ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
12階層よいとこ 一度はおいで
ようやく経験値が入りはじめて、しばらくは5階層を周回していたが、それではあんまり経験値が入らないことを受け付け担当に相談したら、徐々に階層を下げてくれて、今となっては12階層への立ち入りまで許可されてしまった。ヤッタネ!
交渉は、表向き私の保護者であるエルティナに任せた。エルティナでは判断できないことは通信でやりとりして私が承認して、エルティナが先方に答えるという、ややこしいことだったが、まあまあ上手くいった。御苦労をかけるね、エルティナ。
まあ、そのたびに珍獣を見るような眼差しを向けられるのにも慣れた。ごめんね、幼女でごめんね、幼女なのにつよくてごめんね。
ひとしきり心の中で煽ることで機嫌を戻し、ぶしつけな眼差しにはにっこり笑って手を振って追い返し(幼女ムーブ)、そのままエルティナを伴ってダンジョンへ向かう毎日だ。リアルにメスガキムーブするほど私は子供ではないので。
そして、12階層が許可されて二月ほど、私は毎日12階層を周回している。貧乏暇なしってやつだ。
「13階層は、ランクアップしないとだめなんだよね?」
レベル1では12階層で足止めされて、頼み込んでも絶対に許可は下りないとまで言われた。
「あるいは、上級冒険者とパーティーを組むか、ですね」
「んー、パーティーか。なんか、縁遠い言葉だよね」
と言うことは、当面中層は無理と言うことだ。世知辛いね。
「だけど、アビリティが蓄積してきたお蔭なのかな。フォトンの身体強化のレベルをちょっとずつ落とせるようになったね」
筋トレしても一切付かなかった筋力が、神様の恩恵のお蔭でついには獲得できるようになった。まさに、ワカヒルメ様々ってやつだ。
「そういえば、最近下層ですごい事件が起こったんだってね」
「そのようです。詳細はまだ収集し切れていませんが、女性のエルフ一人しか生還出来なかったと聞き及んでいますね」
「なんか、闇派閥の仕業じゃないかってことだよね?」
「その可能性が濃厚とのことです」
「怖いね。テロじゃん、それって」
オラクルにもテロリストの破壊活動は珍しいものはあったが、存在はした。地球で言えば言わずもがな。国家とテロリストが戦争を繰り広げた痛ましい時代があった。オラリオでも同じということだ。全く、人間というのは世界が変わってもその性根は変わらないということだ。
本当に……ため息が出るよ……。
「さてと、12階層に最適な設定もだいぶ模索できてきたね」
「あまりにも強化しすぎると経験値が下がるのが何とも云何しがたいですね」
「下げすぎると今度は命の危険だからね」
12階層は、現状潜れる最下層なので、ここできっちりと経験値を得ておかなければならないのだ。
「アークスとしての蓄積がなかったら、もっと苦労してただろうなぁ」
「そうでしょうね」
数年間ダーカーやいろんなエネミーと戦い続けてきた経験は確かに生きている。ただ武器を振るだけ、クラススキルに頼り切るだけでは生き抜けてはこれなかっただろう。
だべりながら歩いていると、地面が何カ所が盛り上がり、それがモンスターの形を取り始めた。
「早速だね。それじゃ、いつも通りで」
私はエルティナからデバンドだけもらい、いったん下がって貰って剣を構えた。スィデロさんに作って貰った安物の剣だが、ここまできてずいぶん手に馴染むようだ。
「えーっと、オーク10体と、インプ15体に、ハードアーマード3体か、大漁だね」
一人で抱えるにはちょっと大変か。だけど、私にはエルティナがいるから、何の心配も無いのだ。
とりあえずアルマジロかダンゴムシみたいに突っ込んできたハードアーマード3体を横っ飛びで回避して、ついでとばかりに側面にけりを入れて倒し、意図的に暴走させて敵の何体かを巻き込んでやった。
「モンスターに連係プレイなんてどだい無理な話だったね、ゴメンね」
ちょっと煽り方がメスガキっぽかったかな? だけど、この声はマトイちゃんと同じ(女性共通マトイボイスC)だから、あんまり迫力無いな。
横転して目を回すハードアーマードをそのまま上から突き刺して灰にし、とりあえず一番やっかいなやつは処理した。インプはちっこくてちょこまかしてうっとうしいけど、ハードアーマードを瞬殺したお蔭でちょっとひるんだのか、初動が遅れたようだ。
「臆病なことはいいことだよ。だけど、キミ達(モンスター)には逃げるっていう選択肢がほとんどないよね。かわいそうだね」
今度はちょっとはいい感じのあおりになったんじゃないかな?
「お嬢様。無駄口は慎んだ方がよろしいかと。別の冒険者もおりますので」
エルティナから怒られたので、そろそろ自重して真面目に戦おうと思う。
「じゃあ、今度はこっちから行くよ!」
片足にフォトンを集中させ、一気に中心にいるオーク数体の懐に飛び込んで、その勢いを回転力に変換して剣を横に一閃させると、おもしろいようにオーク三体の頭部が宙に舞った。
「最近、フォトンの自己制御も上手くなった気がするなぁ」
今のは、フォトンで速度ベクトルを意図的に改ざんして方向をねじ曲げ、直線から回転に強制変換した、アークスとしてはかなり基本的なアクションになるが、普段は戦闘システムに全部やらしているのを、自分でやったような感じだ。アクションとしてはPAフレシェットのムーブアーツに近いんじゃないかな?
ステップ回避や二段ジャンプなどの基本アクションがオミットされているので、そういうことも自分自身で演算して行う必要があるわけだね。
「たぶん、慣れたら空中に張り付いて攻撃することも出来るんだろうけどね」
攻撃後の隙を突くようにインプの5体ほどが一気に飛び上がって襲いかかってきたが、もう一度フォトンで運動を改ざんして、その場で宙返りするみたいに回転して片足をぴんと伸ばして、それがインプどもの頭部を通る軌道になるよう調整した。いわゆる、サマーソルトキックというやつだ。
こうすれば、まるでパズルがきちっとはまるようにインプどもが吹き飛んで、何体かは灰になって消えてくれるのだ。楽しい。
「さてと、後は消化試合かな。さっさと掃除しちゃうか」
と、後は同じことの繰り返しみたいなものだ。相手に突進して、回転して切りつけ、場合によって離脱するの繰り返し。やっぱり、回転が制御できるようになると、戦闘の幅が広がっていいね。
「これで終わり……ふぅ、数が多いとちょっと面倒だね」
「お疲れ様でした」
倒したそばから魔石とアイテムの回収を始めていたエルティナは、私の戦闘が終了したところですべて作業を終わらせた。
「うん。エルティナも、いい仕事だね」
「ありがとうございます。お嬢様。回復は必要ですか?」
「えーっと。念のためお願い。見えないところとか傷があるかもだし」
「承知しました。……レスタ!」
エルティナはきっちりフォトンのチャージして回復テクニックのレスタをかけてくれた。
「うん。元気ハツラツだね。次行こうか」
12階層はいいところだ。何度でも来たくなるね。