ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
新章突入です
不穏
――武装したリザードマンが、24階層から27階層で度々目撃されている
――武装したリザードマンを討伐しようとしたレベル4を含む冒険者パーティーがまともに戦闘することも出来ずあしらわれて逃亡を許した
――第一級冒険者に匹敵する強化種ではないか
――今のところ大きな被害はないが、さらなる強化がされる前に何とか対処する必要があるのではないか
――第一級冒険者ですら手が出せなくなる前に討伐隊を結成するべきである
『以上が現在、オラリオ、リヴィラで主な話題になりつつある事柄です』
それに気がついたのはたまたまだった。いつも通り24階層を周回してレベリングと金策に励んでいたところ、帰りの休憩がてら立ち寄った18階層のリヴィラでリザードマンの強化種についての話を耳に挟んだのだ。
『これって、間違いなくリザさんのことですよね?』
『まさしく私のことだろうな。私以外に考えられない』
気になったので、それから二日ほどリヴィラとオラリオの両方でシステムを利用して噂を集めてみると、嫌な予感が的中することとなってしまったのだ。
『だけど、まだ大きな被害は出ていないらしいので、そこは感謝しています』
そして、今日、ダンジョンアタックをお休みしてリザさんも交えた緊急会議を開催するに至ったのだ。もちろん、他の人に聞かれてはいけないから、通信機越しだけどね。端からは、私とエルティナの二人が黙って難しい顔で座っている光景に見えるだろう。家事をしながら出来る話し合いじゃないので、そこは仕方が無い。そういえば、今日は私が洗濯の当番だったな。会議が終わったらすぐやろう。
『人間と敵対したいわけではないが、やむを得ず応戦したことはある』
『それは正当防衛でしょう』
冒険者がリザさんを認識してしまった。いや、今はまだ魔石で強化されたリザードマンが中層から下層を周回している程度のものだが、そのリザさんが理性を持っていて
『だけど、討伐隊はまずいね。リザさんを信用したいけど、逃げたところで今回ばかりは諦めなさそうだし』
『近々、オラリオで大きなことが起こりそうですので、そのための予備動作と考えても良いと思われます』
『
『何があるのだ?』
近々、下層でロキファミリアが階層主を討伐するので手を出すなと言う通知はワカヒルメファミリアにも届けられている。それとともに、
『詳しくは分かりません。しかし、この半月ほどでオラリオとリヴィラで”
『人の口には戸は立てられないってね。だからこそ、イレギュラーは極力排しておきたいってことか。分かるなぁ、私だってそうする』
『更に深くに逃げるしかあるまいか』
『さらにっていうと、30階層以下ってことですよね? 大丈夫ですか?』
『行けるという自信はある。しかし、命の危険は増すだろう』
30階層以下と言えば、もう深層の入り口に近い場所だ。深層はまるで世界が違うと聞いているが、30階層以下もそれに順ずるものと考えていいだろう。つまり、一人で周回するには危険すぎるということだ。
『リザさんにもお仲間がいればいいんですけどね。そういう出会いとかありませんでしたか?』
『可能性はある。しかし、確信に至ってはいない』
結局、私達三人だけではろくな結論は出せない。リザさんが何とか冒険者に敵ではないと認識されて、ギルドが保護対象と認めてくれない限りは、いたちごっこの繰り返しだ。
今回だけなら更に深くに潜っていけば、冒険者も追跡を諦めるかもしれないが、その次は分からない。それに、どんどん再会が遠のくのは精神的に辛い。いくら、どこにいても通信できるといっても直接会えないとなると心配でしかない。
『最悪、ギルドのルールを破ってでも下層に進出し、リザ様にとって安全な場所を探すことになるかもしれません』
『そうだね。私が本気を出したら、多分深層ぐらいはソロで行けるだろうし。いや、多分ね』
行ったことはないけど、まあ、今は強がらせてほしい。もっとも、深層がマザーシップ・シバ以上に危険なところなら勘弁してほしいけどね。深層も、【ディバイドクエスト】や【終の慟哭】みたいな仮想空間で訓練できれば、本番も緊張しなくてすむけどさ。
初見殺しで命を失うのだけは勘弁願いたいところだ。
『深層か……恐ろしくも憧れる場所であるな』
『深層は、上位のファミリアであっても階層を重ねることが難しいと言われています』
『リザさんが深層で活動できれば、ある程度は目をごまかせるってことかな?』
『少なくとも、冒険者の追っ手を振り切ることは可能かと』
『うーむ。強くなるしかないか』
『絶対に先走らないでくださいね。一応、こっちからもマーカーは確認できるので、勝手に深層に行ったらバレますからね』
『分かっている。自ら死ににいくようなことはしない。いかにして生まれたのかも分からぬ命だが、粗末にするつもりは毛頭無い』
『はぁ……それにしても、レベル2で深層に進出か。また、ワカヒルメ様を困らせそうだなぁ……』
覚悟を決める時が来たのかもしれない。そして、ワカヒルメ様を結果的に裏切ることになりかねないと言うことを。ギルドを敵に回すと言うことはオラリオを敵に回すと言うこと。そして、モンスターの味方をすると言うことは、人類の敵になるということだ。
「たとえ、すべてを敵に回しても果たすべき役目がある……か、アッシュとマトイちゃんはそれでも戦ったんだよね。アークスの、すべてに敵対されてもさ……私は、そんなに強くはなれないよ」
「マスター、そんなに思い詰めないでください。きっと何とかなります。今までもそうでした、これからもきっと」
「ふふ……エルティナはさ、サポートパートナーなのにそういう優しいことを言ってくれるから好きだよ。ありがとうね、これからも私を支えてほしい」
「私だけはたとえ何があったとしてもマスターの味方です」
「私が間違った道を歩いたとしても?」
「常に側で支え続けます」
「そこは、ちゃんと止めてほしいなぁ。まあ、だけど嬉しいよ」
私はそう言って、エルティナを抱き上げて横向けに膝に座って貰った。エルティナは生身ではなく、
某アニメでいえば、これがゴーストということなのかもしれない。ゴーストというと形のないもの、不明瞭なもの、存在しているか分からないものと受け止められるけど、私はそれはシンプルに心と表現するのが一番しっくりくるように思える。
「ねえ、エルティナ。そろそろワカヒルメ様にもリザさんのことを伝えるべきなんじゃないかな?」
「それは……私では判断しかねます。ワカヒルメ様を信用したいですが、あまりにも常識とかけ離れすぎていますので、心労を与えすぎてしまうのではと」
「そうだね。ワカヒルメ様には、これ以上苦労して貰いたくないよね」
今までが苦労の連続だったのだから、これからはご自分の目標に向かってただひたすら邁進していただきたいと私は心から思う。だけど、ファミリアという家族の一員なのだから、秘密を持っていることの方がワカヒルメ様にとっては悲しいことなんじゃないかとも思う。それに、私にとってリザさんも家族の一人みたいなものだから、やっぱりワカヒルメ様には認知していただきたいとも思う。
「うーん。これ以上考えても意味ないな……よし! 今日は、どこか美味しいものを食べに行こう。ワカヒルメ様も誘ってね」
先日、ようやく私の巨剣をお迎えすることが出来たのだから、そのお祝いもしたいと思っていたんだ。
「そうですね。店を予約しておきます」
「うん、よろしく。ワカヒルメ様の予定は私が聞いておくから」
今は出来ることを何とか探そう。諦めなければきっと、状況は向こうからやってきてくれるはずだ。その時にちゃんと動けるよう、今は準備をしよう。