ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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冒険者依頼

 リザさんの討伐隊が組織されるかもしれないという噂がにわかに立ち始めてから二日ぐらいたった頃、私達は何かあったときのためにいろいろ準備を進めているところだった。

 

「さすがにトムさん達を巻き込むわけにはいかないよね」

 

「やめておいた方がよろしいと思います。下手をすれば、ギルドの規約を破ることになりかねませんので」

 

「というよりは、最終的には人類への反逆か……嫌だねぇ、モンスターにもいい人がいるのに。冒険者にも極悪人(怪物)がいるみたいにさ」

 

 特にリザさんなんて、下手な冒険者よりも誠実ですらある。なにせ、ここまで来てもまだ私との約束を守り、冒険者の命を奪っていないのだから。

 

「私も、見習わないとね」

 

「だからこそ、助けるべきです。準備は、もう万全でしょうか?」

 

「そうだねぇ。ポーションもいいやつ買ったし、虎の子のエリクサーも買ったし、顔とか身体を隠すローブみたいなのも購入したから」

 

 ゴライアスの素材を売ったヴァリスがまだ残っているので、ここはちょっと奮発して高品質のポーションを3本と、清水の舞台から飛び降りる思いで買った虎の子のエリクサーが1本だ。なお、アークスであれば清水の舞台程度なら椅子から飛び降りるぐらいの感覚なので、譬としては適していないのだけどね。

 エルティナがいれば、ポーションいらずだが、何らかの理由で一緒に行動できなくなった場合の保険だ。

 

 後は、身体を覆ってこちらの姿を分からなくするローブとかだね。もちろん、普通の布製だからステルス性能なんて皆無だけど、何か言われたらとりあえずしらばっくれられればいいと思う。たぶん、無理だろうけど。なんか、サラマンダーウールとか言う炎に強い性能があるみたいなので、今後のためにも買っておいて損はないだろうと言うことで購入してみた。

 

「ゴライアスの素材を売って貰ったお金って、まだ残ってるの?」

 

「そうですね。およそ2割ほどは残っていますね」

 

「結構、高く売れたんだね」

 

「相場は分かりませんでしたが、トム様は、「かなり値切られた」と言っておられましたね」

 

「うーん。出所がちょっと怪しいからねぇ。むしろ、売れたことに感謝かも」

 

 私の巨剣の修理費に50万優先的に貰って、残った分の半分はファミリアの資本金として納め、残りもう半分は私達の冒険のために資金にさせて貰っている。当分使う予定はなかったが、他ではない、リザさんのためだからなにも惜しくはない。

 

「そういえば、そろそろリザさんの新しい武器も考えないとだね」

 

 リザさんが今使っているのは、遺跡のオラリオで拾ったそれなりの業物だが、それでも使い続けると切れ味が落ちてきているらしい。研ぎ直しをするにもいったんは代わりになる武器が必要なので、何かしらを見繕う必要がある。

 

「さすがにそこまでの資金はありませんね」

 

「そうだね。下層でってなると、少なくとも……50万ぐらいは必要なのかな? もっと?」

 

「スィデロ様に相談しなければなんとも分かりませんが。念のため100万はプールしておいた方がよろしいと思います」

 

「大金だねぇ」

 

 話に聞くと、深層を安定して攻略できれば1000万ぐらいはすぐに稼げるということらしいが、そこまで行くのにあと何ヶ月かかるのやらと言うことだ。

 

『ベルディナ、エルティナ、ちょっといいかい?』

 

 突然、仕事中のはずのワカヒルメ様から通信が入った。お昼休みの雑談ついでに通信してくることは時々あるが、このタイミングというのも珍しい。

 

『ワカヒルメ様ですか? どうかしましたか?』

 

 私はエルティナに目をやって、リザさんとの回線が遮断されていることを確認して貰い応答した。

 

『私もマスターの側におります』

 

『そっか、よかった。ちょっと二人に会いたいって神がいるんだ。急ぎでってことらしいから、出来れば明日は時間を空けてくれないか?』

 

『私達に? どなたですか?』

 

『君も多分知ってると思う。オラリオではかなり有名な正義のファミリアの主神って言えばわかるかな? アストレアだ』

 

『アストレア様ですか。大物ですね……分かりました、時間を空けておきます』

 

 そうしてワカヒルメ様との通信は終わり、私はちょっと腕を組む。

 

「うーん。そんな有名どころの神様が私達になんの用かな?」

 

「少し、きな臭いですね。リザ様討伐についてでしょうか?」

 

 リザさんの討伐隊についてはまだギルドからも正式な発表はないから、それがアストレアファミリアがになう確証も無いけどね。だけど、なんとなくエルティナの言うことは正しい気がする。根拠? 女の勘だよ。

 

「そうなると……ある意味チャンスか? 一緒について行って、内部から妨害してやれば……ってそれじゃテロリストか……しかも、一番最低なやつだ」

 

 アニメで言えば真っ先に断罪されてサヨナラする(オブラートに包んだ表現)やつだね。

 なんというか、こういう裏でこそこそとか、誰かを利用するとか、嘘をつくとか苦手なんだよね私。

 

 まあ、とにかくいったんは出たとこ勝負だ。アストレアファミリアの人たちが討伐隊を組織するんだったら、それを出し抜いてリザさんを逃がすための方針を考えないといけない。

 私は頭が悪い(脳筋な)のでこういうことはエルティナに任せてしまうだろうけどね。ごめんね、エルティナ。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

 と言うわけで、気合いを入れるために前日は牛肉のステーキをワインと一緒に食べて、食後には奮発して買ってきたケーキを3人で頬張って、いい感じだった。さすがにワンホールを3人で食べたのは無茶だったけど、幸せだったね。

 

「なんだか、まだ身体が砂糖で出来てる感じがするよ」

 

 食べているときはニコニコだったけど、一晩たってさすがに胃もたれがしているのか、ワカヒルメ様はちょっと歩きにくそうだった。

 しかし、アストレア様のホームである星屑の庭に到着する頃には、私達の主神様らしくしっかりと背を伸ばしておられた。

 

 ワカヒルメ様は「エヘン」と一度咳払いをして、ドアノッカーを勇ましく三回ならして、出てきたエルフの女性に、

 

「私はワカヒルメファミリアの主神、ワカヒルメだ。貴方の主神、女神アストレアの招待に応じ参上した」

 

 うーん。こういうところでも、神様同士の関係の難しさが感じられるなぁ。

 相手の眷属に対しては、やはり神様なので立場は上と振る舞う必要があるけど、相手の神様にはある程度の敬意を示しつつ、神様同士であるので対等の関係であるべきという、実にややこしいやり方をしなければならないわけだ。

 私なら、舌がこんがらがって、脳がショートして煙を噴いちゃうね。

 

「主神より話は聞いております。ようこそいらっしゃいましたワカヒルメ様。眷属の方がたもこちらへどうぞ。ご案内いたします」

 

 美しくも勇ましい雰囲気の女性は、それでも恭しく膝を折って頭を垂れた後、ワカヒルメ様を先導するように歩き始めた。カーテシーというやつだろうか? エルフというのは何をしても絵になるのだからズルいと思う。

 

 惜しむらくはもう一回り胸が大きいと更に迫力が増しただろうに。本当にもったいない。

 

「うん? お客人、なにかおっしゃいましたか?」

 

「いいえ? なにも」

 

「そうでしたか。失礼」

 

 うーん、鋭いね、このお姉さんは(ベルディナの方が年上)。

 

 若干思考が不毛な方向に向かいかけたところでおそらく目的地である主神室に到着したようだ。

 

 エルフの美女はドアを三回ノックして、

 

「ワカヒルメ様と眷属の2名をお連れいたしました」

 

「お通しして頂戴」

 

「失礼します」

 

 扉を開けて一礼し、そのまま私達のために開けたままにしてエルフの女性は中へと迎え入れてくれた。

 

「案内、御苦労だったね」

 

「いえ……」

 

 ワカヒルメ様がちょっと横柄な態度を取っているのは、やはり、零細であっても神であることを示す必要があるからだ。

 

 本神(ほんにん)はもうちょっと気楽でいたいというのだが、しかたの無いことなのだろう。オラリオでは無礼(なめ)られたら終わりなので。

 

「よく来てくれたわね、ワカヒルメ。それと、猫又(ツインテールキャット)一般小人族(リトル・ノーマル)のお二人も」

 

「いえ、お招きいただき光栄です、アストレア様」

 

 私もエルフのお姉さんにならって、片足を引いて頭を下げ、カーテシー披露してみた。スカートが短いので手は添えるだけ。

 

 しかし、二つ名というのはなかなか慣れないね。最初聞いたときは、「何じゃそりゃ」ってなったよ。エルティナなんて、まさか本人の希望が通るなんて思ってなかったから、むしろ驚いてたし。

 

 他にいろいろ候補はあったみたいだけど、私は教えて貰っていない。何でも、アストレア様からも候補をいただいていたらしいけど、残念だったね。

 

「さあ、立ち話じゃ、格好が付かないわ。こちらへどうぞ」

 

 アストレア様の側に控えていた団長と思える赤髪の美少女が、パンと手を叩いて私達を側の応接間へ案内してくれた。やっぱり、どのファミリアも来客用の応接間は備えているようだ。

 

「お茶をお持ちしました。どうぞ」

 

 と、皆が席に着いた頃を見計らって先ほどのエルフの女性が部屋に入ってきて、人数分の紅茶を出してくれた。

 

「さて、今更だけど自己紹介をしておきましょうか。こちらは、アストレアファミリアの団長を務めているアリーゼ・ローヴェルよ」

 

 とアストレアは手のひらを隣の赤髪の女性に向けてそう言った。

 

「ご紹介にあずかりました。私はアリーゼ・ローヴェルといいます。二つ名は紅の正花(スカーレット・ハーネル)よ、よろしくね。バチコーン☆」

 

 なんか、真面目そうに見えたけど、結構愉快な人のようだ。しかし、そのウィンクはなかなか様になっていていいなぁ。私も真似しようかな。

 

「それで、先ほど案内と給仕をしたエルフの女性がリュー・リオンよ」

 

「よろしくお願いいたします。リュー・リオンと申します。二つ名は【疾風】です」

 

 ふむ、このエルフのお姉さんはウィンクをしないのか、まあ、堅物そうだから仕方ないのか。

 

「丁寧な紹介ありがとう。それじゃあ、こちらからも。こっちの小さいのが団長のベルディナで、その隣の小人族がエルティナだ」

 

「小さいのは余計ですね。まあ、こんななりでも団長をしています、ベルディナと申します。名字はありません。二つ名は猫族(キャットピープル)じゃないのに猫又(ツインテールキャット)です。よろしくお願いします。バチコーン☆」

 

 せっかくなので、私もアリーゼさんに習って派手にウィンクをしてみた。アリーゼさんは「あら、やるわね?」と、すごく喜んでくれたみたいだけど、アストレア様とリューさんは「こいつもか……」って感じで頭痛が痛そうだった。まあ、分かる。

 

「私は小人族のエルティナと申します。名字はございません。二つ名は一般小人族(リトル・ノーマル)です。よろしくお願いいたします」

 

 エルティナはさすがにウィンクはしなかった。そりゃそうか。エルティナの普通さに癒やされたのか、アストレア様も調子を取り戻して、穏やかな笑みをお取り戻しになられた。

 

「さて、本題に入る前に確認しておきたいのだけど、今回の依頼はかなり機密性が高い内容になるわ。受けるにしても、断るにしてもここで話した内容は一切口外することは許されないのだけど、いいかしら?」

 

 アストレア様は、穏やかな口調の中にも強い意志で私達に確認を向けた。美人のすごみのある笑みはいいね、ちょっとゾクッとする。

 

「つまり、逃げるなら今のうち……と言いたいのかな?」

 

 ワカヒルメ様もそれは承知の上らしい。もちろん私も理解している。

 私は嘘が顔に出やすいらしいけど、秘密を守るのは多分出来るはず。といっても、機密情報に触れる経験も訓練もしてこなかったから、ちょっと不安ではあるけどね。

 

「ここまで来たら逃げられませんよね? こんなに美味しいお茶もいただきましたし」

 

 私は、最後に残ったお茶を飲み干してゆっくりとソーサーに戻した。いい葉っぱ使ってるなぁ。

 

「ねぇ、クッキー食べる?」

 

 アリーゼさんは、どこから取り出したのか、高そうなクッキーを私に差し出してきた。餌付けのつもりかな? まあ、貰うけど……。

 

「ありがとうございます」

 

 基本的に私は甘いものには勝てないのだ。

 

「お茶のお替わりもお持ちしました」

 

「あ、どうも……」

 

 乾き物にはやっぱりお茶がないとダメだね。気を利かせてお茶を持ってきてくれたリューさんには感謝だ。

 

「問題は無いみたいだね。話を続けてほしい」

 

 ワカヒルメ様は、なんとなくだけど呆れた様子に見える。私がお菓子で買収されたとでも思ったのだろうか。否定は出来ない(しろよ)。

 

『少しは緊張感をもってくれよ、ベルディナ』

 

『いやぁ、なんかすみません』

 

 エルティナは何も言わなかったが、ワカヒルメ様はわざわざフォトン通信で釘を刺してきた。なんか、苦手なんだよねこういう場は。

 

「ええもちろん。アリーゼも……いいわね?」

 

 アストレア様はアリーゼさんにちょっと強めの視線を送っている。おそらく、内容は私とワカヒルメ様の通信みたいな感じだろう。アイコンタクトっていいよね。

 

「もちろん。私はいつでもバッチコーイですよ、アストレア様」

 

 あ、これはダメですね。アイコンタクト失敗です。残念。

 

 しかし、胸を張ってフフンと鼻を鳴らすのは、普通なら鼻持ちならないやつと思われて、敬遠されそうなものだけど、どういうわけかアリーゼさんだとむかっ腹が立たないのは不思議だ。人徳というか、何かしらのカリスマみたいなのがあるってことかな?

 

 私? 幼女に人徳とかカリスマ感じたらやばくない? 通報された方がいいよきっと。

 

「本題に入るわ。これはまだギルドからも発表されていない秘密の話だけど、もう噂にはなっているのかしら? 下層領域に、強力な強化種が出現したわ」

 

 やっぱりかと私は最後のクッキーをかみしめた。

 

「噂には聞いているよ、ダンジョンリザードの強化種……だったかい?」

 

 ワカヒルメ様も噂は聞いていたようだ。私は意図的にその話題を避けてきたけど、バイト先やいろんなところで話は聞いていたのだろう。

 

「そうね。その強化種の討伐の強制任務(ミッション)が私達に下されることになるわ。そして、これは、もう一つの秘密。闇派閥(イヴィルス)が、下層領域で活発化している。何かしらの行動を起こそうとしているのではないかと予想されているのね」

 

闇派閥(イヴィルス)……性懲りも無く……」

 

 ワカヒルメ様は膝においた手を握りしめられた。私は闇派閥(イヴィルス)が何をしてきたのか知らない。しかし、それを聞いた人々、神々すべてが視線を落とし、歯を食いしばり眉間にしわを寄せて拳を握りしめて、言葉なく笑みを失って、最後にはまぶたを閉じて天を仰ぐのだ。

 

 おそらくは、彼女達(冒険者)にとっての彼ら(イヴィルス)私達(アークス)にとっての宇宙の敵(ダークファルス)なのだろう。

 

 

――――救われる道はないのだろうか――――

 

 

闇派閥(イヴィルス)との決戦も近い。だからこそ、後顧の憂いをなくしておきたいの」

 

「そのための助っ人が欲しいってことかい?」

 

「そうね。保険と考えて貰ってもいいわ。皆が無事で生きて戻ってくるため、私に出来るかぎりのことをしたいのよ」

 

「つまり、私達に強化種の討伐の同行を望まれるとのことでしょうか?」

 

 ここまで口をつぐんでいたエルティナが初めて言の葉を紡いだ。

 

「ええ。その通りよ、一般小人族(リトル・ノーマル)。どうか、私達を助けてほしいの。あなたの(魔法)があれば、きっと多くの命が助かる。だから、その力を貸してほしいの」

 

 アストレアはそう言って深く頭を垂れた。神が子に頭をされる重さは、アークスの私達には計り知れないことだ。

 

『マスター、いかがいたしましょう?』

 

 故に、エルティナでは判断できないこととして、私にそっと通信してきたというわけだ。

 

『うーん。私は受けてもいいと思うけど。ワカヒルメ様はどうですかね?』

 

『二人の判断に任せる……って言いたいけどね。やっぱり、助けられる人は助けてほしい』

 

 ワカヒルメ様の神意も下った。なら私は、ただ前に進むだけだ。

 

「分かりました、アストレア様。私達がお役に立てるのであれば喜んでお受けします……ちなみに、エルティナの護衛として私も同行したいと思いますが、かまいませんよね?」

 

「もちろんよ。本当に……ありがとう……」

 

 これで私達も当事者になった。同時に、裏切りの道すらも確定しつつある。

 

 全部が丸く収まる道があればいいんだけどね。

 

 

 

 

 






ゴライアスのお蔭でワカヒルメファミリアは多少潤っています。

ウダイオスの黒剣から作られた覇黒の剣の制作費が4億ヴァリス越えと考えると、本体価格は5000万から1億ってところでしょうかね?

そうなると、ゴライアスの売却価格は100万から500万ぐらいが妥当なところと考えています。


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