ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
輝夜に京ことばをしゃべらせたくなる病に罹患しております。
28階層でにわかに始まったホットサンドパーティーは、私が密かに持ち込んでいた材料を払拭するまで続けられ、皆大変満足したようだ。
「なぁ、その挟むやつってどこで売ってるんだ?」
小さな身体で人一倍むしゃむしゃ食べていたライラさんが、口に付いたマヨネーズソース(自作)を手で拭いながら私のホットサンドメーカーをのぞき込んだ。
「うーん。オラリオで買ったやつじゃないので分からないですね」
「そうか。特注すっかな……」
気に入ったのだろうか? まあ、分からなくもない。けど、ライラさんの目は好奇心よりもむしろ
「ごちそうさまでした
リューさんがちょっと物足りなさそうな目で私のホットサンドメーカーをチラチラ見る。あげないよ?
「溶けたチーズは最高ですね。地上に戻ったらいろいろ試してみましょう」
ボイルした海老とかツナとか、いろいろ挟んでみるのも楽しそうだ。もちろん、トマトとレタスもね。ヤバイ、想像したら涎が……。
「さあ、みんな。お腹も満たされて元気いっぱいになったでしょう。いよいよ本番だから頑張りましょう! じゃ、出発するわよ」
アリーゼさんが檄を飛ばし、全員が「了解」と応えいよいよ29階層への進出とあいなった。
私にとって初めての領域だから、いろいろな不安もあるがやはりアークスとしての好奇心の方が湧き上がってきて、子供みたいに駆け出したくなった。
「勝手に前にでないでくださいね。あなたは団長の側です」
実際にかけだしてしまっていたらしく、先頭を歩く輝夜さんに猫つかみされてアリーゼさんの隣に連れ戻されてしまい、ちょっと締まらないスタートになってしまった。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
29階層の探索を終え、私達は30階層に入った。
「いよいよデッドエンドだな」
ライラさんが肩を回しながらそうつぶやいた。ガネーシャファミリアに封鎖されているのはこの30階層までで、ギルドに申請した期間は明日までとなっている。つまり、今日明日中に討伐できなければ次はないだろうということを言いたいのだろうと思う。
あるいは強化種にとってのデッドエンド、あるいはタイムアップによる私達のデッドエンド。どちらにせよ終わりは近い。
たとえ、リザさんが発見されなくても、ひとまずロキファミリアの討伐任務には支障なしと言うことでギルドには報告されるとのことだ。アストレアファミリアとガネーシャファミリアが数日かけて30階層までを捜索したのだから、少なくともアンフィスバエナとの戦闘に支障をきたす可能性は低いだろうということ。
むしろ、25階層でのイレギュラー……マーマンの
「いよいよ大詰めね。一度休憩しましょう。ライラ、持ち物の確認もお願いできるかしら?」
「了解、団長」
アリーゼさんは構えていた片手剣を鞘に収めて、近くの切り株に腰を下ろして一息つき荷物から水筒を取り出して一口飲んで落ち着いたようだった。
「私達も休憩しようか」
私もエルティナにそう言って小さなシートを地面に敷いて座り込んだ。
「いえ、私は周辺の警戒を行います」
「真面目だなぁ」
エルティナはあくまで仕事を続けるようで、こうなってしまうとこっちのお願いも通じないことは分かっている。
「アリーゼ、このあたりでしょうか?
「そうね。情報では下層領域でって聞いていたけど。この密林だとこそこそやるにはもってこいかもしれないわ」
たしかに、ゲリラ戦には最適な環境かもしれないね。そうなると、いろいろなブービートラップが仕掛けられてるかもしれないから注意が必要になる。
「強化種と
輝夜さんはそう言うが、むしろリザさんと合流したら一緒に
そういえば、リザさんはこの辺に詳しいから何か知ってるかもしれない。
『リザさん、30階層に到着しました。ついでに聞いておきたいんですけど。その辺で、悪いことをしていそうな冒険者って心当たりありませんか?』
と言うことで、30階層到着の報告のついでにそれを聞いてみることにした。
『私には冒険者の善悪を理解できないが……わずかではあるが心当たりはある。そちらから私の位置は見えているのだったな?』
『はい、バッチリ見えてます』
『承知した、では案内する』
『あ、ちょっと待ってください。アリーゼさんと相談してみます』
あんまり期待はしていなかったけど、リザさんが言うのなら信憑性はかなり高い。私は立ち上がって関節の柔軟をしているアリーゼさんに近づいていって、他の人に聞こえないようにリザさんが
アリーゼさんは「どうやって連絡を取り合っているのかは後でちゃんと教えてよね」と言いつつ、ちょっと口元に手を当てて考え始める。
「悩ましいわね……」
「ここで、
「しかし、それでは問題の先延ばしにしかならないと思います」
内緒話を認識したエルティナもこちらに来て話に加わってきた。
「そうね。それじゃ、二つともいっぺんに解決しちゃいましょう」
「マジですか?」
「ええもちろんよ。大丈夫、きっと何とかなるわ」
アリーゼさんが言うと妙な説得力があるのは何でだろうね。
『リザさん、一応許可が下りましたので案内お願いします。こちらはリザさんを探しながらなのでゆっくりめでお願いしますね』
『承知した。なるべくまっすぐ進むよう心がける』
『お願いいたします』
「団長、なにをお話しされてたんですか?」
最後は輝夜さんがやってきたので、一旦話し合いは終わりにして、アリーゼさんは「お料理の話をしていたのよ」とごまかしていた。どう考えてもごまかせていないようだったけど、そこはアリーゼさんのカリスマ性に期待することにしよう。
「さてと、そろそろ行きましょうか。ライラ、準備は出来てる?」
「こっちは万全だ、団長。持ち物も全部問題なし」
「ありがとう。みんなももういいかしら? リオンはどう? トイレに行くなら今のうちよ」
「アリーゼ、はしたないことを言わないでください!」
アリーゼさんにおちょくられたリューさんは頬を真っ赤にして言い返す。うーん、かわいい。
「ダンジョンのそれって一番の課題だよなぁ」
狼人族のネーゼさんが、耳をピコピコしながら自分の荷物を持ち直して武器のチェックを終えた。そういえば、狼ってすごく耳がいいっていうから、ネーゼさんもすごく耳がいいのかもしれないとなると、さっきの内緒話が聞かれていた可能性もあるのか。ちょっと心配だけど、今のところ何もアクションを起こしていないからきっと大丈夫だろう(慢心)。
「OKね。それじゃ、進軍開始よ。全周警戒だから、輝夜は殿について。リオンは真ん中で、前にも後ろにもいつでも動けるようにしておいて。前は私が付くわ。
アリーゼさんは素早く指示を出して、自分があえて前になることで全ての状況に対応できるようにするように見せかけて、集団の舵取りを簡単に行えるようにしたわけだ。ヤルね。
『リザさん、こちら出発しました。誘導お願いします』
『分かった』
『リザ様もお気を付けください。
『心得ておく』
その通信でリザさんの反応がゆっくりと動き始めたのでアリーゼさんに視線をやって他に人に見えないように指で方向を示し、アリーゼさんは皆を引き連れて進み始めた。
リザさんも時々方向を調節しつつ、私達も確実にそこに近づきつつあった。
途中で何度か休憩をして、経路を確認しつつ時々アリバイ作りのために経路をそらせつつ、その間はリザさんにも休憩して貰い、牛歩とも言える速度でそこへ向かっていった。
「アリーゼさん。リザさんが立ち止まりました。寸前だということです」
「分かったわ。いよいよね」
『リザさん。その先の広間が例の場所ということですか?』
『そうだ。この場所で冒険者集団が何度も集まっていたことを覚えている』
『それじゃ、そこで合流しましょう。やっと会えますね。本当に長かった……』
『そうだな。私も、このときを心待ちにしていた』
思えば、リザさんと再会するために私は冒険者家業を頑張っていたのだ。
その頑張りがようやく酬われるのだから、嬉しくないわけが無い。
心が緩んでいた。警戒心を喪失していた。最悪の状況を想定できなかった。
だからこそ私は後悔する。
なぜ私には時間遡行の力が無いのか。
なぜ私にやり直しの機会が与えられなかったのか。
お願いシオン、どうか私を導いて……。
29階層の情報を見つけられなかったのでスルーしました。