ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
うーん。アリーゼさんが珍しくシリアスだ。いつもなら「バチコーン☆」とか言ってみんなを和ませている愉快なお姉さん(年下)だが、シリアスになっても結構りりしくてカッコイイね(錯乱)。
『うーん、いよいよ突っ込まれたね。どうしようかエルティナ』
私が何者なのか。いずれ誰かに聞かれるとは思ったけど、もう少し先のことだろうと思っていたけど――むしろ今じゃなかったらいつだって話しか。
『それは、マスターの判断に委ねます』
『そうなんだけどさ……。ワカヒルメ様はなにかありますか?』
『そうだね……人の嘘は神には通じないけど、神の嘘は神であっても見抜けない、だから、逆に私達の潔癖を証明するなら人である君の言葉を伝えるしかないんだ』
『私の言葉を……ですか……』
私の――オラクル船団のことをその惑星の原生種族に情報公開をする権限は実際のところ私にはない。だけど、オラクル船団と連絡が取れない状況であれば、やむを得ない事情が認められる場合はその限りではないともされている。つまり、私の判断に委ねられているのだ。だから、エルティナはあくまでサポートパートナーであるため、それに意見する権限も持たされていない。
「とても説明が難しいんですが……うーん。どこから説明したらいいのかな……」
こういうときにどう説明したらいいのかなかなか思い浮かばない。私はあまり頭が良くないので、どうすれば理解して貰えるのかなかなかきっかけがつかめないのが悩みどころだ。
私は文字通り頭を抱えて机に突っ伏す。心なしか知恵熱まで出始めている気がする(気のせい)。
「アリーゼ。相手は子供ですので、あまり詰めるような言い方をするのはどうかと……」
なぜかリューさんがフォローしてくれているが、私は子供ではないのでちゃんと答えようと思う。
「いえ、ちゃんと答えないと不義理になりますので。じゃあ、まずは……」
――コンコン――
いよいよ覚悟を決めて口を開こうとすると、それをへし折るかのように空気を読まないノック音が応接間に響いた。ちょっとずっこけかけたのは内緒だ(関西人魂)。
しかし誰だろう? 今はみんな治療を受けているらしいから、アストレアの人達ではないはずだけど。
「アミッドが何か伝言でもあるのかしら。リオン、対応して貰えるかしら?」
少し腑抜けてしまった空気に肩を落として、アリーゼさんはちょっと疲れた様子でリューさんにお願いした。
「分かりました、アリーゼ」
心なしかリューさんはほっとした様子だったが、すぐに居住まいを正して席を立ち、ドアに向かった。しかし、それを開けた先には誰もいなかった。
「妙ですね……」
リューさんは不審そうにキョロキョロ見回すが、特に何も見つからなかったらしい。誰かが走り去った音もしなかったし、足音がしないと言うことはお化けかも知れない。
「ねえ、リオン。足下に何か落ちてないかしら?」
「足下……手紙……でしょうか? 名前は書いていませんね」
『ねえ、ベルディナ。キミの……れーだーだっけ? それに何かうつってないかな?』
『うーん。確かにドアの向こうに誰かいたみたいですけど。ノックした後にすぐにどこかに行ってしまったみたいですね。侵入者かなにかでしょうか?』
まあ、私のレーダーならお化けかどうかなんてすぐに分かったんだけどね。ただ、足音がまったくしなかったので、かなり優秀なアサシンだったのだろう。
「開封は危険でしょうか?」
「どうかしら、ちょっと気になるわ」
「アミッドが来ていますので、一度確認してみます」
「分かったわ、お願い」
そうして、リューさんはそのまま手紙を懐に入れてアミッドさんのところへ向かっていった。どうも、アミッドさんは治療以外にも解呪などの魔法も使えるようで、万が一があってはならないので手紙に
すごいね、アミッドさんがいたらお化けも怖くないじゃん。今度、うちにも来てもらいたいな。あの物件、絶対に何かいるし。
『ねえ、ワカヒルメ様、エルティナ。あの手紙、何だと思いますか?』
『さすがに読まないことには分からないよ。後でアストレアに教えて貰えるか聞いておこうか?』
『お願いします。ですけど、悪いことにはならないと思いますよ?』
『それはなぜだい?』
と言うことで私は説明した。さっきの反応は、ダンジョンでステルス状態でこちらを見守ってくれていた人の反応に似ていたからだ。全く本人かどうかはもっと詳しく調べてみないと分からないけど、6割方当たってるんじゃないかと思う。だから、それほど悪いことは書かれていないと思うのだ。
『なるほど。不思議なもんだ』
なんとなく私の話題もどこかへ行ってしまった感があるが、また後日ちゃんと考えを整理して改めて話をしに来よう。アストレアファミリアの人達にはちゃんと伝えたいと思う。
「ごめんなさい、
「いいですよ。私もきっかけを貰って、ようやく決心できましたから」
「オラリオの冒険者にはあらゆる事情があるわ。ファミリアにも絶対に外に出しちゃいけない情報があるから、私に詰められたからって不用意に話すのも良くないわ」
じゃあ、聞くなと言いたいところだが、こうやってアリーゼさんも私を一人の団長として鍛えてくれているのだろう(勝手な願望)。こうしてフォローまでして貰い、申し訳のないことだ。
「うーん。一度帰って考えます。だけど、何かしらの答えは必ず出します」
それでも、いずれは話をしないといけないことだから、どうやって説明するかをゆっくりワカヒルメ様とエルティナとで話し合おう(問題の先送り)。
「ありがとう」
さてと、手紙のチェックをして貰うのにすこし時間がかかるのだろう、まだリューさんがこちらに戻ってくる様子はないので、暇つぶしがてらに例の
報告書を書くためには一度通しで見る必要もあるのでちょっと長丁場にはなるだろうけど、コーラとポップコーンが欲しい……というより、自分が戦っている姿を第三者目線で眺めるのってちょっと恥ずかしいかも。ちっちゃい頃のホームビデオを友達に見られてる感じに近いのか?
うーん、前世今世共にほとんど孤児だったのでその感覚が分からないんだけどね。
「ねぇ、
それはネクス・ヴェラが尻尾を振り回して私をなぎ払おうとしたところをステップ回避でカウンターを取って物理ダウンをさせたシーンだった。その後に油断して、火炎攻撃から地面に落とされて火球の流星群の波状攻撃を受けてラスターウィルを一つ消費してしまったんだけどね。あれは焦ったよ。
『マスター。多数の反応が拠点周辺に出現。一部が内部に侵入を開始しました。ご注意を』
『侵入者? 誰が……』
と、いったん映像を終了して外を確認しようとしたところで、星屑の庭全体に爆発的な振動が襲いかかった。
「なに? 爆発!?」
アリーゼさんはすぐさま反応してアストレア様を背後にかくまい、剣を抜いた。この素早い反応はさすがだ。
「外を確認してきましょうか?」
私は様子を見に行こうとするが、アリーゼさんに止められた。
「あなたは自分の主神を優先しなさい。大丈夫、リオン達は負けないわ」
一瞬エルティナがいれば大丈夫かもしれないと思うが、それでも二人で二柱の神を守るのは少し不足しているような気もして、アリーゼさんの判断を信じることにした。
「戦闘が起こっている気配があります」
エルティナはそう私に報告してくれた。耳を澄ますとわずかに武器同士が打ち合わされる音がして、魔法が爆発する音もある。完璧に寝首を掻りに来られている形か。人の身で神を殺すほどに狂った連中ではないと思いたいが、あらゆることを想定する必要がある。
そして、しばらくして戦闘の気配が止み、最後にひときわ大きな爆発音がしてから一切の音が止んだところで、ボロボロになった輝夜さんとライラさんが応接室になだれ込んで来た。
「
「逃げ延びたやつがいたってことだ。被害は最小限……と言いたいところだけど、すまねぇ。死者を出さないだけで精一杯だった」
開かれたドアの向こうはひどく破壊された庭園が見えて、無傷のアミッドさんが再び治療に駆け回っている様子まで見える。壁とかが崩されて向こうの部屋まで見えてしまっているということは、よっぽど強い攻撃を受けたということだろう。
「無事で何よりだったわ。リオンはどこ? すぐに対策を立てないとダメね」
アリーゼさんはリューさんを呼び戻そうと二人に居場所を聞くが、二人はは歯を食いしばって手のひらを握りしめるばかりだ。
「あの阿呆は行ってしまいましたよ」
「どこに?」
「
暴走か。一番最悪のタイミングで起こってしまった。だけど、気持ちは分かる。私だってこんな風に襲撃を受けて、仲間が傷つけられたとしたら何をしでかすか分からない。
「私が追いかけるわ、ライラは私と一緒に。輝夜はここを守って。すみませんアストレア様、ワカヒルメ様。会合はいったん終了とさせてください」
「私もご一緒しますよ」
「ダメよ、あなたは自分の主神を守りなさい」
アリーゼさんはとにかく自分たちで解決したいようだったが、もうここまで来たら一蓮托生、運命共同体みたいなものだ。どこまで私が役に立つかは分からないが、私も何かをしないと気が済まない。
「ここはエルティナに任せます。ワカヒルメ様はここを動かずに、エルティナの側にいてください
「承知しました。ワカヒルメ様はこの身に代えても守り切って見せます」
「それと、ワカヒルメ様にお願いがあります。ワカヒルメ様に預けている通信機を一時的に貸していただけませんか?」
「分かった、その代わりエルティナからは絶対に離れないよ。無事で戻ってくるんだよ……」
「任せてください」
そう言って、ブレスレットの形になっていた通信機をワカヒルメ様から受け取った。
「二手に分かれましょう、アリーゼさん、ライラさん。それと、この腕輪は先ほど話題になった通信用のマジックアイテムで、頭で思い浮かべるとお互いに言葉を交わし合えますので、逐次連絡を取り合うようにしましょう」
通信機で常にお互いの状況をやりとりできれば人捜しには百人力だ。あと、この通信機には発信器が搭載されていて、この星系内であればどこにいても追跡出来るので、アリーゼさん達の現在位置も把握しやすくなるということだ。
「わお、早速使わせて貰えるなんてついてるわね。これはライラに預けるわ。上手く使ってね」
アリーゼさんならすぐに自分で使いたがるかと思ったけど、ライラさんに預けたのは、何かあったときのために自分は戦闘に集中するためだろうか。
それにしても、ライラさんは目をやられていたはずだが、今はちゃんと前を向いて歩いているようだ。アミッドさんの治療が効いたのか、今かけているお洒落な眼鏡のおかげだろうか。どちらにせよ良かった。
「なんかよくわかんねーが、分かった。で? どうやって使うんだ?」
「私がお教えします、ライラ。まずはしっかり外れないように取り付けてください。その次にこの部分に指を置いて……」
エルティナがライラさんに通信機の使い方を丁寧に教えている合間にアリーゼさんは、輝夜さんに負傷者を含めて全員この応接間に集まるように指示していた。
ここを砦にして、再度の襲撃に備えて防御を集中すると言うことなのだろう。
エルティナは自分の通信機を先ほどのような会議モードに設定し全員の話がそこに表示されるようにした。
「うぉ……『鏡』みてぇだなすげぇ」
ライラさんも大まかに使い方を理解したようで、試しに私と何度か会話のやりとりをしてみる。
「ところでアリーゼさん。リューさんが行きそうなところに当てはありますか?」
私のレーダーには確かにリューさんのパターンが記憶されているが、オラリオは広いのである程度近くに行かないと追尾できない。
「そうね。下層で襲ってきたのは確かルドラファミリアだったはず。だったら、ルドラファミリアのアジトを探しましょう。おそらく、同じところに向かうはずだわ」
「なるほど。復讐……と言うことですね」
リューさんは落ち着いているように見えていたが、その実は復讐の炎が燃え上がっていたのだろう。それを、この襲撃を持って臨界を越えて爆発してしまった。
もう、言葉が通じるかどうかも分からないし、復讐を止めることは出来ないかもしれない。あるいは、その復讐を成し遂げさせてあげた方がいいかもしれない。それによって悪が倒されるのであればそれでいいのではないかと。
「それと、リオンが持ってきた手紙ですが、こちらで開封してきました。見ますか、団長」
輝夜さんは、便せんから羊皮紙を取り出してアリーゼさんに見せる。
「何が書いてあったの?」
「例の
「分からないわね。何か問題があるのかしら。ともかくそれは後回しよ。今はリオンを追う方が大切だわ」
「了解、団長」
そうして私達はそろそろ日も陰って夕闇が舞い降りつつあるオラリオの街へと駆けだしていったのだった。
アリーゼさんはワカヒルメファミリアとの関係を悪くしたくないので、一歩引くことでベルディナからの信頼を得ると共に、貸しを作った感を演出しました。チョロいね。