ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
結局、マーマンに起こった異常事態が私が原因で引き起こされたという現実にちょっとへこみつつ、アリーゼさんたちはマーマンの徒党が出現した方向を丁寧になぞりながら、時折逃亡を許した個体をライラさんに追跡して貰ったりして、徐々にその根元へとたどりつつある感覚が強くなってきた。
「そろそろだと思うんだけど」
アリーゼさんは、エルティナにいったん全員を回復して貰いながら、おのおのの持ち物の最終確認をしつつそうつぶやいた。
私は腰のポーチを確認するフリをしながらアイテムパックに入っていた飴ちゃんを人数分取り出して配っておいた。どんなときでも甘いものを口にすることを忘れてはいけない。甘みで思考もしゃっきりするし、冷静さも取り戻せるからね(個人差があります)。
「子供の遠足かよ。いや、貰うけどさ」
ライラさんは何が一言でも文句を言わないと気が済まない人なのかな? こういうのは素直に受け取っておいた方がいいよ?
まん丸の白い結晶を舌の上で転がしてハッカの香りと砂糖の甘さが意識を高次元へと落とし込んでいく。つまり、甘味はすべてを救うのだ。
「そろそろ現実に戻ってきていただけますか? お嬢様」
「うん。ごめんね、エルティナ」
甘味を間に挟んだことで、なんとなく意識がリセットされた感覚になり、アークスとして私がなりを潜めて、本来の私が浮かび上がってきているように思えた。
「本当に――私は臆病者だ……。こんな私なんかが本来はアークスになっちゃダメだったんだよ」
アークスとしての任務があまりにも過酷すぎて、こうして私は日常の自分とアークスとしての自分を使い分けることで何とか今までやってこれた。今まではそうだったから、これからもそうなるのだろう。リサさんとかは、戦闘も日常もあんまり変わらない感じだけど、私じゃ無理だねあの境地は。
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いろいろ負荷がかかっていた頭がいったんリセットされて、なんとなくリフレッシュされた感じだ。
私は口の中で小さくなった飴をボリボリかみ砕きながら何度か身体を伸ばしたり首をぐるぐる回したりして違和感を取り除いていった。
「うん、問題なし。いいね」
何度かその場で跳びはねて、景気づけに宙返りを二度ほど披露してから腰に繋止していた巨剣を抜き放ち、片手で何度か素振りをしてみた。
砕かれた飴の最後のかけらは舌の上で静かに溶けていって、ハッカと砂糖の余韻もまた静寂へと還った。
「元気いっぱいみたいね。それじゃ、改めて行くわよ!」
剣を頭上に掲げてアリーゼさんが檄を飛ばし、仲間達も極力大きくならない声で鬨の声を揚げていよいよ進軍とあいなった。
「それじゃ、よろしくねエルティナ」
「よろしくお願いします、お嬢様」
私の仕事は変わりなく、外敵からエルティナを守ることだ。先ほどまではいかにして抜け出すかばかりを考えていたが、マーマンの群生化がリザさんの影響を受けてのことだったら、その責任は私が負うべきだろう。
「アリーゼさん。私もちょっとだけ積極的に戦いますね」
「分かったわ。だけど、あくまであなたは
「了解です」
「では、私も前に出ましょう」
前線に出たがっている私に呼応するようにエルティナが手を上げた。アークス的に考えると
「おいおい、
しかし、冒険者としては戦闘力の低い
「私が守りますから」
まあ、だけど、冒険者としても
ちなみに、エルティナが装備している武器(ウォンド、タリス)はリバレイトシリーズだが、サポートパートナーが星15武器を使うのははばかれると本人が言うので、「武器フォーム変更」のシステムを利用してそれぞれ【サミットムーン(ウォンド)】と【
別に、自分の装備のお下がりをサポパに使わせるのはよくあることなんだから、気にしなくてもいいのにね。
武器迷彩や武器フォーム変更はアークスにとっての数少ない娯楽の一つなので、それ専用の迷彩や見た目変更専用の武器(見た目重視なので、武器としての性能は皆無:ゲームでのエネミードロップ品が主)が、各社からわんさか発売されているので一度見てみると面白いよ。
「そういうわけだから、輝夜、リオン。二人との連携もちょっと意識してね!」
「足を引っ張るようでしたら、すぐに下がって貰いますよ」
「輝夜、それをフォローするのも私達の仕事でしょう」
まあ、二人の連携を邪魔するつもりは毛頭無いので、こちらのことはあんまり気にしなくてもいいんだけどね。エルティナさえいたら私は基本的に無事だから(慢心)。
「できる限り邪魔をしない立ち振る舞いを心がけますので」
エルティナがペコリと頭を下げると、さすがに
「まあ、お手並み拝見と行きましょうか」
「よろしくお願いします」
なんとなく許して貰えたようだ。
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なんやかんやあったが、その後1時間ほどマーマンとの戦闘を繰り返し、途中で直進するシオマネキみたいなモンスターの大群までけしかけられて、なかなか息をつく暇も無かったが前戦でタリスに持ち替えて回復と支援魔法をし続けるエルティナに支えられ、回復アイテムを使用することなく追跡を続けることが出来た。
「前戦張れる
戦闘が一段落して埃っぽくなった着物を払いながら輝夜さんがつぶやく。細かい傷もエルティナが癒やしてくれたので、玉のお肌はむしろハリがあって大変美しい。
「支援魔法も素晴らしい。まるで、自身の限界を超えたような思いでした」
シフタの効果時間が切れたのか、リューさんはその場で何度か木剣を素振りして感覚の違いを実感していた。アークスにとっては基礎ステータスよりも装備の性能の方がウェイトが高いので、シフタによるステータス補助はそこまで劇的な効果を期待できるもではなかったけど、ステータスが戦闘力の大部分を占めている(異論は認める)冒険者にとってはその影響は大変なものだろう。
これは、いろいろ実験してみて分かったのだが、エルティナのシフタは現在レベルのアビリティ値だけではなく、今まで積み上げてきた潜在値すらも加味してブーストしてくれるみたいなのだ。しかも、メインテクターなのでその効果量も通常よりも加味されて効果時間180秒、攻撃力(力and魔力)+24.6%に与ダメ+10%にクリティカル率+20%と、下手したらレベル1つ分ぐらいブーストされるんじゃないかってぐらいだ。
リューさんは剣術と魔法を併用して戦う職業のようなので、その相乗効果は他の追従を許さないほどだろう。
「しかも、明らかに受けるダメージも減ってるよね?」
フルプレートの団員もフェイスシールドを上げて新鮮な空気を取り込みながらつぶやいた。おそらくデバンドのことを言っているのだろう。デバンドは防御力+24.6%に被ダメ軽減15%、耐久+125%という、アークスにとっても生命線になり得るものなので、冒険者にとってはこちらの方がむしろありがたいのではないかと思う。
「ふふーん。エルティナはすごいでしょ?」
自分のサポパが褒められると、マスターとしてはとても嬉しい。エルティナはあんまり喜ばないから、代わりに私が目一杯喜ぶのだ。
「ええ、すごいわ! 是非とも
「絶対にダメです」
アリーゼさんがどさくさに紛れて勧誘しようとするが、それはすぐに否定する。
雑談しながらもライラさんはしっかりと索敵と追跡の仕事をしていて、先行していた彼女が戻ってきてアリーゼさんに報告した。
「間違いない、この先だ」
その指が指し示したのは、小川に接続する水路みたいになっている横穴の入り口で、内部はほとんど一本道だというらしい。
「ようやく本丸に到着ということですか。なかなか、さかしい連中ですね」
輝夜さんが細目を開いてすごむ。ここまでマーマンのリーダー的存在をわざと見逃して、それを追跡する形でその根本を探るようにしてきたが、その苦労がようやく実りそうだということだ。
「このまま一気に行きましょう、アリーゼ。奴らに準備をさせる前に決着を付けるべきです」
幸い、エルティナのお蔭で大した負傷を負うこともなく、消耗品も消費することもなくここまでこれた。リューさんの言うとおり、ここはこのままの勢いで一気に制圧するのが正解だろうと私も思う。
「そうね。みんなもいけるわね?」
アリーゼさんの確認に、皆が無言で頷いた。
「それじゃ、いつも通り。輝夜とリューをツートップで
序列は大変標準的だがその分確実性が高い。先ほどまでの先頭でエルティナが十分前戦でも耐えきるだけの能力があって、私がそれを完璧にカバーし得たことがはっきりしたのだろう。その前までのいまいち信用しきれないという感覚は今では感じられない。
ならば、その信用に応えるべきだ。
『もう、遠慮しなくていいからね』
『承知いたしました。攻撃以外は無制限とさせていただきます』
『うん、お願い』
さすがにエルティナに攻撃を全面的に許可してしまったら、アリーゼさん達はおろか、私の経験値すら全部消し飛ばしてしまいかねないので自重していただきたい。
そして私達は枯れた水路を進軍し、まっすぐと続く洞窟をひたすらまっすぐ進んでいって、時折せり出している水晶のとげをくぐり抜けてついにはそこにたどり着いた。
そこは、まるで水の涸れた滝壺と言うべきだろうか。多量の水がたたきつけられて形成された自然の窪地がまるで円形闘技場のように広がっていて、そこには無数のマーマン達がひしめき合い、あるいは互いに戦って殺し合い、勝者が灰となった同胞から魔石を取り出して自ら取り込んでは次の同胞へと向かっていき、いなくなった分は時を置いて壁や床に走るひび割れから更に産出されるてそれを埋め続けるという、地獄のような様相が広がっていた。
「おい、団長。やべぇぞ、野生のコロシアムだこれは」
通路を抜けたところの巨大な水晶の影に全員身を潜めてそれを眺めながらライラさんは戦慄したように声を上げた。
「一度引き返すのも手だぞ団長」
細目を鋭く見開いた輝夜さんが丁寧語も捨ててアリーゼさんに視線をやった。
「引き返すにせよ、情報が必要ね。ネーゼ、マシューはみんなと一緒に入り口を確保しておいて、いつでも撤退できるよう準備をお願い」
「分かった」
「ライラは高いところから情報を収集して、輝夜が護衛をお願い」
「マジかよ」
「まあ、仕方ないですね」
「リオンは、叩くにしろ逃げるにしろ1番手を任せるわ。いつでも最大出力で動けるよう準備しておいてね。
「分かりました、アリーゼ」
「了解です」
「承知いたしました。いつでも補助を行えるようスタンバイいたします」
うーん、アリーゼさんってすっごいなぁ。こんな状況でもいくつかの選択肢を用意できる司令官は優秀としか言えないし、それを支えるだけの力がアストレアファミリアにあって、即座に動けるのはアリーゼさんの人望のなせる技だろう。私じゃ無理だなぁ。
そのため、現場指揮官がここまでの判断力を持つことはあまりない。
もちろん、管制との通信が途絶えた場合は現場の判断が優先されるけど、その場合はいかに速やかに管制との連絡が可能な場所まで撤退するかが重要になるので、作戦行動としてはイレギュラーとして処理されるわけだ。
「シャクティ、聞こえてた?」
『ああ、しっかりとな』
「ごめんなさい。まだまだそっちと合流出来なさそうよ」
『致し方ないだろう。今、そちらにこちらの団員も向かわせた。間に合うか分からないが、使ってやってくれ』
「ありがたいわね。それじゃ、また後でね」
アリーゼさんは通信宝珠に伝え終わり、ライラさんの報告を待つ。
『エルティナ、最悪の場合はフォトンブラストの使用も許可するからね』
『よろしいのですか?』
『うん。非常事態だから』
『分かりました』
今は出来ることだけをしよう。私は一度だけ熱くなる感情を抑えつけるために「ふぅ……」と深く息を吐き出し、それから肺に目一杯空気を吸い込んでを何度か繰り返し、そして奴らの声を聞いた。
「なに?」
まるで洞窟そのものが震えるようなときの声が耳朶を叩き、生命維持装置が自動的に聴覚の制御を行い始めた。
リューさんが水晶から少し顔を出して、ライラさん達がいる高台に目をやりしきりに頷いて苦い表情を作り出した。
「ライラからのハンドサインです。【ば・れ・た】とのこと」
あちゃー。ライラさんが見つかるってことは、連中はかなり厳重な警戒状態にあったということだ。間違いなく、部隊規模の指揮系統があるってことだね。
「リオン、戦闘準備。ネーゼ達はここを死守して。最悪いつでも撤退できるように。エルティナとベルディナはリオン続いて! 行くわよ!!」
まあ、結局はこうなるわけだ。それじゃ、アークスらしく真正面から殴り合ってすべてを蹂躙するか相手の物量に屈して押しつぶされるか、生存競争と行こうじゃないか。
■シフタ強化量について
〇レベル6の冒険者の場合
アビリティ800でランクアップしてきたと仮定
・レベル6アビリティ(潜在値)
力or魔力 800 (+800×5=4000)=4800(強化対象値)
シフタ強化値=4800×0.246=1180(端数切捨)
・強化後アビリティ
力or魔力 1980 = 800+1180(限界突破状態)
・敵を攻撃した際に与えるダメージが無条件で+10%の補正が付く
与ダメ=〔{(力+武器性能)×諸要素}-敵防御力〕×1.1
・クリティカル率+20%
10回に2回ぐらいは攻撃が直撃した場合のダメージを無条件で与えられる
※ランクアップボーナスについてはよく分からないので考慮しない
※与ダメアップとクリ率上昇を全部ひっくるめるとレベルブースト級の補正にはなるかも?
※効果時間3分と短いが、間断なく連発できるので特に問題にはならない