ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある   作:柳沢紀雪

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閑話:狼餓

 

 弱いやつは強いやつに守られていればいい。そうすれば、いちいち雑魚に足を引っ張られることもねぇし泣き言を聞かなくてすむ。

 

「――っち……雑魚どもがよ……」

 

 ただピーピー鳴いているだけなら耳障りなだけだ。だが、弱いやつが変な使命感に目覚めて無謀に戦いに挑みやがるのが我慢ならねぇ。そんなもんは大抵強者に押しつぶされて全てが無意味になるだけだ。今までずっとそうだった、これからもそうだろう。

 

 死ぬ覚悟があるのならまだマシな方だ。それもねぇクセに使命感だけはいっちょ前で、いざその時になったらただ泣きわめいたあげくあっさり死にやがる。クソくだらねぇ人生をただ死ぬことだけに費やしやがった負け犬だ。

 

 そんなのは冗談じゃねぇ。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

「ベート! 聞いているのか、ベート・ローガ!」

 

 口うるさそうな女性の声にベート・ローガは面を上げる。

 

「うるせぇな、ババア。いちいち声を張り上げんじゃねぇ」

 

 憎まれ口は彼の十八番と言ってもいいほどだ。普段は口下手のくせに、そればかりを集めればギルドの大百科事典すら凌駕するほどのものになるだろう。

 

「荒れとるのぉ。そんなにあの二人が気に入らんのか?」

 

 その様子に肩をすくめるのはガレス・ランドロックその人だった。

 

「ちげーよ……」

 

 しかし、ベートは聞く耳を持たず口を閉ざすばかりだ。

 

「今は君の話をしているんだベート。もう一度確認するが、君は24階層でアイズ、ティオネ、ティオナの三名とはぐれ、それを捜索中にモンスターの宴に遭遇した。これは間違いないな?」

 

 しかし、その態度を咎めるように団長のフィン・ディムナが言葉を続けた。

 

「ああ」

 

「続ける。その後、ワカヒルメファミリアの団長、猫又(ツインテールキャット)の支援を受け、その後、一般小人族(リトル・ノーマル)とともにアイズ、ティオネ、ティオナと合流しモンスターを殲滅し、ワカヒルメファミリア共々地上へ帰還した。問題ないな?」

 

 言葉にしてしまえばそれだけのことだ。ダンジョンではありふれた、誰もが一度は経験しそうなことが繰り広げられた。ただそれだけのことに過ぎない。

 

「ああ……」

 

「これは、ヒリュテ姉妹からの報告だ。ベート、お前は支援を受けたワカヒルメファミリアの二名に礼すら言わなかったと聞いている。これは事実か?」

 

 今度はリヴェリアが詰め寄るようにベートに問いただす。

 

「知るかよ」

 

 ベートはそう言い捨てて席を立ち、部屋を出ようとする。

 

「ベート、一つだけ言っておくよ。ワカヒルメファミリアとは絶対に敵対するな。友好的に接することが出来ないのならせめて黙っていろ」

 

 フィンの声は珍しく鋭い。今に始まったことではない。ロキファミリアの幹部としてはベートがなぜこのような態度を取るのか、一定の理解はあるが、それでも他の団員の前では示しを付けなければならない。

 

「…………」

 

 ベートはなにも応じずに乱暴に扉を閉めた。いつもなら最後に何かしらの憎まれ口を捨てていくだろうが、今回はそれがなかったことが少し奇妙に思えるぐらいだ。

 

「ふーむ。思ったよりも口答えせなんだな」

 

 ガレスはソファに背を預ける。

 

「そうだね。多分ベートにとって、ワカヒルメファミリアの二人は『雑魚』ではなかったんだろう」

 

 フィンは少しだけ眉間から力をぬくべく指でそこをなでつけて、小さくため息をついた。

 

「なるほど。ベートですらその評価か……妥当ではあるか……」

 

 リヴェリアは腕を組んで若干瞑目した。その脳裏に浮かぶのは、彼の大捕物の最後に起こったことだ。神ルドラを送還するべく退路を全て封鎖していたところにやってきたリュー・リオンと、それをとめるアストレアファミリアの二人加えて明らかに幼い一人の少女の姿もあった。

 赤みのかかった長いピンク髪を二つにまとめた少女の特徴は、噂に聞く猫又(ツインテールキャット)の容姿そのものだったと記憶している。

 

「リヴェリアはどうじゃ? たしか、あのとき【疾風】とやり合っていたと小耳に挟んだがのう」

 

 ガレスの声にリヴェリアは現実に戻される。

 ソファの側に立っていたリヴェリアはそのまま席に着き、「そうだな」とつぶやいた。

 

「少し理解の及ばない戦いだった。リュー・リオンが見慣れぬ剣を振るっていたこともあるが…………。なあ、フィン。猫又(ツインテールキャット)の武器は確か、身の丈を越えるほどの巨大な剣だということだったな?」

 

「そうだね。ラウル達もそう言っていたよ。よくもまあ、あの小さな身体であれほどの剣を振れるものかと驚いていたらしいけど」

 

「わはは! 幼子(おさなご)にしては豪快じゃのう! 益々気に入ったわ」

 

「野蛮なドワーフらしいな」

 

「なんじゃと? いけ好かないエルフが」

 

「それで? 武器がどうかしたのかい?」

 

 いつものじゃれ合いが始まる前にフィンは先んじてリヴェリアに水を向けた。

 

「ああすまない。その時の猫又(ツインテールキャット)は、雪のように白いレイピアをどこからともなく取り出していたのだ」

 

「ふーん。それは、護身用の予備とかじゃないのかな?」

 

 あれほどの巨大な剣であれば町中で持ち歩くと悪目立ちするだろうから、日常の護身用にと言うのならちょうどいいのではないかとフィンは思う。

 

「それが妥当だろう。しかし、アリーゼ・ローヴェルはその武器を見た途端、なぜか狼狽していた。リュー・リオンを殺すつもりなのかとな。リュー・リオンもまた、その武器を見た途端に意識を変えたように思えた。もう、逃げないとな」

 

 その目には畏怖の念が込められていたように思えた。間違いなく、その武器をきっかけにアストレアファミリアと何かあったと思わせる気配が存在していたのだ。

 

「つまり、ただの武器ではないということかのう。魔剣……ということじゃろうか?」

 

 その後の戦いは、リヴェリアにはなかなか言葉にしにくい内容だった。今までに見たことがないような勢いで突撃するリューを、刺突の一撃で吹き飛ばしたこと。どう見ても攻撃が当たったとした見えなかったにもかかわらずいつの間にかリューの背後に回っていたこと。そして、ベルディナの渾身の一撃をただの鞘を当てただけで無力化したこと。

 

「茶番劇と言ってしまえばそこまでだが」

 

 言葉で説明してみると、なんとも荒唐無稽なことだ。しかも、それらには魔力が消費された形跡を感じられなかったことも、リヴェリアを困惑させる一因となっている。

 

「たしかに、実際見ていない僕たちじゃ、にわかには信じられないことだね」

 

「ふーむ。一度手合わせしてみるのも手じゃな」

 

「それは、お前がやりたいだけではないのか?」

 

「そうじゃが?」

 

「開き直るな」

 

「と・も・か・く・だ! ラウル達の助けになってくれたことは事実だからね。礼を言うために近々会合を行わないかと持ちかけるつもりだ。異論はないね?」

 

 フィンは強めの口調で二人を止めて、一番大切な提案をした。

 二人は「もちろん」と首肯して、会議は一旦はお開きとなった。 

 

「それにしてもフィン。ずいぶんワカヒルメファミリアをかばうのだな。やはり、一般小人族(リトル・ノーマル)か?」

 

 少し休憩がてらお茶を入れて貰い、落ち着いたところでリヴェリアはフィンに問いかけた。

 

「否定はしない。けどね、ワカヒルメファミリアとの友好関係はきっと僕たちに良い影響を与えると思ってるよ」

 

 フィンが同族のパートナーを探していることはオラリオでは有名な話だ。一番に名乗りを上げているのはアストレアファミリアのライラだが、最近は新人のティオネもアマゾネスらしく明らかにフィンと添い遂げようと爪を研いでいるように思える。

 ライラもレベル3の冒険者であるからめったなことは起こらないとは思うが、ロキファミリアとアストレアファミリア間の抗争にまで発展しないことを願うばかりである。

 

「ふーむ。お主と一般小人族(リトル・ノーマル)はなかなかにお似合いとは思うがのう。勇敢さ、冷静さ、多才さ、しかも美しいとあれば、お主の理想のままではないのか?」

 

「否定はしない」

 

 図星だからこそはっきりとしたことは言いたくないのだろうとリヴェリアは思う。しかし、以前問うたときは明確に「候補には入れている」と口にしていた割には今回は曖昧な言葉で終わらせようとする様子をガレスは奇妙に思えた。

 

(心変わりかのう……らしくない)

 

 本人が語らないのであればこれ以上は追求することはないと思いガレスは残ったお茶を飲み干して「ドワーフの火酒を浴びるほど飲みたいのう」とつぶやいた。

 

「さてと、ワシはティオナの稽古を付けてやる約束があったな」

 

 ガレスは席を立ち上がり軽く肩を振って話し合いで出来たコリをほぐした。

 

「私は……アイズともう一度話をしよう」

 

 アイズもまた今回の件で暴走して魔力を使い果たす(マインドダウン)という愚行をしでかした。やはり、普段から指導している身としては、根性をたたき直さなければならないとリヴェリアは思う。スパルタママというやつだ。

 

「ほどほどにね、リヴェリア」

 

「分かっている」

 

 最近はずいぶんと飴と鞭を使い分けることも出来つつあるようだが、やはりまだアイズからの恐れはなくなっていないようだ。

 

 そして誰もいなくなった執務室に一人残されたフィンは、今日中に決済しなければならない書類の小山を眺めてしばしため息をついた。

 ワカヒルメファミリアとの会合を持つという新しい仕事も入ってしまったこともあるが、改めて聞かされた彼女たちの行動、そしてその力にフィンも思うところはある。

 

「彼女は……フィアナの再来なのか? そうだとしたら僕は……俺は……」

 

 そのつぶやきは執務室の静寂の中に消え失せた。

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

 鬱々とした感情を持て余したままベートが結局たどり着いたのは、一人黙々と木剣を振るう金髪の少女のいる訓練所だった。

 

「……よぅ……」

 

 ベートは短く声をかけるが、アイズは振り向かずにただ無心に剣を振り続ける。

 一足先にレベル4になったヒューマンの娘。年下にもかかわらず自分よりも強い女。弱い異性をとにかく遠ざけるベートにとって、その少女は例外とも言える。

 

 アイズは自分に似ているとベートは思う。ただひたすらに、頑なに強さを求め周りを見向きもしない。それこそ強者が見せるべき姿だとベートは思う。弱者はその背中で守られていればそれでいい。

 

「あの二人、ベートさんはどう思いましたか?」

 

 アイズが素振りをしたまま、木にも背を預けるベートに声をかける。

 

「くだらねぇ。あれで弱ぇやつらを助けてるつもりかってんだよ」

 

 吐き捨てるベート。二人はレベル2で、自分たちよりも格下だ。アイズにとっては二つも下の雑魚に過ぎない。実際、アイズが本調子ならあの程度の集団はあっさりと粉砕していただろう。それもまた真実だ。

 

「でも、あの二人は強かった……です」

 

 しかし、なぜかベートにはそれに頷けない自分がいることも確かに認識していた。

 あの二人は何かが違うと二人は認識していた。

 

「……そうだな」

 

 あれほど巨大な剣をまるで棒きれのように振り回し、空中を足場にして飛んでいるモンスターを次々とたたき落としてもなお目立った傷を負うことはなかった。

 

「あれはいったい何だ。本当にレベル2か……」

 

 主力の殆どを欠いてしまい、混乱による連携が全くとれていない絶望的な状態を一人ひっくり返した幼い少女。まるで、戦場を遊び場のようにはしゃぎ回り、最後は楽しかったの一言で終わらせた、無邪気すぎる子供だ。

 

「ティオネは疑ってました。詐称……してるんじゃないかって」

 

 それを目の当たりにしてしまえばそう思えてしまうこともしかたの無いことだ。

 

「そうか……」

 

 そして二人は押し黙る。

 

「ベートさん、組み手お願いします」

 

 素振りを終えて少し息を整えたアイズが、訓練用の木剣をベートに手渡した。

 

「ああ……」

 

 自分がいったい何にいらついているのか分からない。あの二人が戦う姿を目の当たりにして煮え切らないものを、今は似ている少女にぶつけてみたいとベートは思った。

 

 

 








ベートさんのキャラをつかむのが難しいです。
「ベートはそんなこと言わない」というご意見がありましたら感想欄にてどうぞ。

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