ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
宴も捌けてようやく静かになった24階層。だいたい終わったところで、エルティナに引率されたお姫様達も合流して、最後の仕上げを終えたところでちょっと休憩しているところだ。その間にエルティナがちゃんと魔石を回収してくれているから何の問題も無い。
「そっかー、仲間とはぐれちゃったんだね」
とりあえず近くの切り株に腰を下ろして談笑しつつティオナ達の事情を聞くことになった。
「うん……ごめんなさい」
アイズさんが三角座りになってちょっとへこんでいる様子だった。何でも、今回は若手の育成のためあえてレベル6の幹部は参加せずにレベル4以下の団員だけで下層25階層到達を目標にしていたらしいが、目標寸前でイレギュラーが発生し部隊が寸断されてしまい、現在地を見失ったあげくモンスターの異常発生(宴)が発生してしまったらしい。
それを何とか切り抜けるためにアイズさんが魔法を多用したせいでマインドダウンしてしまった結果現在に至るとのことだ。
「大変だったね。まだ、お仲間は見つかってないんでしょ?」
「うん……まだ……」
私はエルティナの方をちらっと見るが、エルティナは無言で首を振った。エルティナの探索でもそれらしき反応はないということだから捜索は困難を極めるだろう。キャンプシップとのリンクが生きていればかなりの広域をカバーできるけど、しかたの無いことだ。
「お嬢様、魔石の回収が終了しました」
そろそろ出発しようかというところでエルティナも仕事を終えたようだった。
「ありがとう、エルティナ。それじゃ、出発しようか」
私は切り株から腰を上げて、ほこりが付いたスカートのお尻部分をぱんぱんと叩いてから、近くに突き刺していた巨剣を取り上げて片手で何度か素振りをしてからマウント部に繋止した。
「ベルディナってそんなでっかいの使ってたんだね」
その様子をティオナがどこか感心した様子で眺めていたようだ。確かに、最初にティオナとやり合ったときは、巨剣をアイテムパックから取り出すわけにはいかなかったから素手で相手をしたんだっけね。
「そうだよ。町中でこんなでっかいのを振り回す訳にはいかないでしょ?」
そんな二人はというと、ティオナは小ぶりのショートソードにティオネさんはククリ刀みたいな片手の大型ナイフを主に使っているようだった。
「でもそれ、重くない? ベルディナって実は力持ちだったの?」
「実は見た目以上に軽いんだよ。そうじゃないとこんなに振り回せないって」
と言って繋止したはずの巨剣を頭上でヘリのメインローターみたいに回してマウント部に繋止しなおした。
「ちょっと危ないわね。そういうのはよそでやりなさいよ」
「ごめんなさい」
ティオネさんに叱られたので素直に頭を下げておいた(21歳児)。
「アイズさんももうすっかり大丈夫みたいですね」
「うん……ありがとう」
アイズさんはすっかりと打ちのめされたように思える。冒険者なんだから、もっと向こう見ずでいいと思うけどね。冒険しない後悔よりも冒険した後悔を誇れるようになりたいものだ。後悔しないことにこしたことはないけどさ。
「いいよ。小さい子はまだまだわんぱくな方がいいぐらいだからね」
「むぅ……あなたの方が小さい」
「それは言わないお約束」
小さいのは自覚しているし、アイズさんの方がすでに背が高いのは分かっているからね。成長するのは羨ましいことだ。この身はすでに成長をやめてしまっているようだから。まあ、そういう風にキャラクリしてしまった前世の私の責任ではあるけどさ。
「ひとまず、上の階への入り口まで行きましょう。おそらく、別隊もそこを目指していると思われます」
エルティナの提案にみんなうなずいた。
「そうだね。迷ってなかったらいいけど。ここは結構複雑だし」
「ラウルさんがいるから、大丈夫だと思うけど……」
「そうなんだ、じゃあ、心強いね」
ラウルさんは私が強化種のインファントドラゴンと戦った時にフィンさんと一緒にいた男の人だ。誠実で優しい人だったから、きっと今頃はそのリーダーシップを発揮して別隊を上手く導いていることだろう。
「だけどさぁ。ベートが一緒だから難しくない?」
「それは……」
ティオナの言葉にアイズさんは言葉を濁すが、そのベートさんというのがちょっと難しい人ということなのかな?
「そのベートさんって人、なにか問題があるんですか?」
ロキファミリアは、私が今まで出会った人に限ればわりと穏やかな人ばかりだったから、そんな風に問題視される人というのはちょっと珍しく感じた。
私がそう聞くと、三人が三様にその人となりを語ってくれた。
本名をベート・ローガという
二つ名が【凶狼(ヴァナルガンド)】というらしいが、まさにお似合いだろうという印象が強い。
「うーん。あんまりお近づきになりたくないような気も……」
「そうだよ。噛みつかれるから近づいちゃダメだからね」
といっても、人づてに聞いたことはかなりのバイアスがかかるものだから、実際にどういう人なのかは直接ふれ合ってからじゃないと判断できないだろうけどね。実際に会ってみたら結構いい人だったなんて事はよくあるし。
まあ、それにどれほどの人だろうとゲッテムハルトさんに比べたらおとなしいものだろう、知らんけど。
女三人寄れば姦しいというが、それが五人にもなると言葉の大洪水にもなりうるが、ここはダンジョンなのでさすがに自重している。
「そういえばさ、二人ってレベルいくつぐらいなの?」
ティオナの何気ない質問に私はちょっと「ん?」と思った。自慢じゃないが、私達はオラリオでランクアップの最速記録保持者だからそれなりに有名だと思っていたが、そういえば二人はオラリオに来たばかりだから、そう言うのにはまだ疎いのかもしれない。
「二人ともレベル2だよ。最近ランクアップしたばっかりだけどね」
「え? そうなの? ここに二人だけでいるから、てっきりレベル3ぐらいかって思ってた」
「レベル3はまだまだだなぁ。これでも冒険者になってまだ半年ぐらいしかたってないからね。先は長いよ」
ランクアップの偉業はクリアしているので、後は経験値だけだがその経験値を得るのが私達にとっては難しいのだ。そろそろもう一段階弱体化しないとダメかもしれないと最近思う。
「レベル2で、半年しかたってなくて、しかもたった二人で
ティオネさんは驚いているというよりは、ちょっと懐疑的な眼差しで私達を見ている用に思えた。
「そういうことですね」
といっても、私は嘘は言っていないので堂々としていればいいのだ。
「あんた、レベル詐称してんじゃないでしょうね?」
「まさか。そんな面倒なことしませんよ。バレたら大変なんでしょう?」
どういう罪を科せられるかは分からないが、レベル詐称が発覚したらかなりのペナルティを与えられるということはよく聞くことだ。
「嘘を言っているとは思えないけど、それでも信じがたいわね」
ティオネさんの言っていることは、ある意味理にかなっているところがある。24階層は中層の最下層であり、下層領域への入り口でもある。一応、レベル2のパーティーでも攻略は可能と言われているが、一般的な感覚なら少なくともレベル3の冒険者が2名はほしいところである。
だから、以前にアトラナートファミリアの人達が三人で活動していたのはかなりの冒険だったということなのだ。
「うーん。といっても、ここで私達のステイタスを見せることも出来ないですからねぇ。信じて貰うしかないですけど」
「ティオネ……その……疑うのは良くないと思う」
ずっと黙っていたアイズさんも口を挟んできたので、ティオネさんは「わかったわよ」と言って、一旦この話は終わりになった。
『こういうのってギルドに申請すれば調査して貰えるんだっけ?』
『そのようなことを聞いた覚えはあります』
『そっか。それじゃ、ギルドにロキファミリアから私達に調査を依頼して貰ったら疑いも晴れるってことかなぁ?』
白黒はっきり付ければ疑いも晴れるだろうから、もしもロキファミリアの方で問題になりそうなら調査依頼をして貰うように頼んでもいいかもしれない。
それからしばらく会話も少なく周りを警戒して進んでいたが、散発的なモンスターの襲撃はあったが実に平和な道中だった。
「静かね」
ティオネさんのつぶやきが木々の間を抜けて消えた。そして、これが嵐の前の静けさであることは明確だとここにいる誰もが感覚していたことだろう。
『マスター、モンスターの大量発生を確認しました』
『来たか。映せる?』
『HUDに映像を共有します』
エルティナから供与された映像には24階層のマップの少し離れた場所にモンスターと思われる交点が大量に表示されていた。これは、今発生したのではなく宴が発生していた場所が探索範囲に入ったということだろう。
『戦闘中ってことだろうね』
『冒険者と思われる反応もいくつか観測されます』
『分かった、私が先に行くからエルティナはみんなと一緒でお願い』
『承知しました』
これがロキファミリアの人達であるとは断定できないが、可能性がある限りは助けに行くべきだろう。
「ごめんなさい、なんか、向こうでお祭りが開催中っぽいのでちょっと見てきます」
私はそう言うと間髪を入れずに、飛び上がり
どんどん進んでいくうちに私のHUDのマップにもモンスターの大集団がようやく表示されるようになり、さらには混乱した集団の叫び声なり怒鳴り声なりも大きくなっていく。
「なんか、かなりの大ピンチみたいだね。急がないと」
そして、私は少し盛り上がった土の上に降りたって眼下に広がる状況を一旦確認した。
『こちらベルディナ。集団を発見したよ。ラウルさんとアナキティさんもいるから、間違いなくロキファミリアの人達だ』
『承知しました。こちらは到着までもう少しかかります』
『分かった。そっちは任せるよ』
なんとなくだが、勝手な行動をした私をティオネさんがプリプリと怒って、ティオナがそれをなだめていて、アイズさんがオロオロしている様子が見えるようだ。
ラウルさんとアナキティさんは何とかチームに指示を飛ばして状況の打開を目指そうとしているようだが、それに反発するように一人の男の人がスタンドプレーをして連携が取りにくくなっているようだった。
「あんまり協調性のない……ケモ耳の長身のお兄さんが多分ベートさんだな。うん、聞いたままか……」
私はそのまま
「雑魚どもが! 出しゃばるんじゃねぇ!」
ラウルさん達の背後から襲いかかろうとしたモンスターを蹴り飛ばして蒸発させたベートさんが罵声を投げつけるが、それでもちゃんと仲間を助けるのだからその性根はまっすぐなんだろうと思う。性質的にはオメガ世界のゲッテムハルトさんに近いと思う。
「今度はあなたの背中がお留守ですよ、おにーさん」
私はそう短くつぶやいて、巨剣をまっすぐと構えて、落下の勢いのままベートさんの背後から襲いかかるバトルボアを真上から脳天を貫いて一瞬で灰塵に帰した。
「なんだテメェは!」
ベートさんの罵声が響き渡るが、私はそのまま巨剣を振り下ろして飛びかかってきた雄鹿を真っ二つにした。
「もう少しでアイズさん達がこちらに来ます。それまで持ちこたえましょう」
「なんだと……」
「うわぁ、ベルディナさん。なんでここにいるんスか?」
背後からラウルさんの驚く声がするが、なんで見た目幼女の私をさん付けで呼ぶのかちょっと分からないな。
「え? あなた、なんでここにいるのよ」
アナキティさんの声もするが、あなたたち戦闘中なのに余裕ですね。
私は上空から襲いかかってきた蜂みたいなやつをたたき落としてため息をついた。
「こいつがいるとどこかに巣もありそうだね。あれは、面倒くさいから嫌いなんだよね」
今のところそこまで大量発生しているようにも思えないから、単独行動中のやつがたまたま引っかかってきただけだと思いたいけど。
「いやー!!」
突然女性の悲鳴が響き渡った。見ると小柄な女性が巨大なカマキリみたいなクワガタみたいなモンスターに捕まって上空に連れて行かれているところだった。中層はこうやって地上だけじゃなくて上空の警戒もしないといけないのが面倒なところだ。
「助けます!」
私は急いで
バランスを崩したマッドビートルはそのまま墜落して、追撃する形で私が巨剣を頭に突き刺して絶命させる。
「大丈夫でした?」
「あ、ありがとう……」
小柄でちょっと引っ込み思案にも見えるメガネっ娘が私が差し出した手を取って立ち上がった。恐怖は表情に浮かんでいるが、それでも押しつぶされてはいない、芯の強い子なのだろう。
「リーネ、こっち頼むっス!」
「わ、分かりました!」
リーネさんと呼ばれた女の子はすぐにラウルさんの元に向かって何かしらの魔法を発動し仲間を回復させていた。
「
ダンジョンで
「ベルディナ、気をつけて!」
「おっと……」
少しボーッとしていた私にアナキティさんが鋭く声をかけてくれた、背後からは突進してくるマンモス型のモンスターがいて、私は振り向きざまに
「ちっ……うぜぇな……」
そのベートさんも死角になりやすい上空から襲いかかる蜂やカマキリに手を焼いているようで、なかなか地上での戦闘に集中できていないようだ。それはラウルさんやアナキティさん達も同じようで、リーネさんを守るように円陣を組みつつ上空からの攻撃に気を散らされているようだ。
「これは、私が空を担当した方がいいかな」
幸いなことに私には空中戦を行うスキルがあるので、適材適所だろう。
ちょうど良く上空から奇襲をかけようとするカマキリが見えたので、先手を打って
「頭上は私に任せて、皆さんは地上に集中してください」
私はそのまま地上に戻らずに
「かたじけないっス!」
「無理は、しないでください」
ラウルさんとリーネさんから心強いこえを聞いて私もちょっといい気になってしまう。私はおだてられるのに弱いんだ。
ついでにでっかいトンボの群れまでやってきたので、そいつらも足場の代わりにしつつ一体ずつ丁寧に処理していった。
「すごい……アイズさんみたい……」
地上からは誰かの声がしたが、確認している暇はない。空中のモンスターは私を最優先目標と認識したらしく、地上を見向きもせずに私に襲いかかってくる。私の狙い通りだ。
そうして地上の戦闘も安定して、しばらくするとエルティナに連れられたティオナ達が合流して一気に形勢がひっくり返り、見事に宴をお開きにできた。
「お疲れ様でした。結構楽しかったですね」
私はようやく地上に戻ってきてベートさんに手を差し出して握手を求めた。
「俺一人で十分だった……雑魚どもが足を引っ張りやがって」
そんな私の手をベートさんは無視してそっぽを向いてしまった。うーん、気難しいなぁ。
「ちょっとベート。助けてくれたのにそんな言い方ないじゃん!」
ティオナはベートさんに反発するがのれんに腕押しのようで、ラウルさんが大変申し訳なさそうに頭を下げてきた。
とはいえ、やさぐれイケメンに罵倒されるのってちょっとしたご褒美だとも思わなくもないのでこれでいいのだ。(HE-NT/AI的発想)。
「ねぇ、あなたのそれって、魔法?」
ティオナandティオネさんとベートさんの言い争いに肩をすくめていると、アイズさんがそう聞いてきた。
「それっていうと?」
「空飛んでた」
「ああ、これ? 魔法じゃなくてスキルだよ。精神力を消費して空中を蹴ることができるだけだから、正確には空を飛んでるわけじゃないんだけどね」
「そうなんだ……。私のは魔法だから」
「アイズさんも空飛んでたね。すごかった」
途中乱入した(私もだけど)アイズさんも風のようなオーラを纏って空中を自由に飛び回っていたのには驚いた。やっぱり魔法はすごい。私のは飛行と言うよりは空中跳躍というべきものだからそもそも比較にならないのだ。
「お嬢様。他のファミリアにスキルを伝えることは御法度となります」
「あ、そうだった。ごめん……だけど、ロキファミリアの人にはいいんじゃない? 何かとお世話になってるし」
直接何かをしたり、して貰ったことはあんまりないんだけどね。
「アイズさんも、あんまり他の冒険者の能力とか聞いちゃダメっすよ」
「ごめんなさいラウルさん」
あーあ、アイズさんも怒られてら。
「それじゃ、地上に戻りましょう。あなたたちも一緒に来る?」
アナキティさんがそう言ってくれたので私達もご一緒することにした。この時間帯だと、ギリギリ夕食までにはホームに戻れそうだけど、18階層で一泊してもいいぐらいか。
その後は特に何かあることも無く、18階層で一泊して、ついでに私の手料理を食べて貰いベートさん以外との交友を深めた。
今回はなかなか楽しい冒険だったと思うよ。心残りがあると言えば、もう少しベートさんとも仲良くなれればなぁといったところか。まあ、ゆっくりやっていけばいいかな。
今後主人公は原作開始(数年後)までどれぐらいランクアップするか
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