ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
ワカヒルメファミリアの二人の戦いは、まさに冒険者たるものだった。
それを傍らで見守っていたラウルとアナキティには良い影響を与えているとフィンは判断している。
特にラウルについては、それを仲間に語るときにはまるで少年のように目を輝かせていると言うことらしい。気持ちは分からなくもない、しかし、下級冒険者の女児の戦いを嬉々として語る自分を周りはどう見ているのかを、彼はもう少し自覚するべきだとも思う。
「あの二人も伸び悩んでいたからね。彼女たちには感謝だ」
その気持ちを忘れなければ、ランクアップも遠くはないだろう。むしろ、発破をかけようと二人を下層に連れ出そうとした道中だったのだから、むしろ仕事を取られてしまったようなものだとフィンは思う。
「ふむ。ワシも見たかったのう」
フィンは執務室のソファに座り、ガレスに彼の戦いのあらましを語り、お茶を傾ける。ガレスは火酒を飲みたがったが、さすがに真っ昼間からそんな強い酒が出てくるはずもない。
リヴェリアはアイズの鍛錬に付き合って今日は下層に向かっているようで、おつきのエルフも数名出かけているようだ。
「して、その娘……ベルディナといったか。強かったのか?」
「ああ、間違いなくね。レベル1で強化種と戦えると言うこと自体が異常だけど、まさか単独で倒してしまうなんて信じられなかった」
「最後のとどめはおぬしが力を貸したと聞いたが」
「武器を貸しただけだよ。彼女の剣はすでに砕けていたからね。それでも……僕が槍を貸さなくてもたぶん、素手で殴ろうとしていたから、お節介かなとも思ったけど」
「ほう……ヒューマンにしておくには惜しいのう。ドワーフでもそれほどの覇気はそうそうないぞ」
しかし、フィンが気にしているのはベルディナだけではなく、むしろエルティナの方だった。
「同胞の彼女は……ちょっと計り知れなかったよ。本人はサポーターだっていってたけど、回復に支援に、攻撃までできる魔導師がただのサポーターなんて考えられない。しかも、少なくとも4つ以上の魔法を平然と使いこなしていた。超短文詠唱でね」
強力な回復魔法に、防御力が向上する魔法、攻撃力が向上する魔法に、頭上から幾重も光の刃を落とす魔法、連鎖する雷撃を打ち込む魔法など、そのバリエーションも豊かで、更に奥の手を隠してさえいそうな予感すらする。それらすべてが、わずかにタメの時間があるとはいえ、たった一言の詠唱で事足りてしまうのは驚愕だ。
下手をすれば、ベルディナよりもエルティナの方が戦闘力としては上なのではないかという疑問さえ浮かぶほどだ。
「規格外じゃのう。リヴェリアがアイズにかまっていなければ真っ先に突っ込んでいったじゃろうなぁ」
「それは言えてるね」
「狙っておるのか?」
「もちろん、候補には入れているよ」
話が微妙に途切れたタイミングで、執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
フィンがそれに答えると、書類をいくつか持った団員が一礼して入ってきた。
「ギルドからの通達文と、団長宛のお手紙が数点あります。確認をお願いします」
「ああ、ありがとう。どれどれ……」
「では、失礼します」
「うむ。御苦労じゃったのう」
静かに扉が閉められる音を聞きながら、フィンは書類を数枚めくり、そして止まった。固まったとも言える。
「どうした? フィン。なにか、おもしろいものでもあったか?」
「ふふふ……なるほど、そうきたか……。全く規格外だな彼女たちは」
「どうした?」
「これ見てよ、ガレス。あの二人、最速記録だ。大したものだよ全く!!」
フィンは、まるで投げるようにその書類をガレスへと渡し、自身は心底愉快そうに手のひらを額に当ててソファに深くその身を預けた。
「最速? なんじゃ、ランクアップか。レベル2に4ヶ月と……なるほどなぁ。アイズを越えるものが現れるとは思わなんだな」
ガレスはうんうんと何度か頷いて、書類をテーブルに置いた。そして、テーブルの隅に置かれたフィン当ての便せんの中に興味深い名前を見つけた。
「のう、フィン。件のファミリアから手紙が来ておるようだぞ」
そう言って、ガレスはその便せんを取り上げ、そこに書かれた差出人に記された『ワカヒルメ・ファミリア団長ベルディナ、副団長エルティナ』の文字をしっかりとフィンに見せた。
「タイムリーだなぁ。どれどれ…………なるほど、律儀だね、彼女たちは」
便せんをナイフで丁寧に開いて中身を読む。
「なんとあった?」
「強化種との戦闘で、僕が槍を貸したといったよね。それについてのお礼がしたいってさ。別に気にしなくてもいいのにね」
「なるほど。会合を開くのならワシも呼んでくれ。そのヒューマンの子供を直に見ておきたい」
「いいよ。後は、ラウルとアナキティと……リヴェリアも誘わないとすねるかな」
「あまり大人数で囲んでやるのもかわいそうじゃろう」
「それもそうか。じゃあ、今回はそれだけにしておこうかな」
それでも5対2なので、大げさとは言える。
「せっかくじゃから、女主人に席を取るか?」
「それ、君が飲みたいだけじゃないの?」
「まあ、そう言うな。美味い料理に美味い酒は人間関係の潤滑剤よ!」
がはははとガレスは笑うが、フィンは呆れるばかりだ。しかし、候補の一つには挙げようとは思っている。
なにか、新しい風が吹き込んできている予感がある。近いうちにオラリオが、良くも悪くも大きく変わってしまいそうななにかがやってくるのだろう。
この街はそうして何度も生まれ変わってきた。きっとこれからもそうなのだろう。
ただ、その中心に誰が立っているのか、それだけはまだ誰にも分からない。