ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
太陽は差し込んでこないが、一応時間的には夜が明けて、軽く朝食を食べていよいよ行動開始だ。
私は定番のベーコンエッグを焼いた食パンにのっけて食べていたが、それを見ていたライラさんが「よう、いいもん食ってんなぁ。アタシにもちょっとくれよ」と、チンピラみたいにカツアゲしてきたので、ちょっとだけあげた。卵黄は私のだから絶対あげない。
卵黄は堅く焼く人もいるが、私はちょっと熱を通す程度の半熟にもなってないぐらいが好きだ。卵白はしっかりと全部固めるけどね。あと、味付けは塩と胡椒だけ。醤油やソースなんて軟弱なものはかけないのだ(戦争不可避)。
こっちの世界では、日本やオラクルとは違い、鮮度の問題があるが、私の生命維持装置を突破できる菌なんてそうそう無いから気にすることはない。さすがに生卵は食べないけどね。私は卵かけご飯はあんまり好きじゃないんだ。釜玉うどんは大好きだけどね(自己矛盾)。
こうやって、ダンジョンでも料理できる余地があると心にも余裕が出来ていいことだ。といっても、リザさん救出作戦のいいアイディアはまだ浮かんでいないけどね。
そうして、25階層へいよいよ踏み込む段になって、その出入り口を象のマスクを付けた不審者っぽい人たちが固めていたが、どうやら彼らがガネーシャファミリアの団員と言うことらしい。三人いるので、かなり強固に封鎖する決意がにじみ出ている。
「お疲れ様です! 休憩はしっかりと取ってくださいね!」
と、私は特に休憩を長く取ってくれないかなぁと願いながらペコリとお辞儀をした。
「ああ、ありがとうな、お嬢さん……いや
エルティナにはこの人達に遅効性の睡眠薬か、下剤でも盛るのはどうかと提案してみたが、さすがにそれはダメと言われた。さすがに冗談だけどね。
「いよいよですね、アリーゼ。慎重に行きましょう」
リューさんがそう言って気を引き締める。
24階層を出るときのミーティングでは、いったん27階層まで捜索しつつ降りて、それで発見できればよし、発見できなければ28階層の安全地帯で一泊して次の日はもう一度25階層から27階層を更に念入りに調べる。その後29階層以下を調べていくということらしい。
何か行動を起こすにしても、この周辺のマップが無い状態なので、私達はマップの作成に意識を向けておこうとエルティナと確認した。25階層から28階層の出口までのマップがしっかりとできあがったら、どのように行動するのかがある程度見えてくるだろうと言うことだ。
「すごい滝ですね。なんか、吸い込まれそう」
私は目の前にどうどうと流れ落ちる莫大な水流にしばしあっけにとられた。おそらく水源は地下水なのだろうけど、これほどの量が何千年も流れ落ち続けているという事実が大自然の雄大さを感じさせる。しかも、ここは地底湖だ。地底にこれほどの滝があるなんて、地球じゃ聞いたことがなかったから、何かしらの仕掛けがあるのかもしれない(実際は存在する)。
「この階層では水生のモンスターが多いからな。気をつけろよ、中層と同じ感覚でいたら死ぬぜ?」
ライラさんがエルティナを諭すように口にした。ようは、地下洞窟に魚類や甲殻類みたいな海のものがいると言うことだから脳がバグるね。ひょっとして人魚みたいなのもいるんじゃないかな?
「釣りとかしたら食材ゲットとかあります?」
基本的に私は食いしん坊なので、そういうことばかり気になってしまう。さすがにモンスターを食べようとは思わないけどね、お腹の中が灰だらけになりそう。
「やめとけ。逆に水中に引き込まれるぞ」
「水に落ちたら最後、一気に27階層までたたき落とされて挽肉になりますねぇ。馬鹿なことはしない方がよろしゅうございますね?」
輝夜さんはとても奇麗な笑みで助言してくれるが目が笑ってないんだよなぁ。あんまり、ふざけたことは言わないでおこう。
「輝夜、彼女たちは初めてなのです。もう少し言葉を選んだ方がいいのではありませんか? まだ子供ですよ?」
そりゃあ、長命なエルフにとって私なんてまだまだ子供でしょうよ、ええ(言いがかり)。というか、リューさんはいくつなんだろう? これでももう50歳とか越えてるんだろうか(誹謗中傷)?
「だからなんだ? ここでは大人も子供も関係ない。気を抜いたら死ぬのはお前も同じだろう、若輩者。お前の方が子供みたいにはしゃぐな、未熟者め」
そういえば、この街では何歳からが大人なんだろう? 15歳ぐらい? それとも、子供が作れるようになったらとか? さすがにそれは未開すぎるか(偏見)。
「輝夜! あなたという人は!!」
なーんで、こんなところで喧嘩が始まっちゃうんですかね? 分かってます? ダンジョンですよここ(お前が言うな)。
「あのー。さすがにここで喧嘩するのはまずいと思うんですけどね?」
一応、私が原因で喧嘩しているみたいなので、私から仲裁するのが筋だろうと思って口出しさせて貰った。
「おいおい、子供に諭されて、恥ずかしいなぁお前ら」
ライラさんは嫌みな笑みを浮かべながらもケラケラ笑った。火に油注いでない?
「お嬢様、敵影を確認しました」
エルティナはさすがに冷静だね。今このときもサポーターとしての仕事を忘れていなかった。
「どっち?」
「10時の方向です」
「あっちか……確かにいるね」
HUDに示されたターゲットを望遠モードで拡大したら、魚のうろこを纏った人型のモンスターが群れをなしてこちらにやってきているようだった。この場所は、足を滑らせたらすぐに滝に真っ逆さまなので、少し行ったところで迎え撃つのが良さそうだ。
「輝夜、リオン、行くわよ!」
アリーゼさんも私と同じ判断をしたのか、喧嘩をすぐにやめて自分の得物を抜いた二人に指示を飛ばして、自身もすぐさま駆けだした。
「マーマンの集団かよ。あいつら普通はこの辺にはいないはずだが、登ってきやがったか?」
ライラさんはリュックから何か道具を取り出して、三人に遅れて駆けだした。
「お前らも、ボーッとしてんなよ」
「私達も行こうか」
「補助をかけておきましょうか?」
「うーん。大丈夫じゃないかな?」
私も背中から巨剣を抜いて駆けだした。
「数は……20ぐらいか」
「すでに半数に減じています」
「ヤバイね。私達の獲物がなくなっちゃう」
私の仕事はエルティナの護衛だから、積極的に戦う必要は無いが、せっかくの下層の戦闘なのでできる限りは戦いたいと思う。
「あんまり前に出ないでね」
いったん私達のところまで下がってきたアリーゼさんは、私にそう釘を刺してきた。
「あ、はい……」
そう言われてしまえば仕方が無い。皆さんがお漏らししたのだけ突っつくことにしようか。
「皆さん、強いですねぇ」
レベル4のリューさんと輝夜さんが前戦で大暴れして、他の方がたが魔法や飛び道具などで援護して、マーマンの集団はあっという間に殲滅されてしまった。
「自慢の団員よ」
この感じだと、27階層までは私の出番はなさそうだな。その分、どう暗躍してやろうかと悪巧みする時間がとれるということだけど。本当にこのいい人達を騙すのは心苦しい。
私は、いったんは巨剣を背中のマウント部に繋止して戦闘状態を解除した。
「ねえねえ、その剣ってどうやって固定してるの?」
今更それを聞いてくるのか、この人は。割とみんな普通にしていたから、誰も気にしてないのかと思った。
「魔法ですね」
「それって、
「だいたいあってます」
「ちょっと見せて?」
「いやです」
だって、外せないからね、しょうがないね。
「おーい、団長。子供からカツアゲすんなよな」
「してないわよ、ライラ」
うーん、下層にてこの余裕。さすがは有名どころのファミリアは違うなぁ。
「お嬢様。水中にもモンスターが存在しているようですので、ご注意を」
「飛び出してくるとか?」
エルティナの警告に私は近くを流れる小川を眺める。見た目だけでは、少し流れは速いが、穏やかな流れに見えるけどね。
「その可能性は考慮するべきです」
「そうなんだ。イルカみたいなジャンプしてくるのかな?」
と、私はいったんエルティナの方に向いて肩をすくめた。こんな小川を泳ぐイルカとかちょっと見てみたいけどね。ひょっとしたらトビウオとかそういうのか?
「来ます! 後ろです」
エルティナは私の背後に向かってウォンドを向けた。
「分かってるよ……っと!」
私のHUDにも敵対を示すマーカーが私に肉薄してきていたのは表示されていたので、振り向きざまに巨剣を抜いて、空中に水しぶきを上げて躍り出てきた、私の背丈よりも若干大きい、
どうやら魔石すらも砕いてしまったらしく、遺骸が地面に落ちる前に灰となって風に散っていき、何も残らなかった。
「ちょっともったいなかったか。まあ、いいや」
追加のモンスターは来ないことをHUDのレーダーで確認し、私はもう一度巨剣を背中のマウント部に繋止して戦闘状態を解除した。
それにしても下層に立ち入った瞬間に連続戦闘とは、これが下層か……なんとも、心躍るね(一般アークス並感)!
「無事でしたか?」
「はい、怪我はありませんでした。一体だけだったので何とかなりましたね」
一応、無事を知らせるためにその場でぴょんぴょん跳ねて、一回だけくるりと回って見せた(あざとい)。
「それならいいのですが」
「みんな無事ね? それじゃ、魔石を回収して出発しましょうか」
しかし、いちいち魔石を回収しないとダメなのは面倒だよね。自動回収装置とかの
みんなで魔石を回収して、改めて出発となった。とにかく今は雌伏の時だ。まだリザさんのいる30階層への進出は先だから、今はこの階層のマップの作成に従事しよう。
まあ、最終的には30階層に入った瞬間に迷子になって人知れずリザさんと合流するしか無いだろうけどね。そうなると、本当に余裕がないんだよね。