ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
スクルドファミリアとの合同討伐をその後何度も行って、24階層の出口までの進行訓練を重ねる。これを続けて、時折イレギュラーを処理し続ければいずれはレベル3になるだろうということ。
一般的なランクアップってそういうものなんだと私は知った。
なんかこう、”でかくてつよいてき”を倒せばばばーんと偉業達成とかじゃないんだね。
それを伝えたら、「それが出来るのは本当に限られた天才だけだよ」と辛そうだった。
「なんか、ごめんなさい」
巷では最速記録とかもてはやされている私達に言われたら、皮肉にしか聞こえないよね。悪いことをしてしまったと思う。
トムさん達がいろいろ調べてくれていて、25から27階層がでっかい滝になっていて、そこに階層主が出現するという。そして、その先の28階層に安全階層があるということらしい。
「それなりに情報料を取られたが、信用できる筋だ」
「あー、私も払いましょうか?」
「いや、いい。君には必要なのだろう?」
「まあ、そうですけど。借金じゃないですからね?」
ともかく、下層進出はスクルドファミリアの誰かがレベル3になってからということなので、今は準備の時間だ。出来れば、レベル4が一人いれば安全性が段違いらしいが、無い物ねだりは出来ないとのこと。ひとまずは25階層を見学みたいな感じで立ち入って、少しでも無理だと分かれば即時撤退。レイアさんの判断には絶対服従ということが決められる。
このパーティーで一番冷静で慎重なのはレイアさんだから、それは正しいことだと思う。なんとなくレイアさんは私以上に危険察知能力が高いように思う。
いや、私って危険察知能力高いのか? むしろ低いかも。そのへんはエルティナにお任せである。ごめんね、エルティナ。
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「間違いないよね?」
「はい、これで5回数え直しましたので」
つまり、これを聞くのは5回目と言うことで、そろそろエルティナですら怒り出しそうである。ごめんね、エルティナ。
「やっとかぁーーー。長かった……まじで!」
「お疲れ様でした、マスター。やはり、ゴライアスの素材と魔石を売却できたのが大きかったですね」
「ホントだよ。トムさんには感謝だ!」
スクルドファミリアと同盟を組んで、ある程度の秘密保持を約束して貰えたので、早速ゴライアスの外皮と魔石の換金について相談してみたところ、表では処分しづらいもの引き取ってくれる店を紹介して貰ったのだ。
あんまりこういうところを使いたくはなかったが、背に腹は代えられないので何とか換金してもらうことになったのだ。相場よりはずいぶん安く買いたたかれたようだが、手元で腐らせておくよりは100倍はマシだ。
もちろん、スクルドファミリアの方がたには謝礼を若干支払って、ようやく私達の一番の懸案事項はクリアできてホッとした。
「それにしても50万ヴァリスって、思ったより少ないね」
テーブルの上に、金貨の入った革袋が鎮座しているが、苦労した割にはこぢんまりとしているように思えた。これは、あれだ、一生懸命節約してやっと100万円貯められたと思って実際に札束にしてみたら、以外に薄かったときの感じだ(実際の感想)。
「うーん。私って、思ったより稼げてないのかなぁ」
冒険者は確かに一般職に比べると稼ぎが一桁違う。しかし、その分冒険者向けの物品は一般の品目に比べると爆発的にインフレしているので、いくら稼ぎがいいといっても冒険者としては及第点ぐらいでしかないのだろう。いや、むしろ、及第点にすらなってない可能性が微レ存か? 分からん。そういう話はスクルドファミリアともしてないから。飲み会のついでちょっと聞いてみるか。
「では、早速スィデロ様に納金に向かいますか?」
「そうだね。もったいぶっても仕方ないし、このまま工房に行ってみるよ」
「分かりました。私は、洗濯をしております」
「あー、ごめん。ちょっとためちゃったね」
思い出したら、ベッドに脱いだ普段着や下着がそのまま散らかった状態だった。うーん。オラクルだったら、アッシュとかアフィンみたいに男の子が訪ねてくる可能性もあったからそういうのは気をつけるようにしていたけど、それがないとずぼらになってしまって良くないな。
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そんなこんなで50万貯金できて、いよいよスィデロさんに、剣を受け取りに行くことを伝えに行ったら、工房ではなく、ファミリアのホームに来てほしいと言うことを言われた。日時も指定されたので、他の人がいるところで支払いと受け渡しをしっかりと終わらせようということなのだろう。
本当なら、完成までしばらくかかる予定だったが、団長の椿さんが
「むしろ、俺の仕上げ作業の方が時間かかったぐらいだったぜ。いやぁ、オリハルコン、ハンパねぇな」
ガハハハと笑うが、それって笑い事なの?
当日になって、エルティナを伴ってずいぶん久しぶりのヘファイストスファミリアのホームを訪れる。エルティナに付いてきて貰ったのは、受け渡しの際に団長の椿さんと主神のヘファイストス様も同席すると伝えられたので、一人だとちょっと不安に思ったからだ。
ヘファイストス様の執務室というところに通され、そこにはすでに件の椿さんがデスクの側に立っていて、初めて目にする女神ヘファイストスがその席に着いていた。
私とエルティナはひとまず頭を垂れて敬意を示した。日本の神様なら二拝二拍手一拝をするべきだろうが(しなくていい)、相手はギリシャの神様なので作法を知らないから、一番無難なところで済ませた。
「お初にお目にかかります、神ヘファイストス。わたくしは、ワカヒルメファミリアで団長を務めておりますベルディナと申します」
「同じく、副団長を務めております、エルティナと申します」
本当なら、”年上の”エルティナが先に挨拶するべきだろうが、今回は団長である私の方が先に挨拶をすることにした。
「初めましてになるかしら。私はヘファイストス。このファミリアの主神よ。よろしく」
ヘファイストス様はそう言って席から立ち上がり、私達の側に歩み寄って手を差し出した。
「よろしくお願いします」
私とエルティナは順番にその手を握り、軽く上下に振った。
その後、椿さん、スィデロさんもエルティナと自己紹介をしあって、とりあえず序盤は終了といったところだ。
「えっと、早速ですけど、こちら、お約束の50万ヴァリスです。ご査収ください」
「うむ。では、いったん受け取ろう……スィデロ、任せたぞ」
「あいよ、姐さん」
「ここでは団長と呼べ」
「分かったよ、団長」
椿さんはヴァリス硬貨の入った革袋を受け取り、そのままスィデロさんに手渡し次の指示を送ったようだ。
「それじゃ、また後でな」
「あ、はい」
スィデロさんはそう言っていったん執務室を後にした。
「さて、彼が戻るまで少し話をしましょうか。そっちに座っていただけるかしら?」
と、ヘファイストス様は、執務室の横にある応接間に私達を案内して、その間に椿さんがお茶を持ってきてくれた。
「まず、どうしても聞いておきたいことが一つあるわ。あの剣をどこで手に入れたのかしら?」
「ここからすごく遠くの遺跡に埋まっていました」
まあ、それは気になるだろう。なにせ、自分の銘が刻まれた武器にもかかわらず、おそらく今まで見たことがないものが突然現れたのだ。しかもそれが、団長の椿さんですらいまだ作り得ないものであるのならなおさらだろう。普通なら誰かが金ほしさに勝手に銘を刻んだとも考えられるが、武器の品質からいってその程度の鍛冶師が打てるものではないだろうし。
といっても、嘘をついても神様には通用しないので、エルティナと相談して、ワカヒルメ様にも手伝って貰い、嘘にならない程度に事実を隠せるように工夫した。
「嘘じゃない……けど、本当のことでもないわね」
ヘファイストス様の目が少し鋭くなった気がする。まあ、分かるよね。だけど、こちらはそれ以外に言い様がないのだ。
「具体的にどの遺跡で拾得したかは言うことが出来ません。私達は皆様をその場所にお連れすることが出来ませんし、たどり着くことも不可能でありますので」
「それは……故郷の神聖な場所ということかしら」
「お伝えできません。申し訳ありませんが、ご容赦していただきたいと思います。しかし、間違いなく盗むなどの不法な手段によって入手したものではないことは明言しておきます」
子供という設定の私がいうよりも大人であるエルティナがいった方が説得力はあるだろう。
「なるほど。分かったわ、何か事情があるみたいだから、これ以上は追求はしないでおくわね。まあ、私も長いから、私の名前にちなんだ銘を武器に刻むことも過去には行われていたのでしょう」
絶対に納得できていないだろうけど、ヘファイストス様はとりあえず矛先を納めてくれるようだ。こういう、腹の読み合いとか探り合いって苦手なんだよなぁ。私の嘘はすぐにバレるって、アッシュやマトイちゃんにも言われてたし。
「さて、お客人、お茶の代わりはいかがかな?」
なぜか給仕になってしまった椿さんに、「あ、じゃあお願いします」と、図々しくお替わりを頼んでちょっと乾いてしまった口の中を潤した。うちのとは違う、来客用の高級茶葉が脳に染み渡るようだ。ヤバイ薬とか入ってないだろうね?
「待たせたな。支払いはぴったり確認できた。それと品物を持ってきたぞ」
でかいノック音と同時にスィデロさんが、何人か伴って入室してきた。
「返事を聞いてから入ってきなさい」
「おお、そうだったな。がははは」
いや、笑って済ませちゃダメだよスィデロさん。
「そちらが私の剣ですか?」
私は立ち上がり、スィデロさんと一緒に入ってきた人たちが運んできた、白布に包まれた巨大な物体に駆け寄った。それは、割と屈強な男の人たち(ファミリアの職人さんかな?)が頑丈なキャスターに乗せて、えっちらおっちら運んできたようで、その重量感が手に取るように分かる。
「おう、ようやく到着したか。待ちわびたぞ」
椿さんはそう言って、豪快に白布をはぎとった。
「すみません、何も見えなくなったんですが……」
思った以上に大きい白布だったようで、手元が狂ったのか、それは私を頭から覆い隠してしまったようだ。しかも、無駄に大きいので私の短い手では振り払うことすら難しい。
「おお、すまぬ。背が低かったのでな、手が滑った。わははは、許せ」
絶 対 に ゆ る さ ん
まあ、むくれていても話が進まないので、とりあえずむかっ腹を引っ込めて運んできて貰った私の巨剣を見上げた。頑丈で高級感あふれるキャスターに乗っけてくれるのはいいけど、もう少し私のことを考えてほしかったな。手を伸ばしても微妙にグリップに手が届かないので、どこかに足場でもないかと探してみるが、
「おお、そうか。手が届かんか。すまんな、気がつかなんだ。よっこらしょ……これでよいか?」
「子供扱いですね」
椿さんは更にとどめを刺すように、私の背後に回って両脇に手を入れて、でっかい胸のあたりまで持ち上げてくださりやがった。
「うん? おぬしは子供であろう?」
まあ、そういう設定だけどね。子供といっても、もうちょっとレディとして扱ってほしいものである。
「いや、しかし。母親というのも悪くないのかもしれんな、この邪魔で仕方ない乳房も、子を包み込むのであればちょうど良いというものだ」
なんか、
かなり視線が高くなったので、ゆっくりと私の巨剣を見下ろして眺めた。
「改めてみるとでっかいですね」
長さもそうだが、幅も私には盾に使えるぐらいはある。色合いは全体的に白く、その重量故に肩や背中に乗せて運搬することも考えてか、片刃になっている。
大きさはコートエッジぐらい、見た目はザンバとかD-A.I.Sセイバーが一番近いかもしれない。(ツンツン頭ソルジャーの初期装備的なやつ)
「これでも多少は削ってあるが、オリハルコンはそもそも重量が段違いだ。本当におぬしに持てるのか?」
椿さんはちょっと心配そうだが、何の問題も無い。
「試してみましょうか?」
私はそう言うと、腰掛けていた椿さんの腕から飛び降りて、こっそりとスィデロさんが用意してくれた踏み台を上って、ようやく手が届いた私の巨剣のグリップを握りしめ、ひょいっと持ち上げた。
相変わらずシステムは何の反応も返さないが、武器をフォトンで覆ってやれば重量軽減や、慣性中和も有効なので、そのまま片手で、人や物に当たらないようにブンブン振り回してみた(危ない)。
「うん……バランスが良くなって、かなり扱いやすいです。なんか、握った瞬間に見慣れない文様が浮かんできたんですけど、これはなんですか?」
私が剣を握った瞬間に、刀身の全体を覆うように刻まれた何らかの文字が浮かび上がり、数秒で見えなくなってしまった。ルーン文字みたいなものか?
「ああ、その文様は戦闘時以外に切れ味をあえて落とすものだ」
幼女が巨大な武器を片手で振り回すのを見て、ちょっと気を取られていたのか、私の質問に答えるまで少し間があった。
「切れなくしちゃうんですか?」
「その大きさだと鞘を用意することが出来なくてね。だけど、むき出しだと危ないでしょう? だから、戦闘時以外はわざと切れなくなるようにしてみたのよ。それと、あなたの魔力に反応して効果を発揮するから、あなた以外が使っても切れないようになってるわ」
なるほど。確かにその方が安全だし、個人認証機能まで実装されているなんて、かなりハイテクじゃないか。私、そういうの好きです。
「そうなんですか。それって、後から解除して貰うことは出来ますか? 手放すときとか」
「もちろん、その時は無料で対応してあげるわ」
「あと、仲間に一時的に使って貰ったりは?」
「はっきり言って、その武器をまともに扱えるのは、オッタルぐらいだと思うわ」
まあ、そうかもね。フレイヤファミリアのオッタルさんはこの街最強のレベル7で、筋骨隆々の偉丈夫ということらしいから、これぐらいの巨剣でも扱えるかもしれない。
後は、ロキファミリアのガレスさんぐらいかな、ぱっと思いつくのは。
「なるほど……だいたい分かりました。丁寧なお仕事、感謝します」
私は、巨剣をいったん背中に回して、腰のマウント部分に繋止することで固定した。手を離してもしっかりとつなぎ止められていて、軽くジャンプしたりその場でくるくる回ってみてもズレることもないので問題なしだ。
宙返りは……さすがに室内なのでやらない。
こうすることで剣の切れ味がなくなって、タダの硬くて太いだけの板と同じになる。使う際に私の魔力に反応して切れ味を取り戻すらしいので、訓練であえて切れ味を落とした状態にしておけるのかどうか確認すると、強く意識すればそれも可能とのことだから、帰ったら練習してみよう。
「それでは、本日はありがとうございました。また、メンテナンス等々お願いすることになりますが、その際はよろしくお願いします」
「うむ。スィデロが忙しいときは、手前が担当してやるから、気軽に声をかけてくれ」
「おいおい、姐さん。これは、俺が責任持って管理するって約束だったじゃねぇか」
「たまには手前にもいじらせろ」
「あなたたち、それは今話すことじゃないでしょう?」
スィデロさんと椿さんがなにやらわちゃわちゃやり始めたので、ヘファイストス様がこの場を納めるように手を叩き、
「それじゃ、また何かあったら訪ねていらっしゃい。防具とかも、相談してくれればなるべく対応できるようにするわ」
「分かりました。なるべくヘファイストス様のところで買えるよう努力しますね」
と言っても、この武器以上のものが必要になるとはなかなか思えないので、主には防具になりそうではある。防具も高いけどね、貯金しないと。
その後、スィデロさんに玄関まで送って貰い、私は背中の巨剣がいろんなところに当たらないように注意しながら歩いてようやく家路につくことが出来た。
「うーん。やっぱり、新しい武器って言うのはわくわくするね。早速明日のダンジョンで使おうか」
「その前に軽く地上で訓練をしておいたほうがいいと思われますが?」
「そうかな? じゃあ、明日は12階層までってことで」
「それなら……問題は無いと思います」
武器が変わるとトムさん達との連携も少し変えていかないとダメだから、手に馴染んだらスクルドファミリアの人たちを誘って、また中層アタックをしてみようか。