したと言っても過言ではない(大げさ)。
「まごう事なき幼女。どうしてこうなった!」
その時は体力が尽きて寝入ってしまったが、次に目覚めたときには看護師や医師からの聞き取り調査や、各種のリハビリが早速始まった。
なにか、大きな事件があったらしく、私はそれに巻き込まれ、記憶喪失になった幼女ということになったらしい。
両親についても不明で、今までの経歴もまるで消されたかのように記録に載っていないにもかかわらず、オラクル船団所属という身分だけ登録されていたと言うことだ。
名前はベルディナと言って、自分がPSO2で扱っていたキャラ名のままだった。所属もゲームと同じ8番艦ウィンだったことも含めて。
(うーん、シオンかルーサーか……どう考えてもPSO2の世界に生まれたとしかいえない)
身体が若い(幼い)お蔭か、リハビリもそれほど時間もかからず、半月もたった頃には全力で遊び回れる程度には回復した。
(自由に動く身体って気持ちいい!)
それまでは、不摂生とオフィスワークによって壊滅した体力が、動けば動くほどついていく感覚が、その時にはたまらなく楽しいと感じられていた。
その後、いくつかの選択肢が用意された。
このまま孤児院に入って里親を探すか、あるいはアークスの訓練校に入って将来アークスになるか。
どうやら私には、キャスト化するほどではないにせよ、ちょっと無視できない程度のフォトン適正があったらしく、退院するぐらいの時期を見計らってアークスのスカウトマンがやってきていろいろ説明していったのだ。
アークスになるとダーカーと戦う義務が生じるが、その分、稼ぎは一般に比べて誇張無く一桁違う。
一度アークスになれば簡単にはやめられないが、ある程度実績を残して早期退職した人が優雅な第二の人生を送るという、詐欺師が使うとしか思えないサクセスストーリーの書いたリーフレットまで手渡された。これでいいのか、アークス。
というより、先の事件が原因で、とにかく人手不足なのだろう。だからこそ、一般人に過ぎないただの幼女である私さえもスカウトされるほどなのだろうと勝手に理解することにした。
たぶん、私がここにいるのは偶然じゃない。そう考えるのは自然なことだ。そこにシオンかルーサーか、なんの意思が介入しているのかは分からないが、自分の人生はタダではすまないだろう。
問題は私が将来、守護輝士(ガーディアン)になるのか、その他の一般アークス(いわゆるモブ)ですむのかということだ。
まあ、結局将来のことを考えるとアークスになるのが一番の選択肢だとその時は思えた。せっかく高いフォトン適性があるのだからそれを利用しない手はないし、なによりも大好きだったゲームの世界を体験できるのは楽しそうだという安直な判断だった。
ひょっとしたら、サイリウムを振り回してクーナちゃんのライブに参加するという、全アークスの夢(誇張表現)をかなえることすらできるかもしれないのだ。
――本当に、このときの私はなにも分かっていなかった――
諸説ありますが、ゲームデザインからPSO2はMORPGであると認識しています。
惑星探査編以降で、各章の時短編(あらすじ)は必要ですか?
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いる
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いらない
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すでにある分も含めていらない
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どちらでもいい