ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
※かなり久しぶりにゲームにログインしたら、本作への応援のメッセージが届いていました。今更でありますが、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。m(_ _)m
荒野になったシダの森のど真ん中でこのまま眠ってしまおうかと、強い疲労感に身を委ねて目を閉じようとしする。しかし、それはリザさんからの通信によって障げられてしまった。
『静かになったようだが、戦闘はどうなった?』
『お疲れ様ですリザさん。こちらは何とか勝ちましたよ。今は疲れて横になっていますね』
『負傷したか?』
『負傷は全て回復しております。精神的な疲労かと思われます』
『そういうことですね。合流にはちょっと時間がかかるかもです』
と言ってもここでダラダラしているわけにはいかないので、上体を起こして首を軽く回しながらぺたんと座り込んで一旦アークス武器の装備を解除した。
「えーっと、念のためシステムの点検もしとこうかな」
私はついでにコンソールを起動し、空中に出現したモニターをいじり始める。
これだけ急速にフォトンを消費してしまうと、どこかエラーが蓄積している可能性があるので、一旦システムを再起動して自動メンテナンスを走らせることにした。
これでアークスとしての戦闘はメンテナンスが終了するまで不可能となるが、最低限の生命維持装置は稼働しているので、冒険者としての戦闘は十分行えるはずだ。
「マスター、リザ様がリュー様を連れてこちらに来られるとのことです」
「あれ? そうなんだ。大丈夫かな?」
メンテナンス自体は10分もあれば終了するがその間は通信機も使えなくなるので少し不便ではある。
「できる限り遺品の回収を行いたいとのことでした」
「そっか。そうだね。だけど、見つかるかなぁ?」
私はそう言って立ち上がり、スカートをパンパンと叩いてホコリを落としつつ、周りをぐるりを見回した。
この周辺はネクス・ヴェラとの戦闘により土はめくれて岩は融解し、木々は消し飛んでしまっている。ここから探すとなると骨が折れそうだ。
「私がサポートしようと思いますが、よろしいでしょうか?」
「うーん。そうか、こういう捜索関係はエルティナの専門だったね」
サポートパートナーは本来ならマスターの命令によって様々な素材の採集を行うことを仕事としている。実際に私のように戦場に連れ出すことはあまりないというのが一般的なのだ。
「分かった、気の済むまで存分に協力してあげて」
「ありがとうございます」
私はエルティナに許可を出すと地面に突き刺していた巨剣を持ち上げて腰のマウントに繋止した。
「それにしても、ダンジョンはたくましいね。もう、損傷箇所を回復し始めてる」
クレーターになっていた地面は徐々に周辺が盛り上がり始めて穴を塞ぎ、消失した木々も数カ所から芽が生え始めている。あの
ちょこちょこと周辺の捜索をし始めたエルティナを横目に、ようやくシステムのメンテナンスが終わったので、念のためもう一度再起動をかけて通常状態へと戻しておく。HUDの表示もいつも通りになって、通信強度も戻ってきた。
『そろそろ到着する』
早速リザさんからの通信が入ってきたので、
『分かりました。エルティナもお手伝いしてくれるみたいなのでよろしくお願いしますね』
『伝えよう』
私は一応周辺の警戒を行うことにして、ちょっとだけ高く盛り上がっている場所に飛び乗って周りをぐるりと観察し始めた。
眼下ではリザさんに連れてこられたリューさんがエルティナと共に二言三言話をしていて、それからネクス・ヴェラが消滅した爆心地を指さした。
「あ、忘れてた」
そこにはボス討伐報酬として有名な巨大な赤い結晶が未だに浮かんでいた。NGSではなくなってしまったシステムだったのでちょっと油断したね。
「これは、巨大な魔石……なのですか?」
なるほど、リューさんにはそう見えるのか。確かにそうかも。
「ちょっと違うかも知れませんね。ともかく開けてみましょう」
「開ける?」
私は巨剣を構えて振りかぶり、「えいや!」とばかりに赤い結晶を袈娑切りにして中身を散らせた。
その瞬間「ピロリン」と虹色の演出が出現し一本の武器が出現した。
「これは、輝夜の使っている剣に似ています。確かカタナと言いましたか」
リューさんはそこに出現したカタナ――ホムラノベニレンゲを見てそうつぶやく。
「うーん。星13のカタナかぁ。微妙だな……」
ドロップした自体は嬉しいが、中身がショボいとちょっとがっかりするよね。ここがゲームならリサイクルショップ直行でエクスキューブになってたところだけど、ここにはないからどうしたものか。ちなみに、アークス用の武器が敵からドロップするのもゲーム以来でちょっと驚いた。さすがファンタジーの世界と言えばいいのだろうか。
「そういえばリューさんは武器が壊れちゃったんですよね?」
私はホムラベニレンゲを手に取ってうんうんうなっていると、ふとリューさんが愛用していた木刀が中程から真っ二つに折れてしまっていることに気がついた。
「ええ。残念ですがしかたがありません。それぞれ削り直して二振りの小太刀にしようかとも思っているのですか」
「そうですか。じゃあ、この武器あげます。どちらにせよ、帰るのに武器がないと危ないですし」
「しかし……」
「実際、皆さんを守れるのは今のところリューさんだけだと思います。私を助けると思って受け取って貰えませんか?」
「…………申し訳ありません。この礼は必ず」
リューさんはそう言ってカタナを受け取り、一度鞘から取り出して片手で数回振って調子を確かめ、そのまま鞘に収めて腰紐に差し込んで固定した。
ちなみに星13以上の武器は一度装備するとオーナー登録がされて他人が使ったり譲渡することが出来なくなるので注意が必要だ。登録解除するにはオラクル船団で解除申請を出して許可を受ける必要があるので、これを装備してしまった限りこの武器はリューさんの所有物になるのだ。
クーリングオフ? この世界にそんなのあると思う?
「それじゃ、私は周辺を警戒しているので、三人は安心して捜索をしてください。リザさんもそれでいいですか?」
「問題ない」
「あなたはリザというのですか。モンスターに名前があるとはなんとも奇妙な感じですね」
「そもそもリザさんをその辺のモンスターと同じにしちゃダメです。リザさんはそこらの冒険者よりも勇敢で礼儀正しい武人さんなんです。敬意を払ってください」
こればかりははっきりとしなくてはならない。理性のあるモンスターは普通のモンスターと同じではなく、交友を結ぶことの出来る仲間なのだ。
「そうですね。申し訳ありませんでした、リザ殿」
「かまわぬ。私がモンスターであることは動かすことの出来ぬ事実だ」
うーん、リザさんカッコイイ。リューさんも惚れちゃうかもね(ナイナイ)。
「お二人とも、早速取りかかりましょう。時間がありませんので」
「分かりました」
「承知した」
そうして私は巨剣を構えつつ周辺を練り歩きながら時々様子を見に来るモンスターを撃退しつつ、リューさんの様子をチラチラ確認する。
「ノイン、マリュー、リャーナ、セルティ、イスカ……。皆いなくなってしまった……なぜ……こんなことに……」
『ねえ、エルティナ。リューさんの様子、どう思う?』
『主だった負傷はすでに治療されています』
『いや、そうじゃなくてさ……リザさんはどうですか?』
『ふむ……若干ながら片足をかばっているように思えるな。剣を振るには少し支障がありそうだ』
『あー、そうですね。二人ともありがとう』
ダメだこりゃ。私がちゃんと気をつけないと。
仲間を失った悲しみは分かるつもりだ。さっきまで冗談を言い合っていた仲間が、次の瞬間に出現したダーカーに胸を貫かれ絶命した瞬間を何度も目にしたことがある。
ルーサーによる独裁が終わった後は、アークスの損耗率が劇的に低下したがそれでも殉職者がなくなることはない。
終の艦隊との最終決戦でも最終的には1割の命が失われてしまったのだ。
「リューさん。一つだけいいですか?」
「何でしょうか、
土を手で掘りながら何とか遺品のかけらでも見つからないかと屈んでいたリューさんが面を上げて私を見上げた。
「まずは、生きていることを喜びましょう。犠牲になった人達を思って悲しむのはその後です」
「そうですね。あなたは正しい。しかし、私には出来ない」
「分かります。だから、頭の片隅に置いておいてください。今はそれだけでもいいです」
悲しみを怒りに変えてしまえばいずれは憎しみとして己の身すらも焼き焦がし、いずれは全てを巻き込んだ大災害へと発展するだろう。ゲッテムハルトさんは愛する人を失った悲しみに飲み込まれ、自分が生きていることの喜びを忘れてしまった。だから、悲しみしか生み出すことが出来なかった。悲しみの中にしか自分の居場所を見いだせず……それでも最後は愛情と共に消えていったと思いたい。
リューさんは救われるのだろうか。最終的にはゲッテムハルトさんの救いとなったメルランディアのような人がリューさんにはいるのだろうか。
きっと大丈夫、少なくともリューさんは一人じゃない。アリーゼさん達のような素晴らしい仲間がいるのだから、きっと何とかなる。
ドロップ品は片手剣っぽいウォンドにしようか迷いましたが、結局カタナにしました。