ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
「うーん。ギルドで説明を受けるまでは結構順調だったんだけどね」
「そうですね、マスター」
今は周りに誰もいないので、普段の呼び方に直っている。お嬢様よびも、なんかむずかゆくていい感じだったけど。
入市税を払ったために地底人に換金して貰ったヴァリスが大半無くなってしまったので、早くダンジョンに入って稼ぎたかったが、そう簡単にはいかなかった。
「この惑星にも神様がいるなんて、発想がなかったよ」
「それがファミリアという集団を作って、その眷属をダンジョンに向かわせているということでしたね」
「あんまり大きなところには所属できないよね」
「その通りです。事情が複雑ですので」
オラクルにも終の女神とか、七の男神と十三の女神とかいうのがいたが、それは神を名乗る(不届きな)フォトナーに過ぎなかったが、どうやらこっちのは割とガチめな存在らしい。
といっても、宇宙にはシオンや、スクナヒメやデウス・エスカとか、神様的な存在はいるにはいるんだけどね。案外、神様みたいなのはこの宇宙ではわりかしメジャーな存在なのかもしれないまである。
「ロキとかフレイヤとか、超有名な北欧神話の神様じゃん。どうなってんの? 古代ギリシャとかも結構いるし。アポロンとか」
下手したら日本神話の神とかいそうじゃない?
「古文書のヘルメスも、実は神の一人……一柱かも知れませんね」
「ありうる」
後は、眷属になったら【
「これ、神様が眷属使ったゲームで遊んでるってことでいい?」
「その雰囲気はありましたね。受付嬢の笑みが引きつっておいででしたので」
「フォトナーもろくでもなかったけど、この世界の神様もなんかろくでもない気配がするね」
と、ひとしきり愚癡を言い合ったところで、今日のところは眠ることにした。入市税を支払ったせいで宿代もなくなって、すぐにダンジョンアタックできるから大丈夫だろうという甘い考えもコレで否定されたって訳だ。仕方ないので、適当なところに野宿ということになり、そのなかでも比較的原型が残っている廃墟の教会の中にテントを立てて住もうという状況だ。
「食糧はあとどれぐらいある?」
「二人合わせてせいぜい6日分と言ったところでしょうか。18階層で補充しておけば良かったですね」
「どうせ地上で手に入るからっていってたもんね」
そもそも、キャンプシップとのリンクが切れているので、簡単に食糧の補充などできるはずもなかった。
『ということで、ごめんなさい、リザさん。そっちに行くには、まだもうちょっとかかりそうです』
『そうか。こちらはまだ問題は無い。モンスターも元のところとさほど変わらんようであるしな。食糧庫の位置も同じだ』
『そうなんですね』
リザさんは、レストランと呼ぶのがよっぽどいやなのか、食糧庫と呼ぶことに決めたらしい。
『とにかく気をつけてください』
リザさんとの通話も短めで終わらせ、明日の計画を立てる。
「といっても、まあ、入れるファミリアを探すしかないんだけどね」
「できれば小規模のところがいいですね」
「眷属の事情にあんまり深く突っ込んでこなくて、しかも、いつの間にかいなくなってもあんまり気にしないところがいいかなぁ」
都合良すぎワロタと、ネット掲示板で煽られそうなことを考えつつ、今日はもう寝てしまうことにした。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
それから数日間、端的に言えば何の成果も得られませんでした状態だ、まいったネ。
行く先々のファミリアから全部断られた。やっぱり、幼女を連れた小人族の女で、しかも「お嬢様」呼ばわりしているなんて怪しすぎてどこも引き取れないとのことだ。
まあ、分かる。私だって、こんな目に見える地雷なんて踏みたくないし。
「うーん。人身売買まがいのところまであってびびった。怖いところだね、ここは」
唯一引き受けてくれそうなところは、扉の向こうで、「上玉が入るぜ」「ああ、高く売れそうだ」という会話が漏れ聞こえてきたので、全力で逃げて、さらに追っ手が付いていないかどうか確認するまで半日以上街を歩き回って、時には家屋の天井に登って上から監視し、安全を確保した。あれは怖かった。
「あれは、つぶしておいた方がよろしいのでは?」
いや、マジであれはない方がいいファミリアだと思う。しかし、怖いのはそれだけではないのだ。
「そうするのがいいとは思うけど、悪にも秩序があればまだマシなんだよ。怖いのは秩序がなくなった悪だから」
しかし、どうしようか。ファミリアに入らないとダンジョンには入れない。こっそり入ってバレたら追放されるかも知れない。なにせよ、背丈幼女でピンク髪のでっかいツインテールという目立つ要素しかない私のことだ。すぐに見つかって報告されてしまうだろう。
「こっちでの野宿も慣れたよね」
「結局こうなりましたか」
「まあ、荒野にテント立てるよりも、廃墟があるだけましまである。壁も天井もあるし」
「穴だらけですが」
「まあまあ、住めば都っていうし」
安全を確保するのに時間を使いすぎて、もう、すっかり夕日も顔を引っ込めて夜が訪れつつあった。さすがにこの時間帯に訪ねるのは失礼に当たるから、今日はこのくらいにしておこうかと言うことで、ねぐらにしている教会に戻ることにした。
「食糧も後2日分ぐらいか。結構節約できたね」
「ヴァリスも多少あまりがありましたから」
「そろそろバイトを探さないとダメかも」
「雇っていただける場所があれば良いのですが」
それにしても、子供と言うだけでこれほど選択肢が狭まるとは思いも寄らなかった。エルティナがいてくれて助かっている。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
「マスター、お待ちください。侵入者の形跡があります」
「侵入者? 例のファミリアかな?」
まさか、金になるってだけで幼女と小人族をこんなところまで追ってきたのかというか、ねぐらまで把握されるとなると、この街の情報網を甘く見ていたかも知れない。
「いえ……一人のようですし、それほど大柄な人物ではないようですね」
「よく分かるね。それで、まだ中にいるのかな?」
「出た形跡は確認できません」
「そっかー。物取りかなにかかな? っていっても、こんなところ盗むものなんて何もないけどさ」
とりあえず調べようと言うことで、足音を消して、HUDの暗視モードの出力を上げて、生体反応もとれるようにした。
『奥の方、私達のテントの中だね』
『干しておいた毛布もなくなっています』
一応、気づかれないように通信機で会話することにして、そろそろとテントに近づき、幌を一気に開いてサバイバルキットの一つであるハンディライトを光量マックスで中を照らしつけた。
「動かないで! おとなしくすれば危害は加えません!」
と、なんか捜査員的な台詞だなぁと思いつつ、「うわぁ! なに? なにぃ!?」と言いながら、もぞもぞと起き上がろうとして毛布の中でもがいている小さな塊に光を当て続ける。
「ご、ごめんなさいぃ……あわわ、つい出来心だったんだよぉ……」
なんか、情けない声が聞こえてきたのでエルティナに「助けてあげて」と伝え、毛布を剥がして貰った。しかし、「あわわ」なんて言う人初めて見たよ。
「えーっと……ひょっとして女神様ですか?」
身なりは薄汚れていて、髪も所々アホ毛がういていて手入れもできていなさそうに見えるが、その雰囲気というか、全体的な造形が何となく人間離れしているように見えた。一言で言えば長くて癖のない黒髪が美しい日本美人だ。これだけ落ちぶれていそうでも、気品が保たれているのはすごいと思える。
「そ、そうだよ。キミ達は?」
何となく落ち着いたのか、女神様は毛布を座布団代わりに正座して居住まいを正した。背筋がぴんと伸びていて、あごの形から首筋にかけて全く無駄のないシルエットが見え隠れする。着やせしてるけど、胸もおおきいよ絶対。
「うーん。一度落ち着きましょうか。あと、私達はこのテントとその毛布の持ち主です」
「あぅ。ご、ごめんなさい」
と、見事な土下座。これは、日本神話系来ましたかね?
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
しばらく謝り続ける女神様に両手を挙げてもらって、話を聞く前に盛大にお腹をお鳴らしになられたので、手持ちの最後の食糧を調理してあげることにした。
「といっても、ほとんど捨て値で売られてたクズ野菜スープですけどね。中華スープの素は便利すぎです。あとは、あごが痛くなるぐらい硬いパンを、こうやってスープに浸して食べるといい感じです」
「本当に申し訳ない。もう、二日は食べて無くて」
「いっぱい食べてください。私は1週間ぐらいは食べなくても大丈夫なので」
「マスター。それは、さすがに……」
生命維持装置を緊急時のサバイバルモードにすればそれぐらいは行けるが、その後はしばらく点滴生活を覚悟しなければならない。
「うーん。やっぱり、誰かと一緒に食べるご飯はおいしいですね」
と、こっちに来てできた知り合いと囲む食卓(?)に思わず笑みが浮かんでしまう。
何とか落ち着いて話ができる程度には回復したようなので、改めて女神様からお話を聞くことになった。
やっと神様と話ができた。いったい誰なんだ?
8月分のストックがたまったので、次話から毎日更新に戻します。
惑星探査編以降で、各章の時短編(あらすじ)は必要ですか?
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いる
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いらない
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すでにある分も含めていらない
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どちらでもいい