ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
地底人か?
真っ黒な空間が広がってすべてを包み込んで消えた。
「助かった?」
手をつなぐリザさんもエルティナも、ぽかんとした様子で周りを見回すばかりだった。
「ゴライアスの遺骸が消えています」
「こやつの最後の抵抗だったのかも知れぬな」
「ラストアタックとか、さすがは階層主だね。おかげでフォトンが空っぽだよ」
私は身体強化に使っているフォトンすら枯渇して、その場にへたり込んだ。歩く程度のフォトンは数秒で回復するが、戦闘できるだけのフォトンが戻ってくるまでは1時間以上はかかるだろう。ぶっちゃけどこかで横になりたいが、いつまでもここにとどまるわけにはいかないだろう。
「ゴライアスの魔石、もったいなかったね」
「マスターが無事で良かったです」
「私が運ぼう」
と、リザさんが力が抜けた私を抱き上げて18階層への入り口に向かってくれる。
「傾斜になっています。私が先に向かいます」
「大丈夫? エルティナ」
「無茶はしません」
エルティナはそう言って滑り台のようになっている18階層への入り口(出口?)を滑り降りていく。
『安全のようです。こちらへどうぞ』
数分もたたないうちにエルティナからの通信で安全が確保されたようだ。
『承知した』
「では、行くぞ」
「はーい。お願いしますね」
私は、リザさんの身体を改めてつかみ直し、落ちないように注意する。真っ暗なトンネルの中、まっすぐ滑り降りていく風の流れが、戦いの熱を冷ましてくれているようで心地よい。そして、それに浸るほどの時間ももらえず、ドシリと固い地面につく感触がした。
「残念、もうちょっと楽しみたかった」
私はそう言うと、リザさんの腕の中からぴょんと飛び降りて、軽く身体をほぐすように屈伸運動をした。普通に動く程度にはフォトンも回復し、疲労感もだいぶ抜けてきたようだ。
「戦闘はまだまだ無理っぽいですけどね。コレばかりは仕方ない」
なにぶん私は、身体が小さすぎる分、筋力や体力が少なすぎるため、身体強化に使うためのフォトンの割合が普通のアークスよりも圧倒的に多い。フォトンを使い切ってから戦闘可能になるまでの時間が普通のアークスよりも長くなってしまうのは仕方が無いことなのだ。まあ、その代わり全体的なフォトン量は、ぎりぎりキャスト化しなくて済んだぐらいはあるらしいけどね。
「無理はするな。しかし、ここはなんだ……」
「いやぁ、アンダーリゾートってこういうことだったんですね」
私は、心地よく茂る下草に腰を下ろして足を伸ばし、大の字で寝転んで天井を見上げた。
「あれは、水晶ですか? 奇麗ですね」
天井にはどういうわけかとがった水晶が無数に生えていて、それが光を放っているようで、まるで昼のように明るい。遠くからは水の流れる音までして、木々すらも生い茂る、まるで、本来あるべき地上の風景をそのまま地下に再現して保存したような様相だ。
リザさんにとってはまるで理解できない原風景であるはずだ。地上の現在の状況を思えば、そこもかつてはここのような風景が広がっていたはずだと言われて誰が納得するだろうか。
「さてと、エルティナはどこ行ったのかな?」
『少し周辺を偵察しております。マスター達は入り口付近でお待ちください』
と、タイミング良くエルティナから通信があり、それなら戻るまでゆっくりさせて貰おうと言うことになった。
「今日はここでキャンプですかね。これだけ自然豊かだったら、きっといろいろなものが採取できますよ」
なんだか、妙にくつろいでしまった。
『マスター、少しこちらに来ていただけますか。見ていただきたいものが』
『ん? なにか、おもしろいものでも見つけた?』
『それは、はかりかねます』
『ふーん、分かった。行くよ』
「リザさんもいいですか?」
「問題ない」
リザさんも通信は当然聞いていたようで、周りを警戒していたのを解いて私を立ち上げようと手を差し出してきた。
「あ、体力はもうだいぶ戻ってるので大丈夫ですよ」
100mを7秒ぐらいで走れる程度まではフォトン出力が戻ったので、敵から逃げるぐらいなら余裕だろう。
「さてさて、エルティナが何を見つけたのか、楽しみですねぇ」
テンションがおかしいことは自覚している。何かが起こっている焦りを二人に悟られないようにというか、なにか別の意識が私の中で走っていたのは確かだ。今ぐらい、意気揚々、陽気に行ってもいいじゃないか。この後は絶対にろくでもないことが起こる(すでに起こっている)に決まってるんだからさ。
『騒がず、静かに来ていただけますか?』
『あ、はい』
エルティナに注意されたので、今後の会話は全部通信機で行おう。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
『エルティナ、いる?』
ちょっと背の高い草の生い茂る藪を、できる限り静かにかき分けて、エルティナの反応のある場所に歩いて行く。私は背が低いので大丈夫だが、リザさんみたいな偉丈夫だと、結構腰を折らないと身体が外から丸見えになってしまいそうだ。
『合図します』
と、前方の茂みが若干揺れたので、おそらくそこだろう。
『リザさんは、エルティナを踏んづけないように注意してくださいね』
『承知している』
ようやくエルティナと合流できて一安心だが、ここまでエルティナがわざわざ私達を呼び出したのは相応の理由があると言うことだろう。
『ゆっくりと茂みから顔を出してください』
エルティナに言われるように私はリザさんと一緒に顔だけ茂みからにょきっと外に出す。外からみたら、めっちゃシュールだろうなぁと思いつつ。
『うーん。向こうの方に何か、ごちゃごちゃしたのがあるね。遺跡?』
『私も、最初はそう思いましたが、拡大してみてください』
『ほいほい、一部を切り取ってズイーッとズームして……ありゃ、誰かいるねこれは。人かな?』
『少なくともモンスターのたぐいではないな。私に戦うすべを教えた者によく似ている』
『リザさん、目良すぎ、スゲェ』
トカゲってこんなに目がよかったっけ?(知らん)
しかし、地上には影も形もなかった人型の生体が、こんな地下深くに存在しているのはちょっと異常だ。地底人とでもいうのか、それとも、汚染された地上から逃れた一部の人類がダンジョンの安全地帯で長年生存しし続けているのか。
『地底人の方がロマンがあっていいね』
『なるほど、地底に住む人であるなら、地底人とよぶか』
リザさんは妙なところで納得してしまい、訂正のタイミングを逃してしまった。
『どうする? 接触してみる?』
『そうするべきと思いますが、問題はリザ様です』
『ん? リザさんがどうしたの?』
『人にとって私達は不倶戴天の敵だったということだろう?』
リザさんはどうやら、知っているようだ。例の戦うすべを教えた人に聞いたのだろう。
『じゃあ、どうする? いったん私とエルティナだけで聞き込みする? 大丈夫そうならリザさんを呼ぶみたいな感じで』
『それがよいだろう。私はそれまでこの周辺の偵察を行っておこう』
『安全地帯と言っても、モンスターの反応は多数確認できますので、油断はなさいませんように』
『あ、モンスター、いるんだ?』
そういえば、周辺の森などで敵性モンスターを現す光点がちらほらあった。
『では、行きましょう』
『まってよ、置いてかないで』
なんか、エルティナに呆れられた気がする。仕方ないじゃん、まだフォトンが完全に回復してないんだからさ。っていうか、今戦闘になったら、私戦えんぞ?
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
「ふぅ……歩くのに疲れるなんて、何年ぶりかねこれは?」
距離にするとなかなか遠くて、集落らしき場所の入り口に到着する頃には私の息は結構荒くなっていた。
「街で少し休みましょうか? 情報収集は私が行ってまいります」
「あー、ゴメンね、ちょっと休ませてもらうね」
そのまま集落に入り、ちょっと念入りに周辺を眺めても、私達を奇妙な目で見る人々は一人もいなかった。よく見ると、商店を営んでいる人も結構いて、リュックや剣などの武器類、何らかの薬品など色とりどりだ。
「本当に、普通の村だね」
「ダンジョンの中にこんな場所があるなど、驚きです」
「なんだ、お嬢ら、リヴィラの街は初めてか?」
いきなりなぜか話しかけてきた男がいた。
「何かがご用でしょうか? マスターはこの通り疲れていますので、用件は手短にお願いします」
「なんだ、ガキが小人族(パルゥム)の小間使いを連れやがって、景気がいいじゃねぇか」
お? エルティナを小人族(パルゥム)と呼んだ? ということは、ここにはエルティナみたいな人も結構いるってことか。
「あー、ごめんなさい、おじ……お兄さん。私達、お金持ってないです」
何となくそれが目的なんだろうなぁとおもって、正直に無一文だと告げると、その人相の悪い男はあからさまに舌打ちして、
「ヴァリスもねぇやつがうろついてんじゃねぇよ」
と、どこかに行ってしまった。なんというか、分かりやすいよね。
「なんと失礼な……」
エルティナはちょっと呆れているというか、憤っているようだ。
「まあまあ、ちょっと端に寄ろうか」
『なにかあったのか?』
リザさんもちょっと心配そうに通信をかけてきたが、
『大丈夫。この街の人はちょっと気性の荒い人がいるみたいだね』
まあ、アークスにも怖い人は結構いたから(ゲッテムハルトさんとか)、話が通じるだけまだマシだ。
『それと、マスターとリザ様に悲報があります』
『エルティナの悲報は本当に悲報だからなぁ。怖いなぁ』
『どういったものだ?』
『船団と情報を更新しようとしたところ、キャンプシップとのリンクが消失していることが確認されました。オラクル船団とも現在通信ができない状態です』
『聞きたくなかったなぁ。キャンプシップが墜落しちゃった?』
『原因は不明です』
『いったん地上に戻らないとなぁ』
何となくだが、地上も私達が知る場所ではなくなっている気がする。こうやっていろいろ歩いて回って人々の話を盗み聞きすると、地上との物資の交換が云々とか、地上でなにかトラブルが起こったとか、とにかく地上の街の話題が何かと取りざたされるのだ。
『これは、地上に何かあるね』
『私は、しばらくはここにいるべきかも知れんな』
『ああ、そっか、リザさんが人のまっただ中に出たら混乱間違いなしだもんね』
地上で詳しい情報を得るまで、リザさんにはダンジョンに潜んでいて貰う方が良さそうだ。16階層とかは結構隠れる場所も多そうだから、何とかなるかも知れない。
「そういえば、19階層への階段はどこにあるのかな?」
「向こうの大樹の根元とのことです」
「そうなんだ。よく分かったね」
「先ほど、19階層に行くと言っていた方が、あの場所に消えていきましたので」
「なるほど。キレイなところだね。湖もあって、水も透き通ってる。泳ぎたいなぁ」
リゾートには海岸と水場と水着がなくてはならない。なによりも、人前で堂々と水着になれる場所なんて海水浴場かプールぐらいなので、この世界では貴重な場所だろう。
最新の水着であるディーダウルラと、浴衣のユカタリョウランはその出番を今か今かと待っているのだ。
「マスターはどれほど回復されましたか?」
「うーん。階層主以外との戦闘ならとくに問題ないかなぁ。極力戦闘は避けたいところだけど」
アークスのフォトン回復能力にはこういうところで助けられる。
エルティナの鶴の一声で、もう少しだけ休んでいくことになり、その間にエルティナは街を探索して、手持ちの魔石がある程度換金できることに気がつき、何とか現地通貨を得ることができた。
「ここの物品はほとんど購入できない程度ですが、致し方ありませんね」
「うーん。魔石ってあんまり金策効率良くなかったりするのかな? それとも、地下だから物価がたかいとか?」
富士山の山頂で買う飲み物は、地上の数倍はするのと同じやつだ。しかも、ここは富士山なんて目じゃないぐらい危険な場所だから、数倍ではなくて数十倍はしてもおかしくないだろう。いや、そうであってほしい。
「ねえ、そろそろ行かない? なんだか、人も増えてきたしさ」
ヒューマンのガキと小人族の女の二人がリヴィラで何してんだという言葉がちらほら聞こえるようになった。なにぶん私は20歳を超えているくせに10歳児程度の背丈しかないのが災いして、オラクルの身分証が通じないここでは本当に10歳児としか見なされない(悔しい)。しかも、髪色は染めたとした思えないような深めのピンク色(地毛だよ!)で、しかも足下に届かんばかりのでっかいツインテは大変よく目立つ。
オラクルでは別段なんてことも無い身なりだが、こっちではやはり奇抜に映ってしまうのだろう。どこか、人のいないところでもう一度服装をやり直そうと思う。
『リザさんはどうしますか? このまま18階層にとどまるか、16階層まで戻るか。いっそ19階層以下に挑戦してみるとか』
『どうやら、この階層の者達はあまり積極的に戦闘をする様子はないようだ。このまま森の中で身を潜めよう。幸い、魔石には事欠かぬようであるしな』
『そうですか。分かりました、なるべく早く戻ってきますね』
地上でリザさんをかくまえる場所があればいいが、望み薄かも知れない。といっても、リザさんの生まれ故郷はここだということもあるみたいなので、ダンジョン内で生きていく方法を模索するべきなのかも知れない。今はなにも決められない、とにかく時間がほしい。
私達は後ろ髪を引かれまくりながらも、リザさんなしで地上に戻ることにした。
惑星探査編以降で、各章の時短編(あらすじ)は必要ですか?
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いる
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いらない
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すでにある分も含めていらない
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どちらでもいい