ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
さすがに牛のかたまり肉は高くて買えなかったので、その代わり、鶏モモ肉のいいところを買ってきた。
「えーっと、後は、ローズマリーとタイムを乾かしたやつも買ったし」
鶏モモ肉に塩胡椒をして、ローズマリーとタイムの香りを移して焼くだけでごちそうになるので、みんなも試してみるといいよ。
「こっちには冷蔵庫がないからね。買ったらすぐ使わないといけないのがちょっと面倒」
「アイテムパックなら鮮度を保っておけますが?」
「それじゃ、ワカヒルメ様がお昼に食べられないからね」
「そうでした」
前の日の夜に多めに作っておいたら、次の日の朝とかお昼に持ち越せるから結構楽でいいよ。
「さあ、早く帰ろう。ワカヒルメ様が首を長くして待ってるよ」
包丁も研ぎ直して貰ったから、食材を切るのがちょっと楽しみだ。やっぱり、ちゃんとした職人さんに頼むと全然違うね。ギコギコはせずに、スーッと刃が入っていくのはちょっと癖になるほどだ。
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ホームに戻って挨拶もそこそこに、お茶をいっぱいだけ貰って早速ステイタス更新……の前に、お肉の下処理を簡単にさせて貰い、すぐにワカヒルメ様の自室を訪ねた。
「もういいのかい?」
「ええ。お塩を軽く振っておくだけですので」
「ふーん。それだけで美味しくなるんだね」
「臭みのある水分を外に出すのが目的ですから。香りが良くなると思いますよ」
本当は、もっと丁寧な下処理の仕方もあるが、家庭料理でやるには面倒すぎるのでやらない。
「さて、それじゃ。行くよ」
エルティナはすでにそばに来ていて、私達の様子をじっと見ている。
「お願いします」
私はベッドの中程にぺたんと座り、肌着をあげてホックを外し、背中をワカヒルメ様に捧げた。
「あ、ちょっと傷があるね……」
「あれ? そこにもありましたか。二の腕の裏側とか、どうやって付いたんだろ?」
今後はちゃんと長袖で、アーマーの付いているやつを着ていくべきだろうか。
「ふぅ……アマテラス様、私をお導きください……」
遠く朝廷の大神に祈りを捧げ、ワカヒルメ様は指先を裁縫針でさして少しだけ血を出すとそれを私の背中をくすぐるようになでた。
「頼むよ……」
わき上がる光に、私も目を閉じてその時を待った。
「あ、経験値……入ってる……よかったぁぁ~~」
まるで魂の奥底から出しているような声で、ワカヒルメ様はへたり混むようにベッドに身を置いた。
「もういいですか?」
私は下着の前を押さえたまま、首だけ後ろを振り向き尋ねた。
「あ、いいよ。お疲れ様。次はエルティナだね」
「私は今回は一切戦っておりませんでしたが。武器も元のままでしたし」
「えーっと、ちょっと気になることがあってね」
「気になることって何ですか?」
私は背中に両手を回してホックを留めて、脇に手を入れて前の形を整えてから肌着をおろし、ベッドから降りた。
すでにエルティナはワカヒルメ様に抱え上げられていて、膝に座らされていた。
「……わざわざ膝に座らなくてもよろしいのでは?」
「まあ、いいじゃないか」
膝にちょこんと座るエルティナは端から見ていると大変かわいいので、このままでいてほしい。エルティナは、神の言うことだからと納得して、私と同様に上着をあげて背中を見せた。
後は慣れたもんで、ワカヒルメ様はさっさとステイタス更新をし終わって、
「うーん、そういうことか……」
とちょっとうなる。
「なにかありましたか?」
すぐに衣服を整えてエルティナはワカヒルメ様の膝から降りて、視線を合わせるようにベッドによじ登った。
「うん。今、写しを見せるね。こっちがベルディナ、こっちがエルティナのだけど。わかるかな?」
「うーん。上がったっていっても力と耐久が合わせて10も行っていませんね」
あれだけやってこの程度とは結構渋いんじゃなかろうか? もうちょっと身体強化具合をさげようかな?
「いや、問題はそれだけじゃなくてね、エルティナの分なんだ」
「どうやら、マスターと同じ量で向上しているようです」
「どれどれ……あ、ほんとだ。全然戦闘してなかったのにね。不思議」
私達はお互いのステイタスシートを交換し合ったりして、お互いの数値を確認し合った。よく見ると、私の力の向上分が、エルティナには魔力に振り分けられているようなので、全く同じというわけにはならないように見える。それは、私とエルティナのクラスの違いからくるものだろうか? 都合良すぎじゃない?
「どうもね、君とベルディナは、何らかのラインでつながっているようなんだ。キミ達の主従関係がどのように関係しているのかは分からないけど、結果から言えば、ベルディナが得た経験値はそのままエルティナと共有しているような感覚だね。経験値を同じ量得ているのか、それとも二人で分け合っているのかは分からないけど」
なるほど、分からん。と言いたいところだが、だいたいは理解した(はず)。
「つまり、私が経験値を得たら、エルティナも一緒に強くなるってことですかね」
「逆に、私がどれほど戦っても経験値を得られないと言うことではありませんか?」
「あ、そっか、そういう解釈にもなるんだ」
「どちらが本当かは、これから判明していくと思う。だけど、たぶんだけど、エルティナはベルディナ経由じゃないと経験値が入らないんじゃないかなって感じるんだよ。ただ、ベルディナが手に入れた経験値と同じ量だけエルティナが得るのか。ベルディナが得た経験値を二人で分け合ってるのかはちょっと分からないけどね」
「うーん。だけど、エルティナが戦わなくても経験値得られるのってお得じゃないですか? その分サポーターに専念してもらえるってことですし」
「まあ、そうともいえるね。ただ、もしも経験値を二人で分け合ってるのなら、ランクアップに二人分の経験値が必要ってことだからね。一人で二人分稼ぐのはやっぱり大変だと思うけど」
「まあ、パートナーですから」
「その分しっかりとサポートいたします」
「キミ達の絆はスゴいね」
と言うわけで、今日は初めて経験値を得られたお祝いということで、下処理をして置いた鶏モモ肉をいい感じに焼いて、秘蔵のワインで乾杯した。
「これで、持ち込みのお酒は終わりです」
なんだかんだいって、ようやく冒険者としての一歩を踏み出せたというわけだ。
私達の戦いは、これからだ!
『というわけで、やっと経験値が入りました』
最近こっちが忙しすぎて、リザさんと話が全然出来ていなかったことを思い出した。
『それは何よりだ。それで、魔石か?』
まだその話続いてたの? まあ、リザさんにはそれしかないから仕方ないけどね。
『いえいえ。武装解除して普通の武器で戦うことにしたんです』
よく考えたら、それこそ普通の冒険者だ。冒険者以外が冒険で冒険者経験値を得られないのは実に冒険者的だったかもしれない(ゲシュタルト崩壊)。
『なるほど。自ら枷を負って戦うか。よき修行になるだろう』
『うーん。そういう武人みたいなのは私には似合わないんですけどね』
やっぱり、リザさんの声を聞くと落ち着く。せっかく出来た友達と会えないのは寂しいから、やっぱり頑張らないとと思わせてくれた。
『それじゃ、私は寝ますね。お休みなさい、リザさん』
『ああ、ゆっくり休め』
夜は更けていった。
各章の時短編(あらすじ)は必要ですか?
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いる
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いらない
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どっちでもいい