ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
バカみたいに忙しいですが、何とか書けたので投稿
何とか週一ぐらいで更新できればなぁと思ってます。
技術チートってやつだ
そろそろ年末も近いですねとワカヒルメ様と話をしたら、朝廷でも年越し蕎麦を食べる風習があることに驚いた。それなら正月はお餅ですよねと言ったらまるで歴戦の友と再開したみたいに抱きしめられちょっと嬉しかったね。
ただしお餅の食べ方で一悶着あったのはちょっとどうなのかなと思う。ワカヒルメ様は焼きたての餅に甘めの醤油をかけて海苔をまいて食べるのが至高だというが、私は大根おろしに醤油をかけて食べるのが最高だと思う。エルティナは興味がなかったみたいだけどね。
それならお雑煮はどうかというと、ワカヒルメ様は丸餅を白味噌仕立てでいただくの一番だと言うが、私は角餅を醤油仕立ての鶏ガラスープで、ほうれん草と鶏肉と一緒にいただくのが最高だということで意見が分かれた。私は白味噌のあの甘い感じがちょっと苦手なんだよね。お味噌汁を飲んでるのに甘いなんて、ちょっと脳がバグるというかさ。
ちなみに私はタケノコよりもキノコの方が好きだ(火に油)。
と言うことで、いつもの市場にそば粉を探しに行ったが、意外なことにあっさり見つかったのだった。そういえば、昔から蕎麦というのは救荒作物として重宝されていたと聞いたことがあるからオラリオでも一定の流通はあると言うことなのだろう。値段もそんなに高くないので、いくつか製粉してもらい、年末までに手打ち蕎麦の研究をしようと言うことになったのだ。
こちとらは素人なので十割は難しいだろうから小麦粉も多少混ぜてやってみるつもりだ。生地さえ出来れば、私の宝物であるパスタマシンで伸ばして切ってやればいいだろう(素人感想)。
「ただいま戻りました。そば粉買ってきましたよ」
「おお、ちゃんと売ってたんだね良かった」
「後は、年末までに美味しくなるように練習しないといけませんね」
「私も手伝うよ。美味しい蕎麦を作ろう」
私とワカヒルメ様がそば粉の入った袋をの前で決意を新たにしていると、少し遅れてエルティナがリビングに入ってきた。
「ワカヒルメ様、マスター。ガネーシャファミリアから手紙が届きました」
普段は殆どなにも入っていないポスターに珍しく手紙が一通入っていたようで、そこにはガネーシャファミリアの特徴的なロゴが記載されていて、封蝋には像をモチーフにした印璽が記されていた。
「ガネーシャファミリアから? なんだろう、心当たりがないけど」
一応、団長の私宛になっていたのでそれをエルティナから受け取って、何の気なしに天井の魔石灯に透かしてみた。さすがに盗み見を防止するためなのか、文字が透けて見えることはなかったけどね。
「あー、あれじゃないか? そのうち何か依頼されるかもしれないってやつ」
「そういえば、まだ白紙の依頼状が残ってましたね。いよいよってやつですか」
私はそう言ってアイテムパックからペーパーナイフを取り出して封蝋を破って中身を確認した。
「ふむふむ……なるほど……『話し合いの場を設定したため、週末にアイアムガネーシャに来てほしい』ってなってますね」
しっかりと人の手で書かれた筆跡だが、私に比べてとても美しく丁寧な文字だ。おそらく書いたのであろうシャクティさんの人柄が見えるみたいだね。私は未だに字が汚いという定評がある(恥)。
「そうか。分かった……私も一緒に行った方がいいかい?」
「そうですねぇ、今回は私とエルティナだけで行ってみます。それでいいかな? エルティナ」
「問題ないと思います。何かあれば通信を行うと言うことにしておく必要はあると思いますが」
「じゃあ、そうしようか。何かあったらすぐに連絡するんだよ?」
「ありがとうございます」
とりあえず手紙は私の寝室の大事な物入れに納めておいて、急いでリビングに戻った。リビングはダイニングと一緒になっていてついでにキッチンも併設されているので、分類的にはLDKというやつだ。ついでに部屋数はワカヒルメ様と私とエルティナ用に3つあるので、分類的には3LDKというやつだ。ぼろいけどね。
ガネーシャファミリアの手紙も大切だけど、今はお蕎麦だ。ここで手をぬけば年末に泣きを見ることになるだろうほどの死活問題なのだ。
「それじゃあ、お蕎麦にかかりましょうか」
リビングのちゃぶ台には先ほど買ってきたそば粉の袋が、大明神のように鎮座している。せっかくだから鳥居でも作りましょうかね。
「そうだね。まずは少量から初めてみよう」
「マスター、こちらが小麦粉です」
「ありがとうエルティナ。素人だからね、いきなり十割蕎麦は難しいと思うから、二割ぐらい混ぜちゃいましょうか」
「任せるよ」
と言うことで、とりあえず見よう見まねでそば粉に少し小麦粉を混ぜて水を加えてとにかく揉み込んで適当に伸ばしてパスタマシンで麺にして湯がいてみたが、麺が全部ぶつ切れになってこれじゃ蕎麦粥だよと言うことになった。
絵に描いたような失敗だったので次はもっとちゃんとこねてみることにして今日はここまでとなった。
そういえば、そば粉は水を自分の中に閉じ込める性質があるから水回しはとにかく丁寧にしなければならないとどこかのマンガで読んだことがある。粉の一粒一粒に水を含ませていくような感覚という、訳の分からない表現をされていたような気がする。
「次は粉を網でちゃんとふるってみましょうか」
「そうだね。所々ダマになっててそこからちぎれたのかもしれないな」
「最初はもう少し小麦粉を増やしてもよろしいのではありませんか?」
「そうだねぇ。とりあえず五分五分でやってみようかな。二八はまだ早かったか」
しばらくはお蕎麦作りに励もうと思う。ちなみにお餅の方は餅米がオラリオでは殆ど流通していないみたいなので諦めざるを得なかったので、とにかくお蕎麦だけは完璧な物にしたいという執念が私達にある。
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せっかくのそば粉は蕎麦粥になってしまい残念だったが、その後のメインディッシュはしっかりとしたものを用意していたのでちゃんと口直しにはなった。よく行く精肉店で合挽ミンチが安かったのでハンバーグを作ったのだ。やっぱり、お肉はいいね、身体に力があふれるようだよ。
「だいぶこちらの食事になれてきた気がする」
ワカヒルメ様はそう言いながらお茶を口に含みほっとため息をついた。たしかに朝廷とこっちとでは食文化がまるで違うから最初は大変だっただろうなぁ。私も、転生したての時は日本とオラクル船団の食文化や生活様式が違いすぎてハゲるかと思ったもん。その分こっちでの東京でお寿司を食べたときには涙すら流れたぐらいだった。
「せめて、お米が安く手に入ればいいんですけどね」
こればかりは極東系のファミリアがもっと増えて、物流が安定するまで耐えるしかない。
「あー、梅干しの入ったおにぎりが恋しいよ。機織りの合間につまむのがまた美味しくてね、添えられたお香々が最高の贅沢だったなぁ」
「やめてください、飯テロですよ」
さすが神様だ、私のお腹にクリティカルヒットさせるとは。こればかりはアークスでも回避は不可能だね。
「ごめんごめん」
ちなみに私は塩鮭のお茶漬けが食べたい。しっかりと塩漬けされた鮭の切り身を火を通しすぎない程度に焼いてから丁寧にほぐして暖かいご飯の上にのっけて、その上から熱々の緑茶をまんべんなく注ぐのだ。パリパリの皮に付いた濃厚な脂身をお茶でふやけたお米を絡めてかみしめるなんて、最高かな?
「ご歓談中失礼します。お二人とも、食後の予定は空いておられますか?」
少しやることがあると言って中座したエルティナが改めて私達に問いかけてきた。
「私は特に何もないかな。ベルディナは?」
「私は――髪のお手入れがぐらいですかね? 長いと大変なんです」
「といっても、殆どエルティナに任せてるじゃないか」
「そりゃぁ……一人じゃ大変ですから」
「たまには私が手伝ってあげようか? エルティナ一人じゃ大変でしょ?」
「いえ、これは私の仕事ですので、主神様にさせるような事ではありません」
「そう? 君の髪は奇麗だからいろいろ触ってみたいとは思うんだけどね」
「ふふん、私の自慢の髪ですからね」
話がそれた。エルティナは結局なにか用事があったのだろうか?
「失礼しました。先ほどのダンジョン攻略にて必要数の素材が集まりましたので、回路の試作を行い、その結果を報告いたします」
そう言って、エルティナは手に持っていた四角い小さな板のようなものをゆっくりとちゃぶ台に置いた。
「これは……板? にしてはちょっとでこぼこしてるね?」
「板というか、これは回路基板って言った方がいいのかな、エルティナ」
前世でPSO2の要求スペックが上がった際に生まれて初めて自作したPCでよく見たものだ。緑色のプレートに四角くて黒いものが乗っかっており、それら同士を金色の線でつながれていて――初めて見たときはまるで建物が建ち並び道が巡らされている街のようにも見えたものだった。
「私にはちょっと理解が及ばないんだけど?」
ワカヒルメ様は基板をツンツンとつつきながら横からのぞき込んだりしている。
「具体的には魔石製品の応用のようなものです」
「ほう? 魔石灯とか
「まあ、大体合ってます。それで、エルティナ。これは何をする装置なの?」
とりあえず話を戻そう。
「はい、これは以前話しておりました無線機を構成する要素の一部分でして、微弱な音声信号を増幅する装置となります。マスターにもわかりやすく言いますと、アンプというものです」
なるほど、アンプなら分かるよさすがに、あれでしょ? スピーカーで大音量を流すための装置でしょ?(ダイタイアッテル)
「つまり、ギルドが持っている放送装置の部品の一部ってことかい?」
「あれ? そういうのこっちにもあるんですか?」
「まあ、めったには使われないけどね。ギルドがオラリオ中に緊急放送をする場合とかに使われるぐらいかなぁ」
なるほど、なんか、こっちの文明のレベルがよく分からないね。だけど、町中で送電線みたいなものは全く見たことがないから、地中配管で通しているのかな。
「そうなんですか。今度注意してみてみますね」
想像以上に高度なものがこの街にはありふれているのかもしれないね。
「それでエルティナ。この回路については分かったけど、電源みたいなのはあるの? 電池とか」
「それはこちらに。
「これも、クラフターで作成したの?」
「はい。魔石を粉砕し薬品に溶かし込んだものを電解質としてこれの両端に電極を配置し完成しました」
見た目乾電池っぽいけど、液漏れとかしないのかな? それだけが心配だな。
「すごいね。ここまでできたんだ」
例のクラフターを手に入れてからコツコツとこの世界の素材を解析し続けて蓄積し続けた労力の結晶が今まさに示されているのだろう。
「なんだか、理解が及ばないんだけど、説明してくれないかい?」
しまった、ワカヒルメ様が置いてけぼりだった。
「簡単に言いますと、この筒には魔力が蓄積されておりまして、この端子をこの回路に繋ぎますとこの導線に魔力が流れるようになります」
エルティナは先ほどのアンプに電池を繋いで回路を起動させる。導通を示す発光ダイオードのような魔力回路素子が輝いて、基板上に設置されたスイッチをONOFFすることで光を付けたり消したりし見せた。
「おー、なんだかちゃんと動いてるんだね」
今度、クラフターでマイクとスピーカーも作って貰い、いろいろ実証試験をして行くらしい。
「それにしても、そのクラフターだっけ? すごいね。こんなものが簡単に作れちゃうんでしょう?」
「あまり大きなものは作れませんし、そこまで微細な加工は出来ませんが、便利なものとは言えます」
エルティナの言うとおり、このクラフターはあくまで簡易装置で惑星現地で素材や資源の解析を主に行って、何かしらの素材を試作するためだけの代物であるので、最大でも底辺が30cm四方で高さが15cm程度のものしか作ることは出来ない。
その中身はと言うと、簡単に言えば高性能の3Dプリンタみたいなものだ。私が前世で知っているものは樹脂素材を積み重ねて立体形状のものを作る程度でしかなく、精度もまだまだおもちゃレベルだったが、エルティナの装置はインクジェットプリンタみたいに複数の素材を積層させる事が出来るので、それこそ半導体やプリント基板みたいなものだって数時間で作成可能なのだ。
つまり、ICチップみたいなものをプリント基板と同時に製造して内部に埋め込むことが出来るのでいちいちハンダ付けする必要もないのだ。
といっても、オラクル船団の工場にある機械のようなゼプトメートルオーダーの超微細加工は不可能だ。このクラフターで作成可能なのは、せいぜいICチップ程度のもので、米粒ぐらい小さいチップに1兆個もトランジスタを搭載させる事なんて絶対にできないわけだ(エルティナから聞いた)。
ちなみに、
「なんというか。これは、商売として成り立つんじゃないかい?」
ワカヒルメ様の言いたいことも分かるし、大変魅力的な話だがそれはちょっと難しいところがある。
「その辺はちょっとグレーなんですよね。作成したものは一応サンプルとして船団に提出する必要もありますし」
まあ、そこまで厳しいことは言われないとは思うが、さすがにそれで商売をしてしまえば上から睨まれてしまいそうで怖いのだ。
「あとは無線の送受信機とかかな?」
無線機を作るには電波みたいなものを発信して受信する装置がないと意味がない。
「鋭意開発中です」
「そっか、さすがエルティナ」
マイクから出力された信号を送信機で送り、受信機で受け取りアンプで増幅しスピーカーに入力すれば、無線機の最低限の機能は確保できると言うことだ。
「楽しみだね」
ちなみに、