ゲーム出身の一般アークスが、オラリオでダンジョンアタックするのは無理がある 作:柳沢紀雪
そんなこんなであっという間に日々は過ぎ去り、週末がやってきたのでガネーシャファミリアのホームであるアイアムガネーシャに足を運んだのだった。
「うーん。悪趣味……」
自分を象徴する像を造るのはまあいい。神様ってのは偶像されてなんぼみたいなところあるし。その像を自分のホームにするのは100歩譲ってまあいい、無駄な物を再利用すると言うことだからエコだ。しかし、その入り口がよりによって股間部分というのはいただけない。
「マスター。そのようなことをあまり大きな声で言われませんように」
エルティナが注意してくるが、これはさすがにないだろうと思う。
「人間関係で一番大切なのは第一印象なんだよ、エルティナ。これから仕事を頼もうという人を招くのに、この拠点を見せるのはビジネス的にどうなんだろうねってことを私は言いたいわけだ」
いろいろ理屈をこねてみるが、言いたいのはこの建物は悪趣味だという事だけだ。これでは、ビジネスパートナーとしてはちょっと考えないといけないぐらいの造形をしていると思う。
と言っても、こちらは仕事を貰うために来ているのでそんなことはおくびにも出さずにニコニコして入り口間近の受付に行くだけだけどね。
「すみません。本日、シャクティさんから招待されましたワカヒルメファミリアのベルディナとエルティナです。こちらは招待状です」
私の背丈と同じぐらいのカウンターに、鉄棒の要領で顔を出して、ガネーシャファミリアの封蝋がされた手紙を差し出して引き継ぎを願った。
「…………はい、確認しました。団長を呼んできますので、少々お待ちください」
受付の人から見れば、ちっちゃい幼女がいきなり顔を出して団長との面会を願うのだから、一瞬あっけにとられるのは理解できる。それでも、しっかりと仕事としてシャクティさんに繋いでくれるのは大したものだ。私なら、とりあえず親御さんを呼んでこいと言ってたと思う。
待つように言われたので私達は玄関ホールで待つことにしたけど、別の人が応接室に案内してくれたのでそれに従った。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
「ちょっと時間かかってるね」
応接室に通されたはいいが、担当の人(多分シャクティさん)はなかなか現れなかった。
「突然の強制任務に手が回っていない状態と思われます」
「だよねー。50階層到達命令ってちょっと異次元過ぎて理解できないな」
私達はまだ24階層までしか進出できていないし、アストレアファミリアに連れて行ってもらったのも30階層ぐらいまでだ。25階層にはでっかいヘビみたいな階層主がいると聞いているし、深層は37階層からだから、50階層なんて何があるのか想像すら出来ない。
「確か、深層に行けるのはレベル4以上じゃないとダメなんだっけ?」
「そうなりますね」
「先が長いなぁ。私達なんてまだレベル2だし。未だレベル3になる目処も立ってないからねぇ」
一応、ランクアップのための偉業は達成している状態なので、経験値を積んでアビリティをD以上にすればいつでもランクアップ出来るようだが、今の私は経験値を得ることが一番難しいのだよ(普通は逆)。
「このたびの遠征で上手く経験値を得られればよろしいですが」
「それだよね」
とりあえず手持ち無沙汰をごまかすために出されたお茶を飲み干してカップをテーブルに置いた。なかなかいいお手前だったと思う。やっぱり上級ファミリアは使ってる茶葉が違うなぁ。
ウチは貧乏だから、一日で出涸らしを最低でも四杯はいただくからね。
仕事終わりのコーヒーなんて夢のまた夢だ。
「このクッキー美味しいね。私の好みをちゃんと分かって出してくれてるんだよきっと」(何様)
と言ってテーブルの真ん中に鎮座していたお菓子の山からクッキーを一枚取り上げて口に運んだところで応接室の扉を叩く音が響いた。
「もぐもぐ…………どうぞ!」
私の小さい口ではこの程度のクッキーでも食べきるのに時間がかかってしまうのがネックだ。
私は口の中を空にすると立ち上がって扉に向かって声を投げる。
「こちらから呼び出しておきながら待たせてしまってすまなかった。今日中に決裁するものがずいぶんたまってしまっていてな」
そう言いながら小脇に書類の束を抱えて入ってきたのは、ガネーシャファミリア一番の美女と名高い(と私が勝手に思っている)団長のシャクティさんだ。この間のリザさんの一件ではずいぶん迷惑をかけてしまい申し訳なく思う。
「いえ、お声をいただいて光栄です。先日はリザさんのことでいろいろご迷惑をかけました」
そう言って私はシャクティさんに頭を下げた。日本のビジネスマナーにならって最大級の謝意を込めて腰を90度までおって、しっかりと頭頂部を差し出す。シャクティさんからは私のマトイちゃん風のアホ毛(アクセサリー:マトイのエクステ)がよく見えているだろう。
「頭を上げてほしい、
「ありがとうございます」
私は面を上げてシャクティさんを見上げた。女性にしてはすらりと長い背(175cm)に、一見スレンダーかと思いきや、なかなか見事な房を持っておられて、同じ女性としては羨ましい限りだ、主に身長が。
「時間がないのですぐに依頼について話がしたい。席に着いてくれ」
「分かりました」
シャクティさんは小脇に抱えた書類をテーブルに置いて、そのタイミングを見計らったかのように秘書っぽい女の人がキャスター付きのワゴンを押しながら入室し、先ほどまで飲んでいたものよりもさらに良い香りのお茶をサービスしてくれた。
「さて、すでに認識はしているだろうが、このたびガネーシャファミリアはギルドより50階層到達の命令を受けた」
「ええ。すごいですね。50階層なんて、私達じゃ想像も出来ませんよ」
「そのように素直に喜べれば良いのだがな……」
「胸中をお察しいたします」
エルティナはシャクティさんを労う。ようやく
責任のある立場というのは大変だ。私は絶対にゴメンだね。
「私達は地上にも責任を負わなくてはならないから、遠征による損害を最小限に抑えたいと思ってるわ」
シャクティさんに続いて今度は秘書っぽい女の人が私とエルティナにいろいろ書かれた紙を渡してきた。どうやら、今度の遠征の概要が書かれた書類と、契約書っぽい書類の二種類があるみたいだね。
「ちょっとお時間貰いますね……」
私はそう断ってから書類に目を落とし隅から隅まで確認し始める……フリをして視界をエルティナと共有して一緒に呼んで貰う。私だけじゃ気づけないこともあるからエルティナにもダブルチェックをして貰っている……というよりは、私はこういう難しい文章を読むと急激に眠気が襲ってくる体質だからエルティナに代わりに呼んで貰っているというほうが正しい(無能)。
『どう? 内容に不備はない?』
前世みたいに甲とか乙とかいうややこしい表現はないのがせめてもの救いだった。
『問題ないと判断できます。非常に簡潔にまとめられていますね』
というよりは幼女(21歳児)の私でもある程度は理解できるようにまとめてくれているという方が正しいか。その判断は間違っちゃいないのがなんとも情けないことだ。
『わかった、ありがとうエルティナ』
シャクティさん達に気づかれないようにエルティナと通信を交わして、私は視線をシャクティさんへと改めた。
「詳細については依頼を受けてもらった後に予定している。主に頼みたいことは、
アストレアファミリアの時も同じような事を言われた気がする。やっぱり、エルティナの回復支援はかなり魅力的なのだろう。エルティナが頼りにされるのはマスターとして鼻が高い。
『それでいいよね? エルティナ』
『マスターの意志に従います』
『ありがとう』
エルティナに聞いてもその答えが返ってくることは知っている。サポートパートナーには、緊急時を除いて自己決定権が与えられていない。基本的には所有者の命令を受けてそれに従って行動することは求められている。だからこそ、私がエルティナの責任を負わなくてはならないのだ。
「分かりました。是非とも同行させてください」
私の答えはすでに決まっている。中層までではまともに成長できないこの身に降って湧いたチャンスというやつだ。上手くいけば背も伸びるかもしれない(それは絶対にない)。
「そうか。では、そちらの契約書をよく読んで貰いたい」
「分かりました。ここにサインしたらいいですか?」
「いや、ちゃんと読んでね?」
秘書さんが早速ペンを取り出して一番下の欄に名前を書こうとした私を咎めるが、すでに内容に問題はないことはエルティナが保証してくれている。
「いえ、信用していますので」
私は幼女スマイルで二人をひるませて、その隙にバッチリとサインを記した。相変わらず汚い字だ。
「ハンコはいります?」
念のため、休日を利用してワカヒルメ様と一緒に作ったファミリアの象徴が刻まれた印鑑を持ってきている。ギルドに登録した正式のものではないが、なんとなく契約書というとハンコを押したくなるのが元日本人のサガというやつだろう。
「いや、サインだけで十分だ」
「そうですか……」
ちょっと残念。
「あー、でも一応貰っておいたら? サインだけじゃどのファミリアか分からないし……」
秘書の人とシャクティさんが視線を重ねてなにやらアイコンタクトで会話をしているように見える。
「うむ……そうだな。せっかくだ、サインの後ろ側に半分重なるように捺いて貰おうか」
「分かりました、それじゃ…………はい、奇麗に捺せましたよ」
一緒に取り出した朱肉をハンコに丁寧に乗せて、強すぎず弱すぎず丁寧に押印して書類をシャクティさんに手渡した。
OLとして働き始めた頃はなかなか上手く印鑑が捺せなくて先輩や上司に怒られたのも今となってはいい思い出だ。上手く押せるようになった直後に印鑑も電子化されたのにはちょっと思うところもあったけどね。
「ああ。では、早速だが詳しい打ち合わせをさせて貰いたい。資料を頼む」
「分かりました」
シャクティさんは秘書の女の人に契約書を渡し、代わりにちょっと分厚い書類の束を受け取り私の前に置いた。さすがにこれを読むのは骨だな……。
「失礼しますね」
私はとりあえずそれをエルティナにも見えるように、テーブルに広げて中身を確認していく。
「49階層がネックとなっているようにお見受けします」
49階層というと、50階層の寸前だね。何かあるのかな?
「さすがだな
「バロールという階層主が出現したのよね」
秘書さんは、「はぁ……」とため息をつきたくなりそうな表情で肩を落とした。
「49階層にバロールという階層主がいるんですね」
『リザさん、今大丈夫ですか?』
『休憩中だが、どうした?』
『49階層って行ったことあります?』
『さすがにまだだ。そろそろ37階層に進出するかどうか迷っている段階だな』
『そうなんですね。無理はしないでください』
『分かっている』
こっそりとリザさんにも聞いてみるが、どうやらリザさんもまだバロールとは出会っていない様子だった。
それからシャクティさんからいろいろ説明を受けた。
どうやらバロールは一つ目の巨人のような姿をしたモンスターで、その巨体故の耐久性と防御力が脅威だが、一番の脅威は単眼から放たれる破壊光線だという。
「目からビーム出すんですね」
”だにょ”とかいいそう(真面目に聞け)。
はっきり言ってバロールの驚異度は上級ファミリアが全員でたこ殴りにして勝てるかどうからしいので、できる限りは戦いたくないようだが、出現したら戦わざるを得ないようだ。驚異度レベルどれぐらいだろ? ゴライアスがLv4らしいからLv7とかありそう。
階層主はネトゲとは違ってに出現してからはずっと出現しっぱなしだから、時間をおいていなくなるのを待つという事が出来ないのが厄介だ。誰かが倒さないとずっと居座るからいつまでたっても50階層に行けないという事が起こりえる。ちなみに出現間隔はよく分かっていないらしい。
「そしてもう一つ。今回は可能な限り被害を抑える目的のため、君たちとは別にもう一人優秀な
「それは盤石ですね。どなたですか?」
「アミッド・テアサナーレ。【
「おー、アミッドさんも一緒なんですね。それなら安心ですね」
アミッドさんのお店にはポーションを買ったり、24階層で手に入れた素材を売ったりなど、ちょくちょく足を運んでいる。この間は虎の子のエリクサーも消費したから清水の舞台から飛び降りる覚悟で1本購入させて貰った。
ちなみにアークスはスカイツリーから飛び降りても無傷だ。
なんなら
「知り合いのようだな。ならば、できる限り連携が出来るようにして置いてほしい」
「役割が似てますからね。エルティナが前戦で、アミッドさんが後衛って感じですか?」
「その通りだ」
アミッドさんがどれほどすごい
ちなみにエルティナは、回復力と機動力が高く戦闘も可能な衛生兵って感じの立ち位置だから、そもそも役割が違うから連携しやすいだろうしね。
「分かりました。明日にでも訪ねてみます。ついでになにか必要なものを買ってきましょうか?」
「助かる。後で目録を持ってこさせよう」
ふむ。50階層は全く未知の世界でたくさんの困難や脅威もあるだろうけど、なんだか楽しみになってきた。
アリーゼさんの時はめちゃくちゃ厄介なことが起こったけど、まあ、今回は人数が違うからそれほど大したことは起こらないだろう。
気楽に行こう。