ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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夢現

 

 

 夢を見ていることを自覚している状態を明晰夢というが、今の状態はそれよりもさらに一歩現実に近い状態だと言える。

 

戦闘不能(床ペロ)状態になっちゃったか。我ながら、情けない……」

 

 油断はしていなかったはず。ただ、相手が私のスキルをキャンセルする能力を持っていたということだ。おそらくはガードキャンセル系の属性があの爪にはあったのだろうと思われる。

 

 あるいは、単純に私のスキルのレベルではキャンセルできないほどに重い攻撃だったのかということだ。つまり、あれの攻撃力はゴライアス以上であり階層主級の個体が突然天井から振ってきたということだ。

 冗談じゃない、初見殺しにもほどがあるよ。

 

「こうなったらもう、エルティナがスケープドールを使ってくれるまで待つしかないか」

 

 スケープドールはウルク総司令肝いりの計画の一環として開発されたもので、戦闘時に一度だけ死を免れるチートアイテムだ。

 

 とにかく消耗の激しいアークスの生存率を何とか上げられないかというウルク総司令にちょろっとゲーム知識を漏らした私のせいで、技術部が地獄を見ることになったやつで、ちょっと悪いことをしたなとは思うけど、これのおかげで確かにアークスの損耗率は劇的に改善したのだ。

 

 量産が開始した当初は生産技術が追いついておらず、アッシュやマトイちゃんをはじめ、上級のアークスに優先して配布されたため私みたいな一般アークスにはなかなか行き渡らなかったけど、スケーブドールとしての性能に達しない不良品でも最低限の機能を認められるものもハーフドールとして再利用することが決定したため、終の艦隊決戦時に何とか全アークスに配布できるに至ったのだ。

 ちなみに私にもハーフドールが一個だけ配布されていたので、グラーブエグゼクルとのタイマンを張る勇気が得られた。

 

 中身について詳しくは知らないが、フォトンによって擬似的に作られた魂が使用者の代わりに天に召されるみたいな感じで説明を受けた記憶がある。またぞろ、マグの中身みたいな闇がありそうで怖いんだよね、オラクル船団は。

 

「早く復活しないとみんなが危ない。今度は全力でやらないと……」

 

 最初からアークスの装備を全開で使っていればおそらくあいつを殲滅することも難しくはないはずだ。だけど、それをしてしまってはネーゼさんを助けることが出来なかった。

 

『思ったより冷静なんだね』

 

 この空間にはあり得ない他者の声が耳を震わせた。

 

「だれ? シオン……な訳ないか。シオンだったらまずは謝ってくるだろうし」

 

 ちなみに私はシオンの眷属ではないので、シオンの姿は見えないし存在を感じることも出来ない。故にアルマさんも知覚することが出来なかったのは寂しいことだ。

 

『うん、私はシオンさんじゃないよ。名前はまだ言えないんだけど』

 

 シオンを知ってるんだね。じゃあ、どこかの神様なのかな? 夢の神様ってなにかいたっけ? ヒュプノスとかそれっぽい感じがする。

 

「うーん。なんとなくだけど、この夢(?)から覚めたら、私はあなたのことを忘れてる気がするね」

 

『残念だけど、その通り。それに、ここでなら理解できると思うけど、私があなたに語りかけているのは初めてじゃないんだ』

 

「うーん、そう言われるといろいろ思考を誘導されてた記憶がちょっとあるなぁ。そこまでのことをしてあなたは私に何をさせたいの?」

 

 詳しくは思い出せないけど、強化種のインファントドラゴンと戦った時とかかな。他にもありそうだけど。

 

 ちなみに、アークスにはアプレンティスの魅了対策のために極めて高レベルの精神防壁が生命維持装置に備えられている。それすらも貫通して私の思考を誘導したのは驚愕すべきことだ。

 

『それは、申し訳ないけど今はまだ言えないかな』

 

「そっか」

 

『あなたにはとても苦労をかけることになる。だけど、私達にはもう、こうするしかなったんだ』

 

「いいよ。それだけ追い詰められてるってことだよね。私じゃ力不足かも知れないけど、精一杯がんばるよ」

 

 救いを求められれば助ける。守護輝士(ガーディアン)の二人は常にそうやってきた。だから、私もそうありたいと思う。

 

 本当なら彼/彼女と握手をしているところだが、姿の見えない相手とは触れることすら出来ないのが残念だ。

 

『うん、ありがとう。そろそろお迎えが来るみたいだよ』

 

「ここでお迎えとか言われると嫌な方しか想像できないんだけどね」

 

 虚空に浮かびながら肩をすくめるのはなぜか滑稽に思えた。よくよく見ると私自身も姿がないから、握手をしようと思っても出来なかったことに気がついた。

 

【外部よりスケープドールの使用が確認されました。直ちに復活しますか? Y/N】

 

 そして、そんな表示が虚空に表示されて、いよいよ別れの時がやってきたということだ。

 

「タイミングバッチリだね、エルティナ。それじゃ、私は行くよ」

 

 私は心の中でそれに手を振った。

 

『うん。また、どこかで』

 

 たぶん、目覚めればこの会話も忘れてしまうんだろう。だけど、誰かを救いたい、助けになりたいという心は盤石になったと思う。助けられる命、助けられなかった命、全部まとめて背負っていきたいと私は心から思う。

 

 そうじゃないと、守護輝士(ガーディアン)の二人に顔向けできないからさ。二人には胸を張れる自分でありたい。

 

 何度も振り向いてここに戻ろう。ここには私の根本があるはずだから、何度でも助けを求める声を聞いて立ち上がろう。

 

『たとえどんな悪夢であっても、夢はいつか絶対覚めるんだよ、ベルディナ。それを、忘れないで』

 

 祝福は成った、後は進むだけだ。

 

 

 

 







スケーブドールとハーフドールについては本作独自設定です。



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