ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

212 / 214
休日の使い方

 

 午後も5階層を中心に周回して、結局6階層はまた後日と言うことになった。今日の様子だと6階層もそれほど難しくはなさそうに見えるけど、まだ『初心者殺し』への警戒感が大きいみたいだね。

 

 それから何度か戦闘があったけど、目に見えてジョンさんの武器の切れ味が悪くなっていったからちょっと早めに切り上げることになった。

 

「俺の不手際だな」

 

 複雑そうな表情で自分の剣を見つめるジョンさんは、明らかに落ち込んでいたけど、初心者の段階で気がつくことができて良かったとも言える。これがもしも中層まで放置されていたらそれこそ取り返しが付かなかっただろうし。

 

「これから学んでいけばいいですよ。まだ若いんだから」

 

「ベルディナに言われちゃねぇ」

 

 メイヤさんは私の頭に手を置いて、軽く撫でてくるが甘く見られたものだ。あなたが子供扱いしている幼女にキャリーされているのは誰なのか、ちょっと分からせる必要があるかもしれないなと、私はちょっと邪悪な事を考えてしまう。まあ、やらないけどね。

 

「それじゃ、私は換金してくるから、そっちのソファで休憩しててね」

 

 ということで、いったんメイヤさんから魔石を含むドロップ品を預かって換金所へと小走りで向かった。

 まだ少し早い時間帯だったので、換金所は閑散としていて、担当者はのんきに新聞を読んでいたけど、私が子供用の踏み台に上って魔石を差し出すと、相変わらずぶっきらぼうに計算を始め、ムスッとした様子でヴァリスの入った袋と明細書をよこしてきた。

 

「ありがとうございました」

 

 相手は明らかに無礼だけど、それでもこちらが無礼になっていい理由にはならないからね。私は踏み台から飛び降りてちゃんと頭を下げてお礼を言ってから、休憩中の二人の元へと急いだ。

 

「お待たせ、今日はちょっと早めに切り上げたけど、階層を1つ刻んだおかげで昨日と殆ど同じぐらいの額だったよ」

 

 そう言って私は袋開いて中身を見せながら、明細書を二人に見えるように差し出した。

 

「25,000ヴァリスか、なかなかだったんだな」

 

 一般的な店でバイトをしたぐらいじゃこの日当は出てこないだろう。この辺はさすが冒険者ってところだ。

 

「じゃあ分配しようか。今回は私が17,000ヴァリス貰って、二人には残りの8,000ヴァリスと日当の5,000ヴァリスのトータルで13,000ヴァリスを渡すってことでどうかな?」

 

 これなら、私の収支が17,000-5,000の12,000ヴァリスで、ジョンさんとメイヤさんの額と合わせてトントンぐらいになるはずだ。

 たぶん、前回は私の取り分が少なすぎたから気兼ねしたんだろうから、私もちゃんと取り分を貰っているとアピールしておけば納得感が高いんじゃないかということだね。

 

「ねえ、ジョン。どうする?」

 

 メイヤさんはジョンさんにお伺いを立てるように上目遣いで見た。

 

「分かった、それで頼む」

 

「良かった。それじゃ、まずは分け前の8,000ヴァリスと、日当の5,000ヴァリスは交換券で払うね……。ちなみに、昨日の券はもう交換してみた?」

 

「えーっと、まだかな……。ちょっとやり方が分からなくて」

 

「うーん。そうだよね……それじゃ、明日行く鍛冶師さんには、その券で支払ができるように頼んであるから、試しに使ってみるといいよ」

 

「分かった」

 

 そして、明日の集合時間を打ち合わせするところで、私はまだ二人に試供品の時計を渡していなかった事を思いだして、慌ててポーチを探るフリをしてアイテムパックから2つの腕時計を取り出してテーブルに並べた。

 

「ごめん、忘れるところだった。これ、二人の時計ね。私のと比べると質が悪くて、良くて半年ぐらいしか使えないやつだけど、今後の事を考えると持っていて貰った方がいいなって思ったから」

 

 二人は驚くが、私の時計もいつまでも貸しておく訳にもいかないということを伝え、何とかお願いすることで受け取ってもらうことになった。これは宣伝目的の試供品だから、使い物にならなくなった後でも時計が必要なら、本式の品物をどうか購入くださいということで納得して貰った。

 

「それじゃ、明日は……9時ぐらいでいいかな。ここに集合ということでお願い。お昼は適当に屋台で食べよう。お夕飯までには帰れるようにね。それじゃ、よろしく!」

 

 最後に腕時計のゼンマイを巻いてもらって、三人で時刻合わせをして解散となった。

 新しい物はどんどん普及していって、若い人も手軽に時計を所有できる日が来るのが楽しみになる一時だった。

 

 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

 昨日のお夕飯は秋葉さんが腕を振るってくれて、どこか懐かしい極東風のお料理に舌鼓を打たせて貰った。本当にお米が流通していないことが悔やまれるね。パエリアとかに適した細長くてパラパラのお米とかはあるんだけど、あれでは和の心は満たされないのだ。

 

「うーん。いっそのこと、パエリアもレパートリーに含めるべきですかねぇ」

 

 私は食後のお茶を楽しみながらそうつぶやいた。幸いなことに、港町メレンとの交流が深いオラリオでは割と産地直送の新鮮な魚介類が出回っているので、パエリアの素材には事か聞くことはなさそうだ。ただし、ホタテはなしでね。私、苦手なので。ムール貝やアサリとかは大歓迎。

 

「それって、お米をトマトとか貝類で煮込むやつでしょ? 本当に美味しいの?」

 

「そうですねぇ。貝以外にも海老とかイカとかも一緒に煮込みますね。海の幸のうま味がね、ギュッと凝縮されてとても美味しいんですよ。サフランとかいろんな香草も入れるので、香りも最高ですし」

 

「うーん。聞くだけで胸焼けがしてきそうなんだけどね。やっぱり、お米はふっくら炊き上げて、そのままおかずと一緒にいただくのが至高だと思うよ」

 

 ワカヒルメ様の熱弁に秋葉さんも一生懸命うなずいている。

 

「それに関しては100%同意しますけど、こっちのお米は普通に炊くと臭みとか食感が気になってあんまり美味しくならないんですよね。食材ごとに適材適所とは言わないですけど、最適な調理法があるんですよ」

 

「そういうものか……うーん、そこまで言うのなら、一度食べてみてもいいかもしれないな」

 

「と言っても私もちゃんと作ったことはないので、勉強しておきます」

 

「私にも教えてくださいね」

 

 秋葉さんはとても勉強熱心だ。今日のお料理も大変美味しかった。

 

「マスターは、明日は休暇の予定でしょうか?」

 

 話題が一段落したところでエルティナが私の予定を聞いてきた。

 

「そうだね。スィデロさんのところに小太刀のメンテをお願いするのと、ジョンさんの剣も一度研ぎ直して貰う必要ができたから、それも一緒かな」

 

「承知いたしました。同行の必要はありますか?」

 

「エルティナが必要なほどでもないかな。ありがとう」

 

「休暇か……そういえば、二人もずっと働きづめだったから、明日ぐらいはお休みして貰おうかな」

 

 ワカヒルメ様は秋葉さんとエルティナに目を向けてそうつぶやいた。秋葉さんもそろそろ緊張の糸が切れて疲れがドッと出てくる頃合いだろうから、ちょうどいいかもね。あんまり根を詰めると今度は風邪をひいてしまうかもしれないし。

 

「私は……働けます」

 

 秋葉さんはそう言うが、ワカヒルメ様は「ダメ」と一蹴して明日のワカヒルメファミリアは全面的にお休みをいただくことになった。もちろんエルティナもだ。明日は一日かけてゆっくりとシステムとハードウェアのメンテをしてほしいところだね。

 

「ワカヒルメ様は何かお休みのあてはありますか?」

 

 私は、ワカヒルメ様がお休みの間何をしているのかを聞いてみた。

 

「そうだねぇ。朝はゆっくりと寝させて貰うとして……エルティナに囲碁に付き合って貰うのもいいかな。久しぶりに和歌を詠むのもありだね」

 

 なるほど、ワカヒルメ様は囲碁もたしなまれるのだね。私も前世でとあるマンガの影響でちょろっとやってみた事があったけど、さっぱり強くなれなかったから2,3年でやめてしまった記憶がある。

 

 こんな私じゃ、エルティナには天地がひっくり返っても勝つことはできないだろう。マスター権限で「負けて?」とお願い(命令)するぐらいしか勝ち目はない。

 

「あ、では、私にも指導碁をお願いしてもよろしいですか?」

 

 秋葉さんも小さくエルティナに手を合わせる。

 

「私の方に問題はございません。いつでもお呼びください」

 

「そろそろエルティナの連勝記録にも終止符を打たないとね、斎服殿(いみはたどの)棋神(きし)の名が廃るってものだよ」

 

 そんな称号初めて聞いたけどね。そもそも、人間がボードゲームでAIに勝つのは難しいだろうけど、神様ならワンチャンあるかもしれないから是非とも頑張っていただきたいものだ。

 

 しかし、ワカヒルメファミリアにはにわかにボードゲームの流行が来ているようだね。流行に乗れていない私としてはさみしい限りだ。

 

 四人でできるゲームと言えば、トランプとか麻雀とかか。一時期麻雀のwebゲーム(ポンにゃ)がはやったときに少しやったことがあるけど、自分で役を数えるのは無理そうな気がするなぁ。あと、あたり牌を把握するのも、ゲームのシステムが無いとできなさそうな気がする。

 

 運要素で決まって、わいわいやれるタイプのボードゲームと言えば、人生ゲームとかモノポリーとかかな? オラリオ風の人生ゲームとか考えるのも面白そうではあるな。まあ、エルティナぐらいの高性能AIだと、ルーレットの目も調整できそうな気もしないでもないけどさ。

 

 オラリオではなかなか娯楽を見つけるのが難しそうだから、そういうのにも今後は積極的にチャレンジしていく必要があるかもしれないね。

 

 







ちなみに作者は、学生の頃プラスチックの麻雀セットを手積みして遊んでいました。
役は数えられても符の計算まではできなかった思い出があります。

※燕返しの練習はだれでも一度はやると思う





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。