ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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転輪

 さて、昨晩はアリーゼさん他二名がアホなことをしていたせいで、朝になって他の団員に馬鹿にされているようだったが、私には関係が無いので放置しておく。人の装備品で遊ぶのはよくないねと言うことだ。小娘達にはよい薬になっただろう。

 

 私? こんななりでももうそろそろ21歳のBBAだからね、一応念のため言っておくけどさ。

 

 とりあえず朝ご飯に、あらかじめ作っておいたスクランブルエッグに軽く塩を振って、スライスしたバゲットに挟んで作った簡単なタマゴサンドをエルティナと二人で分けて食べた。やっぱり、トマトスライスとレタスがないとちょっと物足りないね。

 

 さすがにお茶を入れる時間は無いので、ぬるめの白湯(さゆ)でお腹を温めてようやく目が覚めた。

 

「ふぅ……今日も頑張ろう……」

 

 そのまま寝間着(パジャマ)にしていた薄手の黒いワンピースを脱いで、丁寧にたたんで物入れに入れるフリをしてアイテムパックに格納し、さらに夜用のブラも外してたたんで格納し、代わりに取り出したダンジョン用に頑丈な布地で出来たブラと、お決まりの冒険者装備に身を包み、下ろしていたピンク髪をいつものでっかいツインテール(Nナイトメアヘアー)に結わえ直し、テントの前に突き刺しておいた巨剣を引き抜いて景気づけにくるくると何度か回してから背中のマウント部に繋止して準備完了となった。

 ちなみに、ショーツは昨日寝る前にしっかり交換済みだ。ダンジョンだから、同じ服を何日も着ることになるのは仕方が無いけど、せめてショーツぐらいは毎日新しいのを着けたいよね。

 

「あなた、せめて着替えるのはテントの中でしなさいよ」

 

 なぜか、アストレアファミリアの団員さんに注意されたが、女性しかいないんだから別にいいんじゃないの? 全裸になるわけじゃないんだから。

 

 そうこうしているうちに、他の団員さんも準備を終わらせて最後に団長のアリーゼさんが合流して出発になった。

 

「さて、昨日もミーティングしたけど、念のため軽く伝えておくわね。今日も昨日と同じ25階層から27階層まで入念に探索するわ。昨日通らなかった場所を重点的に。出入り口はガネーシャファミリアが押さえてくれているから、私達は中に集中しましょう。何か質問は? ――――ないわね? それじゃ、いったん25階層まで一気に上るわよ」

 

 ここで体調不良を理由に28階層にとどまって、隙を見て30階層に降りることも考えたが、私に仮病が使えるとは思えないのでやめておいた。

 

『やっぱり、隙を見て水に落ちて27階層まで一気に降りるのが妥当なのかな?』

 

 問題は出口を抑えているガネーシャファミリアの人たちだけど、幼女一人ぐらいなら快く通して貰えないものだろうか、キャンプに忘れ物したとかさ(無茶言うな)。

 

『私はあまりおすすめはしませんが、マスターの判断には従います』

 

 あの滝を落下したら、冒険者なら死を覚悟しなければならないようだが、アークスには高い落下耐性があるから、まあ、余裕だろう。下が水面ならなおさらだ。落下の衝撃で深く沈んだとしても生命維持装置が酸素を供給してくれるから、岸辺まで湖底を歩いて行けばいいわけだしね。もっとも、水中での戦闘は面倒だから極力避けたいけどね。

 

『なるべく25階層のうちにやりたいから、モンスターの集団が出たところでタイミングを合わせよう』

 

 昨日の感じでは下層では常に宴が発生しているようなものだったから、チャンスはいくらでもあるだろう。

 

『私が過失を装って前に出て、モンスターの襲撃を受けたところでマスターがカバーをして、そのまま事故を装って水に落ちるということですね』

 

『うん。打ち合わせ通りにお願い』

 

 詳しく打ち合わせをしたわけではないが、エルティナと私ならきっと上手くいくでしょ。信じてるよ。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

「なあ、団長。妙だぜ、マーマンが多すぎる」

 

 25階層にもどり、再度27階層に降りようというところでライラさんがそうつぶやいた。妙なことってなんだろう。確かにさっきからマーマンが徒党を組んで襲ってきてるのは確かだけど。そういうものなんじゃないの?

 

 私はエルティナの護衛を主としながらも、割と前戦からマーマンが漏れてくるので、それらをちぎってはなげするばっかりだった。あんまり経験値が入っていない気がするが、今回はあくまでお手伝いがメインなので仕方ないと思うことにしている。

 

「そうね。確かに妙だわ。しかも、量も多いし」

 

 おそらく下層でも活動し慣れていると思われるアリーゼさん達にとってもこのモンスターの出現量は異常と思われているのか。これだけ頻繁に戦えるなら、金策もレベリングもはかどっていいなと思っていたけど普段はこうではないということなのかな?

 ボーナスタイムってやつか、いいね。(違う)

 

「妙なのはそれだけではありませんね。普通なら、壁やらいろんなところから出現するはずが、こいつらは最初から徒党を組んで押し寄せてます。まるで、連中が25階層を警邏(パトロール)してみるようには見えませんか?」

 

 輝夜さんの言うことは大変よく分かりやすかった。

 

「つまり、裏にマーマンリーダーがいるかもしれないと言うことですか、輝夜」

 

 リューさんもなにかに気がついたようだ。私はなにも分からない。マーマンにリーダーってのがいるのか?(不勉強)

 

「しかも、それは強化された個体かもしれないってことね。ちょっと見過ごせないか……」

 

「マーマンにもリーダー格がいると言うことでしょうか」

 

 エルティナが私の代わりに聞いてくれた。多分、エルティナはそれを知っているだろうけど、私のためにわざと聞いてくれたんだと思う。とてもマスター思いのいいサポートパートナーだ。

 

「下層に来るんだったらそれぐらい調べとけ。マーマンリーダーっていう、マーマンどもを指揮するやつがいるんだよ。だけどよ、まだ姿が見えねぇ。それが妙だってことだ」

 

 エルティナがライラさんに怒られた。私のせいなのにごめんね、エルティナ。

 

「明らかに指揮官が存在するような挙動をとりながら、指揮官の姿が見えない。むしろ、恐ろしいことと思います、アリーゼ」

 

 リューさんが全部まとめてくれた。まあ、大体分かった。

 つまり、25階層で何らかのイレギュラーが起こっていると言うことだ。

 

「全く、リザードマンの強化種だけでもやっかいだってのに、マーマンにまで波及しやがった。どうなってんだ?」

 

 ライラさんが毒づくのも分かる。言ってしまえば、ロックベアを討伐しに行ったのに、なぜかクロームドラゴンまで出現したみたいな感じなのだろう。しかも、そのなかで一番最悪のアポストロドラゴンが現れて唖然とするやつだ(XHのナベリウス森林ではよくある)。

 

 ゲームではアポストロドラゴンに殺意を抱きながらクエスト破棄していたが、リアルで出現したときは「え……? ちょ……マ??」と変な声が出て、そのままパーティー率いて尻尾巻いて逃げようとして逃げられなかったので、私が囮になってみんなを逃がした思い出が脳裏をよぎった。

 

 もちろん勝ったけど、思わずFワードを連呼してしまうぐらいボロボロにさせられた。その時はまだ後継職(ヒーローとかファントムみたいなの)が来ていなかったので、FoTe(フォース・テクター)というバリバリの後衛職で戦わないと行けなかったのでマジで時間かかったものだ。

 

「何呆けてますの? やる気が無いなら帰った方がいいですよ」

 

 穏やかだがきっつい輝夜さんの言葉が、ちょっと思い出にふけっていた私を現実に引き戻した。

 

「あ、すみません。すぐに準備します」

 

 うーん。アポストロドラゴンのことを思い出すとすぐに意識がそっちにいってしまってよくないな。ほとんどあれは、トラウマみたいなものだったからどうしてもフラッシュバックしてしまいがちだ。お蔭様で心臓バクバクでちょっと過呼吸気味になってしまうのを、輝夜さんが強制的に元に戻してくれたのでちょっと感謝だ。

 

 もうちょっとオブラートに包んでほしいとは言わない。ゲッテムハルトさんの腹パンに比べたら一万倍は優しいからね(比べてはいけない)。

 

「大丈夫ですか? お嬢様」

 

 多分、私がちょっとトラウマに引き込まれそうになっていたのに気がついたのだろう。エルティナが心配そうに見上げてくるが、

 

「まあ、何とかね。まだ、慣れないなぁ……」

 

 私はそう言って自分のお腹に手を当てて、ゆっくりとさすってみた。

 

 アポストロドラゴンにお腹を食べられる感触は、忘れようとしても忘れられないことだ。

 結果的には貴重なリバースドールで助かったが、本船に戻ってからメディカルでその部分の記憶を消去する処置をするかどうか聞かれたときは、自分への誡めのために消さないでおいて貰ったが、今となってはちょっと後悔している。

 

「うん、大丈夫。私は大丈夫だよ、きっと。私なら、きっと何でも出来るし、どこにだって行ける」

 

 私はそう自分に言い聞かせることで心を落ち着かせ、いよいよ正念場かと思い、巨剣をしっかりと握りしめて、景気づけに何度か頭上で回転させた勢いのまま横一文字に強く振り抜いた。遠心力に速度が乗って、剣閃によって舞い上がった空気が風になって、小川から飛び上がる水しぶきを跳ね飛ばして消えていった。

 

「すみません、皆さん! 準備完了しました!!」

 

 私はそう威勢よく叫んで、巨剣はそのまま腰に繋止せずに手に握ったままにして置いた。これなら何が起こってもすぐに対応できるはず。

 

「いいわね! それじゃ……どこに本体がいるか分からないけど、とにかくシラミを潰しましょう。いずれどこかにたどり着くはずよ!」

 

「作戦にもなってねぇなぁ。まあ、仕方ねーんだけどよ」

 

 ライラさんはリュックの中身を確認し終わって背負い直していた。

 

 行き当たりばったりは冒険の醍醐味みたいなものだ、エネミーの討伐任務が捕獲任務にいきなり変更されて大混乱して結局グダグダのまま討伐してしまって任務失敗とかあるから、多少は慎重に行かないとダメだけどね(フラグ乙)。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

 PSO2風に言えばEトラ(エマージェンシートライアル)発生したみたいな状況と言えばいいのだろうか。

 

 ゲームならよくあるというか、面倒なら無視してボスに直行してもいいけど、今の私達にはそれは出来ないのが辛い。

 

 メインの任務はリザードマンの強化種――リザさんの討伐だけど、その根本的な目的は後々のロキファミリアのための舞台を整えること、つまりはダンジョンクリーニングミッション(適当につけた)を申しつけられているわけだから、25階層のイレギュラーを放置するという選択肢はそもそもない。

 

「情報もなしに強化種を追うのは面倒だよな」

 

「面倒ですめばよいのですが」

 

 時折マップを確認しながら、あっちこっちと指さしながら先頭をいくライラさんとその護衛のリューさんのつぶやきには私も完全同意だ。

 

 強化種は一度だけ戦ったことがあるが、あれは通常の個体に比べてむちゃくちゃ強くて苦労した。過去にも強化されすぎてコモン級のモンスターが大規模討伐が必要なぐらいのスペシャル級になった例もあるらしいから、雑魚といえども侮ってはいけない。

 

 思えば、リザさんだって強化される前は上層のダンジョンリザードと同等ぐらいだったらしいから、強いのは当たり前なんだよね。多分、アークス武器を使わない今の私じゃ、リザさんの足下にも及ばないんじゃないかって思う。いい訓練にはなると思うけどね。

 

『ねえ、エルティナ。マップの更新は順調?』

 

『問題ありません。24階層に比べれば複雑ではありますが』

 

『そうだよねぇ。私、マップなしじゃ今どこにいるか全くわからないもん』

 

 情けない話だが、私なんてその程度だ。前世ではスマホのGPSに頼りっきりで、オラクルでは全宇宙位置測定システム(Universal Positioning System)の恩恵がないとアークスシップでも迷子になるぐらいだったからね。現在位置の表示されない紙のマップなんて、どっちを上にしていいか分からないぐらいちんぷんかんぷんだ(方向音痴)。

 

「ちょっと数が減ったかしら?」

 

 ライラさんとリューさんの一歩後ろで全体を見渡すアリーゼさんが、先ほどから発生するマーマンの襲撃が少しおとなしくなったことを確認するように、私の側を歩く輝夜さんに目を向けていた。

 

「その代わり、手練れが増えたように思えますねぇ。雑兵が衛兵ぐらいなったぐらいでしょうか?」

 

 うーん、相変わらず輝夜さんの言葉は適切で分かりやすい。

 

「つまり、主力に近づいているということでしょうか?」

 

 エルティナは私の代わりに輝夜さんに確認してくれた。

 

「順当に言えばそうでしょうね。団長、私も前戦に上げろ」

 

 輝夜さんは細い目を開いてアリーゼさんをにらみつけるように刀に手をかけた。

 

「そうね。そろそろ頃合いかしらね……エルティナとベルディナも私の側に来てくれない? ライラは少しだけ下がって、リューと輝夜のツートップで行きましょう。エルティナは前戦をすぐに支援できるようにね。ベルディナは、エルティナを絶対に守って」

 

「承知しました。お嬢様も、それでよろしいですか?」

 

「うん。いいよ」

 

 なんとなくだが、エルティナを絶対に守る包囲網が出来つつあるように思う。これだとエルティナがあえて前戦に出てピンチになる作戦(センスゼロ)の実行が難しくなりそうだけど、仕方ないのかなぁ。

 

『マスター、どうしましょうか?』

 

『作戦に変更は無し。チャンスはきっと来る。それまで我慢だよ』

 

『手こずっているようだな』

 

 ふとしたところでリザさんからの通信が入ってきた。

 

『そうなんです。なんだか、マーマンに強いやつがいるみたいでして』

 

『そうか、マーマンとはあの魚鱗(うろこ)の連中のことだな』

 

『それですね。なんか、徒党を組んで襲ってきてるみたいで、やっかいですね』

 

 私の役目は主にエルティナを守ることだから、本気を出したアストレアファミリアの手前、戦う機会が更に減ってしまって――ぶっちゃけ暇だから、リザさんとの会話もなんとなく続いてしまう。

 

『マスター、気を抜かないでください』

 

 エルティナには注意されるが、一応表向きは真面目ぶって巨剣を構えて左右上下に目をやっているので、別に気を抜いているようには見えないはずだ。あくまで表向きは、だけどね。

 

『そうか。しかし、そちらの魚人どもはなかなか歯ごたえがあったぞ。そこから離れることになって少々残念に思っていたところだ』

 

 リザさんの言葉に私は『そうなんですねー』と応じながらもちょっと思うところがあったので詳しく聞いてみることにした。

 

『リザさんが歯ごたえがあるってことは、結構ここのマーマンは強いですね?』

 

 リザさんは、冒険者で言えば第一級に匹敵するほどだというらしいが、本来なら下層のモンスターであればそこまでの戦力は無いはずだ。レベル2やレベル3であれば苦戦必至、あるいは死闘にもなるだろうけど、レベル5以上でそうなる状況がいまいち想像できない。

 

『そうだな。最初は取るにも足らぬ者達だったが、戦うにつれて連携を意識するようになったのか、徒党を組んで応じるようになり、いつしか個々の能力も向上しているように思えた。あと少し時間があれば、勝ち負けを競い合える者達になっていただろうが、残念だ』

 

 思いのほか饒舌だった。ここまで長文を話すリザさんは本邦初公開じゃないのか。しかも、なんとなくオチが読めたような気がする。

 

『そうなりますと、リザ様に対応するため、この階層のマーマン達は独自の軍隊を形成して、おのおのが強化されていったということ聞こえますが』

 

 エルティナの最後の確認にリザさんは「応」と答えた。

 

『その通りなのだろう。まさか、理性無きモンスターにもここまでの意思があったとは思わなかった』

 

『分かりました、ありがとうございます』

 

 私はいったんそこで話を打ち切って、リザさんとは別でエルティナと話し合い、結論を出した。

 

 マーマンの強化種が徒党を組んで軍隊組織を形成して、今なおも強くなりつづけているであろう状況は、リザさんという脅威に対してこの階層のモンスター達が対応しようと努力した結果ということだ。

 

「私の責任だなぁ……」

 

 私は思わずそれを口にしてしまった。まあ、いいけどね。リザさんがやってしまったことは私が責任を持つべきだ。リザさんをここに連れてきたのは私だし、リザさんに強くなろうという意志のきっかけを作ったのも私だし、下層に逃げるようにほのめかしたのも私で、その結果今という状況を作り出したのも、元をたどれば私ということだ。

 

 なんか、闇派閥(イヴィルス)よりもやっかいなことしてない? テロリストになるつもりは無かったのになぁ……。

 

 

 






めちゃくちゃ難航しています。次の投稿はいつになるのやら。


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