ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
暗く閉ざされた空間、小高い丘を思わせる祭壇の上に座る老人を、その椅子の両側に置かれたかがり火の
わずかな風の流れに、黒い法衣を身に纏った老翁は薄くまぶたを開き、わずかに口を開く。
「フェルズか」
重々しくも低い声は、小さいながらも静寂の祭壇に響き渡り、更に頭のからつま先までローブで身を包み、その表情すらも隠してしまっている人物がそれに応じて姿を見せた。
「聞きたいことがある、ウラノス。重要なことだ」
その声は男か女か、幾重もの音が折り重なり合いあたかも作り物のような声からはそれを推測することは出来ず、その身なり、体躯からも、果たしてそれは人なのかどうかすら分からない。しかし、それは、心なしか焦っている様子を見せているように思えた。
「アストレアファミリアのことか?」
老者……ウラノスは「ふぅ……」と一息ついて、瞑目していたまなこを今度はしっかりと開いて、祭壇の下に立つ人物に目をやった。
「ならば、話が早いな。なぜ、アストレアファミリアを巻き込んだ」
問い詰めるその声にウラノスはやはりこのものは反対するだろうとも予想していて、それが的中したことを今ここで確信した。
「それが最適だと判断したからだ」
「最適だと? バカな。これは明らかに
それは、10数年前ダンジョンにて発見された、理性のあるモンスター達を総称する言葉だ。故に、彼らが武装したリザードマンが下層で行動しているという噂を聞いたとき、そのうちの一人である同じくリザードマンの
全く新しい、リド達も把握していない個体が最近になって現れたのだと確信するに至った。
「すぐにでもガネーシャファミリアに協力を仰ぎ、リド達も連れて、速やかにそのものと合流するべきではないのか。アストレアファミリアが介入する余地は何一つないはずだ」
フェルズの言葉は正論であるとウラノスも分かっていた。それでもなお、さらに先を望んでしまったのだ。なぜか、それはもう神意としかいいようがないことだ。神ではない人にはその真意を理解することはおそらくできない。
「私は、これをよい機会だと思っている。フェルズよ、かの
そこまで言えば、聡明なフェルズには簡単に理解することが出来る。
「つまり……協力者がいるということか?」
「確信はない、あくまで私の推測だ。しかし、まるで的外れとも言えぬ」
「ならば今回のことは、その協力者をあぶり出すことも目的の一つというのだな?」
「それもある。そして、アストレアファミリアをこちら側に引き込めぬか、私は長く考えていた。これがよい機会であると私は考えたのだ」
アストレアファミリアもガネーシャファミリアと同様に民に寄り添い衆に手を差し伸べる秩序の者達だ。だからこそ、わかり合えるのではないかとウラノスは考えていたのだが、今まで実行に移せなかった。
「危険な賭だぞウラノス。アストレアファミリアは正義を志す善なる者達であるが、その正義の中にモンスターが含まれることはないだろう」
光が強いほど闇は濃くなる。正義を強く志すが故に、その絶対的背反存在であるモンスターへの敵愾心もまた強くなるのだ。
「理ある者であるのなら、彼女たちは言葉を持って相対できると私は信じる」
それは願いだ。人と怪物の調和こそが望まれた未来であり、その真意はどこまでも謎に包まれている。
「分かった、ウラノス。しかし、私は私の判断で動かせて貰う」
人には神意を理解できない。ダンジョンの最奥に何が待っているのか、フェルズであってもそれは全く想像すら出来ないことだ。しかし、ウラノスを信用することは出来るが故に、自身の信念に基づいてその神意に乗ることも出来る。所詮は神の手のひらの上で踊らされるのであれば、せいぜい愚者らしく滑稽に踊ってやろうではないか。
「ああ、頼む」
ウラノスは再び瞑目して背もたれに身体を預けて、「ふぅ……」と深く息をついた。また、祈りに入ったと彼の姿は告げていた。
フェルズは何も言わずにローブを翻してその場を後にした。
――愚者は踊る、異端なる舞を 賢者は嗤う、己が愚に 異端者は走る、どこへも知れず――