ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
新たな惑星、新たな任務
シャオに呼び出され簡単な食事をごちそうになってから切り出された話は、一つの惑星の調査任務だった。なんでも、ウルクが私を指名して直接持ってきた案件らしいが、書類には各部門の司令のサインが入った正式なものであることは確かだ。
「根回しはばっちり……というか、完全に正式な任務だね、これは」
「そういうことだね。察してくれると助かる」
どうもそこは文明の痕跡がわずかに見えるが、ほとんどの生命は絶滅していて地表には地衣類がわずかに残る程度の荒涼とした世界らしい。
所々動く物体は確認されてはいるが、それが果たして生命体なのか確証がとれないという記述もある。これ、絶対生命反応がない系のエネミーでしょ、リリーパの暴走機械みたいな感じの。
かつて文明があったと思わせる遺跡群も世界各地に残されているらしい。特に巨大な構造物の残る都市国家系遺跡群の地下には極めて広大な地下空間が存在しているらしいが、詳細は不明であるようだ。
それが、あまりにも秩序だった階層構造であるため、自然物ではなく人工物である可能性が高いようだが、周辺の遺跡から推測される文明レベルではこれほどの地下空間を造成できるような技術があるとはとうてい思えないとのことだ。
何せ、宇宙空間からニュートリノを利用した透過スキャンをかけると、地下数十キロの大深度、下手すりゃマントル寸前まで構造が広がっているというらしいから大したものだ。
今のオラクル船団でさえ、それだけの極超大深度構造物を作れるかどうか微妙なところだろう。そりゃあ、気合いを入れればいけるだろうけど、それほどの人員やコスト、時間を投じる意味など見いだせないだろうから誰もやらないに決まっているけどね。
そんな文明がダーカーによって滅ぼされたのかどうか。あるいは、今でもダーカーは残っているのかを調査してほしいという話だった。ダーカーがいるかどうかでその後の対応は全く異なってくるだろうから、重要なところだね。
「これ、従事者は私だけ? ほかに補助要員とかいないの?」
「そうだね、基本的には君の単独での任務と指定されているかな。もちろん、サポートパートナーは連れて行っていいよ」
「うーん。なんか、長期任務になりそう」
「特に期限は設けないから、気楽にやっていいよ。報告も気が向けば――って訳にはいかないけど、一月に一回ぐらいで十分とも言われているしね」
「それは、なんか、左遷とか窓際とかいう言葉が思い浮かぶんだけど?」
「慰安とか慰労という言葉に置き直してみたらどうかなぁ?」
「うーん、のんびりしていいなら、いいのかな。ただの一般アークスとしては肩の力抜けるのはありがたいけどね」
ということで、任務の詳細をもらい、その日は部屋に帰ることにした。
「エルティナ。そろそろ部屋に戻ろうと思うけど。どうする?」
エルティナは、私とシャオの食事会兼打ち合わせには混じらずに、休憩中(のように見えて裏ではしっかりと仕事をしている)シエラと情報共有を含めた世間話をしていたようだ。
シエラは、普段は艦橋にこもりきりであまり他者と交流できないと言うことで、話し相手に飢えているというのをどこかで聞いたことがある。今では、明るく朗らかでおしゃべり好きな少女という感じだが、作成された当初は結構機械的で無感情だったというのだから驚かされる。あと、胸の大きさを気にするようになったらしいが、それはどうでもよろしい(よくない)。
「承知しました。では、これにて失礼します、シエラ」
「はい、エルティナさん。ベルディナさんも、また、お話ししましょう」
「それじゃ、シエラも、アッシュとマトイちゃんによろしく言っておいてね」
「あはは、実は私もあまり会えていないんですよ。引っ張りだこですね、お二人とも」
「うーん。有名人だからねぇ、二人とも」
無愛想なアッシュはともかく、笑顔がまぶしくてスタイルも抜群なマトイちゃんは、最近、一般向けの放送でもちょくちょく顔を見せるになって、お茶の間のアイドル的な立ち位置になりつつあるとか。
なかなか頼まれたら断れない性格のようで、なんならアッシュがマネージャー代わりにスケジュールやオファーを管理してあげたらどうかとも思う。というか、さっさと結婚しろ。
二人の話をし始めると立ち話が長くなってしまいそうなので、そのまま打ち切って、艦橋を出た。
「さてと……この後は何か予定はあったっけ?」
「いえ、しばらくは休暇を命じられておりますね」
「そっかー、じゃあ、部屋でダラダラしようかな。明日はちょっといろいろ買い物に行こうか」
ロビーを満たすほどの人混みを、必死になってかき分けてテレポーターのハッチにようやく入ることができ、マイルームの前に転移した。半分暴徒化してないか? 暴力は起こってないみたいだから、暴徒と呼ぶのは問題だろうけど。とりあえず通報しました(嘘)。
心なしか名前を呼ばれたり、手を振られたり、握手を求められたりしていたような気がするが、私はなにも分からない。「ちっちゃくてかわいいー」「こっち向いてー」とかなんて聞こえなかった。私はアイドルじゃないんだ。
「人、多すぎ。あんなところじゃなくて、ショップエリアとか市街地とかで騒げばいいのに」
「情報によると、そちらもかなり混雑しているようですね。むしろ、そこからあぶれた人々がたむろっているのではないでしょうか。もしくは、マスターが通りかかったという噂が回っているようで、出待ちのアークスもそれなりに見受けられましたね」
後半の言葉は聞こえなかったことにした。自慢のツインテールを引っ張ったやつは絶対に許さんからな!
「浮かれすぎ。まあ、気持ちは分かるけどさ……。ちょっと疲れたから、部屋で休むね」
「分かりました。何かご用がありましたらお呼びください。待機しています」
「エルティナも自分も好きなことしてていいんだよ? ショッピングとかデートとか」
サポートパートナーは、人工的に作られた機械生命体だが、できる限りは人と同じように生活してほしいと思っている。
プライベートの寝室に入ると自動的にライトが点灯し、部屋の中を明るく照らし出した。
「もう少し暗めで、そう、それぐらい。色は落ち着きのある感じでお願い」
音声入力でいい感じのライティングを注文し、AIがその通りに調整してくれて満足したので、そのままジャケットをハンガーに掛けて、スカートを脱いでしわが付かないように簡単にたたんでソファにおいて、その脚でベッドに身体を投げ出して、枕に抱きつくように頭を埋めた。アークスをダメにするクッションで作られた枕と言うらしく、結構高級品だが、癖になる抱き心地だ。
「ふー、靴下も脱いどこ……」
と、いったんうつぶせから仰向けに直して片足ずつ蹴り上げるように足を上げて、丁寧に靴下を脱いでいく。裏返しになると、洗濯するときちょっと面倒だからね。
「うーん。パンツまる見えなのもちょっとなぁ。たしか、ワンピみたいに使える長いTシャツがどこかに……あったあった」
腰が落ち着いて立ち上がれなくなる前にベッドから這い出て、クローゼットから、白地に『ダークファルス【怠惰】』と日本語で書かれた、ロングTシャツを取り出して着替えて、完璧なルームウェアの完成だ。身体が小さいので、普通サイズのTシャツでもワンピースみたいになるので、何だかなぁという感じもするが、気にしたら負けだ。
「ベルト代わりにゆるめのゴムがついてたらいいけど。まあいいか」
改めてベッドに仰向けに寝転び、目を閉じようとしたが、
「あ、そうだ。任務の書類に一応目を通しておかないと」
と、思い直して、目の前にモニターを呼び出して、送信されている任務の詳細についての書類をめくっていく。
「ふーん。やっぱり、あんまり重要な任務じゃないっぽいね。将来入植に適した惑星かどうかを先行調査する感じか。ダーカーがいなくなったらいずれは惑星に入植して老後を過ごすみたいな人も増えるのかなぁ?」
今までは、オラクル船団はダーカーの殲滅と同時に誘蛾灯としての役目もあったため、一つの星系にとどまるわけにもいかなかった。だから、一つの惑星に定住することはアークスにとって憧れのように認識されているところがある。
私は、やはり地球人マインドがまだまだ強いので、安定した大地に草の香りの混じった風と、時間とともに表情の変わる空を眺めて、夜は月を見上げて眠る、というのがやはり魂に刻まれているのだろう。本当にすべてが終わったら、どこか、こっち側の地球でもいいので移住できればなと思っている。
「まあ、休めって言われても一週間ぐらいで飽きて出撃するかもしれないなぁって思ってはいたけどね。先手打たれたって感じか。まあ、いいけど」
なんだか、眠気も弱まってきたので、シャワーを浴びることにした。
「エルティナー、シャワー浴びるけど、一緒にどう?」
バスルームに併設されているシャワーは、いったん中央フロアを通って反対側の部屋に搭載しているので、間にエルティナがソファでくつろいでいる様子が目に見えた。
「遠慮します」
ちなみに、一緒にお風呂を入れた試しがないのは何でだろう。恥ずかしいと言うよりも、サポートパートナーの機能的なことなのかもしれない。
「そっかー残念」
マスター権限で命令するのもなんだかなぁという感じなので、そのままフロアを抜けてバスルームに入った。
「今日は、ちょっとぬるめな気分かな」
服を脱いでタオルで前を隠しながら制御モニターを呼び出して湯温を低めに設定してそのままカプセルに入って、降り注ぐぬるま湯に身をゆだねた。
ストーリー進行は結構ゆっくり目だと思います。
惑星探査編以降で、各章の時短編(あらすじ)は必要ですか?
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いる
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いらない
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すでにある分も含めていらない
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どちらでもいい