ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
誤字報告ありがとうございます。なかなかチェック漏れがなくなりませんね。
ギルドから
ネーゼさんはまだまだベッドから起き上がれないようだが、呼吸も落ち着いていて受け答えもしっかりと出来るので、復帰もそれほど遠くはないのではないかと思う。
「うーん。アストレアのところよりもずっと狭くてみすぼらしいけど、やっぱり我が家が一番だなって思うね」
実はエルティナがちょこちょこ戻って掃除をしてくれていたらしく、埃っぽい感じはなかった。さすがエルティナ。仕事が丁寧だ。
「さてと、それじゃ明日からダンジョンに復帰ってことでいいですかね?」
私はお気に入りのソファに座って明日からの相談を二人に持ちかける。
「そうだね。それでいいと思う。私は相変わらずだよ。出勤する場所が変わるぐらい」
ワカヒルメ様は星屑の庭に居候していてもバイトには出ていたので、まさにおっしゃるとおりではある。
「では、いただいた不動産への内見はいつ頃にいたしましょうか?」
「そうだね……私が次の休日に軽く見てくるよ。鍵はもう貰ってるし」
エルティナの問いに、ワカヒルメ様が軽く手を上げて返した。
「うーん。それなら、みんなで行きませんか? 私も気になります」
一応、ちゃんとした間取り図は貰っているが、やはり実際に中を見させて貰わないといろいろ計画を立てるのも難しいだろう。
「そうだね。そうしようか」
休日の予定が決まって良いことだ。私は基本、ボの付く自営業についているので休日は自分で決められるのがいいね。オラクル船団でも基本的にローテーションは管制が決めるからあんまり自由にお休みがとれなかったし。それに、お休みといっても基本的には非番なので、何かったら一瞬で戦場にとんぼ返りというのも珍しくなかった。
もろもろ話し合い、今日は全員で借家の掃除をして引っ越しの準備もちょくちょく進めていこうと言うことになった。ここに住むようになって半年ぐらいしかたっていないけど、女三人住んでいると何かと物は増えるよねって話。
ワカヒルメ様は神会や宴などの神様同士の交流にはそれなりの衣服も必要になることもある。ちなみに
「そういえば、ワカヒルメ様の事業はどうしますか? そろそろ動き出さないと、ファミリアを職人系から探索系にするぞってギルドから脅されてるんですよね?」
「そうなんだよ。確かに、探索系の方がいろいろ優遇されるみたいだけど、やっぱり私は職人でありたいんだ。あとは、税金かなぁ……」
ワカヒルメ様は朝廷で機織りの神様としてずっと布を織ったり、服を縫ったりしていたというから、やっぱりプライドがあるのだろう。それを叶えてあげるのも眷属としての大切な役目だ。そういう約束でファミリアに入れて貰ったんだから、私はそのお手伝いをしないといけない。
ちなみに、税金に関してはなんとも言えない。職人系のファミリアとしてのランクは最下級のIでギルドに納める税金なんてほとんどゼロに近いが、探索系のファミリアとしては二人ともランクアップして、さらに団員だけで24階層まで進出できているためGランク相当ということらしい。ギルドのランクが上がればその分税金が上がるということで、今の零細ファミリアとしては辛いところだ。
「では、まずは織機でしょうか? 紡績機は導入されますか?」
エルティナがワカヒルメ様に聞く。ちなみに織機とは機織り機のことでタテ糸にヨコ糸を通して生地を作る機械のことで、紡績機は綿などの原料から糸を紡ぐ機械のことだ。もちろん手動である。
「紡績は、せめて職人の眷属が一人入ってから考えよう。糸というのはそれほど高く売れるわけじゃないから。まずは糸をどこからか仕入れて、反物にして別の職人に卸すことから始めようと思うんだ。ちょうど、今バイトをしている店が
なるほど、バイトで作った人脈を活用するってことか。さすがワカヒルメ様。
「分かりました。以降はそのように検討いたします」
ワカヒルメ様からは、アストレア様に居候している間でも素晴らしい針仕事を披露していただいたので、それから生み出される反物はどれほど素晴らしいものになるのか楽しみだ。
「もしも、職人さんがもっとたくさん入ったら、服も作るとかあります?」
「そうだね。そこまで出来れば最高だね。将来的には冒険者向けの
夢が広がるのはいいことだ。これがまさにワカヒルメファミリアの第一歩としたい。
「あ、そうだ。
私はアイテムパックに格納していた
「悩ましいね。元手が多いに越したことはないけど……やっぱり分相応というのはあると思う」
「分かります」
下手にお金があると無駄に高価な機材を買ってしまいかねないし、材料に糸目を付けないとなると利益率も下がる可能性もある。
「まずは安い亜麻や綿から初めて、利益が出てきたら絹とかに移行していきたいね」
「そうですね。それでいいと思います。じゃあ、どうしましょう? 使います?」
「私達でも魔法は顕現するのでしょうか?」
「うーん。やっぱり、無理かなぁ……」
果たしてアークスがこの世界の魔法を習得できるのか分からないし、ロボットであるエルティナならなおさらだ。仮に顕現したとして、それがアークスのシステムとどのような干渉するかも予想できないのが怖い。
「ああ、それは心配しなくてもいいよ。君たちのステイタスを見ると――ちょっとまってね、たしかここに……あったあった――ほら、ここ、魔法の欄に空白のカギ括弧があるだろう? これは、まだ顕現していないけど習得可能な魔法があるっていう証拠なんだ」
ワカヒルメ様はごそごそと鍵のかかった物入れから最新のステイタスシートを取り出して該当の場所を指さした。
「へぇー、そういう意味があったんですか。三つしかないってことは、魔法が三つまでしか覚えられないって事なんですかね?」
ちょっと少ないか? 魔法に強いエルフなら10や20は余裕で覚えられるんだろう、うらやましい限りだ。
「そういうことだね。人が拾得できる魔法は三つが上限だから、君たちは最大限スロットがあるって事だね。これだけでもすごいことなんだよ」
ん? つまり、人もエルフも最大でも3つしか拾得できないってこと? なんで?
「魔法が一つも習得できない方も存在するということでしょうか?」
確かにエルティナの言うとおり、3つある人もあれば1つもない人だっているかもしれないってことだ。
「そうだね。一般的にエルフだと多くて、ヒューマンや
「結構格差があるんですね」
魔法が使えることと使えないことでどれほど戦力に差が生まれるのかは分からないけど、選択肢は多いに越したことはないだろう。特に回復系の魔法なんて引く手あまたになるだろうし。
ともかく、私かエルティナが読めば何らかの魔法を覚えられるということか。
「といっても、今のところ必要ってわけではないですよね」
エルティナはテクニックが大量にあるし、私も基本的には近接で、スキルに
「じゃあ、一旦保留しておこうか。別に腐るものじゃないし、本当に使いどころを思いつくまで保管しておいてもいいと思うよ」
「そうですね。どうしてもお金が必要なときに売ればいいですし」
ということで、忘れた頃になにか使い道が見つかるかもしれないからしばらくは塩漬けにしてしまおうということになった。
私のアイテムパックならオラリオで一番安全な保管場所だから、盗難を心配する必要も無いしね。
「そういえば、任務中の拾得物は基本的にオラクル船団の所有物になるけど、これはどう考えたらいいのかな? 巨剣はやむを得ず使うことにしたけど」
黙ってればバレないというわけには行かないのだ。私達の行動は全てシステムに記録されているので、オラクル船団とリンクが回復し次第全部バレるのでヤバイ。
「やむを得ない状況であれば問題ないかと思われます」
まあ、そうか。ワカヒルメ様の事業展開のため、やむを得ず売却したというのならきっと貰えるだろうと信じよう。それに、この
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さらに日々は過ぎ去って、久しぶりのダンジョンということでリハビリがてら18階層まで降りて数日中層にこもる訓練を行っていた。アリーゼさん達とは数日間ダンジョンでキャンプをしたけど、エルティナと二人だけでとなると、18階層で一泊してそのままとんぼ返りしたとき以来だ。
その時はまだ巨剣も持っていなかったので、今回はちょっとゴライアスとのリターンマッチをしてやっても良かったけど、すでに地底人によって討伐された後だったので、とんだ肩透かしだ。これだから、地底人はいやなんだ(差別発言)。
「うーん。やっぱり、下層に比べると収入が半減だね」
明日はワカヒルメ様の休日なのでそれに間に合うように地上に戻り、拾得物の換金を行ったんだけど、下層に比べると目に見えて収入が減っていた。もちろん、下層行くコストとのバランスを考えると一概には言えないのだけどね。
「致し方ありません。それに見合うリスクを負っていましたので」
「さすがに下層に行きたいからってアリーゼさんに付いてきて貰うのもダメだしなぁ」
アリーゼさん達はまだまだリハビリ段階なので、とても下層に行ける訳がないし、18階層に安定して到着できるかもちょっと微妙な状態だ。
一応、輝夜さんにはリハビリのお手伝いをすることは伝えているので、また声をかけてみよう。
「ねえ、実際24階層と16階層ってどっちがパフォーマンスがいいんだろうね?」
額面的にはそりゃあ24階層の方が収入は多いだろう、しかし、24階層に行って帰る
「それは、実際に検討してみないことには判断しかねますね」
エルティナですらこうなのだから、一度試してみるのもいいんじゃないだろうか。16階層ぐらいなら日帰りで行き来できるけど、24階層ぐらいになると18階層を拠点にして今回みたいに集中的に潜らないと手間だ。そのあたりのことを考えると、以外にトントンなんじゃないかって思えるのだ。
この感覚はNGSでいうと、シーズナルポイントを効率良く獲得するにはエルノザRank1をひたすら周回するのが一番良かったことに気がついたときみたいだ。おすすめはフォース。当時はウェイカーはなかった……はず。
「えーっと集合場所はここでよかったよね?」
現地集合ではなく、いったん噴水広場に集合してお昼を食べてから向かおうという話をしていたと思う。
『ごめん、もうすぐでつくよ』
ワカヒルメ様の通信が届いた。
『私達も今来たばかりなのでゆっくりでいいですよ』
なんかデートっぽい。といっても、前世も今世も未だに男の人とデートなんてしたことないけどね。
そして、数分もしないうちに軽く駆け足でこちらに手を振るワカヒルメ様がやってきた。
「ごめん、待たせたかな?」
「本当に先ほど到着したばかりですので、お気になさらず」
「そうですよ、ワカヒルメ様」
「ありがとう、二人とも。それじゃ、まずは食事に行こうか」
「そうしましょう。確か、ワカヒルメ様がよく行かれるところなんですよね?」
「そうだね。大衆食堂って感じで、この時間だと少し騒がしいかもしれないけど、いいところだよ。何よりも安い」
最後が一番肝心っぽいな、これは。できる限り出費を抑えるのは大切だ。だけど一番大切なのは、ちゃんと栄養を取ることだ。前世のOL時代は無茶な節約で栄養失調一歩手前までいったことのある私だから言える。
「楽しみです。私もそろそろお料理のレパートリーを増やしたいなって思ってましたし」
「そうか。じゃあ、今日は三人だからいろいろ頼んでみようか」
「喜んで」
ワカヒルメ様は、女性としては小柄な方だが私と比べるとやはり大人と子供ぐらいの差はある。だから、こうして手をつないで歩くとまるで親子のようには……さすがに見えないか。
「大将、今日は三人で頼むよ」
「あいよ、いつものところが空いてるよ」
「ありがとう」
ワカヒルメ様は食堂に着くやいなや、まるで常連みたいに店主と話し、いつもの場所という席にまっすぐ歩いて行ってテーブルを三人で囲んだ。
「いつもなら
「そうなんですね。お友達と一緒だといいですね」
スクルド様とのファミリアとは同盟を組んでからはちょくちょく一緒に行動させて貰っているが、主神様とはあまり会う機会がないなとふと思う。
「お二人とも、メニューをどうぞ」
エルティナが給仕から渡されたメニューの書かれた羊皮紙をテーブルの真ん中において、私達にもよく見えるようにしてくれた。
「ワカヒルメ様は、いつものってのはありますか?」
「そうだね。大体は日替わりになりがちだね。今日は魚か」
「おぉ、今日の日替わりは鮭のムニエルですって。私は塩鮭の焼いたやつをお茶漬けにして食べるのが一番好きでしたね」
「あー、分かるよ。時々無性に食べたくなる味だねそれは」
「どうやら、今日は鮭料理が多いようですね。豊漁だったのでしょうか?」
「さすがに漁のことは分からないかな。それじゃ、どうする? 私はこの日替わりにしようと思うけど」
「私は……揚げ物が食べたい気分ですね。あ……イカリングある、これしかないでしょ」
海鮮フライの盛り合わせにスープを付けて貰って、後はパンでいいかな。ホタテは苦手だから抜いてもらって、代わりにイカを多めに頼めるかな?
「エルティナはどうする?」
「私はニジマスの塩焼きにいたします」
「なかなか渋いね、エルティナは」
ワカヒルメ様もちょっとびっくり。
「やっぱり、ここにもお刺身ってないんですね」
「魚を生で食べる習慣は、たぶん朝廷ぐらいじゃないかな?」
やっぱりこっちでもそうなんだね。一度は朝廷にも行ってみたいと思うけど、ワカヒルメ様には言いにくいことだ。いろいろあって半分追放みたいな感じで逃げてきたって聞いてるから、デリケートな話題なんだ実際のところ。
「港町なら普通に出せそうですけどね。こんどメレンで捜してみましょうよ」
「それもいいね」
オラリオの冒険者はなかなか外には出られないらしいが、私達はまだまだレベル2の零細ファミリアだから、それほど大変なことではないだろう。実際、気軽に旅行に行けるのは今のうちかもしれないな。
さて、注文も終わって、後は料理が出てくるのを待つばかりだが、さすがにこの時間帯だと人が多くて、土方の人達みたいな人がでっかい声でビールをがぶ飲みしているのも見える。お昼からビールを飲むなんてさすがは外国だ。前世でこれをやったら午後は仕事にならないね。
今の私? 生命維持装置でアルコールは一瞬で分解できるけど、見た目のせいでそもそもお酒を飲ませて貰えないね、悲しい。
注文がやってくるまではワカヒルメ様の仕事の愚痴を聞いたりして時間を潰し、料理が届いていよいよ食事開始と相成った。ちなみに、エルティナの分は自動的に
「うーん、このサクサク感。やっぱり揚げ物はこうじゃないとですね。自分でやるとどうしてもベタベタになりやすいんですよ」
やっぱり、温度が違うのかな? 揚げ物は単純そうで奥が深いのだ。特に天ぷらなんて、今まで上手く作れたことがない。
「そうだねぇ。やっぱり、油かなぁ。私達が買える油ってあんまり質が良くないからね」
ワカヒルメ様もご自分のムニエルを頬張りながらすっきりしつつも奥深い味わいに舌鼓を打った。
「フライですとパン粉も重要かと思われます。どうも、市場においてあるものとは種類が異なるのではないでしょうか?」
「あー、それはあるかも」
うろ覚えだが、日本のトンカツを作るには日本製のパン粉が不可欠で、海外のパン粉ではこの食感が出せないのだとか何とか。そういうことはあるかもね。
「イカリング美味しいです。お米欲しいです」
ここではお米は出ないようなので、代わりにちょっと硬いパンを頬張る。
苦手なホタテは全部イカリングにして貰えたので大満足だ。前世から苦手なんだよね、不思議と。
「美味しーね、ティオネ」
「そうね。ちょっとはマシな方ね」
ふと、喧噪の中からちょっと高めの声が聞こえてきて、そっちに目をやるとアマゾネスらしき子供が二人、テーブルに向かい合ってスープに浸したパンを口に運んでいるところだった。
今後主人公は原作開始(数年後)までどれぐらいランクアップするか
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