ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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経験値入ってるかなぁ?

 第一階層で、戦闘に特に問題ないという結論を得た次の日、朝早くにスィデロさんを訪ねて、研ぎ直して貰った包丁を受け取ったついでに、剣の様子を見てもらい、特に問題ないとお墨付きを貰って一安心だ。

 

「さすがに、アレじゃ経験値は入らなかったね」

 

「慣らし運転程度でしたから、作業に近いものがありました」

 

 ワカヒルメ様のがっかりした表情がどうも脳裏をちらつく。私とエルティナは想定通りのことだったが、なまじ期待させてしまったのが良くなかった。最初から、これは慣らしであって、たぶん経験値は入らないことを伝えておけば、あんなに失望させずにすんだかも知れない。報連相はどこの世界でも大切だ。

 

 オラクルではそのあたりのコミュニケーションはツールやシステムが発展しすぎていて、必要なことは自動で上に通達される仕組みができあがっていたので、あまり気にしたことがない。現場の人間には戦闘や訓練に集中させるためのものでもあるのだろう。基本的にあまり頭が良くない私には必須のシステムだった。

 

「うーん。ワカヒルメ様には、ちゃんとした眷属を入れてあげないとダメかも。主に心労で」

 

 おそらく今回は始まりに過ぎないだろう。これからも新しい問題が次々生まれていく予感はひしひしある。それなら、ちゃんとした子がいないと、ワカヒルメ様の心労が募る一方で、いずれ胃に穴が空いてしまうだろう。

 

「それは、分かります。ですが、現状では無理でしょう」

 

「まあ、分かってるけどね」

 

 幼女とそれを引率する小人族の女という、どう考えても見える地雷でしかないファミリアに、自ら入りたいと思うものはいないだろう。だったら、実績を積み上げるしかないが、積み上げたところで入りたいと思うのは探索系の冒険者であって、ワカヒルメ様が本来必要としているのは職人系の眷属だ。

 

「まずは、ちゃんと稼いでこないとだね」

 

「ワカヒルメ様に、織物の仕事をさせてあげませんと、なにも始まりません」

 

 まずは、ちゃんとワカヒルメ様を養えるようになって、そこから稼ぎを上げていろいろ設備投資が出来る状態に持って行けるかどうかが勝負の分かれ目になるだろう。

 

 金融機関(あるのかな?)から融資をうけるにせよ、設備をリースするにも、資本金と社会的信用がないとどうにもならないのはおそらくこっちでも同じことだろう。

 

「さてと、今日はいよいよ本番だ。一気に5階層まで行って、今日はお昼ご飯も途中休憩もなしで全力周回するから、魔石とドロップアイテムの収集がちょっと大変になると思う」

 

「問題ありません。私も全力を出します」

 

「うん。よろしく。じゃ、行こうか」

 

 そうして、ちょっと気合いを入れ直して、螺旋階段を降り、いよいよ剣を抜いて第一階層へと立ち入った。今日は順路をまっすぐ行って、最速で5階層まで降りて、後はマルグルだ。もちろん、ピンチに陥っていたり、モンスターに追っかけられている他パーティーを見つけたら積極的にカバーに入るつもりではある。

 

 なにせ、資源モンスターは有限だから、他人から合法的に奪えるものは積極的に手に入れていきたいところ。

 

「最低限、横殴りはしないように。この辺は、昔のMMORPGみたいな感じだね」

 

「私にはよく分かりません」

 

「でしょうね。まあ、ネット老人会みたいなやつだよきっと」

 

 といっても、MMORPGにはまってたのはOLに成り立ての1年ぐらいだ。高卒で、まだそれほど大した仕事も任されず、アパートに帰るとやることもないので、無料で出来る暇つぶしとしてやり始めてはまってしまった。

 

 その後、しばらくして仕事が安定してからはもっぱらPSO2だけやってたけどね。

 

 当初、こういう話にエルティナは疑問ばかりを浮かべていたが、今では深く問いたださないようにしてくれているようだ。そういうことも学習してくれる人工知能の優秀さは計り知れないと素直に思う。

 

 途中で血まみれになってモンスターから逃げ惑う冒険者の少女の獲物を横取りしつつ、エルティナに辻ヒールをして貰ってからすぐに逃げて、5階層に到着して一息つくことなくそのままモンスターの大討伐作戦に入った。

 

「今日は、本当にノンストップだからね。ひょっとしたら5階層のモンスターを絶滅させてしまうかも知れない。いわゆる乱獲とか資源の枯渇ってやつだ。エコじゃないね」

 

 ありがたい(?)ことに、このダンジョンではどれほどモンスターを乱獲したところで頭数が減るということは無いらしいので、心配はしていない。

 

「むしろ、モンスターを無くすことは、人類に対する貢献になると思われますが」

 

 エルティナはもっともなことを言う。

 

「その代わり、魔石産業で持ってるオラリオの経済は崩壊するだろうけどね」

 

 無くさなければならない対象に経済の根幹を握られている状態はあまり良くはない。まあ、モンスターがいなくなることは、オラリオの空から太陽がなくなるぐらいあり得ない話ではあるだろうけど。

 

 さて、話はここまで。いよいよモンスターが壁から現れ始めた。いわゆる怪物の宴(モンスターパーティー)と呼ばれる現象は、主に10階層以下から発生し始めるとのことで、5階層ではそれほどモンスターの群生は期待できないが、高速周回したら似たようなことは発生するだろうと期待して、今日の仕事を開始した。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

「うーん。さすがにここまでやると結構疲れるね」

 

 時刻はそろそろ太陽が街壁に沈む頃。累々と築き上げた灰の山は、徐々にダンジョンに吸収され消滅して行っている。

 

「お嬢様。魔石及びドロップアイテムの回収、終了しました」

 

「うん、お疲れ様、エルティナ。そろそろ時間だから、戻ろうか?」

 

「分かりました。その前にキズを回復します……レスタ!」

 

「ありがとう、エルティナ。そっかー、結構、細かいキズが付いちゃってるね」

 

 主には腕とか、ほっぺたとか。敵の攻撃をステップなしで回避するのがまだ不得意なため、距離を測りきれずにやられたやつだ。

 

「よく見ると、意外に深いな……傷跡が残っちゃうかなぁ……」

 

 オラクルなら、再生医療が標準になっているので、深めの傷跡も皮膚シートを絆創膏みたいに貼り付ければ数日で定着してキレイな肌が戻ってくる。しかし、こっちではさすがにそういうのは期待できそうにもない。

 

 流血自体は生命維持装置が最優先で止血するので、意識がもうろうとしたり、戦闘続行に支障をきたす痛みはカットされる(痛覚遮断システム)ので、割とひょうひょうとしていられるのが助かる。

 

 後は、一定レベル以上の恐怖を感じないように脳内物質の調整を行う(思考制御システム)とかかな。ある程度の恐怖は集中力の向上につながるけど、一定上だとむしろ身体の動きや思考能力を鈍らせるから良くないのだ。薬も過ぎれば毒となるってやつだ(ちょっと違う)。

 

「それじゃ、そろそろ戻る?」

 

「そうですね。換金の時間も必要でしょうし」

 

 5階層は1階層と違ってモンスターのパワーやスピードも上がって、出現頻度も桁違いだ。10階層以下になると更に宴みたいにわらわら現れるというのだから、そりゃ稼ぎも上がるわな。さっさと行けるように、徐々に交渉して行かなければならない。頑張れエルティナ。

 

「経験値貰えてるといいなぁ」

 

「そうですね」

 

 緊張を解くと一気に空腹がやってきた。生命維持装置が空腹感を消す処理を終了したと言うことだ。

 

「今日は何作ろうかな」

 

 気分的にお肉かなぁ。分厚い牛肉のステーキ食べたい。

 

 

 

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