ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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ダンジョンでのご飯は格別かな

 

「うーん。そろそろお昼かな。ねえ、メイヤさん。今何時か分かる?」

 

 第四階層に降りて、大きな広間でゴブリン5体にコボルト3体とダンジョンリザード1体の団体さんとやり合って一段落したところでメイヤさんに声を投げた。

 

「え? 時間? あ、そうか……ちょっと待って。えーっとこれは、11時50分ぐらいかな?」

 

 私の問いかけを受けたメイヤさんは、慌てた手付きで懐から時計を取り出すと、子供用の小さな文字盤に目を凝らし、少し自信なさげに時刻を告げてくれた。

 

 うん、HUDの数値とほぼ同じだね。

 

「ありがとう。じゃあ、この辺でお昼ご飯にしようか。私、サンドイッチ作ってきたから一緒に食べよう」

 

 私は小さなリュックから広めのレジャーシートを取り出して床に敷いて、三段になったお重を取り出して、それぞれの段を二人の側に置いた。

 

「美味しそう……」

 

 ハムやチーズ、レタスにトマト、スクランブルエッグなどなど、色とりどりの具材に詰め込まれたお重にメイヤさんは目を奪われ、ふらふらとレジャーシートへと登ってきた。

 

「こんなところで、大丈夫なのか?」

 

 一方でジョンさんは、抜いたままの剣を握りしめて周囲の暗がりに鋭い眼光を走らせ、新米らしい慎重さのまま問いかけてくる。

 

「さっきかなりの数をやったから、次産まではそれなりに余裕があるはず。心配なら、壁を少し削ってみるといいよ」

 

「そういうものなのか?」

 

「そうだね。多少の損傷ならダンジョンはそっちの修復を優先して、モンスターを湧きにくくさせるみたいだから。少し休憩したい場合は参考にしてみて」

 

「なるほど。ためになるな……」

 

 ジョンさんはそう言うと早速近くの壁を剣の切っ先でわずかに削り、「ふぅ……」とため息をついて剣を鞘に収めた。

 

「ねえ、ジョン。一緒に食べようよ」

 

 メイヤさんは待ちきれないという様子でジョンさんを手招きして、ジョンさんは「仕方ねーなー」という表情を浮かべてレジャーシートに腰を下ろした。

 

「それと、こっちは飲み物。あんまり冷たくないけど、酸っぱくて甘いから疲労回復にもいいよ」

 

 私はそう言ってお手製のレモネードを金属のコップに入れて二人に差し出した。

 

 今回は、レモンに氷砂糖と蜂蜜を混ぜて寝かせたレモンシロップに水を加えただけの物だけど、炭酸水や紅茶を混ぜても美味しいね。

 

「レモネードか。懐かしいな」

 

 ジョンさんはそうつぶやくとそれを豪快に飲み干して、サンドイッチをむしゃむしゃやり始めた。

 

「少し前までね、教会の前でよく売ってたんだよ」

 

 なるほど、洋画でたまに見る、子供が家の前でレモネードを売っているやつか。こっちにもそういう習慣があるんだね。私もやってみようかな(見た目幼女)。

 

「ゴーフルも一緒の時もあったな」

 

「へぇ、ゴーフルか。美味しそうだね」

 

 神戸ゴーフルとかは頂き物で食べたことがあるけど、そういうのとはちょっと違うんだろうな。

 

「今もまだやってるの?」

 

「ああ、チビ達が週末に集まってやってるよ」

 

 なるほど、二人は大きくなったからそこからは卒業したって感じだね。それにしても、二人して冒険者になるなんて思いきったよね。

 

 さて、お湯が沸いたから食後のお茶をいただこうか。

 

 私は冒険者御用達の小型コンロで沸かしたお湯にそのまま茶葉を入れて軽く振ってから、外付けのティープレスで茶葉を下に押さえ込んでからカップに注いで香りを確かめた。

 

「うん、いいね。はい、二人もカップを頂戴」

 

 若干レモネードの香りも残ってるけど、実質レモンティーになってよしとしよう。

 

「ありがとう」

 

「ダンジョンでお茶が飲めるなんて、ちょっと信じられないね」

 

 どんな状況でもお茶の時間は大切にしたいよね。私は、空になったお重を集めて重ねることでかさを減らし、金属のカップも持ち手を畳んで三つとも重ね合わせ一つにまとめて、コンロも折りたたんでスティック状にしてからケトルの中に納め、全部まとめてリュックに収納した。

 

「上手いこと収まるね」

 

 メイヤさんは感心したように私のリュックを眺めていた。

 

「厳選したからね。特にケトルに収まるコンロがなかなか見つからなかったんだよ」

 

 使い勝手を考えると、小さけりゃいいって訳でもないからね。

 

「さてと、そろそろ出発しようか。二人とも、荷物の確認は大丈夫?」

 

 私はレジャーシートを丁寧に折りたたむと二人に装備品の確認を示唆した。

 

「うん、問題ないと思う」

 

 メイヤさんはリュックの中身を軽く確認してから立ち上がって、「よいしょ」と勢いをつけてそれを背負い直した。

 

 私も腰の小太刀を抜いて、洞窟の明かりに刃面をかざし、刀身が曲がっていないか、刃が欠けてないかを軽くチェックして鞘に戻した。

 

 ジョンさんも自分のロングソードの状態を確認し、アーマーの接続を結び直して状態を整え、無言でうなずく。

 

「いいね、それじゃ出発しようか。午後も同じく4階層をメインに周回して。お夕飯までには地上に戻れるようにね。メイヤさんは時計係をお願い。大体5時を目処に切り上げよう」

 

「分かったわ」

 

 端から見ると、年上の男女二人に幼女がビシバシと指示を飛ばす、変な集団に見えるだろうね。

 

 その後は特に大きな事も無く、突発的にモンスターが何体も湧くことがあってもモンスターパーティと言えるほどの規模ではなく、通常通りの戦闘が続いた。途中で、天井からダンジョンリザードが振ってきてメイヤさんに飛びかかるという、ちょっとヒヤッとした場面もあったけど、私が上手いこと跳び蹴りでジョンさんに押しつけて、ジョンさんがそのままの勢いで剣を振り抜いて討伐し、事なきを得た。

 

「さてと……今日はそこまで多くはなかったね」

 

 私はなぜか4階層に上ってきていたウォーシャドウの爪をかいくぐってあえて懐に潜り込んで心臓あたりを小太刀で突き刺して絶命させ、周りをぐるりと見回して戦闘終了を確認した。

 

「今のは?」

 

 ウォーシャドウ以外を任せて、必死にメイヤさんを守っていたジョンさんがメイヤさんから手当を受けながらつぶやいた。

 

「今のはウォーシャドウって言ってね。本当ならもう少し下……第6階層ぐらいだったかな……そこに出る厄介なやつだね。【初心者殺し】って言われてるみたいだね」

 

 私は小太刀にこびりついた体液を布で拭うと、刀身の様子を確認してから鞘に収めた。

 スィデロさん曰く、階層主とやり合わないなら中層ぐらいは問題ないらしいから、特に心配はしていない。サイドアームとしてなら下層でもいける感じもあるね。

 

「下にはあんなのがいるのね……」

 

 メイヤさんは少し肩をふるわせているようだった。今回は私が担当して良い案山子(DPSチェッカーの意味)になって貰ったけど、二人にとっては洞窟の暗がりからいきなり出現したように見えたかもね。私の場合はミニマップに映ってたから奇襲にもならなかったけどさ。

 

「こういうのがいるって知ってるだけでも違うよ。おかげで、影の部分とか死角を気にするようになったでしょ?」

 

「確かに……」

 

 メイヤさんの手当を終えてジョンさんは立ち上がり、はだけていたアーマーの一部を元に戻した。新米にしては結構いい筋肉してるね、撫でたい。

 

「まあ、この階層なら複数に囲まれることもないと思うよ。私自身、この階層で見るのは初めてだからさ」

 

 といっても、私はこの階層を一日ぐらいで卒業してしまったから、そこまで詳しくもないんだけどね。一応、このことはインシデントとしてエイナさんに報告することにしようかな。

 

「それじゃ、魔石の回収をして出発しようか。メイヤさん、今は何時かな?」

 

「えっと……4時46分かな? そろそろ時間ね」

 

「分かった、それじゃ、上に行こうか。地上に戻る頃には予定の5時にはなってるかな」

 

 私は二人を促して魔石を全部回収し終えて、そのままの足で地上へと向かって道を戻った。

 

 地上に戻り、今日も何とか生きて戻ってこれたことに安心したのか、二人はあからさまに肩の力を抜いてその場にへたり込みそうになっていた。まあ、昨日の今日だから緊張してたんだろうね。

 

「お疲れ二人とも、それじゃ私は魔石の換金をしてくるからあっちのベンチで休んでていいよ。回収した魔石を渡して貰える?」

 

「うん。お願い」

 

 私はメイヤさんから大きなリュックをそのまま受け取って、駆足で換金用のカウンターへ向かった。帰還する冒険者のラッシュアワーにはもうちょっとだけ余裕があるから狙い時だよ。

 

「お疲れ様です、こちらお願いします」

 

「ああ、ここに全部出してくれ」

 

「分かりました」

 

 もう一年も繰り返しているやりとりだが、挨拶は大切だからね。

 

「新米と組んでるのか?」

 

 慣れた手つきで魔石を査定しているのを、踏み台に上ってジーと見つめると担当さんはそう聞いてきた。

 

「成り行きですね。エルティナがいないので助かってますよ」

 

「なるほどな……よし、終わった。持ってけ」

 

「ありがとうございました」

 

 私はペコリと頭を下げてカウンターにつまれたヴァリスを袋に詰めてカウンターを後にした。

 

「こういうのも交換券で貰えれば便利なんだけどね」

 

 今回は上層を一日だけ周回したので、そうたいした額にはならないんだけど、中層を1週間ほどかけて周回したときの支払は、ちょっとした重量挙げのレベルになるからね。

 

「お待たせ、こっちのテーブルに来て」

 

 私は、なんとなく呆然と天井を見上げている二人を手招きして、少し離れたところのテーブルに先ほどのヴァリスを乗せて中身を公開した。

 

「今日はゆっくりめだからね、全部で24,130ヴァリスだから、一旦私が半分の12,000ヴァリスもらって……残りを二人に渡すね」

 

 私は雇い主として少しだけ多めの割り前を貰い、残りの12,130ヴァリスが入った革袋を二人に差し出した。一人当たり6000ヴァリス程度だから、レベル1の一日の稼ぎとしては平均的と言えるだろう。

 

「え? こんなにいいの?」

 

「いいよ、まあ、私が一番貰うから心苦しいけどね」

 

 そして私は現金の12,000ヴァリスをポーチに入れるフリをしてアイテムパックに格納し、その代わりに5,000ヴァリス分の交換券を1枚取り出して二人の前に差し出した。

 

「それで、これが約束していた今日の日当の5,000ヴァリスだよ。この券を受付の人に見せたら同じ額のヴァリスと交換してもらえるからね」

 

 こうやってヴァリス交換券の布教も忘れないのが、抜け目のない幼女のたしなみというやつだ。

 

「え? でも、いま6,000貰ったし……」

 

「ん? それはパーティーとしての分け前だね。これは二人が私に雇われてくれたお礼の分だから大丈夫だよ。それじゃ、また明日! 今日と同じ7時にここにいてね!」

 

 いろいろごちゃごちゃ言われそうな空気を感じ取ったので、私はさっさと荷物を背負い直してバベルの出入り口へ駆足で向かった。

 

 初夏の強い西日に手をかざして私は意識を今日のお夕飯に切り替えて、いつもの市場へと足を向けた。明日は第5階層に挑戦してみようかな。ウォーシャドウを経験したから、多少は自信が付いたんじゃないかな。

 

 

 

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