ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
久しぶりのステイタス更新
神ルドラ様の送還からすでに二週間ほど経過して、この間はとにかく息つく暇も無いぐらいに忙しかった。
具体的にはギルドからの事情聴取を受けていた。
理由として、リューさんがいろいろ暴走してロキファミリアの作戦を妨害しかけたことが露見してしまい、その減免のためにいろいろ証言をする必要があったからだ。
おかげで、リューさんはしばらくの間ダンジョンに入る事を禁止される以外のペナルティを受けずに済んだ。
冒険者としては致命的かもしれないが、少なくとも登録抹消とか永久追放とかにならなかっただけマシと言えるんじゃないか。ただ、いつまで禁止なのかがはっきりとしていないのが気になるところなんだけどね。
しかし、当のリューさんはあの後すごく塞ぎ込んでしまい、アリーゼさんの慰めにもライラさんの皮肉にも、輝夜さんの発破にも「私が悪い」としか言わなくなって大変だった。本当に真面目な人だ。
私が出来ることは、とにかく美味しいお料理を振る舞うことだけだったので、アストレアファミリア全員に私が出来る全部のお料理を提供して、いろいろな話し合いの場を持って貰った。おかげで、リューさんも何とか前に進めるようになり、いずれはダンジョン禁止も解除されるだろうから、それまでは準備と地上の警邏を重点的に行うことで決着が付いた。
といっても、アストレアファミリア自体がまだまだ本格的に再始動出来るような状況ではなく、ネーゼさんはようやく意識が戻ったとは言え、未だに入院中でアミッドさんの検診をうける日々を過ごしているらしい。私もお見舞いに行ったが、関係者以外は面会謝絶という事になっているようで、見た目以上に重傷だったみたいだ。ただし、しっかりと治療を行って、ゆっくりと療養すればほとんど後遺症もなく復帰できるだろうと言われているので一安心ではある。
輝夜さんとアスタさんの義手についても、
「一年もあれば、頭金程度は稼げますねぇ」
と輝夜さんは強がるが、今のままではせいぜい18階層までが限界じゃないかなと思う。義手がどれほどのお値段になるのか詳しくは知らないが、返済にはかなりの時間がかかるだろうと思われる。お金に関しては私達には助けられる余裕はないので少し寂しい。
「うーん。しばらくは私達と一緒に行動しませんか? エルティナがいれば、いろいろサポートも出来ますし。24階層まで行ければ、金策の効率も上がりますよ?」
エルティナの回復と強化と、いざというときの攻撃テクニックがあれば24階層ぐらいならなんとでもなりそうだ。なによりも18階層までと24階層まで行くのとでは、それこそ稼ぎが倍ほど違うこともよくある。
「情けを受けるつもりはありません。と、言ってもいられない状況ですからねぇ。団長同士、ちゃんと話し合っといてくださいな」
意外にも輝夜さんは素直に(?)受け入れてくれた。一番の戦力であるリューさんがダンジョンに入れないのは確かに辛いだろうね。
アリーゼさんも見た目はそれほど大した負傷を受けていないように見えるが、お腹と肺に受けた傷がなかなか厄介のようで、特に片側の肺がほとんど機能していないようだった。
日常生活を送る程度なら問題ないが、戦闘などの激しい運動をする場合はどうしても呼吸が追いつかずにすぐにスタミナ切れを起こしてしまうらしい。
『うーん。オラクル船団の生命維持装置の予備があればなぁ……。それなら、血液に直接酸素を送ってくれるから、息切れなんてしないし』
『無い物ねだりをしても意味はありません』
『分かってるけどさ』
つくづく私の生命維持装置は反則だと思う。灼熱の火山地帯も、極寒の凍土も、無酸素無重力高放射線の宇宙でも水着で活動できるのはさすがにやりすぎだと思う。
ちなみに、ワカヒルメ様を含めた私達は現在、アストレアファミリアのホームである星屑の庭に逗留させていただいているのだ。
表向きは、
といっても、ここまでで
それだとただの穀潰しになってしまうので、せいぜい皆さんの食事の用意をしたり、襲撃で破壊された残骸の撤去や、生活区画の掃除などを任せて貰っている。ほとんど
ワカヒルメ様は、さすがは機織りの神様というべきか、繕い物を一手に引き受けて、ボロボロになった衣服などをいくつも集めて一つの見事なドレスを仕立てられていた。
「そろそろ、ワカヒルメ様の起業も考えないとダメですね」
いらなくなった、使えなくなった衣服やシーツに布団等々をワカヒルメ様の元に運んで、出された糸くずなどをせっせと掃除しつつ私は作業中のワカヒルメ様に話しかけた。
「そうだね。そのためには……やっぱり住むところか。ここは広くていいね」
織機を入れるにしても、それを置いておく場所が必要だからどうしても広い物件が必要になるし、素材や成果物を保管しておく場所も当然必要になる。そうなると、やっぱり先立つものがないのが頭痛の種になるね。
ボロ布からこれほどまでに見事な衣服を繕うことが出来るんだから、軌道に乗ればいくらでも儲けることは出来そうだけど。どこか融資してくれるところを探すか、債券か株式を発行するかも考えないとダメなのかな? こっちにそんな概念があればの話だけどね。
「さてと、これで一段落か……いろいろ忙しくてほったらかしにしてたけど、今日の夕食後君たちのステイタス更新をしてしまおう」
「あー、そういえばずっとやってなかったですね」
「本当なら忙しくてもこれだけは絶対やらないとダメなんだけどね。冒険者としては」
「うーん、そうですね。もっとちゃんとしましょう。じゃあ、私は晩ご飯の準備がありますから、一旦失礼しますね」
「準備ができ次第お呼びいたします」
私とエルティナは一礼してワカヒルメ様の借部屋から退出し、掃除用具をしまってからホコリが付いたエプロンを外して、料理用の割烹着に着替える。料理はなによりも清潔であることだ。万が一でも食中毒を出してはいけない。手はちゃんと洗う。場合によってはうがいもしようね。
「今日は何を作ろうかな」
「
「そっか。まとめ買いするとそういうことあるよね。じゃあ、久しぶりに
タケノコはヤングコーンで代用して、オイスターソースの代用品もすでにいろいろ研究済みだ。
「うーん。お米がないのが辛いなぁ」
あったとしても私が慣れ親しんだ日本風のお米とはちょっと違うやつで、これじゃない感すごく強いのだ。極東系のファミリアが増えれば需要が生まれるだろうけど、まだ難しいか。
「やっぱり、みんなに食べて貰えると張り合いがあって嬉しいね。エルティナも、手伝ってね」
「承知しております」
私達は意気揚々と星屑の庭の厨房に向かっていった。
ちなみに、家事をしている間は二人ともN-ピュアメイドドレスを着ている。大人の体型の人が着るにはスカート丈が短すぎるが、私達みたいに背が低いとなぜかちょうどよく見えるのが不思議だね(自虐)。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
夕食後、後片付けはライラさん達が担当するということで、私達は先に上がらせていただき、約束通りワカヒルメ様の借部屋でステイタス更新をすることになった。
「あれほど強力なモンスターと戦ったんだから、相当経験値がたまっているだろうさ」
ワカヒルメ様のウキウキした様子を見ると、私まで楽しくなってしまう。
「このまま一気にランクアップ……はさすがに無理ですかね?」
「いやぁ、そうなるといろいろ大変になるから自重してほしいなぁ……」
私達がレベル2の最速記録を更新してからまだ一月ぐらいしかたっていないわけで、そこでさらにレベル3だとオラリオがひっくり返ってしまうだろう。せっかく暗黒時代が終わって、落ち着き始めたんだから、そういう騒動はもっと後でもいいはずだ。まあ、そうなっても意図的にランクアップしないっていう手もあるけどね。下手にランクアップしたら税金が上がるらしいから、節税にもなる。
「それじゃ、背中を見せてくれるかい?」
「はい、分かりました……どうそ」
私は上着を脱いで、肌着をまくり上げてから後ろ手でホックを外して前を押さえ、そのままワカヒルメ様に小さな背中を差し出した。
「うん。相変わらず奇麗な背中だね。じゃ、いくよ」
ワカヒルメ様は指先から血を垂らして私の背中をこすりつけ、
「ん? おかしいな……なぜ?」
なんだか、既視感があるな。また、変なことが起こっちゃったか?
「どうしました?」
「あ、いや後で話すからそのままで……よし、もういいよ」
「ありがとうございます」
私はすぐに後ろ手でホックを留めて、腋の方からカップに両房をしっかりと納めて形を整え、最後に下から支えるように手のひらでしっかりと収まっているかを確認してから肌着を降ろした。
「じゃあ、エルティナも終わらせてしまおう。おいで」
「分かりました」
エルティナは相変わらずワカヒルメ様の膝に座ってステイタス更新を受けている。
「それで、どうでした?」
エルティナの更新も終わったところで私はワカヒルメ様からステイタスを書き写した羊皮紙を受け取りしげしげと眺める。
「うーん。あんまり上がってないですね……いえ、下層を冒険した程度には上がってるみたいですけど……」
「超化エネミーとの戦闘経験が入っていないと言うことでしょうか?」
「エルティナの言うとおりなんだと思う。やっぱり、君たちの装備だとこっちの経験値が入らない仕組みになってるのかなぁ?」
ワカヒルメ様は腕を組んでうなっているが、それが正解なのだろう。
「でしょうねぇ。さすがに7回も死んでるので冒険してないとは言わせませんよ。むしろランクアップしてない方がおかしいぐらいですからね」
アレは文字通り死闘だった。ランクアップのための偉業が神々を感動させる何かを必要としているのなら、アレこそ(自分で言うのはなんだが)偉業と言わずして何というのか。
「原因は二つのパターンが考えられます。まずはマスターの問題、もう一つのエネミーの問題です。前者はおっしゃるとおり、私達の装備ではそもそも経験値が入らないというパターン。後者は、先ほどのエネミーそのものが経験値を持たないパターンと考えられます」
「つまり……あの
「あるいは、
「うーん。そもそもシステムが違うってことか……」
つまり、PSO2でいくら経験値を獲得してレベルを上げてもNGSには反映されない(何なら通貨すら持って行けない)のと同じようなことが起こってるってことか?
「なるほどね。私達神々のシステムが、君たちのシステムと互換性がないから経験値として反映されないという可能性か。検証は……難しそうだね」
ワカヒルメ様にも何とか理解していただけたようだ。むしろ、この中で一番理解できていないは多分私だろう。
「マスターはいかがでしょうか? アークス装備を有効化した状態で下層領域のモンスターで経験値を得られそうな感触はありますか?」
「うーん……。ないね、冒険者装備なら結構いい感じの冒険になるだろうけど、フルクシオだとまだまだ作業になっちゃいそう」
そういえば、ネクス・ヴェラの戦闘記録を見てて、アリーゼさんがウダイオスっていうワードを口にしていたけどアレは何なんだろう?
「ねえ、エルティナ。ウダイオスってなにか分かる? なんか、超化
「ウダイオスはギルドから提供された情報には記載されていませんでした。しかし、アリーゼ様達の話しをまとめると、深層37階層の階層主である可能性が最も高いです」
「深層、37階層か……遠いなぁ。たしかレベル4じゃないと許可が下りないんだっけ?」
しかも、ギルドはなぜか深層についての情報を秘匿しているように思える。下層については依頼で入る必要が出来たと報告したところで基本的な情報を提供して貰えたけど、深層については聞いても無理だった。
「君たちはさ、そろそろ自重しなくてもいいんじゃないか? 二人とも本当の力を発揮したら多分深層だって自由に行き来できるんだろうと思う。それなら、二人の目的も早く達成できるだろう?」
ワカヒルメ様の言うことはもっともだ。私だって、何度もそうしたいと思うことはあった。
「いろいろ難しいんですよ。一応、これは私が元いたところで受けた任務の一環ですし。現地で潜入捜査をする場合はよっぽどの状況を除いて現地のルールに従うっていうガイドラインもありますからね」
オラクル船団のアークスはその戦力故、ダーカー/フォトナー以外については強い自重が求められている。
しかし、ダーカーが出現した今となっては、その制限も解除されたと判断できるとも言えるのだ。
ちなみにバレなきゃいいと言って自重しなければ、オラクル船団に戻った際に手ひどいペナルティを食らうことになるだろう。
なにせ、私の戦闘を含む行動記録はシステムに全て記録されていて、船団とのリンクが回復し次第それは全て本船に報告され、違法性がなかったか自動的に判断されるので逃げられないのだ。
「エルティナは、どう判断する?」
「確かにダーカーの存在は確認できました。未知なるエネミーが存在することも明らかになっています。しかし、オラクル船団との交信がたたれている限り、こちらでの行動に制限がかかる行為は慎むのが最も無難と判断できます」
「だよねぇ。下手打ってオラリオから追い出されたら調査も出来ないし、ダーカーの殲滅も出来なくなっちゃう」
といっても、あのクラスのダーカーが出現した場合は全てに優先して殲滅するから、追い出されたとしても関係ないといってしまえばそうなんだけど。
「だけど、私は今の関係が気に入っていますから、できる限りは壊したくないと思います。それに、本当にダークファルスみたいなのが出てきたら、今の私じゃどうにもならないので、神様の恩恵を受けて少しでも戦闘力を上げていかないとダメですからね」
そう。本当に警戒するべきはそこだ。ダークファルスはそれこそオラクル船団が全力で戦って勝てるかどうか分からない相手だから、私一人じゃどうにもならない。
せいぜい、
「なるほど、君たちの事情は……なかなか理解できないところもあるけど納得はしたよ。二人の判断を尊重する」
「ありがとうございます、ワカヒルメ様」
ダーカーは確実に潜んでいる。今、その反応を観測できないのはおそらくルーサーがアークスに擬態して長年オラクル船団に潜入していたことと同じだろう。
どこにいるのか分からない。ひょっとしたらダンジョンそのものがすでにダーカーに汚染されている可能性すらある。
それがダークファルス級の力を蓄えているのか、そこまではまだ達していないのか。出来れば後者であってほしいとは思うね。
「確認事項は以上でよろしいでしょうか?」
エルティナが私とワカヒルメ様に確認した。私は「いいよ」と答えるが、ワカヒルメ様はちょっと考えて、少し申し訳なさそうに手を上げた。
「実はもう一つあってね。こっちの方がちょっと問題なんだよ」
「まだあるんですか? もうお腹いっぱいなんですけど」
そろそろ寝る準備をしようと自室に引っ込もうかというところの出鼻をくじかれたみたいなものだ。まあ、寝る前に星屑の庭を一周して安全を確認する仕事もまだあるんだけどね。
「私もなかなか受け止めきれなくてね、とりあえず二人と共有だけしておこうかなと思ったんだ」
「そうなんですね。分かりました」
ワカヒルメ様が分からないのなら私に理解できるとは思えないので、エルティナにお任せだ。
「実はね、二人ともランクアップの条件の一つは達成しているんだよ」
「うーん。でも、ランクアップは出来ていないですよね?」
「経験値が足りないと言うことですが……偉業は達成されたという判断なのですか?」
「その通りだね。確認するけど、ランクアップには二つの条件があるんだ」
「えっと、一つはアビリティが一つでも500を越えることですね」
「もう一つは、神々が認める偉業を達成することと記憶しております」
一つ目は分かりやすい。実際私はまだまだそこに達していないからランクアップは無理というのは理解しやすいけど、偉業というのは明確な基準がある訳じゃないからね。
「つまりね、アビリティが500になればいつでもレベル3になれるということ」
「なんか、順番逆じゃないですか? そういうことはよくあるんですか?」
「聞いたことないね。私が聞いたことだけなら、普通はアビリティを上げきって上がらなくなれば
「うーん。つまり、器というのがコップで経験値が水だとしたら、コップが小さいから経験値があふれかえってアビリティが蓄積されなくなるから、神様にお願いして大きいコップに代えて貰う……って感じでしたよね?」
あとは、なんかランクアップするとボーナスみたいなのが入って突然能力が向上したりするから、身体能力と運動神経を同期させる作業が発生するというのもあるらしい。私の場合は
「そうだね。実に分かりやすい」
「それじゃあ、私の場合はまだコップに全然水がたまってないのに、神様が次のコップ用意したからいっぱいになったら使っていいよって言われてる感じなんですね?」
「うん、その理解でいいと思う」
「それじゃ、経験値もくださいよ」
偉業達成したって言われても経験値なかったらどうにもならないでしょ。私が経験値を稼ぐのがどれだけ大変か、神様達は分かってるのかな? 本来なら私は縛りプレイを楽しめるほどの廃プレイヤーじゃないんだよ。どちらかというとファッション寄りのエンジョイ勢だ。
「そればかりは私に言われてもどうも出来ないよ」
そりゃそうだ。もしもどうにかしてしまったら、ルール違反でワカヒルメ様が地上から追放されてしまうだろうから、むしろ止めないと。
「地道に経験値を積み上げるしかありません」
エルティナが答えを言ってくれたのでもうこの話は終わりだ。
「そうだね。しばらくは24階層か……だれか、私を下層か深層に連れてってくれないかなぁ」
まだ、白紙の依頼書は何枚か残っている。大きいところだとガネーシャファミリアとロキファミリアだけど、さすがに自分から御用聞きに行く訳にもいかないしね。
とりあえず話題は出尽くしたようなので、その後は軽く雑談をして、一日の締めの警邏兼夜の散歩を終わらせ、自室に引っ込んで就寝としゃれ込んだ。
アンケートでは、約半数が「おまかせ」で、次に「レベル7」「レベル5」という順番でした。
少なくとも第一級冒険者以上は希望されている方が多いということで、それを認識しつつ無理のないストーリーを組んでいこうと考え、今回のようになりました。
経験値は得られなかったけど、偉業は達成したという中途半端な状態というかんじです。
とりあえずこれで、原作開始時点にはある程度高レベルになれる土台を作ることは出来たかなぁと思います。
感想お待ちしております m(_ _)m
今後主人公は原作開始(数年後)までどれぐらいランクアップするか
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