ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
ギャグパート?的なあれです。
食後のミーティングが終わり、ベルディナはさすがに疲れたのか、早々にテントに引っ込んだ。移動中は大体背中のマウント部に繋止していた巨剣だが、さすがにこの大きさをテントに格納するわけにも行かないため、テント前の地面に巨剣をまっすぐ突き刺しているのだが、それを興味深げに見つめるアリーゼがそこにいた。
「近くに見てもでっかいわねぇ」
本人は見た目よりも軽いと言っていたが、本当だろうかとちょっと思う。レベル4の、近接メインの冒険者としては目の前の武器にはやはり興味がある。特に、これほどの巨大な武器となると、せいぜい猛者オッタルか、
「だけど、あの子は軽々と使ってたしね。しかも片手で。それなら私でもいけるよね?」
それでも大きな武器にはそれなりに利点はある。巨大な敵、堅い装甲を打ち砕くにはそれなりの膂力が必要で、それを補うには武器の重さ、大きさというものが有効になることもあるわけだ。
「ちょっと、借りてもいいかしら?」
そう言って、アリーゼは深々と突き立てられた巨剣のグリップを片手で握り、いつも使っている片手剣の要領で地面から引き抜こうとしてびくともしないことに唖然とした。
「え? 軽いんじゃないの?」
今度は丸太に突き刺さった斧を抜く感じで、少し腰に力を入れて、ぐいっと引き抜いてみようとしたがそれでも1セルチも動くことはなかった。
「嘘でしょ。めちゃくちゃ重いじゃない! 仕方ないわ、両手で――ふぬぅ!」
今度は両手で大根(あるのかな?)を畑から引っこ抜く要領で、思いっきり腰と足に力を入れて、息を止めて顔が真っ赤になるぐらいに力んでみたが、やはりびくともしない。
「ぜーはー……重すぎでしょ、何これ、何で出来てるのよ?」
負担が腰に来たようで、力を抜くと同時に地面にへたり込んでそのまま大の字に寝転びたくなってしまった。
「どうかしましたか? アリーゼ」
「ああ、リオン。お疲れ。まだ寝てないのね」
「ええ、少し気が高まっているのでしょうか。目がさえてしまって」
「そうなのね。じゃあ、ちょっと運動してみたら?」
「運動、とは?」
「そうねぇ、あの子の巨剣を持ち上げてみるとか?」
「それは、この剣のことでしょうか? 見た目よりもずっと軽いとのことでしたが」
「そりゃあ、子供でも振り回せるんだから、
「む、ならば挑戦してみましょう」
リューもアリーゼの挑発にわざと乗っかって、選定の剣のごとく大地に突き刺さった剣に手をかけ、神妙な顔で一度大きく息を吸って、レベル4のステイタスにものを言わせて引き抜こうとした。
「びくともしない……なんですか、これは。こんなものをあの子は振り回していたと言うことですか?」
「両手使ってみたら?」
「それで何とかなるとは思えませんが……やはり無理ですね」
両腕に最大限の力をかけてみるが、わずかほども動かない。
「二人でやってみる?」
「そもそもアリーゼも持ち上げられなかったのでしょう?」
「そ、そんなこと、ないわよぉー」
下手くそな口笛を吹くアリーゼにちょっとリューも呆れるが、これもちょっとしたレクリエーションだと思い、アリーゼと二人力を合わせて巨剣を引き抜こうとしたが、わずかに動いた程度でそれ以上はちょっと無理だった。
「さすがに二人なら行けると思ったんだけど!」
「一体これは何で出来ているのですか? この大きさでこの重さでは、オリハルコンぐらいしか思いつかないのですが?」
「まっさか。この量のオリハルコンって、どれだけかかると思うのよ」
「想像したくありませんね」
リューが巨剣のブレードを一瞥するが、そこにはわずかな傷の一つも付いていない。下層に降りてある程度の戦闘を経験しているにもかかわらず、刃面には一つの曇りもない。
「
「だったら、それこそ青天井ね」
なんとなく敗北感が双肩にのしかかっている感じがして、二人は居心地悪く黙って視線を交差させる。
「なあ、二人ともそろそろ寝ろよ。明日も早いんだろ? 子供のいるテントの前で騒ぐなって」
呆れた風にネーゼがあくび混じりに二人のもとに歩いてきた。夕食後にガネーシャファミリアと共に明日のミーティングを終わらせてからはめいめい自由時間となっていたが、さすがに皆テントに入って明日に向けて身体を休ませているところだ。
「申し訳ありません、ネーゼ。さあ、アリーゼ、テントに戻りましょう」
「うーん。なんか、悔しいのよねぇ」
「何やってたんだよ」
意外に負けず嫌いを発揮しているアリーゼに、ネーゼは事情を聞く。
「えっとね、あの子の剣を二人で持ち上げようとして全然ダメだったのよ」
「あの子?
ネーゼはこんこんと、グリップを指でこついでみた。
「彼女は、見たほど重くはないと言っていましたが。アリーゼと私の二人でもびくともしませんでした」
「マジか。だったら、あの子、めちゃくちゃ豪腕ってことじゃん」
「そうなのよね、なんか、悔しいよね。だからね、最後に三人で挑戦してみない? これで最後にするから」
「アリーゼ……いい加減に」
「まあ、それで満足するならアタシはいいけどさ」
「ありがとう、ネーゼ。リオンはどう?」
「仕方ありませんね。これで最後です」
「じゃあ、三人並んで、手は交互に握り合いましょう。いい? 3,2,1で一気に引き抜くわよ」
「1で力入れるの?」
「そうよ。いちぃぃぃっっ!!! って感じでよろしく!!」
「アリーゼ、耳元で叫ばないでください」
「いいから早くしようぜ。アタシ、もう寝たい」
「行くわよ。3、2、1。――!」
三人とも息を合わせて、極力声を張り上げずに静かに腹の底から力を込めて巨剣を引き抜こうとして、ようやく剣先が地上より放たれた。
「やった! 抜けた――ぐへぇ!!」
「アリーゼ! 今気を抜いたら――うぐぅ!」
「ちょ……ま、――はぎゃ!」
アリーゼが思わず喜びで力を抜いたらどうなるかというと、大重量の巨剣が何の支えもなく三人に向かって倒れ込んでくるだけだ。しかも悪いことに、腕や足やらがもつれて、三人とも奇麗に川の字に倒れ込んでしまい、その上に巨剣が静かに乗っかるという、上から見たら串に通された蒲焼きみたいな様相が見て取れるだろう(譬が悪い)。
三人で力一杯でようやく動かせた巨剣を、力の入らない体勢でのしかかられてしまえば全く身動きがとれないのは道理だ。幸いなことに、呼吸や血流に問題のあるところが圧迫されていないようだが、さすがにこの状態で朝になって発見されるのは恥ずかしすぎる。
「ど、どうしましょう。動けません」
「もう、このまま寝ちまうか? 朝になったらさすがに誰か助けてくれるだろう」
「ダメよ、そんなの美しくないわ!」
わちゃわちゃやっているところに、軽い足音が近づいてきて、三人は思わずそっちに目を向けた。
「あのー、私の剣で遊ぶのはいいんですけど。もうちょっと静かにしてくれません? 目が覚めちゃいましたよ」
薄い生地のワンピースを寝間着代わりに身につけたベルディナが、いつもはでっかいツインテールにしている髪を両方とも下ろした姿で三人を見下ろしていた。立っていても毛先が足首まで達していることから、その長さのほどがよく分かるだろう。これでいて艶が保たれており、枝毛がほとんどないというのだからチートというものだとアリーゼは思う。
「あちゃー。ゴメンね? 助けて?」
アリーゼもさすがに両手を挙げて降参したようだ。
「分かりました」
そう言って、ベルディナはグリップの方に回り込んで右手で中程をつかみ少し集中した後に細い枝でも拾い上げるような感覚で、巨剣をひょいっと持ち上げた。
「いったい、それはどうなっているのですか? まさか、その文様に秘密が?」
「まあ、大体あってます。これは、私専用の武器なので」
「あー、やっと自由になれた。ゴメンな、
ネーゼは素直に謝ってそのままテントの方に向かっていった。もう、付き合ってられんと言うことだろう。
「それじゃ、私も寝ますので、お二人ももうお休みした方がいいですよ?」
ベルディナは巨剣を何度かくるくる回して、その勢いで先ほどと同じ場所に突き刺してからテントに入っていった。この重量なら盗まれる心配も無いから外にほっぽり出していると言うことだ。
「うーん。恥かいちゃったわね!」
「まったくです。こんなところ輝夜に見られていたらどうなっていたか」
「そうね。三日ぐらいはからかわれそうね!」
「嬉しそうに言わないでください」
肩を落としたリューに、あくまで前向きで朗らかなアリーゼはそのままテントに戻っていきその後すぐに寝入ってしまった。
実はテントの隙間から見物していた輝夜に次の日早速からかわれることになって、リュー・リオンのやる気が下がった。
※お願い※
ギャグパートなので、上級冒険者三人で巨剣が持ち上げられないのはおかしいと思われた方は、どうかご容赦ください。
※ストックがなくなったので、またちょっと間が開きます