ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

207 / 207
やっぱり共闘は冒険者の華だよ

 

 バベルの影が石畳を長く引き、朝の喧騒が引き潮のように去った午前七時過ぎのギルド本部にて、私は所在なげに周囲を伺う二人組の姿を見つけると、少し急ぎ足でそれに歩み寄った。

 

「あ、いたいた。おはよう、二人とも。今日はよろしくね!」

 

 昨日は初対面だったから終始敬語で話していたが、せっかく一緒に潜る仲間なんだから、思い切ってタメ語で話しかけてみた。

 

「おはよう、ベルディナ。今日はよろしく頼む」

 

「よろしくね」

 

 二人は緊張に肩を強張らせながら周りを見回していたが、私の姿を見つけると安心したように真っ直と瞳を向けてきた。この様子なら、昨日のうちに時計の読み方は完璧に理解できたようだね。

 

「それじゃ、早速行こうか。私は戦闘に集中するから、メイヤさんは魔石の回収で、ジョンさんはメイヤさんの護衛をお願い。今日は初日だから速度は控えめに行こう。いいかな?」

 

 私が手早く役割を伝えると、二人は無意識に腰の得物へ手を添えて覚悟を決る様子を見せた。昨日死ぬ思いをしたであろう恐怖をなんとか克服しようと努めているのだろう。

 

「あ、そうだ。二人ともちゃんとポーションは持ってるよね?」

 

「うん、一本ずつだけどね」

 

 メイヤさんは腰の物入れからポーションのアンプルを見せてくれた。下級のポーションみたいだけど綺麗に澄んでいるから品質は良さそうだ。

 

 なんか、見覚えあるな。たぶん、ミアハ様が善意で配ってるやつだなあれは。

 

「いいね。じゃあ、予備としてこれを一本ずつ渡しておくよ。使わなかったら返してくれればいいし、最上層といえども何が起こるか分からないのがダンジョンだからね」

 

 私はアイテムパックの隅で死蔵されていた中級ポーションを二本取り出すと、目を丸くするジョンさんの手のひらに強引に握らせた。

 

「悪いな……」

 

 ジョンさんはそう言って、私から受け取った二本の瓶を丁寧に受け取ると、それを隣で所在なげに待つメイヤさんへと手渡した。雇い主として従事者の安全を気遣う義務があるだろうから、大人しく受け取って貰えて一安心だ。エルティナがいないから、そのあたりはもっとシビアにしないといけないところだね。

 

「ちなみに、メイヤさんは回復の魔法とか使えたりする?」

 

 私の問いかけに、メイヤさんは少しだけ視線を泳がせながら「えーっと……使えない。ごめん」と、申し訳なさそうに細い肩をすくめて見せた。

 

「謝らなくてもいいよ。回復魔法は希少だからね。じゃ、なおさらジョンさんがメイヤさんを守ってあげてね。それじゃ、行くよ」

 

 片手剣(ロングソード)を携え軽装の革鎧に身を包んだジョンさんと、荷物持ちに専念するメイヤさん。本来冒険者の神の恩恵(ファルナ)の詳細は秘密にされるべき情報だから、詳しく聞こうとするのはマナー違反も甚だしいからね。わりとオープンにしてしまう私達の方が異質なのだ。

 

 ともかく私としては魔石の回収をしてくれて、最低限自分たちの身を守ってくれていればなにも言うことはない。もちろん、メイヤさんの無事を確保した上ならジョンさんも自由に戦ってくれていい。

 

 私には二人の生体反応と周囲の状況を常に把握できるフォトンレーダーとエネミーセンサーがあるから、危なくなったらすぐに介入することも簡単にできるだろう。

 

「気を抜かず、かつ緊張しすぎず、落ち着いていこう」

 

 受付で案じるような視線を送るエイナさんに短く片手を挙げて応えると、そのまま足早にダンジョンに向かった。ピークを過ぎ去ったギルドの受付は午前の休憩に入る職員もいて少し閑散としているようだった。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

「ちなみに、二人は何階層まで降りたことがあるの?」

 

 前回は手始めだったので第一階層でのんびりしていたから、今日あたりは5階層まで潜ってじっくりとオーバーホールしようかと思っていたところだ。

 

 エイナさんやランクアップした先輩方曰く、感覚のズレというのは自分が思う以上にリスクを背負っている状態らしいので、馴染むまでは慎重すぎるぐらいがちょうどいいと口を酸っぱく言われているから、修正期間は上層の12階層までで済ませようと思っている。

 

「まだ4階層までね……一度だけ5階層に降りてみたことがあるけど、フロッグ・シューターの大群に囲まれて、本当に命からがら逃げ出してきたのよ」

 

 メイヤさんは当時の恐怖を思い出したのか薄い肩を震わせ、隣を歩くジョンさんも苦い記憶を噛み締めるように唇を真一文字に結んでいた。

 なるほどね。初心者の域を脱しようとしているところか。その様子だと、基礎アビリティにもいくつかHの項目が出始めているところかもしれない。

 

 私は10階層までは通過点にもならなかったから分からないけど、こうして冒険者は一歩一歩冒険を刻んでいくということだろう。

 

「うーん。もしかして、昨日のあれはその帰り道だったりする?」

 

 私が首を傾げて尋ねれば、ジョンさんは気まずそうに視線を落として「恥ずかしながら、その通りだ」と言いつつ腰のロングソードの鞘をぎゅっと握りしめた。

 

「全然恥ずかしくないよ。冒険者として上に行くためにはまず生き残らないと駄目だからね。それじゃ、今日は4階層をメインにしようか。第5階層は様子を見てって事で」

 

 私はかつてオラクル船団で行ったきり戻ってこなかった同期を脳裏に浮かべ、冷静に撤退の決断を下したことに賞賛を送った。

 

 

 そう言って第一階層を抜けて第二階層に到達する。最近はRTAよろしく18階層までは全力で駆け抜けるのが大抵だったから、改めてゆっくりと上層を下っていくのは逆に新鮮に感じるところだ。

 

 そうして、背後にメイヤさん、最後尾にジョンさんを配した縦一列の陣形で洞窟を歩くと、当然ながら壁にヒビが走ってお馴染みのゴブリンが数体首をひょっこりと出してこちらを睨み付けてきた。

 

 瞳に知性が宿っていないから、リザさんの同胞ではなさそうだね。リザさん曰く、知性のあるモンスターは何の前触れもなく突然産まれるらしいが、産まれたときはなんとなくその感じが分かると言うらしい。不思議だね。

 

 ひょっとして、リザさんがお仲間となかなか合流できなかったのって、リザさんが別のところからやってきたから、産まれたことを察知できなかったからって事かな?

 

「ゴブリンだ!」

 

 ジョンさんの鋭い警告に目を向けると、そこにも一体のゴブリンが同時に躍り出ているようだった。私の目の前には三体で、幸いなことにメイヤさんの側には出現していないようだ。

 

「メイヤさんはできる限り動かないで。それと、倒したモンスターから順番に魔石を回収をお願いね」

 

 私は短く指示を飛ばすと、腰の小太刀を素早く引き抜き、襲いくるゴブリンの棍棒を攻守一体(ガードポイント)に頼らず丁寧に見切りつつ、意識上の軌道と実際の手足の挙動をすり合わせるように懐へと滑り込みながら、独楽のような鋭い回転撃でその腕を切り飛ばした。

 

 だけど、脳裏に思い描いていた切断線から、わずかに2mmほど切っ先が逸れた感覚が掌を伝い、私はその違和感に小さく眉をひそめた。

 

「うーん。2㎜ぐらいズレてるか……」

 

 これがもし巨剣であれば、切っ先では1cm以上のズレが生じていただろうから、結構深刻だね。

 

 それでも、昨日の動きに比べれば体感で0.1mm程度の修正はされているようにも思えるから修正効果は確実に出ていると考えてもいいだろう。 腕を断たれたゴブリンがうるさい絶叫を上げながら後退すると、それに応じるように残る二匹が私へと肉薄してきたが、私が身を引けば中央に控えるメイヤさんが標的になると判断した私は、あえて二体の間に割って入るように鋭く踏み込んだ。

 

 

 着地した右足を軸に鋭く旋回を繰り出し、小太刀の刃でその胴体へと一気に浅からぬ裂傷を刻み込んだ。

 

「着地位置も1cmズレたな。パワー調整にもズレがあるわけか……」

 

 不満を独りごちながらも、視線だけ後方に走らせて二人の様子を確認すると、メイヤさんを背中で庇いながらゴブリンと刃を交えていたジョンさんは、幾度かの火花を散らした末に敵の首を一刀のもとに断ち切る実直な剣筋を見せていた。

 

「ジョンさん! お願い!」

 

 その確かな立ち回りに安堵した私は、振り向くジョンさんの剣の延長に立つゴブリンの背を蹴り飛ばしてそちらに向かわせて、その反動を利用して残る一体の頭部に刃を通し、さらには敗走しようとした最後の一体へ小太刀を投げつけて、その命を刈り取ってやった。

 

 ジョンさんは私が送り込んだゴブリンを迷うことなく迎え撃ち、すでに刻まれていた裂傷をなぞるような一撃で見事にトドメを刺すと、短い交戦は終焉を告げた。

 

「魔石お願いね」

 

 私は短く言葉を残すと、投げ放った小太刀を回収するついでに、横たわる亡骸へ手を沈め、小さい魔石を一つ摘出してそれを灰に戻してやった。

 

「これもお願い」

 

「うん、ありがとう」

 

 手際よく回収作業を進めていたメイヤさんの手元へ、今しがた取り出したばかりの魔石をそっと滑らせ、刀身付着した汚れを拭ってから、鞘へと納めた。

 

「ジョンさんは怪我はない?」

 

「ああ、問題ない」

 

 私の問いかけに、ジョンさんは荒い息を整えながら力強く頷き、自分の武器の調子を確かめるように軽く振ってから鞘に収める。

 見た感じ、結構業物に見えるけど、どこで手に入れたんだろうね? 手に馴染んでいる様子だから、長い間相棒として側にいたとは思うけど。

 

「回収終わったわよ」

 

「さすが早いね。それじゃ、移動しようか」

 

 メイヤさんの軽快な報告に満足げに応じ、私たちは次なる階層を目指して歩き始めたが、初めて本格的に連携を組んだ戦いは、呼吸を合わせるという点において期待以上の成功を収めたと言っていいだろう。

 

「だけど、ベルディナの戦い方、まるで舞を舞ってるみたいで綺麗だったね」

 

 暗い洞窟の先に第3階層への下り口が見え始めた頃、メイヤさんがふと思い出したように呟いた。

 

「そうかな? 私は身体が小さいからああやって遠心力を稼がないとなかなか強打にならないだけなんだけどね」

 

 ある程度は冒険者のアビリティやフォトンの身体強化に頼ってはいるが、なにぶん小柄で体重も軽い私は、物理的な遠心力や虚空跳躍(ネクストジャンプ)による瞬発的な速度を乗せなければ、硬いモンスターに致命傷を与えることが難しいんだよね。37階層の骸骨兵士に対しても、それなりの距離を加速しないと殲滅に至らなかったし。

 

 だからこそ、イシュタルファミリアとの戦争遊戯(ウォーゲーム)でフリュネさんと戦った時も、今後の抑止力も兼ねて高度3万メートルからの自由落下という無茶をせざるを得なかったのだからね。

 

 おそらく、都市最強の戦士と謳われるオッタルさんあたりなら、外部の力に頼らなくても、自前の膂力だけで、その程度の事はできるだろうね。知らんけど。

 

 ともかく、面と向かって綺麗だと言われて悪い気はしない。私はわずかに頬を染め、ピンクのツインテールをご機嫌に揺らしながら、薄暗い迷宮の先を見据えて歩みを早めた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ(作者:ポップ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

ドラクエ3で勇者一行の一員だった女賢者さんが、大魔王ゾーマを倒した後に遊び人になって、お酒を飲んでいたらダンまち世界に転移してきた話。


総合評価:4699/評価:7.99/連載:53話/更新日時:2026年06月26日(金) 19:10 小説情報

【完結&3章リメイク中】VRMMOで【食屍姫】になった無職だけど、現代ダンジョンでも化け物扱いされ始めて嬉しいです!   (作者:ちんこ良い肉)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「働かずに食う飯は美味いか?」「めちゃくちゃ美味いに決まってるわよね?」▼親の小言に白米を頬張りながら満面の笑みでそう返してしまった玉織紬(たまおりつむぎ)は鉄拳制裁と共に毎食をもやしに変えられた。▼大学を中退し、実家で生もやしを主食に生きる無職の玉織紬は、日雇いバイトすらまともにこなせない社会不適合者だった。▼だが、胡散臭いVRMMO【エリュシオン・オンラ…


総合評価:4118/評価:8.51/完結:84話/更新日時:2026年06月09日(火) 23:32 小説情報

(仮)購買意欲が勝った転生者(作者:Celtmyth)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 死んで、転生する事になった彼が望んだ能力は戦うものではなかった。


総合評価:3916/評価:8.08/連載:12話/更新日時:2026年06月28日(日) 18:00 小説情報

オラリオで娯楽革命を(作者:寝心地)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

オラリオでテレビゲームとか携帯ゲームとかカードゲームとか作って売っちゃう話。▼ダンまちにゲームキャラが転生とかゲームキャラで転生とかはあるけどゲームその物がオラリオにあるのって見ないなぁ〜と思って作りました。▼


総合評価:3102/評価:7.46/連載:110話/更新日時:2026年07月09日(木) 10:00 小説情報

英雄になれない元勇者(作者:ダンまち=スキー)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

異世界に召喚されて邪神を討ち滅ぼした勇者。▼しかしそんな彼を待ち受けていたのは元の世界に帰れないという最悪の結末。家族にも友人にも会えず絶望していた彼に対し、それを哀れんだ女神が提案したのは、本来なら存在したナニカが失われた不完全な世界への転生。▼主人公(ベル・クラネル)の存在しない世界で主人公(ベル・クラネル)と同じ容姿を与えられた元勇者は、英雄を目指し迷…


総合評価:6131/評価:8.16/連載:26話/更新日時:2026年06月01日(月) 09:10 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>