ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
オラリオの暗黒時代が終わった。
そう、ギルドから宣言されても人々はなかなか信じられなかったが、街を歩く冒険者が徐々に緊張を緩和していく様子を見て、ようやく平和という概念を理解し始めている様子だった。
ゼウス、ヘラファミリアの崩壊により始まった暗黒時代は実に10年もの長くに渡って人々を疲弊させていったが、それもまた日常であったことは間違いではなく、それが終わった後に自分たちはどのように振る舞えば良いのかをこれから模索していく必要があるのだろう。
しかし、それは良いことだとワカヒルメは思う。10年で壊されたものを取り戻すにはそれ以上の時間がかかるだろう。しかし、前に向かって歩こうという意思があれば、きっと人々は未来に向かっていけるだろう。
「さて、ずいぶん久しぶりになってしまったけれど、報告会を始めましょうか」
一応、今回召集された報告会――闇黒期には度々行っていた三女神限定のお茶会の主催者であるアストレアは、三女神であるロキ、フレイヤと自分自身以外にゲストとして招待したヘファイストス、デメテルに加え、ワカヒルメに目を向けた。
「まさか、私まで呼ばれるとは思わなかったよ」
ワカヒルメは正直居心地が悪くてしかたが無かった。
実際のところ、自分以外のファミリアはオラリオを代表するファミリアの主神だ。
オラリオ最高の鍛冶師を幾人も擁し、自身も神の力に頼らずとも最高の武器を打つことが出来る女神ヘファイストスに、オラリオの食糧事情を一手に引き受ける豊穣の女神デメテルはオラリオにはなくてはならない存在であることは明白で、他の三女神はもはや言うまでも無いだろう。
それに比べ自分と言えば、今年になってようやくファミリアを結成できて、しかもまだ眷属は2名しかいない弱小零細ファミリアだ。もっとも、その2名がことごとく最速記録をぶち上げたのだから、有名であることは確かなのだが……。もちろん、それは二人があくまで”冒険者”である限りのことではある。
「あなたは当事者でしょう? 胸を張りなさい」
ヘファイストスは優しい声でワカヒルメを励ました。
「ワカヒルメの子達にはずいぶんとお世話になったわ。そのことを皆に知っておいて貰いたかったのよ」
アストレアはそう言って微笑んだ。それを見たロキは心の中では「上手くやったなぁ、アストレア」と賞賛かどうかよく分からない感想を抱いていた。ロキファミリアとしてもワカヒルメファミリアとは、今後どのように友好関係を結んでいくのかが議論されているところだ。
団長のフィンが個人的な要望としてエルティナとの関係を構築したいということもあるが、自身の最速記録を更新されたアイズもベルディナとエルティナを気にしている様子でもあり、リヴェリアは自分に匹敵するほどの数の魔法を扱いこなすエルティナに興味津々のようで、ガレスにいたってはドワーフよりも勇敢な幼女ベルディナとは一度話をしてみたいものだと言っていた。
主神としては当然それは叶えるべき事と認識しているが、思いのほか交流のきっかけがつかめないのが悩みどころだ。
(いっそ、ウチらの遠征に付き合わせたろか。アストレアの二番煎じみたいでいややけどな)
少なくとも、彼らとフィンの間には多少の縁があるのでそこをたどって、少しばかり借りを返してもらうようなニュアンスを匂わせれば希望はあるのでは無いかと思う。
今までは、下手を打ってエルティナからの信用を損なえばフィンに申し訳が立たないので少し慎重になりすぎていたようだ。これからは少しだけ積極的にワカヒルメとの交流を考えるべきだとロキは考え、無言でお茶で喉を潤した。
ロキから見たところ、フレイヤもワカヒルメファミリアの二人には興味があるようだが理由は不明だ。それほど積極的でもないので、単純に最速記録を打ち立てた二人について知っておきたいという程度の事なのかもしれない。
「ギルドから暗黒時代の終了が宣言されて少したったけれど、どうかしら? それぞれの立場からいろいろ報告していただきたいのだけど」
アストレアは本日のメインを提案した。
「それじゃ、私から報告するわね」
最初に手を上げたのはヘファイストスだ。
暗黒時代が終わり、武器の受注は確かに減ったが、その分鍛冶師に余裕が出来て今まで出来なかった研究が出来るようになったということが一番大きいとのことだ。皆、鍛冶師としての本懐である、よりよい武器を打つ探求に時間がとれるようになったことは主神として喜ばしい状態であるとヘファイストスは報告した。
「次は私から報告するわ」
ついで手を上げたのはデメテルだった。
オラリオの食糧事情を一手に引き受けるデメテルファミリアの状況はオラリオ全土の関心事だ。
「これで、当分は飢えずにすむか」
ロキはカラカラと言うが、
「あら、私達がオラリオを飢えさせたことなんてあったかしら?」
デメテルも少し冗談交じりに口を挟み、ロキは素直に頭を下げた。
「分かっとるって、いつもお世話になっとります、ママ」
ロキとフレイヤからは特に報告はない。大体のことはギルドから発表されているし、ルドラが送還されてルドラファミリアが壊滅し、元眷属は皆ガネーシャファミリアに捕縛されどのような罰を与えるべきかの議論が進行中だ。
「ただし、まだ
こればかりはロキファミリアだけではどうにもならない。
「地上の秩序はガネーシャとアストレアに頼るところが大きいんだろうけど。大丈夫かい?」
ワカヒルメはおずおずとアストレアに訪ねた。
「そうね。なるべく早く戦力を取り戻したいと思っているわ」
「だったら新しい眷属を迎えるということかしら?」
とフレイヤ。
「いえ、今のところはその予定はないわね」
アストレアの考えはなんとなく理解できる気がする。新しい眷属を受け入れるためには今のファミリアに余裕がないとダメだということかもしれない。とにかく今はゆっくりと休んでほしいとワカヒルメは思う。
「ほーん……まあ、あんたがそう判断するなら間違いはないやろ。いろいろ世話になったから、なんかあったら言いや。一回だけなら貸し借りなしで助けたるわ」
「あら、タダよりも高いモノはないのではなかったのかしら?」
「せやで? 当たり前やん」
「うふふ……」
フレイヤとロキはやはりわかり合えないようで、口元には笑みが浮かべられていても目は全く笑っていなくて、ワカヒルメはそっと距離を取った。
「ありがとう、ロキ。ただ……」
アストレアが少し天井を見上げる。
「どうしたんだい?」
ワカヒルメは少し心配になって話しかけた。
「そうね。皆がそれなりに余裕が出来たらになるとは思うけど、旅に出ようかと思うのよ」
どこか遠くをみる眼差しは逃避ではなく希望の光がともっているように思えた。
「旅に? なんでや。オラリオもこれからやろ」
せっかくこれからオラリオは復興していくのだから、その利ザヤを取らずしてどうするのかとロキは思うが、アストレアが見ているのは違う世界のようだ。
「そうね。だけど、オラリオにいるからこそ見えなくなるものもあるんじゃ無いかって思うのよ。私の子達には広い世界を知ってほしいとも思うわ」
もう一度原点に立ち戻るということが言いたいのかもしれないとワカヒルメは思う。
「あら、旅なんていつでも出来るじゃない」
フレイヤは少し意地悪な笑みを浮かべた。噂で聞いた程度だが、フレイヤは定期的にオラリオを留守にして旅をしているとのことだ。何かを探しているらしいが、その詳細は分からない。まだ見ぬ英雄をオラリオ外で見いだそうとしているのかもしれない。
「自分みたいにフラッといなくなるのとはわけがちゃうねん。色ぼけ」
ロキはどうやらその理由を多少は理解しているようだ。
「あらあら」
「ちなみにどこへ行くとか心当たりはあるのかい?」
ロキとフレイヤの相変わらずのじゃれ合いは見ないことにして、ワカヒルメはアストレアにそう問いかけた。
「いいえ、今のところは。ただ、最初は船旅がいいかしらと思ってるのよ」
「そうか。海は広いからね。旅立ちが決まったら声をかけてくれよ」
「んー、まあ、長期のバカンスってことやったらギルドも納得するかもなぁ。一人ぐらいは人質としておいてけって言われるかもやけど」
オラリオの冒険者が街外に出ることは難しい。しかも、レベル4を何人も擁するファミリアであればなおのことだ。たとえ、一週間程度のバカンスであってもかなりの制限が加えられるだろう。
「アストレアはこれだけオラリオに貢献したのだから、それぐらいのわがままは叶えるべきね」
デメテルも旅立ちには賛成のようだ。
「そうね。その時は私も一筆したためるわ」
フレイヤは、自分のこともあるので旅立ちは奨励しているように思える。
「せやな。そんときはウチにもいいや。
ロキが邪悪な笑みを浮かべる。ギルドマスターであるロイマンが守銭奴であり他の
(悪いことはするべきじゃないよね)
ワカヒルメはそう思いつつお茶を口に含んだ。
「しっかし、平和になればなっただけ面倒なことも増えるやろけどな」
ロキは今度は憂鬱そうなため息をついた。
「そうね。今までは自重していたけど、ファミリア同士の抗争はどうしても増えるでしょうね」
「イシュタルは戦争したくてうずうずしとるやろうなぁ」
「フレイヤを敵視してるって聞いてるよ」
イシュタルファミリアとフレイヤファミリアが敵対関係にあることはワカヒルメでも知っていることだ。現状ではイシュタルファミリアではフレイヤファミリアの足下にも及ばないが、それも”今のところは”の話だ。
「この機会に……と思っていることは確かでしょうね」
フレイヤファミリアも
「あら、それならそれで好きにさせてあげてもいいんじゃないかしら。それも息抜きになるのではなくて?」
自分は絶対に負けないという確かな自信がフレイヤからは感じられた。むしろ、団員にとっては適度な運動とでも言いたげな風でもあった。
「それにしても今やることやないやろ。せめてウチとフレイヤんとこは、しばらく抗争をせーへんって密約を交わしとくべきかもしれんな。お互いのために……な?」
「考えておくわ」
「それ、遠回しに断っとるやつ?」
「あら、そんなことはないわよ」
ニコニコしている二人はおそらく猫のじゃれ合い程度の事なのだろうが、零細筋の自分は早く帰ってベルディナの料理で癒やされたいと思うばかりだ。
以上で「正義裁定編」の完結とさせていただきます。
今後の展開についてプロットの練り直しをしますので、次話の投稿まで少しお時間いただきます。
アンケートも引き続きお願いいたします。
今後主人公は原作開始(数年後)までどれぐらいランクアップするか
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