ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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短編その3です。






掌編:タマノオヤ
やっと本業復帰だよ……


 

 エルフ達の騒動に巻き込まれてから、いろいろ関わっているうちに、アミッドさんの治療院を無事退院した秋葉さんは、絹糸(けんし)の館で、ワカヒルメ様の指示を仰ぎながら機織りの準備や素材の調達といった雑務に奔走し、新たな眷属の一員としての役割を全うしていた。

 

 傍らでエルティナは、ファミリアの財政を一手に引き受けて、今後さらなる発展をもくろんだ事業計画を様々に提案してはワカヒルメ様と話し合いを重ねているようだ。私もたまに参加するけど、会話が高度すぎてついて行けないので、ただの置物(マスコット)に成り下がっている。情けないね。

 

 少なくとも、ワカヒルメ様が機織り機の機械化を嫌がっていると言うことだけは分かった。大量生産品は機械で自動化して、神業級の製品はワカヒルメ様がお手ずからに織り上げることでよりプレミアムをつければいいんじゃないなと思うけどね。ワカヒルメ様はそれでも職人を育てたいとのことだったので、機械化はもっともっと先の話になりそうだ。

 

 しかし、エルティナはファミリアの事業に加えて、ガネーシャファミリアやヘファイストスファミリアのエルフから極秘の仕事も請け負い、それに付随する新型の回路(サーキット)の開発をしていて、さらにはすでに受注している分の時計の生産までやらないといけないのだから大変だね。いや、本当に何とかしないとダメなんだけどさ。

 

「ねえ、エルティナ。せめて、時計の事業だけでも外注できないかい? 流石にオーバーワークだよ」

 

 全員がそろうお夕飯の席で、魔石灯の柔らかな光に照らされたワカヒルメ様が、まだ処理されていない受注票とエルティナの横顔を交互に見やり、案じるように眉を下げて事業の切り出しを提案した。

 

「可能であるのなら、その方が良いと思います」

 

 エルティナは、食事の手をいったん止め、ワカヒルメ様の懸念を肯定するように短く頷いた。

 

「どこか当てはあるんですか?」

 

 私が尋ねるも、ワカヒルメ様は「うーん」と唸ったまま腕を組み、未だ見ぬ協力者の姿を追うように視線を彷徨わせるばかりであった。

 

「朝廷でしたら、心当たりがあったのですが……」

 

 まだ小食ではあるが、しっかりと食事を口に運んでいた秋葉さんが、ふと思い出したようにつぶやいた。

 

「ああ、いたね。装身具や金物細工が得意な男神で、突然置き手紙を残して失踪してしまった時は、斎服殿(いみはたどの)でもかなり話題になった記憶があるよ。なんて名前だったかなぁ……秋葉は覚えてる?」

 

「私が働いている頃には、おそらくもういらっしゃらなかったと思われます」

 

「そうか、もうそんな昔になるんだ。懐かしいね。今頃どうしているのかなぁ」

 

 ワカヒルメ様は天井を仰ぎ、かつて同じ国で腕を振るっていた同胞の行方を静かに案じているようだった。

 

「意外にオラリオに流れ着いていたりしないですかね」

 

「さすがにそんな都合のいいことはないさ。まあ、最近は知り合いの神も多くなってきたし、それとなく聞いてみることにするよ」

 

「私も、回路(サーキット)の納品時に話をしてみようと思います」

 

 エルティナも同調し、時計事業の外部委託というファミリアの統一見解が、現在の私達の統一見解となったわけだ。

 イシュタルファミリアとの抗争時に随分と助けて貰ったから名残惜しくはあるけどね。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 炉の熱気が肌を焼くスィデロさんの工房を訪ねた私は、作業台で火花を散らす彼の背中を眺めつつ、昨晩話題になっていた時計事業の外部化について切り出した。

 

「ということでして、スィデロさんの方でこの時計って量産できませんか? 今なら、安く製造ライセンスを譲渡できますよ?」

 

 スィデロさんは手にしていた槌を置き、側の水差しから水を飲みながらため息をついた。

 

「時計って、アレか? 姐さんの工房に置いてあるやつだろ。どんなもんかは知らねぇけど、アレは鍛冶師よりも細工師の領分だぜ」

 

「やっぱりそうなりますかね? それじゃ、どこか腕の確かな細工師のファミリアを紹介して貰えませんか?」

 

 私が問いかけると、スィデロさんは無造作に髭をなで、最も確実だが私にとっては少しばかり分が悪い提案を口にした。

 

「俺はそこまで顔は広くねぇよ。姐さんに聞いた方が確実だぜ」

 

 私は下層での椿さんの様子を思い出し、肩をすくめた。

 

「私、椿さんは苦手です。なんか、妙にくっ付いてくるんですよね」

 

 母親に憧れるのなら、自前で何とかしてほしいよまったく。

 

「それについては、気の毒だが手助けはできねぇな。……よし、こんなもんだろう。もう一回振ってみてくれるか?」

 

 スィデロさんから仕上がったばかりの短剣(ショートソード)……というよりは小太刀や脇差し見える片刃でソリのある剣を受け取った私は、工房の開けた空間で切っ先を鋭く走らせてみた。

 

「よし、いいみたいだな。それで完成だ」

 

「お代は交換券でいいですか?」

 

「いいぜ。むしろ、そっちの方が助かるぜ」

 

 私はワカヒルメ様に作っていただいたお財布から、【壱万ヴァリス交換券】を取り出すと、しっかりと二十枚数えて、スィデロさんに手渡した。

 

「ちなみにこれ、アミッドさんのお店でも使えるようにお願いしてますから、ヴァリスの代わりにそのまま支払うこともできますよ」

 

「おー、なるほどなぁ。ただヴァリスに換えるだけのもんじゃねぇって事か。面白い、いろいろ試してみるぜ……よし、ちょうど20万ヴァリスだな。数えるのも楽でいいなこれは」

 

 スィデロさんは、偽造防止の彫刻凹版が施された最高額の紙幣を指先撫でながら、そのしっかりとした感触確認すると、すぐに数え終えると、奥に置いてある簡易的な金庫に収めた。

 

 ちなみにこの小太刀は、巨剣を持ち運べない街中の護身用として発注したものだけど、しばらくはランクアップのズレを解消するためにダンジョンの上層を周回する用として使用することになるね。

 

 上層では巨剣はオーバースペックだし、簡単にモンスターを倒せてしまうので、お休みして貰っている。

 この武器は、形状的に”切る”、”刺す”に特化して、一般的な剣のように”叩く”用途では殆ど攻撃力を発揮しないから、正しい軌道で刃を走らせて、正確に身体を駆使する必要がある。つまり、身体のズレを分かりやすく示してくれるので、調整にはもってこいと言うことだ。刀身も薄めだから、幼女ボディでも軽くて持ち運びがしやすいというのもある。まあ、子供が扱えるような簡単な武器ではないのだけど。

 

 さてと、早速試し切りついでにダンジョンに向かおうかな。

 

 最近地上でごちゃごちゃあったから、ダンジョンに潜るのもかなり久しぶりになってしまった。これじゃ、冒険者の名が廃るってもんだよね。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 腰のサイドポーチに詰め込まれた魔石が、歩くたびに重苦しい音を立てて太腿を叩き、私は小さく溜息を吐き出した。

 

 位階昇華(ランクアップ)直後の身体を馴染ませるべく、スィデロさんに新調してもらった護身用の小太刀で最上層の魔物を無心に散らしていたのだけどね。

 

 久しぶりのダンジョンで、新しい武器となると何も起こらないはずもなく、初心者かという具合に最上層の初期モンスターを狩りまくっていたらすぐに魔石で荷物がオーバーフローしたわけだ。

 

 アークスのアイテムパックに収納すればすむかというとそう単純な話しではない。

 

 アイテムパックに格納したところで魔石を換金するには一旦外に出す必要があるわけだ。いきなり出現させると驚かせるので、鞄などに移してから提出することになる。これなら最初からアイテムパックに収納する意味が無いなということなのだ。

 

 確かに道中は魔石で荷物がかさばらない利点はあるが、帰路でいきなり鞄が魔石でいっぱいになると周りの人達に不信感を抱かせてしまわないかということも懸念された。

 後は、サポーターが大きめのリュックを持っていないことも不自然だということもある。

 

 だから、無駄と分かっていても普段はエルティナに大きなリュックを背負って貰っているわけだね。

 

「身体の調整がメインだから、あんまり大きいのを背負いたくないんだよね」

 

 そもそもランクアップのズレを解消するためなのだから、身体の動きを阻害する荷物を背負うのは本末転倒ということもある。

 独りごちつつも、魔石の回収は義務だからこれ以上の討伐は断念せざるを得ない。

 

 私は一旦地上へ戻るべくHUDのナビに従ってダンジョンの上階への道を辿り始めた。

 

 道中、10匹近いゴブリンが初々しい新米パーティーに襲いかかっていたので、行き掛けの駄賃とばかりに横っ面をひっぱたくみたいに強襲して救助を果たした。

 

 最上階でモンスターパーティーっぽいのが起こるのも珍しいね。10階層以下だとしょっちゅうだけどさ。だけど、ダンジョンは時々例外的な事が起こるのも常に意識しておく必要があるから、今回はいい勉強になっただろう。

 

 助けられた驚きと当惑に目を見開く彼らへ「頑張れ若人」と心の中でエールを送りつつ、私は軽く手を振りつつ足早にその場を後にしたのである。魔石回収が面倒だったから逃げたのでは決してない。

 

 一応、ダンジョンではモンスターの横殴りは禁止されているけど、明らかにピンチだったからいいよね?

 

 少年少女のパーティーだったけど、女の子の方は大きめのリュックを背負っていたから、サポーターというやつなのかな? 私も雇わないと駄目かなぁ。日当5000ヴァリスじゃ安いかなぁ。

 

 そんな事を思いながらバベルの下階に出る階段を上り終え、深呼吸して地上の空気を思い切り吸い込んでリラックすると、その足でギルドの換金所に向かって魔石を換金すると受付に立ち寄って帰還の報告をした。なんとなく今日はこれで終わりでいいかな。本格的なのは明日にしよう。

 

 この後は、市場に寄ってお夕飯の食材を買って帰るか。いい白身のお魚があったらアクアパッツァとかいいかもね。煮汁をパスタに絡めて食べるのがまた美味しいんだわこれが。

 

 

 

 

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