ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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ついに200話の大台に乗りました。今後も頑張ります!





困ったときに頼れる仲間がいると嬉しいね

 

 アリシアさんの口から語られた、エルフ族特有の矜持と王族への過剰な敬愛が生み出す泥沼の論争は、私の理解の範疇を容易に踏み越えており、内心ではこれはもうお手上げかもしれないと、冷めかけた茶を啜りつつ密かに溜息を吐き出した。

 

「すみません、アリシアさん。この件は相談に乗る程度の事しかできそうにないですね」

 

「そうですか……そうですよね……」

 

「ですが、知り合いに助けを求めることはできます」

 

 失望の色を見せるアリシアさんを尻目に、私は席を立つとリビングのサイドテーブルに置いてある通信機を手に取り、慣れた手付きでスイッチを入れた。

 

「こちら、ワカヒルメファミリア団長のベルディナです。アストレアファミリアのリュー・リオン様、お手すきでしたら応答願います。繰り返します…………」

 

 本当に電話みたいなのが欲しいと切実に思う瞬間だった。電話網のような有線ネットワークを1から構築するのは大変な労力だろうから、電話回線専用の無線ネットワークで、プラチナバンドみたいな専用の周波数を使ったらいけるんじゃないかと思いつつ応答を待つと、しばらくして通信機から特有のノイズが響いた。

 

『お待たせしました、こちらアストレアファミリアのリュー・リオンです。ワカヒルメファミリア、応答願います』

 

「こちらベルディナです。ごめんね、リオン。急な呼び出しで」

 

『いえ、手空きでしたので問題ありません。緊急ですか?』

 

「うーん。緊急と言ったら緊急だけど……内密の相談をしたくて、今からこっちにこれない?」

 

『分かりました、直ちに向かいます』

 

「ありがとう、こちらからは以上だよ」

 

『分かりました、では後ほど。以上』

 

 通話を終えて通信機を置くと、ソファに戻りさすがに困惑を隠せない様子のアリシアさんに、クッキーのお替わりを楚々と差し出した。

 

「ということで、アストレアファミリアのリオンにも相談役に加わってほしいと思うんですけど、良かったですか?」

 

「その……事後承諾ですよね? 少し強引なのでは?」

 

「私だって、応援を呼びたくなる時があります……お茶のお替わりはいかがですか?」

 

 実際のところ、私ではエルフの人達のことを完璧に理解するなんて事は不可能だ。だから、その辺の機微を(あるていど)理解できる助っ人を今のうちに確保しておきたかった。

 

「貴方という人は――お茶はいただきます」

 

 アリシアさんもそろそろ私の性質が分かってきた頃だろう。こんな奇妙な幼女に、不用意に相談するほうがいけないのだよ。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

「お待たせいたしました、ベルディナ。【純潔の園(エルリーフ)】もおられましたか。こうして直接話すのは初めてでしょうか?」

 

 通信機での呼び出しから二十分も経たぬうちに、初夏の風を孕む軽やかな装いながらも、守るべき所はしっかりと守るエルフらしい矜持に満ちた私服姿のリオンが、迷いのない足取りで『絹糸(けんし)の館』へと姿を現した。

 

「ごめんね、リオン。本当に突然呼び出しちゃって」

 

 ちなみに、【純潔の園(エルリーフ)】というのはアリシアさんの二つ名だ。エルフの純潔さと、全ての妹を包み込む人類の姉という意味を”園”という言葉に集約させた、見事な二つ名と言えるだろう。

 

 誰が命名したのか気になるところだ。

 

「いえ、のっぴきならない様子は想像できましたが……ロキ・ファミリアのエルフがおられるとなれば、想像以上の事態と推察いたします」

 

 リオンが鋭い眼差しでアリシアさんを見やりつつ、言葉の裏に潜む深刻さを探ろうとすれば、アリシアさんは少し話しづらそうに視線を彷徨わせ、困惑の色を隠しきれない様子で私にチラリと助けを求めてきた。

 

「とにかく座って、リオン。アリシアさんも、席についてくださいね。お茶を淹れ直しますよ」

 

 私は二人に着席を促すと、水屋で新しい茶葉をポットに滑り込ませ、湯気の向こう側で茶葉が躍る様子を眺めながら丁寧に熱湯を注ぎ入れた。専門家から見れば不調法かもしれないが、勘弁して貰いたい。

 

「リオンはお砂糖とミルクはいらないんだっけ?」

 

「はい、そのように」

 

「分かった」

 

 私は両方ともたっぷり入れたくなるけど、お客様の前では控えめにしておこう。アリシアさんは、砂糖なしのミルクだけ……と。

 

「粗茶ですがどうぞ」

 

 リオンには好みのストレートを、アリシアさんには砂糖なしのミルクティーを差し出し、私は自分の分として砂糖とミルクをたっぷり加えた甘い一杯を手に、ようやく腰を下ろした。お茶請けのクッキーを勧めつつ、私はここ数日でアリシアさんから聞かされた「時計を巡る紛糾」を、整理しながらぽつりぽつりとリオンに伝え始めた。

 

「なるほど、リヴェリア様(高貴な方)への贈り物……。それは確かに、一筋縄ではいきませんね」

 

 リオンはリヴェリア様の名を聞いた途端、反射的に背筋をピンと伸ばして居住まいを正すと、高貴なハイエルフへの贈り物ということに、その瞳を引き締めた。

 

「リオンもリヴェリア様が大好きなんだね」

 

「好きという言葉は適切ではありません、敬意を払っていると言うべきでしょう。エルフであれば当然と言えるのではありませんか?」

 

 リオンはアリシアさんに言外の同意を求めるように視線を送り、その問いかけを受けたアリシアさんもまた「ええ、その通りです」と、噛みしめるように頷いた。なるほど、たとえ他派閥であっても、王族への敬意は変わらないと言うことだね。それだと、フレイヤファミリアのエルフのだとどうだろう? ロキファミリアと険悪だって聞いたけど、やっぱりそれはそれ、これはこれなんだろうか?

 

「できれば全員の願いを汲み取りたいのですが、今の状況はあまりに収集がつきません……」

 

「うーん。根深いなぁ」

 

 だからこそ、ここまでややこしいことになっているだろう。

 

「そこでリオン、ぶっちゃけこの後どう動くのが正解だと思う? 私じゃ、エルフの人達の機微を完璧に理解することはできないし、下手なことをしてみんなの誇りを傷つけちゃうのが一番怖いんだよね」

 

 王族への不敬だと判断されたら、最悪エルフ全員から反感を向けられる可能性すらある。ワカヒルメ様の今後の事業の事を考えると、一番やっちゃいけないことだろう。逆を考えると、エルフ全員から称讃を得ることだって不可能じゃないけど、リスクが高すぎるよね。

 

 私は慎重に言葉を選びつつ「私じゃお手上げ」というニュアンスをしっかりと含ませながら、問いかけた。今のところリオンは部外者だから、第三者的な冷静な判断ができるんじゃないかと期待してのことだ。責任の押しつけとも言える。

 

 リオンは私の言葉を受けて、難しい表情を浮かべつつ、アリシアさんの沈痛な面持を静かに見つめ返して、瞑目し口を閉ざした。

 

「すみませんが、私一人にできる判断ではないと思われます。リヴェリア様は寛大なお方ですから、どのような方法であっても明確な敬意さえあれば、正面から受け止めてくださると確信しております」

 

 リヴェリア様とは直接言葉を交わしたことはないけれど、王族らしからぬ寛大さが仇となって、かえってエルフたちの主張をバラつかせているのだろうと、私は冷めかけた紅茶の表面を眺めながら、自由という名の不自由さに思いを馳せた。

 

 儀式としてやっていいことと悪いことがカッチリ決まっていれば迷う必要もないけれど、リヴェリア様の「優しさ」をどう敬意として形にするかで揉めるあたり、高潔で頑迷な彼ららしい悩みだとも思えてくる。

 

「それだったらさ、各派閥の代表者を一度に集めて、気が済むまで話し合ってもらうしかないんじゃない? リオンが間に入って司会をすれば角も立たないでしょ? 話をまとめて進行を補助するだけならエルティナも手伝ってくれるだろうし」

 

 私は手元の通信機を操作して工房のエルティナへ呼びかけ、突然の厄介事への助力を仰ぐと、彼女は躊躇なく「その程度のことであれば可能です」という返答をスピーカー越しに届けてくれた。

 

「……なるほど。小人族の聖女(リトル・セイント)に間に入っていただけるのなら、同胞たちも納得せざるを得ないでしょうね」

 

 アリシアさんは安堵の吐息と共にティーカップをソーサーへ戻すと、ようやく重い霧が晴れたような晴れやかな表情を見せ、私たちの提案を噛みしめるように深く頷いた。

 

「会場はどうしましょうか?」

 

 リオンは意外なほど乗り気な様子だった。

 

「うーん。勢いで言っちゃったけど、リオンはそれでいいの? 司会役を押しつけることになるけど」

 

 私はリオンに少し悪いことをしてしまったかなと懸念していたが、

 

「エルティナが補佐をしてくれるのなら、困難なことはありません」

 

 と断言されてしまった。

 

 エルティナへの信頼は絶大だね。私も、いずれは誰かに頼られる女になりたいものだ。もちろん、戦闘以外でね。

 

「会場は、ロキファミリアのホームからなるべく遠い場所が好ましいでしょう」

 

 アリシアさんの提案にリオンも、

 

「当然ですね。リヴェリア様に内密となれば、ギルドにも多くのエルフが務めておりますし、どこから話しが漏れるとも分かりません」

 

 と、うなずいた。

 

「うーん。それならいっそ、エルフ族の慰安旅行に見せかけてオラリオの外に会場を移してみてはどうですか?」

 

 ロキファミリアのホームからなるべく遠くとなると、理想的にはオラリオの外が最適だろうと私は思った。メレンなどはオラリオからほど近い港町で、バカンス先として人気ということを聞いたことがある。

 リヴェリア様ならあるいは、「皆が緊張するだろう」という理由で参加を見送られるかもしれないし。

 

「流石にそれは足並みをそろえるだけでかなりの時間を要するかと」

 

 アリシアさんは苦笑いを浮かべながら言葉を濁した。まあ、そうだろうね。

 ただでさえ上級の冒険者がオラリオの外に出るには面倒な手続きが必要と言うことだから、最近レベル3になったばかりのアリシアさんとか、レベル5も目前かと言われるリオンだと懐疑をするためだけにオラリオの外に出るのは無理があるかな。

 

「それは、会議としてではなく、贈呈式を組み込んだエルフ族の慰安旅行として企画するのはいかがでしょうか? 闇派閥(イヴィルス)の討伐とオラリオの平和を記念してという事でしたら、リヴェリア様にもお越しいただけると思われますが」

 

 リオンが面白そうなことを提案してくれた。

 

「なるほど……リヴェリア様へのサプライズとして慰安旅行を企画するということを隠れ蓑にして、その中に本来の目的の贈呈式を潜ませるという事ですね? 悪くないと思います。では、それを土台に私の方で提案書を作成します。会議は、やはりオラリオのどこかで行いましょう」

 

 アリシアさんは、いきなり早口でまくし立てるように、一応この場の結論を出してくれた。

 横目でチラリとリオンを見てみるが、当の彼女は『別にそんなつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ』というような表情で目をそらしていた。

 

 

 まあ、ともあれ、会議はメレンではなくてオラリオで、会議の資料はアリシアさんが作成して、場所の選定はリオンが行う。会議の司会者はリオンで、進行補佐や情報のまとめ役にエルティナ。議長はなぜか私がやることになった。なんでや?

 

 といっても、会議場の首座でニコニコしながら座って眺めているだけでいいらしいから、実質マスコット役だね。膝に猫でも置いて撫でていれば、みんな和んでくれるだろう。

 

 以上の内容を三人で確認し、それぞれのパピルスに記載して、間違いないことを確認しこの場は解散となった。

 次のフェーズは1週間後。時間がありそうで無い期間だけど、熱した気鋭が冷めないためには早いことが肝要だ。私は座ってニコニコしているだけの仕事だけど、気を引き締めよう。

 

 とりあえず、最近絹糸(けんし)の館の庭で昼寝をしている野良猫と仲良くなるところからだね。

 

 

 







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