ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
ダンジョンにおける
『やっぱり、深層の
道中の個体と比べると明らかに動きが速いマーマンの攻撃をガードポイントのスキルを使いながらいなしては一体ずつ丁寧に切り刻んでいく私は、その裏でエルティナといろいろ話をする。
『ライラ様の言うとおりでしたら、そういうことでしょう。出現するモンスターの戦闘力はおそらく段違いであるとは思いますが』
エルティナは常に私の近くにおりながらも輝夜さんとリューさん、アリーゼさんの真ん中あたりにいるよう上手く立ち回っているようだ。時折、
「すごい
片手剣をくるくる振り回して次から次へとマーマンを切り伏せていくアリーゼさんがそう聞いてきた。
「少なくともオラリオ以外の場所としか伝えられません」
「でしょうねー」
アリーゼさんは心底残念そうにつぶやく。ぶっちゃけゲームではタリスは難しすぎてメインで使っている人は、少なくとも私の周りでは見たことがなかった。しかし、後衛職が前線に向かって安全にテクニックを投入できるということで、現実になった今ではかなり使いでのある武器として、テクニック職のアークスは必携と言われるほどでもある。
ちなみに、NGSでのタリスは長くPSEバーストの最適解と言われて重宝されていた(今はどうかは知らない)。
「考えようによっちゃ、今この状況もある一種のPSEバーストとも言えるのかな? いや、単純に
どうでもいい思案に入りかけた隙を突いて、少し肥大化したマーマンが私の背後から襲いかかろうとするが、私は巨剣を振り抜いた勢いのまま空中でくるりと回転してそのまま背後のマーマンを問答無用に両断して灰に返してやった。
「うーん。なんか、このままぐるぐる回ってるだけでいい気がしてきた」
ハンターのPAにも似たようなもの(ノヴァストライク)があったけど、やっぱり考えることは同じってことだね。
「調子乗って目ぇ回さんといてくださいね」
「はーい」
輝夜さんに注意されたのでいったんやめて、巨剣をもう一度構え直した。もっとも、生命維持装置が三半規管を正常に保ってくれるので回転しすぎて目を回すこともないのだけどね。
「このままではじり貧です……アリーゼ、輝夜、魔法を使います」
私の背後で木剣を振るうリューさんが叫んだ。そういえば、リューさんはエルフだから切り札級の魔法が使えるのだろう。
「分かったわリオン! 思いっきりやっちゃいなさい」
「しかたありませんね……しくじるなよ、若輩」
アリーゼさんはハツラツと笑みすらも浮かべて了承するが、輝夜さんはなんとなく不承不承のように思えた。なんか、輝夜さんってリューさんには厳しいよね。まあ、信頼あってのものなんだろうけどさ。
「サポートをお願いします」
リューさんはそう言って一旦その場に立ち止まり、意識を集中するためか一つ大きく息を吸い込み吐きだした。
『リューさんの魔法って初めてだね』
『温存しておられたのでしょう』
『じゃあ、結構奥の手というか切り札みたいな感じかな?』
『おそらくは……護衛に専念します』
『オッケー、じゃあ、私も!』
私達は通信でお互いに立ち位置を確認し合って、リューさんにとって一番死角になるであろう背後に陣取って襲いかかってくるマーマンだけを丁寧に処理をし始める。
「やっぱり、モンスターも魔法は怖いみたいだね」
リューさんが立ち止まり、魔力を高めて詠唱をはじめたとたんにマーマンどもは一斉にこちらに集中するようになった。
【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々…………
リューさんの美しく透る声がまるで歌のように紡ぎ出され、空間を満たしていく。
【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】
徐々に高まる魔力は、本来フォトンしか感じ取れない私ですら包まれるような感触を与える。リューさんの優しさが魔力にも乗せられて、まるで揺り籠のような心地よさすら感じた。
【来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】
背後から爆発的な光が注がれ、荒々しい風すらも吹き荒れた。
『あれ? これって、大丈夫? 威力高すぎない?』
なんだかちょっと嫌な予感がする。私のこういうときの感は良く当たるんだ。
『天井が崩落することはなさそうですが』
私の思案がフォトンに乗ってしまっていたのか、エルティナが返答してくれる。さすがに天井が落っこちることは心配してないけど、なんとなくこの闘技場になっている窪地って、枯れた滝壺みたいじゃない?
もしも、賢いマーマンが滝の根元をふさいで意図的に水を枯らして空間を作っていたとしたら、魔法の衝撃で穴ができちゃわないかなってこと。
『水攻めは勘弁してよね』
といっても、今更リューさんを止めることも出来ない。私なら生命維持装置のお蔭で無酸素状態でも数日間は行動できるし、エルティナはそもそもロボットだから呼吸は必要ない(カモフラージュのために呼吸しているようには見せているけどね)
「ルミノス・ウィンド!!」
チラリと背後を確認すると、リューさんが身体の周囲に展開した緑色に輝く光球を一斉に射出し、眼前の敵集団を一気に殲滅しているところだった。
爆発的な魔力の放出が、それに見合うほどの衝撃と振動を空間に与えるが、確かに天井が崩落することはなかった。
「ナイスよ、リオン! それじゃ、あと少し頑張りましょう!」
先ほどのリューさんの魔法によりマーマンどもの数は半数以下になって、中には敗走を始めるも入り口を固めているネーゼさん達に殲滅されている。敵もすでに連携を欠いていて、この状態で負ける方が難しいと思える程度には形勢をひっくり返すことが出来た。
しかし、私の予感は当たるもので、先ほどから頭上でミシミシと何かが崩れ落ちる音が徐々に大きくなっているような気がした。
「まあ、知ってた……」
壁にしては異質なそれは、大小様々な岩が積み上げられていてどう考えても空けられた穴を無理矢理塞いでいるようにしか思えず、小さな石が徐々に落ちていく隙間からは幾条もの水流があふれ出しつつある。
『エルティナ、私は大丈夫だから、みんなの安全を優先してくれない?』
『状況は把握いたしました。お任せください』
『よろしくね』
ギリギリ保っていた均衡は、私の身長ぐらいの岩の落下によって崩壊し、後は指数関数的に水流が増していき、すぐに大瀑布が復活して、その水流がまるで水の壁のように私達に襲いかかってきた。
「みんな、撤退よ! 急いで!!」
アリーゼさんの判断は素早かったが、それ以上の水の勢いの方が速い。
「私の責任です」
リューさんはそう言って自ら殿の位置に納まろうとするが、それを輝夜さんが腕を引っ張った。
「状況をわきまえろ、ポンコツ。謝罪は後でたっぷりさせてやるから、今は走れ!」
なんか、ヤクザの姐さんみたいに見えてきた。
『では、一旦私は皆様のカバーに入ります』
エルティナは全員にデバンドをかけ直し、撤退するメンバーの中心に身を置いてその瞬間に備えた。
『うん。それじゃ、また後でね』
私は巨剣を腰のマウント部分に繋止して、皆に見えないようにフェリシテエーデルをかぶせたフルクシオタラッサを出現させ、同時にすべてのアークスの装備(ユニット、マグ等)を有効化させた。なくても多分大丈夫だろうけど、念のためだ。
「それじゃ、いっちょやってみますかね」
私は激流とともに襲いかかる巨石をにらみつけ、フォトンを高めた。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
と言うわけで、私は今水の中にいる。しかも、水の勢いはかなり強く、とてもじゃないが身体を自由に動かすことは出来ない。
『みんなはどう?』
『一時的にフォトンを供給し、何とか呼吸は確保していますが、長くは持ちません』
『そっか、どこか掴まるところがあればあればいいけど……作った方が速そうだね』
身体を自由には動かせないが、フォトンを身に纏えば姿勢を変えることは出来る。
私は狂った上下感覚をHUDの表示を参考して姿勢を上に向け、剣の先端にフォトンを集中させて
何度か打ち込んでいるうちに大きめの岩がゴロッと落ちてきて水流に流されそうになったところを武器アクションのイベイドシュートをかなり威力を落として打ち込むことでいい感じに着底させることが出来たようだ。
今は、通路全体が水に満たされているが、時間をおけば常識的な川程度のものになるだろう。それまでは何とかエルティナのサポートを受けて耐えてほしい。
『エルティナ。途中に掴まれそうな岩を置いたから、後は任せたよ』
『承知しました、必ず』
エルティナなら私よりも上手にみんなを助けてくれるだろう。私は安心して水の流れに身を任せた。なんでこんなに落ち着いているかと言えば、実際これはチャンスでもある。
リザさんとどうやって合流するか。どうやって違和感なく単独行動できるか考えていて結局無理ゲーだと思っていたが、このまま流されて滝から落ちればそのまま一気に最下層に行けるということだ。アリーゼさん達には心配をかけるだろうけど、エルティナもいるから危険は無いだろう。後は、リザさんをいい感じに逃がしてから合流すれば万事上手くいくだろう(ガバガバ)。
もう、これは私の勝ちだと思ってもいいんじゃないか?
ようやく広いのか狭いのかよく分からない水路を抜けて若干青白い光が見えてきたところで私は空中に投げ出された。
「久しぶりの空気は美味しいね」
生命維持装置からの警告も消えて、新鮮な空気を十分に肺に取り込んでから私はそのまま自由落下に身を委ねた。
事前のミーティングでは、この大瀑布を落ちればほぼ100%死ぬらしいが、たとえ
「諦めないで! ベルディナ!!」
とりあえず姿勢だけは何とかしようと、宙返りをしかけたところに頭上からよく知った奇麗な女性の声が響いて、私は思わず天井を見上げた。
「マジか……」
そこには必死の形相でこちらに手を差し伸べているアリーゼさんがいた。
『マスター、申し訳ありません。アリーゼ様が一人離脱されました』
『あー、なるほど。さすが正義の人……大丈夫、こっちで確認できてるよ。今から合流する』
『お手数をおかけします』
『いいよ、そっちはそっちに集中して』
一人でこっそり抜け出すのもこれで無理かなぁと思いながら、私は伸ばされた手をつかんで思いっきり引っ張るも、小柄な私の方がむしろアリーゼさんに抱き寄せられる形になってしまった。
「大丈夫、きっと、大丈夫だから……」
アリーゼさんはそういうつつも私を抱きしめる腕は震えていた。よっぽどの幸運がないと助からない状態だから仕方ない。
さて、どうしようかな……。