ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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ようやく物語進みます






破壊者

 

 

 強い閃光と爆発と爆音で私の五感が一瞬途切れてしまい、その後大規模な崩落によっておそらく生き埋めにされたのだろう。

 

「大丈夫? エルティナ」

 

 自分の感覚では上下が不明だったが、視界に投影されたHUDにはしっかりと重力方向と方角も示されていて、一応私の頭は天井に向いているようであることは理解できた。

 

「問題ありませんが、マスターは私をかばう必要はありませんと何度も伝えております」

 

「ごめんね。どうしても体が反応しちゃうんだ。エルティナは私の家族みたいなものだからさ」

 

「私はサポートパートナーです。ゆめゆめそれをお忘れ無きよう」

 

 エルティナの言いたいことは理解できる。アークスにとってサポートパートナーは相棒みたいなものだが、やはり命の優先度は圧倒的にアークスの方が高い。

 

 それはそうだ。サポートパートナーは実際のところロボットであるため、バックアップされているメモリさえ無事ならいくらでもそのボディは代替可能なのだ。アークスも最悪キャスト化すればいいとも言えるが、キャスト化することで行使できるフォトンは大きく減少するし、さすがに身体が著しく破壊されれば助けることは出来ない。

 

 だけど、ここはオラクル船団ではなくオラリオだ。事実上、エルティナの身体も替えの効かないものなのだから、存在の重さは平等と言ってもいいだろう。なによりも、エルティナを失えば私は生きていけないと思う。

 

『リザさんは無事ですか?』

 

 直前まで戦闘状態だったのでリザさんも当然爆発に巻き込まれているはずだ。

 

『何も問題は無い。一旦木の上に逃れさせて貰った』

 

 なるほど。すごい反射神経だな。

 

『分かりました。しばらく待機していてください』

 

『了解した』

 

 とりあえずリザさんはこれでいい。爆発に成じて逃げたとなれば一応言い訳は着くだろう。さすがにここまでイレギュラーが重なってしまえば、討伐を中断するべきだという意見も強くなるはずだと思う。

 

「みんなは大丈夫かな?」

 

「皆様の生体反応に特に変化はありませんのでおそらく無事かと」

 

「良かった。それじゃ、さっさと出ようか」

 

 幸いにしてそれほど深くは埋められなかったみたいだから、ギャザリング用のツルハシを使えば掘り進めることも可能だ。

 

「削岩用のドリルって、さすがに持ってないよね?」

 

 ストリークエストのフーリエさんなら、隔壁を発破するための爆弾を常に持ち歩いてそうだが、私は持っていないのだ。

 

「私にお任せください。ラ・フォイエの威力を調節すれば比較的安全に突破できるはずです」

 

「そうなの? じゃ、お願いね」

 

 私はそう言ってそのままの状態で仰向けになり、お腹の上にエルティナをのせる形でその場を譲った。

 

 エルティナは一旦土の天井に手を置いて軽くフォトンを流して状態を確かめた上でフォトンを励起させテクニックを発動する。

 

「行きます。目を閉じておいてください」

 

「うん、いつでもどうぞ」

 

 私は目を閉じて、念のために耳も塞ぎその時を待つ。

 

「ラ・フォイエ」

 

 いい感じに調整された炎の爆発テクニックは「ポコン」と軽めの音を立てて隔壁の内部を振動させ、それによって崩れたバランスによって天井が崩落し始めた。

 

「うーん。地面から出ても太陽が見えないのはちょっと寂しいね」

 

「致し方ありません。ここはダンジョンですので」

 

「まあ、そうなんだけどね。それにしても、派手に崩落したなぁ。すっごいクレーター出来てるじゃん。これも、魔法なのかな?」

 

 できあがった穴から這い出してから、後からエルティナを引っ張り上げて一息つくべく周りを見渡した。

 

「無事でしたか、猫又(ツインテールキャット)一般小人族(リトル・ノーマル)

 

 頭上から声をかけられ見上げるとリューさんが心配そうに私を見下ろしていた。

 

「こう見えても頑丈なので」

 

「私も問題ございません。何が起こったのか、説明していただけますか、リュー様」

 

「連中の罠だ。爆発で生き埋めにしようとは、品がなさ過ぎて笑えるな」

 

 エルティナが状況を把握しようとしたところ、歩いてきた輝夜さんが私達の背後にいつの間にか立っていた連中に目を向け口を開いた。

 見ると、いかにも荒くれてそうな連中が驚愕したようにこちらを見て立ち尽くしていた。10名ぐらいだろうか? 大規模崩落の結果生まれた小高い丘のような場所でこちらを見下ろしているのがなんとなく不快だが、あちらもあまり正気ではなさそうに見える。

 

「なんで生きてやがる……」

 

 どうやらこの状況は連中がしでかしたことのようで、大量の火炎石(爆弾みたいなものか?)を同時に起爆させることでアストレアファミリアを全滅させようとしたらしい。

 

「うーん。罠を仕掛けるにしてはちょっと手ぬるいんじゃないかな? こんな開けた場所で爆発させただけだとむしろエネルギーが拡散するばっかりだし。もっと大量の破片を含ませて殺傷するとか。気化爆弾みたいに高温高圧無酸素状態にして殺傷するとかしないと有効じゃないと思う」

 

 といっても、それらはオラクル船団ではすでに非効率で使われなくなったものなので実物は見たことないけどね。フォトン粒子砲や光子魚雷があれば大体解決するから。

 

「いや、物騒ねあなた。子供が言うことじゃないと思うんだけど」

 

 髪を二つお下げにしたリャーナさんがちょっと引き気味で私に言うが、私は子供じゃないので知らない。

 

 周りを見回すと、他の人達もほとんど無傷のようで良かった。こんないい加減なテロ行為で重傷を負うなんて冗談じゃないからね。

 

「終わりにするわ、闇派閥(イヴィルス)も悪の時代も」

 

 アリーゼさんが剣を引き抜き、恐れる闇派閥(イヴィルス)に対して殲滅の意を宣言した。私は、かつての暗黒時代を知らないから、アリーゼさんの言葉にどれほどの重みがあるのか理解できない。しかし、宇宙の平和に微力ながらも貢献してきた私には平和の二文字にどれほどの重みがあるのか、十分に理解しているつもりだ。

 

『ねえ、エルティナ。闇派閥(イヴィルス)が殲滅されたら、オラリオも平和になるのかな?』

 

『おそらく次の戦争が始まると思われますね。その火種はいくらでも転がっていると思われます』

 

『エルティナはリアリストだなぁ』

 

 だけど、エルティナが正しいのだろう。平和は次の戦争への準備期間とまでは言わないが、ダーカーの脅威から宇宙が救われた今でも、500年後にはスターレスの襲来で数千億の人命が失われるのだ。

 

 アストレアファミリアは皆すっかりと戦闘準備を整えており、私もそれにならって巨剣を改めて構えて、エルティナは私の背後に回って無言で全員にレスタ(回復)とシフタ(打撃上昇)、デバンド(防御上昇)をかけた。

 

 

――そして、地を震わせる不気味な咆吼が響き渡った――

 

 

「なに?」

 

「お嬢様、頭上に警戒を」

 

 私が困惑しているところで、エルティナがウォンドを天井に向けて構えていた。

 

「上? 天井に……ヒビが入って……」

 

 それは、ダンジョンの隔壁からモンスターが生まれる予兆にも重なった。壁や地面、水面からモンスターが生まれることはよくあるが、今まで天井から産み落とされるようなことは一度も無かった。

 

「あれは、骨の……ドラゴン?」

 

 身体を小さくタマゴのように丸めて落ちてくるそれは、徐々に身を伸ばして首をもたげ、双眸に火が入った。巨木に足をかけてそれは一瞬で爆発的な加速をしてこちらに向かってきた。

 

「えっ……?」

 

 それは誰の声だったのか。

 あまりにも急激な状況変化に敵も味方も皆何の反応も示すことが出来ず、刹那にて加速したその攻撃に対処するには時間が足らなさすぎた。

 

「ノイン!!」

 

 何の抵抗もなく振り抜かれたそれの巨大でありながら細い腕は凶悪とも言える鋭い爪が真っ赤に塗りたくられ、まるで思い出したかのように立ち尽くすノインさんの四肢がモノのように大地にまき散らされた。

 

【思考制御】

 

 その表示がHUDに出現した瞬間、私の時計は針を刻んだ。敵はエルティナのデバンドを貫通してノインさんに致命傷を与えた。いまここで虎の子のエリクサーを投げれば、四肢は欠損したままギリギリ一命を取り留める可能性はあるが、骨の竜(スケルトンドラゴン)――異常個体(イレギュラー)の視線はすでにノインさんの名を叫んでしまったネーゼさんに向けられている。

 

「!!!」

 

 ネーゼさんは動けない。仲間が一瞬でバラバラにされた。おそらく次の瞬間には自分もそうなるだろうと理解してしまっている。おそらくここで助けに入れるのは私だけだ。

 

 命の選択を迫られるのはこれが初めてではない。ずっとテクターとして戦場にいた私は、否応なく救える命と救えない命を天秤にかけ続けてきた。そうして、できる限り多くの命を助けてこれたと自負している。だから、今回も選択するのだ。

 

 私は巨剣を構え、大地を蹴ってスキルで虚空を何度も蹴り飛ばして加速し、ネーゼさんと異常個体(イレギュラー)の間に割り込んで、今度は横薙ぎに巨剣を振った。

 

 迫り来る三本の巨爪にそれを迎撃する私の剣閃が重なり、その向こうで今ノインさんの生命反応がロストした。

 

「ごめんなさい……」

 

 私のスキル、攻守一体(ガードポイント)なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()敵の攻撃に自分の攻撃を合わせることで発生するダメージをキャンセルすることが出来る。

 

 だから、私がダメージを受けることはないし、スキルによって攻撃をキャンセルされたのなら敵も一旦は体勢を立て直す必要が出てくるだろう。戦うか逃げるか、その選択肢を選ぶ時間が稼げれば今はいい。

 

 私の巨剣と相手の巨爪ぶつかり合い、確かにスキルは発動した。しかし、巨爪の勢いは死ぬことなく私の巨剣の腹を撫でつつ迫り来て、私のお腹を貫いた。

 

【痛覚遮断】

 

 視界が真っ赤に染まった。まるで両腕に力が入らず、巨剣のグリップが徐々に私の手からこぼれ落ちていく。

 

 だけど、私の身体は大地にたたきつけられることはなく、お腹を貫く巨爪を支えに宙づりとなって、端から見ればまるで木偶人形のように思えただろう。

 

(これは、まずいな)

 

 【思考制御】によって冷静な判断が出来てはいるが、今の状態では逃げることも敵わない。振り上げられた反対側の腕の巨爪が今度こそ私の命を奪いに来ているが、エルティナもまだ反応できていないのは致命的だった。

 

 死を覚悟したことは初めてではない。ダークファルスと対峙したときは常に生死の境界線を行き来しながら戦わざるを得なかったし、最終決戦のグラーブエクゼクルとは常に境界線の向こう側で戦い続けていた。

 

 しかし、オラクル船団から離れたこの地でアークスの仲間に看取られることなく死んでいくのは悔しくてたまらない。

 

……まだ、しにたくない……

 

 その願いが天に届けられたのか、遙か頭上木々の狭間から何かが落ちてきて、私の命を刈り取ろうとする巨爪に強くたたきつけられ勢いが削がれた。私はまだ生きている。

 

 そして、私の命を救ってくれたのは木の上に身を隠していたはずのリザさんだった。

 

「恩人を手にかけることは私が許さん」

 

 異常個体(イレギュラー)の意識は彼に移り、私は一命ととりとめたもののあっけなく投げ捨てられて受け見とることも出来ずに数十メートル飛んでそのまま大地にたたきつけられた。

 

 ラスターのクラススキルが有効化されていないので、ラスターウィルで復活することも出来ない。

 

 視界の端でエルティナが行動を開始し私のカバー向かっているので心配することはないが、流出する血液が私の意識を奪っていき、最後にHUDに【生命活動に重大な障害が発生したため、生命維持装置が戦闘不能状態に移行します】と表示されたところで全てが闇に沈んだ。

 

 

 

 








エピソード:オラクルにはムーンアトマイザーがなかったので、この世界にもありません。


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