ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
地上に戻り、今日は市場に向かわずにすぐにマップ上でエルティナの位置を確認し、直接そこに向かうことにした。
バベルからは結構遠いようだが、歓楽街も近くにないので、治安はいい方だろうか。ただ、周辺は金のないファミリアが結構入居している物件がそこそこあるみたいなので、目をつけられなければいいとは思う。
『ワカヒルメ様、エルティナ。たぶん家の前にいます』
『分かった、すぐに開けるよ』
と、エルティナの反応がある平屋の一軒家の扉の前でワカヒルメ様に連絡をして開けて貰い、中に入る。
「へぇ、結構キレイなところですね」
「エルティナが頑張って掃除してくれたんだよ。もちろん、私も手伝ったさ。家主だからね」
ちょっとどや顔しているワカヒルメ様がかわいい。今日はお祝いなのか、ちゃんとお風呂に入って髪もしっかり梳かしていて、心なしか輝いているようだ。
「お帰りなさいませマスター。食事の準備が整っております」
「ありがと、エルティナ。お疲れ様だったね」
「まあ、私のバイト先でもらってきた賄いだけどね。私は料理が苦手だから」
「こんど一緒にお料理しましょうよ」
話しているうちに料理が冷めそうだったので、ちょっと駆け足でリビングへ向かった。
「落ち着いた感じでいいですね。これであの値段というと、なにかあるんですか?」
「なにかあったらしいんだけど。教えて貰えなかったんだよ」
なるほど。この街には事故物件の告知義務はないらしい。まあ、モンスターよりも怖い物なんてないだろう。
リビングはせいぜい4畳ぐらいで、急いで買ってきたのか、安いちゃぶ台に座布団代わりのクッションが敷かれ、ちゃぶ台には質素であるが十分晩餐といえる料理が並んでいた。
「キッチンがすぐそばにあるのは便利ですね。おー、コンロが3口もあるんですか、いいですね。いろいろ料理ができそうです」
ただ、水は近くの井戸からくんでくる必要がありそうだった。
「では、いただきます」
ワカヒルメ様のいただきますに合わせて、私も手を合わせて「いただきます」と言って、箸を取って食事会とあいなった。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
食後にエルティナにお湯を沸かして貰い、私はあとわずかになってしまった豆をひいてコーヒーを振る舞った。仕事後にはやっぱり、この深い苦みがたまらない。
「さてと、そろそろステイタス更新をしようか」
さすがにケーキを買うほどのお金がないので、コーヒーだけで一服したが、そろそろメインイベントの時間が来たようだ。
「お願いします」
「よし、それじゃあ……どうしよう、私の部屋でやる?」
「どこでもいいですけど、布団のある場所のほうがいいとかありますか?」
「うーん。別に椅子に座るだけでもいいけど」
とりあえず、ワカヒルメ様の寝室で更新することにした。もちろん、エルティナも一緒だ。
「どれぐらい経験値がたまってるかは私では分からないんですよね」
「そうだね。ステイタス更新をしないとだね」
「どれぐらい上がってますかねぇ。一発ランクアップとかあります?」
「さすがにいきなりランクアップはむりだろうさ。だけど、かなり放置しちゃったから、得られる量はかなりだと思うよ」
雑談しながらワカヒルメ様の寝室の扉を開いて中に入った。鍵はかけていないようだ。
「ベッド1台と机の1卓でいっぱいですね」
「もうちょっと広ければ言うことないけどね。それじゃ、ベッドに座って貰おうか」
「お邪魔します」
一人用の小さなベッドに靴を脱いで登って、上着を脱いで肌着をめくり、ホックを外して背中をワカヒルメ様に向けた。
「やっぱり、キレイな背中だね」
「玉のお肌ってやつですね」
私達は軽口をたたき合いながら、ワカヒルメ様は私の背中に指を這わせて、刻まれている恩恵を起動させて蓄積された経験値を力へと変更していく。それによって刻まれた数字が変化して、それを羊皮紙に書き写すのだが……。
「あれ? なんだこれ?? おかしいな、失敗かな? いや、そんなはずはないか……ファルナは……ちゃんと刻まれてるし……なんで?」
なにやら不穏な台詞が背中から漏れ聞こえてきた。
「どうかしましたか?」
と、私は前を押さえて後ろを振り向く、
「いや……とりあえずエルティナの分も終わらせよう。ベルディナはもう上を着てもいいよ」
「分かりました……」
その後、エルティナも同様に、キレイな背中をあらわにしてワカヒルメ様にステイタス更新を行って貰ったようである。ちなみに、エルティナはワカヒルメ様の膝に座って更新して貰ったようで、なんだかほんわかした。
「やっぱりだ。おかしいよ」
ワカヒルメ様はやはり混乱しているようだ。
「何があったんです?」
背中に手を回してホックを留め直し、肌着を下ろしてワカヒルメ様が持つ羊皮紙をのぞき込む。
「それがねぇ。あ、これはエルティナので、こっちがベルディナのだけど。分かる?」
そういって、私達二人に見えるように、机の上に羊皮紙を並べて見せてくれた。
「うーん。ゼロが並んでますねぇ」
私とエルティナはそれぞれの名前が書かれた羊皮紙を取り上げて、上からゆっくりと目を通した。
「そうなんだ。これっぽっちも上がってない。つまり、経験値を得られてないんだよ」
んなアホな。あれだけモンスターを倒したのに経験値ゼロとかあり得るの? スライムを倒しても1ぐらいは貰えるのに(それは別ゲー)。
「
「そんなの聞いたことないよ」
「他の冒険者と比べてみるのはいかがでしょうか?」
エルティナがもっともなことを言う。
「聞ける神が……ねぇ……」
ワカヒルメ様はちょっと傷ついたような顔をしていた。
「あっ……」(察し)
助けを求められる友がいることは大切なことだと強く思う。
「うーん。しばらく様子を見ますか? 今日はたまたまってこともあるでしょうし」
「そうするしかないかなぁ。職場にも働いている神がいるからそれとなく聞いてみるよ」
「お願いします」
そのままちょっと気まずい空気を払拭するために、私とエルティナはリビングに戻って、市場で買ってきた安いお茶を入れて一息つくことにした。コーヒー豆はもう無くなった。
しかし、経験値ゼロか。どうしたもんかな、そもそも原因が分からんことにはなんともならないし。
ちなみに、私とエルティナの部屋は、ベッドが一台やっと入るぐらいで、あくまで寝るだけの部屋だね。くつろぐのはリビングになりそう。お金貯まったら小さめのソファでも置こうかな。休日にごろ寝しながら本読めるやつ。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
『と言うことなんです。リザさんはなにか心当たりとかないですか?』
眠る直前に遙かダンジョンにいるリザさんと通信をして状況を報告する。リザさんと再会するにはどうしても中層への進出許可が必要で、それを得るにはランクアップが必須だ。
その前提条件たる経験値が得られないとなると、リザさんとの再会が果たせなくなる。
『私ではなにも答えられんな。魔石を食してみてはどうだ?』
『私、石とか消化できないですよ?』
『試してみたのか?』
『ないですけど……え? 本気で言ってます?』
『本気だが?』
『うーん。考えます』
ダメだった。結局次の日の朝に三人で話し合って、とりあえず一週間は様子を見て、それでも経験値ゼロなら、本格的に考えようという、いわゆる先延ばしということになった。
「ゼロの冒険者とか……やかましいわ!」
私は朝霧に浮かぶバベルに八つ当たりした。
惑星探査編以降で、各章の時短編(あらすじ)は必要ですか?
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いる
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いらない
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すでにある分も含めていらない
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どちらでもいい