ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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※連日高評価をいただいており、感謝の言葉もございません。これでまだまだ戦えます。ありがとうございました。





番外編:愚者の驚愕

 

 

 あの戦いを一生忘れることはないだろうとフェルズはそれを思い出す度につぶやく。

 

「ではお前達には特に被害はなかったということでいいな?」

 

『ああ、さすがにやべぇって思って逃げちまった。情けねぇことだけどな』

 

「いや、先に逃げるように伝えたのは私の方だ。すまない、お前達には新参を見捨てるようなことをさせてしまった」

 

 此度の任務にはイレギュラーが多すぎた。予期せぬマーマンの闘技場の発生とその殲滅に、闇派閥(イヴィルス)による爆破テロからの今まで見たことのない異常個体(イレギュラー)の発生に、どう考えても深層の階層主としか言えない、馬鹿げた力を持つモンスターの出現と、ウラノスにどのように報告すれば良いか分からないほどだ。

 

『で、新入りはまたどっか行っちまったのか?』

 

「そのようだ。ガネーシャファミリアの保護も提案されたようだが、断ったようだな」

 

 異端児(ゼノス)の新参――リザはアストレアファミリアとはずいぶん打ち解けたようだったが、それでも冒険者の保護下に入るつもりはないらしい。今回は、下層領域の安全の確保に成功、討伐対象(ダンジョンリザードの強化種)の殲滅任務は失敗という報告をせざるを得ないだろう。

 

(アストレアファミリアには口止め料も含めて別の報酬を用意する必要があるな)

 

 フェルズはこの後のことを少し考え心を落ち着かせる。

 

「新参――リザの捜索は引き続き行ってほしい。こちらは地上でできる限りのことはする」

 

『ああ、よろしく頼むぜ』

 

「では、私は地上に戻る。そちらも警戒してほしい。今はあらゆるイレギュラーが発生する可能性がある」

 

『わーってるよ』

 

 異端児(ゼノス)のリドとの通信が終了し、眼晶(オクルス)を懐にしまったフェルズはもう一度戦闘の跡地を眺め、ため息をついた。

 

「最初の異常個体(イレギュラー)の攻撃によって、かの幼子(おさなご)は確かに命を潰えた。しかし、小人族(パルゥム)の従者によって何の後遺症もなく復活し、第一級冒険者もかくやと言わんばかりの力で簡単に殲滅してしまった」

 

 最初の異常個体(イレギュラー)はアストレアファミリアのようなレベル4を多数抱えるファミリアでさえも何の抵抗も許さずに壊滅させかけた。これがレベル6を多数擁するロキファミリアであれば状況も異なっただろうが、それでもいくつかの犠牲は発生しただろう。

 

「あれは、一般小人族(リトル・ノーマル)の魔法なのか。死者を復活させて、しかも爆発的に戦力を高める魔法など聞いたことがない」

 

 死者復活はフェルズですらまだ成功させたことがない、人智を越えた奇跡と言える大魔法だ。それを、わずかな儀式も必要とせず成し遂げたとなれば、あの小人族(パルゥム)はどれほど偉大な魔道士であるのかと思わざるを得ない。

 

 そして、その後に発生した異常個体(イレギュラー)については理解すら出来ない。虫の息であった最初の異常個体(イレギュラー)が自ら進化したというよりは、何らかの力に飲み込まれ浸食されて出現した異常モンスターだ。

 

 大規模火山の噴火を思わせるような爆発が何度も発生し、天を覆い尽くす星のごとく火球が絶え間なく降り注ぐ様は、モンスター一体で深層のさらに深い場所の地獄を再現させているとしか思えない。アレを放置してしまえば、下層領域を閉鎖するしか無かっただろう。

 

 フレイヤファミリア、ロキファミリアが全力で討伐すればおそらく殲滅することは可能だろう。しかし、それによってどれほどの犠牲が出るのか想像が付かない。

 

猫又(ツインテールキャット)――あの子は何者なのだ、これも一般小人族(リトル・ノーマル)の魔法だというのか」

 

 たった一人で、目立った損傷もすることなく殲滅したベルディナは異常個体(イレギュラー)以上の異常個体(イレギュラー)と言えなくもない。しかも、戦闘中どう考えても致命傷あるいは命が潰えたと思われる攻撃を受けてもすぐさま復活して戦闘を継続している。それが一度だけではない、何度もだ。

 

「不死身……いやすでに生きていない(リビングデッド)とでもいうのか……馬鹿馬鹿しい……」

 

 フェルズは、ベルディナがエルティナによって操られている命無き人形であるかのような妄想を振り払い、アストレアファミリアが28階層に到達した知らせを受けて自身も撤収することにした。

 

「ウラノスには……見たままのことを報告するしかないか」

 

 自分でも信じられないことを他者に報告するのは憂鬱だと、フェルズは重い足を何とか動かせた。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

「隠蔽だと? 正気かウラノス。あれほどの危険な存在はすぐにギルドに報告し警戒を促すべきだ」

 

 地上に戻り、間髪入れずにウラノスの祭壇を訪れたフェルズは一通り報告した後にウラノスから告げられた内容に非難の声を上げた。

 

「冷静になれフェルズ。あれは――破壊者(ジャガーノート)は私の祈りすら通じない存在。ダンジョンに異常な破壊がもたらされたとき、その原因となる存在を排除するために生み出されたものだ。それを知った冒険者がどのような行動を起こすのか、お前なら想像できぬ訳があるまい」

 

「あえてダンジョンを破壊し、例の異常個体(イレギュラー)を利用する者が現れるかもしれないと言いたいのか?」

 

「その通りだ。アストレア、ワカヒルメファミリアにも口止めをせねばならんだろう」

 

 幸いなことにアストレアファミリアは一連の事件による混乱から立ち直るために時間が取られ、ギルドへの報告が後回しにされている状態だ。最低限、下層領域の安全確保と討伐対象の殲滅失敗だけは速報として伝えられているが詳しい内容もギルドが再三問い合わせているにもかかわらず回答が無いとのこととフェルズも把握している。

 

「いいだろうウラノス。口止めの件は私が何とかする。異端児(ゼノス)についてはどうする?」

 

「後日、アストレア、ワカヒルメをここに招待し説明するつもりだ。招待状はすでに作成にかかっている」

 

「承知した。では、私は失礼する」

 

 フェルズは祭壇の部屋から退出し、暗がりには再び静寂が訪れた。

 

「夢は未だ覚めず……しかし、希望が存在することは分かった。今はこれでいい」

 

 ウラノスの言葉は闇に溶けて消えた。

 

 

 

 

 









エルティナが過大評価されています。大変ですね。
ベルディナは……、まあ、ドンマイ。


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