ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
レベル2の慣らし運転も順調に終わって、スィデロさんに発注した新しい武器も受け取って、ついでに包丁の研ぎ直しをまた頼んでおいた。レンタルの代剣を返却し、いよいよ中層への進出の日が来たということだ。
「ようやく来たよ、エルティナ」
「長かったですね」
「やっと、リザさんと面と向かって会えるね」
「リザ様は、最近は24階層の森林地帯を巡回しているとのことです」
「さすがだなぁ。森だと隠れる場所も多いだろうからね」
「かなりうっそうとした。緑の迷宮だとおっしゃっておられました」
「すごいねー、誰がこんなダンジョン作ったんだろう? フォトナーかな?」
「完全否定できないのが恐ろしいですね」
「さて、どうしよう? 今日は13階層だけにしとく? それとも18階層まで降りちゃう?」
「慣らし運転に少し時間を使いすぎましたので、18階層まで降りてしまいましょう。急ぐ必要はありませんが」
「遺跡の時に結構調査はしたからね。マップは問題ないかな?」
「更新は必要かと思われます」
「そうだね。じゃ、行こうか」
もしも17階層にゴライアスがいたらどうするかも考えないといけない。フルクシオを使えば高火力のコンボ一回で討伐可能だろうが、やっぱりそれでは面白くないし、経験値も貰えないからどうしたものか。
「そういえば、エルティナって。こっちに来る前にゴライアスの皮を取ってたよね。あれ、どうしてる? すっかり忘れてたけど」
「まだアイテムパックに保管しておりますが」
「そっか。うーん。そろそろ私もちゃんとした防具を装備した方がいいんじゃないかって思ってね。強化種との戦闘でも結構ボロボロにやられちゃったし、せめて腕と足の骨ぐらいは守らないとなーって。その皮だったらアーマー代わりにならないかって思うんだけど、どう?」
「そうですね、防御は重要ですが、この皮はかなりの重量がありますから、マスターにはあまり適さないかも知れませんね」
重いとその分、機動力が落ちるから、現在の戦い方にはそぐわないかもしれないということか。なるべく軽い素材で高い防御力のあるものならいいだろうけど、そういうのは総じて高いというのがパターンだ。
「そっかー。じゃあ、売ってお金にする?」
階層主から手に入れた素材だから、それなりの値段で売れるとは思う。
「出所を聞かれたらどうしますか?」
「拾ったとか」
「厳しいですね」
「だよねー」
今はとにかくヴァリスが必要だ。スィデロさんに出所は聞かないことを約束に買い取って貰えないだろうか。
『リザさんは今どこにいますか?』
『今、森林の地帯を周回している。何度か冒険者に追いかけられたが、もう少し下階に行った方が良いかもしれん』
『リザさんはいいなぁ。自由でさ。だけど、本当に気をつけてくださいね』
『早く合流できればよろしいですが』
『あ、そうだ。武器は大丈夫ですか? 全然メンテしてないでしょう?』
リザさんが現在使っているのは、遺跡のオラリオの残骸の中から拾った業物だ。かなりの性能を持つが、メンテフリーとはいかないだろう。
『少し切れ味が落ちた』
少しですんでるならまだマシかと思うが、放置は出来ないだろう。
『そっかー。お金があれば、予備のを渡すことも出来るんですけどね』
『なるべく戦闘は避けよう』
『慎重にお願いいたします』
さて、リザさんはどうやら、相変わらず24階層にいるらしい。更に下の階層に行くつもりもあるというなら、25階層以下の下層へと進出しようとしているということだ。下層はやっぱり世界が違うというから、ちょっと心配だ。もっとも、リザさんもかなりの魔石を食べているだろうから、かなりのパワーアップはしていると思うけど。
「なんか、近づいたと思ったら遠ざかっていく感じがするね」
下手な場所で会ってそれを他の冒険者に見られるわけにはいかないのは分かるが、これではいつまでたっても再会できそうにない。
「ともかく、私達は18階層に向かいましょう。今後は重要な中継ポイントになるでしょうから」
「地底人へのお礼参りをしないとダメだからね」
困ったときに足下見られたことは一生忘れない。実際いろいろな人に聞いてみると、18階層の集落――リヴィラというらしい――はかなり悪徳の街のようで、地上では取引が違法になるものですら流通しているという無法地帯でもあるようだ。誰か通報しろ。
「手荒なことはなさいませんように」
「分かってるけどねー。せめてゴライアスと戯れてストレス解消できたらいいけどさ」
まあ、さすがに手持ちの片手剣は、中層向けといわれているのでゴライアスの防御を貫くことは出来ないだろう。これは、修理して貰っている巨剣を引き取ってからのお楽しみということになりそうである。
「じゃあ、軽くマップの整合性の確認をしながら18階層まで降りようか。サポートお願いね」
「了解しました。魔石、及び素材の収集とマッピングを優先的に行います」
そういう細かいことは私は苦手なので、エルティナに丸投げしてしまうのが私の悪いところだな。ごめんね、エルティナ。
『それじゃ、今から中層に入りますね、ワカヒルメ様』
『おっと、いよいよか。大丈夫だとは思うけど、くれぐれも無事で帰ってきてくれよ』
『もちろんです。では、お土産を楽しみにしててください』
そこからはそれほど語ることはない。相変わらず火を吹くワンちゃんがたくさん出現して、四方八方から火炎攻撃を受けたが、あらかじめエルティナにデバンドをかけて貰っているので、被ダメは大したことはなく、ネクストジャンプを多用してターゲットを外しつつ一匹ずつ丁寧に討伐していった。この子達がリザさんみたいに理性を持ってくれたら、モフモフして戯れたいなぁと思う。
続いて武器を持ったうさちゃんの大集団まで出現し、久しぶりに歯ごたえのある戦闘を繰り広げることが出来た。途中で、ヘルハウンド集団に追い回されていた冒険者集団
「ふぅ……毛先がちょっと焦げちゃった」
ツインテールの先っちょのほんの一部がチリチリになっていてちょっとショックだ。アイテムパックからはさみを取り出して、そこだけカットしておいた。ついでに枝毛が数本あったので、ついでに切っておく。ちゃんとお手入れしないとなぁ。
「お嬢様。魔石及びドロップアイテムの回収、完了しました」
エルティナが私が倒したそばからアイテムの回収にかかってくれているので、大変効率的だ。時々エルティナにも攻撃が行くが、すぐにレスタで回復できるので無傷だ。ついでに私も回復できるので一石二鳥だろう。エルティナも冒険者ステイタスが向上していて、更に魔導の発展アビリティがあるお蔭か、回復や支援の効果が上がっているように思える。
私は、はさみを量子化してアイテムパックに収納して、ちょっと埃っぽくなったスカートをバサバサと払って、細かい砂埃を取り払って、ついでに自慢のでっかいツインテールに手ぐしを通して身を整えた。
「さて、じゃ、次行こうか」
「了解しました。それにしても、やはり敵が多いですね」
「そうだね。前の時(遺跡のオラリオ)よりも出現率は上がってる気がするね」
「冒険者が多いからでしょうか」
「だと思う。割と獲物を譲って貰うことも多くなったし」
パスパレードは悪い文明という人はたくさんいるし、パスパレードは正当な戦術だという
私は、自分の獲物を他人にあげる趣味はないので戦術としてなりたっていないし、貰えるものは喜んで貰うだけだ。もちろん、感謝も忘れない。
「さてと、次は15階層か」
「ようやく半分ぐらいですね」
「夕方までには18階層に付きたいけど。ギリギリになりそうだね」
レベル2になりたての身体もだんだんキレが良くなってきているようだ。今までは若干振り回される感覚があったが、どんどん追従性が良くなっているというか、馴染んできているというべきか。
「エルティナはどう? 身体に違和感とかない?」
「特に問題はありませんね。私は戦闘をしておりませんので」
「そっかー、エルティナにもちゃんと身体を動かす時間を取らないとダメかもね」
「分かりました」
ひとまず通信でワカヒルメ様に15階層に入ることを伝え、いよいよ中盤戦に突入することになった。
「このあたりからミノタウロスが出現し始めるんだっけ?」
「そのようです。リザ様も一度大群を相手にしたとのことですので、注意するべきでしょう」
「あとは、ライガーファングって言うライオンみたいなのもでるって言ったっけ?」
「仲間モンスターを呼び寄せるとのことですので、ミノタウロスよりもやっかいかも知れません」
「モンスターの分布は遺跡の時と大体同じっぽいね」
「そうですね」
スィデロさんの剣が最後まで持てばいいけどね。
15,16階層ではミノタウロスとは出会ったが、リザさんが遭遇したという大集団にはならず、3,4体程度の小規模集団との連続戦闘がせいぜいだった。
「さすがにあの図体だと攻撃が重いね」
石斧みたいな武器を力任せにたたきつけてきたのを一発だけまともに剣で受けたせいで、腕の骨に小さなヒビが入ってしまい、さすがにビビった。
戦闘終了後、エルティナからレスタを貰って全快したけど、さすがに何発も食らったらポッキリイッてしまうだろう。
剣は大丈夫だが、ほんの小さな刃こぼれが生じてしまっていて、戻ったら早速メンテに出さないとダメそうだ。
「18階層に付いたら、とりあえず砥石を当ててみるかなぁ。あんまり得意じゃないんだよね」
包丁なら素人仕事程度に研げるが、これぐらい刃渡りが長いと、どうしても研ぎムラが出てしまいそうで、いっそやらない方がマシじゃないかとも思う。
剣を鞘に刺さずに、刃の面をじっくりと眺めていると、遠くから獣の遠吠えが聞こえた。
「結構数多いね。近づいてくるのかな?」
「そのようですね。人間の複数人の足音の反応もありますので、おそらく逃亡中のパーティがいるのでしょう」
「合流できるかな?」
「誘導します」
と、エルティナが手元にコンソールを起動してマップの誘導を若干変更し、私のHUDにも反映させた。
「17階層の入り口から遠ざかる方向か」
「おそらく、現在位置を失っているのではないでしょうか?」
「迷ってたらモンスターの大集団が現れて泣きっ面に蜂ってことか。あるあるだけどね」
判明したからには助けに行こうと、私はエルティナを伴ってそっちへと向かっていった。
『ごめんなさい、ワカヒルメ様。18階層への到着は結構遅れるかもです』
『わかった。キミ達の思うとおりに行動するといいよ』
『そろそろ合流します』
「足音は3人分だったけど、4人パーティーだったか」
ちょっと長い通路の向こうからやってくる男女の集団は、一人の大男が気を失って完全に脱力している女性を背負って走っているようだ。
「エルティナは、あの人達を回復してあげて。私はここで迎え撃つよ」
「分かりました。先に合流します」
そう言って、エルティナは立ち止まった私にデバンドをかけてから先行してパーティに合流し、そのまま走り続けるように伝え、
「すぐに戻ります」
と、エルティナは声をかけてくれて、そのまま少し先の広間に向かっていった。
「前衛はヘルハウンドで、中央にライガーファングがいて、アルミラージも結構いるね。いいね、大漁だ」
確かにあの数だと逃げたくなる気持ちも分かるし、その向こうから追加の宴が発生する可能性もあるし、エルティナ達が逃げ込んだ先が安全とも言い切れないが、エルティナが一緒だからなんとでもなるだろう。
私は、剣を構え直し、すぅ……と息をついて、ネクストジャンプを繰り出して素早く天井付近に跳躍し、そのまま敵の頭上から中心にいるライガーファングを目指して吶喊した。
ちょうどいい具合にライガーファングの脳天を貫いて、一撃で絶命させることが出来、突然リーダー的存在が排除されて群れは混乱したようだ。
「モンスターに集団行動は難しいよね。特に群れの頭が潰されたらもう、ただの烏合の衆でしかないよね」
そのまま私はライガーファングの遺骸を壁代わりにして徐々にヘルハウンドの数を減らしていき、時々襲いかかるアルミラージをなぎ払いつつ、エルティナがいないのでなるべく負傷を避けるように慎重に丁寧に戦った。
ネクストジャンプでいったん天井付近に登ってしまえば、アルミラージのトマホークの投擲か、犬の炎攻撃ぐらいしか届かないので態勢の立て直しにはもってこいだ。
大半倒したところで群れが撤退し始めたので、追わず、残りの敵を処理してエルティナの到着を待った。
「お待たせしました、お嬢様」
「お疲れ、エルティナ。あの人達は?」
「無事治療を終えました。気を失っていた女性も戦闘可能な状態に戻りましたので、おそらく問題は無いと思われます。この後は地上へ戻るとのことでしたので、帰り道を教えておきましたが、それでよろしかったですか?」
「十分だよ。私達はこのまま17階層だね」
「はい、それほど順路から外れていなくて助かりましたね。魔石とアイテムの収集に入ります」
「私も手伝うから、早く済ませちゃおうか」
「すみません。お手数をかけます」
「いつもありがとうね」
私達は休憩がてら魔石の回収とドロップアイテムの拾得を行い、その場でちょっとだけ飲み物を取り出して一服することにした。
さて、17階層にゴライアスはいるだろうか。それが楽しみだ。