ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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理解者

 

 アリーゼさんの温かい胸に抱かれているのはとてつもなく心地よかったが、それに溺れている訳にもいかず、私はそのまま何とかそこから抜け出してアリーゼさんの背中にへばりつくみたいな体勢を何とか作り出し、フォトンの保護を一時的に拡張して二人分の落下ダメージをキャンセルすることに成功した。

 

 割とモロに地表に激突したにもかかわらず無傷であることにアリーゼさんはしばし混乱していたが、

 

「ふふん、私の素晴らしい献身が運命の神様さえも凌駕したのね。さすが私!」

 

 ちょっと「イラッ☆」とさせられる自画自賛をカマしていたのでまあ大丈夫なんだろう。

 

 とりあえず濡れた服を乾かすべく、私は物入れ越しにアイテムパックから焚き火台と燃料を取り出し、火を熾した。

 

「あら、便利なもの持ってたのね」

 

「これがあればダンジョンでもお料理が出来ますからね。簡単なものに限りますけど」

 

 ついでに折りたたみの椅子も取り出して少しの間だけ落ち着くことにした。

 

『エルティナ、そっちは大丈夫?』

 

 火を見て落ち着いたのか、アリーゼさんが静かになったので上階にいるはずのエルティナにようやく通信を行った。

 

『全員無事を確認しましたが、リュー様と輝夜様が口論をされております』

 

『なんだか目に浮かぶなぁ。たぶん、リューさんはすぐに私達を探しに行くべきと言うのを、輝夜さんが落ち着け未熟者みたいな感じで煽ってるみたいな?』

 

『ほぼ正解です』

 

『通常運転だね、安心した。一応アリーゼさんも無傷で、今焚き火で身体を温めてるところだから、そっちは何とか落ち着かせる方向でお願いね』

 

 リューさんと輝夜さんの口論はほとんど子猫同士のじゃれ合いみたいなものだからあんまり深刻になる必要は無いと勝手に思っている。

 

『分かりました』

 

 エルティナなら感情に流されずに冷静に対応できるから、きっとみんなもすぐに落ち着きを取り戻すだろう。むしろ、問題はこっちだ。

 

「ふぅ……ホントならすぐに上に行かないとダメだけど……なんだか落ち着いちゃったわね。お腹すいたわ」

 

 いきなり自己主張し始めたお腹をさするアリーゼさんは、深いため息に肩を落としてパチパチとはぜる焚き火をただ眺めているばかりだ。火を見るとなぜか心が落ち着くのはアークスも同じことだ。

 

 それに、いくら無事だったとは言えあの高さから落ちたときにはおそらくアリーゼさんも何かしらの覚悟をしていたのだろう。結果が全くの無傷だったのだから、その感情とどう折り合いを付けるのか分からないのだと思うが、たぶん大丈夫だ。

 

 アリーゼさんはきっと、私よりも何倍も心が強い。だから、ちょっと休めばまたあっけらかんと前に進むだろうさ。

 

 私は物入れを探るフリをしてアイテムパックからとっておきの道具を取り出した。

 

「なにそれ? フライパン……にしては小さいし四角いし……あ、上から挟めるのね」

 

「やっぱり、キャンプといったらこれですよね。手軽だし、楽しいし」

 

 私は取り出したその道具……ホットサンドメーカーを見せびらかすようにくるくるさせるとすぐに6枚切りのトーストで作り置きの炒り卵とスライスハムを挟んで、更に鉄板で蓋をして押しつぶしロックをかけた。

 

「手際いいわね、それをどうするの?」

 

「こうやって、火にかけて軽く熱を通します……これぐらいかな? いい香りですね」

 

「焼けたパンってなんでこんないい匂いがするのかしら」

 

 といっても、前世ではキャンプブームが来たとは言え私はその波に乗り切れず、ちょっとした小物を集めるだけで終わってしまったのでぶっちゃけエアプである。寝袋とテントはまだ買っていなかったので、傷は浅かったけどね。

 

 ちなみに、このホットサンドメーカーは地球から個人輸入したやつだ。電気式もあったけど、どうしてもオラクル船団と電源の規格を合わせられなかったので手動式にせざるを得なかったけどここに来て大変助かっている。ワッフル用のやつも買ってあるので楽しみだ。

 

「さてさて、よく焼けた鉄板を開くと……熱々のホットサンドのできあがりというわけです。うーん、美味しそう。今二つに分けますね」

 

 懐からサバイバル用のナイフを取り出すフリをしてアイテムパックから出現させると、できたてのホットサンドを斜め切りして三角形になって中身がふわふわ、外はカリカリのごちそうをアリーゼさんに手渡した。

 

「ダンジョンで温かいものを食べられるなんてね……おいしい!」

 

「これはたまらんですね」

 

 材料はそんなにたくさん持ってきていないので、今できるのはこれだけだが何とか心を落ち着かせることは出来ただろう。

 人間というのは美味しいものを食べてさえいればあとはなんとでもなるのだ(それはいいすぎ)。

 

 

 その後、アリーゼさん提供の茶葉でミルクティーを入れて、ひとまず現状を確認することにした。

 

 最優先すべきは仲間達との合流だということは一致した。本来なら私一人で抜け出してリザさんと合流するつもりだったが、その計画もおじゃんになってしまったので何とかぶっつけ本番でやるしかないと思う。下手したらオラリオから追放されるかもしれないけど。その時はもう、エルティナとリザさんと一緒にダンジョンの奥深くどこまでも逃げよう。出入り口はバベルの塔で塞がれていると言うけど、どこかに別の出口がある可能性だってゼロじゃないんだ。

 

 ワカヒルメ様には大変な迷惑をかけることになるけど、その時はワカヒルメ様も一緒にオラリオを出て、どこか遠くの場所で再スタートだ。現実はそんなに甘くないだろうけどね。

 

「そろそろ出発しますか? 合流するにしても上に行かないとダメでしょうし」

 

 私はフォトンレーダーがあるので、エルティナの場所はリアルタイムで追尾できるし、エルティナ側も私の位置はつかめているだろう。ここ数日で下層のマッピングもいい感じだし、迷うことなく一直線に合流は出来るだろう。問題はアリーゼさんをどうやって誘導するかだけどね。

 

「いえ、ここは一旦28階層に行こうと思うの。むやみに歩き回ってもお互いに行き違いになるだけだわ。それなら、お互いに安全地帯に向かうのが一番のはずよ。輝夜とライラならそう判断してくれると思うわ」

 

 エルティナ曰く、輝夜さんとリューさんは絶賛口論中だったけど、今はどうなってるのだろう

 

『ねえ、エルティナ。こっちは28階層に向かう感じになってるけど、そっちはどう?』

 

 私はアリーゼさんの提案を少し考えるフリをしてエルティナに通信を行った。

 

『こちらも概ねそのようになりそうです。ようやくリュー様に納得していただけそうです』

 

『そう、分かった。じゃあ、下で待ってるね』

 

『よろしくお願いいたします』

 

 エルティナの反応がゆっくりだが動き始めた。どうやら、コンセンサスは得られたようだ。

 

 私も面を上げてアリーゼさんにうなずき、

 

「動き回っても迷子になるだけですからね、アリーゼさんの言うとおりだと思います」

 

 というよりは、こういう場合はどうするかをあらかじめ決めておいてあるのだろう。リューさんはクールなようで割と感情に流されやすそうだし、今後の成長に期待しよう(偉そう)。

 

「理解してくれてありがとう。それじゃ、出発しましょうか」

 

 そう言ってアリーゼさんは立ち上がり、通信用の宝玉を取り出してどこかにいるシャクティさんに現状を報告しているようだ。イレギュラーはあったが、何とかそっちは(たぶん)解決して一時的に仲間とはぐれてしまったが想定通り28階層で合流するということ。

 

 強化種の討伐は合流後状況を見て判断するが、おそらく続行可能だろうということが伝えられた。

 

 私としてはこのまま安全を考慮して撤収してくれた方がありがたかったけどね。仕事だからしゃーない。

 

『リザさん、聞こえますか。いよいよそちらに行くことになりそうです』

 

『そうか。私も、隙を伺ってはいるのだが抜けられそうにもない』

 

 30階層までガネーシャの人たちが出入り口を塞いでいるということなので、そこさえ抜けられれば何とか逃げることは出来そうなんだけど。

 

『無理はしないようにしてください。ガネーシャの人たちは強いです』

 

 詳しいことは知らないけど、ガネーシャファミリアはレベル6以上はいないとはいえ多数の第一級冒険者が所属している、オラリオ屈指のファミリアだ。リザさんがいくら強くなっているとは言え、強行突破は難しいだろう。

 

 私はたき火の後始末を丁寧に終えて、最後に水をかけて、「消火、よしっ!」と現場猫(指差し確認)をしてから巨剣を手に持ち、歩き始めたアリーゼさんの背中をトコトコと追いかけた。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

 27階層は何のこともなく、時々現れる水棲モンスターを二人して撃退して、魔石も丁寧に集めて28階層にたどり着いた。

 

 途中でイグアスという特攻ツバメに遭遇したときにはさすがに辟易したが、連中の特攻では巨剣に傷を付けることも出来なかったようで、巨剣の影に隠れてやり過ごしつつチクチクと数を減らすことで十分対処可能だった。さすがにアレを全部回避するのは無理よ。アークスは飽和攻撃にはめっぽう弱いんだ。

 

 25階層でイレギュラーが発生したため、ガネーシャの人たちも警戒態勢を厳にしていて、偵察のために数人は上階に行っているようだ。

 

 割と離れたところにぽつんと一つだけ反応があるけど、それも警戒態勢の一種なのだろう。姿は見えないけど、インビジブル系の魔法でも使ってるのかな? わざわざ隠れているのだから見えていないふりをして置いた方が良さそうだと判断する。

 

「輝夜達はさすがにまだ到着していないようね」

 

「そうですね」

 

 エルティナの反応を見てみるとまだ26階層の中間ぐらいで足止めを食らっているようで、確認するとモンスターパーティーが発生しているようだった。アリーゼさんと私がいない分、エルティナも積極的に戦闘に参加しているようで忙しそうだった。

 

「皆さんなら大丈夫ですよ、エルティナもいますし」

 

「そうね、心配はしていないわ。むしろ、心配なのはこれからね」

 

「強化種は強いでしょうし」

 

「そのはずよ。私の想像だけど、間違いなくレベル5相当の実力はあると思うわ」

 

 なるほど、レベル5と言えば確かに強敵だ。17階層で(私が)ボコボコにされたゴライアスがレベル4相当と言うらしいから、リザさんはそれ以上に強いという評価なのか。

 私だって壊れない巨剣を手に入れて戦闘力は上がっているはずだが、まだこの状態でゴライアスとタイマン張れるかと聞かれると「無理」と答えるしかない。

 もちろんアークス装備を全展開したら五分かからないだろうけどね。試す気はないけど。

 

「さてと、座って待ちましょうか。それに、あなたとはちょっと内緒話もしたいし」

 

「内緒話? お手洗いに行きたいとかですか?」

 

「違うわよ……これはあくまで私の勘に過ぎないし、あなたにとても不快な気分を与えちゃうかもしれないけど、一つ確認しておきたいの。あなた、あの強化種となにか関係あるんじゃない? というよりも助けようとしているんじゃないかしら」

 

 やばいな。目がマジだ。神様相手じゃないから嘘は通用するとは思うけど、アリーゼさんには嘘はつきたくないし、どうしようかなぁ。

 

「いえ、咎めようっていうことじゃないの。ただ、あなたを通じれば例の強化種と話が出来るんじゃないかって思って」

 

「どういうことです? ちなみに、例の強化種じゃなくてリザさんって呼んであげてください。私が名付けました」

 

 モンスターと話がしたいとは、なんとも変わった人だ。理由を聞いてみると、アリーゼさんはリザさんが冒険者をけっして害せず、ただ逃げるに徹したことに違和感を持っていたらしい。レベル4の冒険者達をあしらえるのだから、敗走や逃避ということはあり得ないだろうということから、武装したモンスターにも何かしらの理性が宿っているのではないかという、この世界においてはアタオカな考えが頭から離れなかったというらしい。

 

 もちろん、団員にも受け入れられずいつもの『イラッ☆』とした発言でごまかしたらしいが。

 

 ちなみに、私が関係者じゃないかというのは本当に勘だったらしい。今までの行動や言動が強化種に対する攻撃意識が低く、リザさんをどうしたら倒せるかという会話には積極的に混じらず、居心地が悪そうにしていたということなどなどひっくるめてのカマかけだった模様のようだ。

 

 アリーゼさんって、そういう腹芸も出来たんだね(失礼)。あと、凄まじく勘がよくて運がいいのだろう。

 

 と言うことで私も白状することにした。リザさんと話がしたいというのなら、何かしらの希望は見えてくるだろう。そのタイミングをどうするかということだ。

 

 私達はエルティナ達と合流するまでいろいろ話し合い、私がリザさんとの連絡手段を持っていると言うことも伝えたので、とりあえず連絡を取り合って不自然じゃない感じで合流すると言うことで合意した(行き当たりばったりとも言う)。ちなみに、このことは主神のワカヒルメ様は関知していないと言うことはしっかりと言っておいた。

 

 ワカヒルメ様まで巻き込むのは申し訳ないからね(今更)。

 

 

 

 

 








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