仙界に一つの予言があった。
人界、大いに乱れ、
大海、大いに乱れ、
天を閃光が穿つ刻、
最後の大神は目を覚ます
と。
その最後の大神が善か悪かは、予言者自身も知らなかった。
……
人界。中国大陸にて、未曾有の戦乱が訪れていた。
未来において春秋戦国時代と呼ばれた紀元前700年から紀元前200年まで続いた空前絶後の500年戦争。
仙界に伝わる予言にこれ以上合致する事象は無かった。
仙人たちはこの事態を受け、最後の大神がもうすぐ現れるものと考えて、独自に注意深く世界を観測していた。
一方、世界を司るはずの神々の方は「多分大丈夫だろう」などと能天気なことを考えていた。しかしそれも仕方なし。
神々の力が衰えきった神代末期。
もはや1000年を待たず、神々は世界規模の神秘の減衰、肉体の魔力的餓死によって物質世界から消え去る運命にある。
要するにいよいよ死期が間近なご老人。
この世から霊界へ退去するまでの間、安穏とした日々が続くと信じて疑わない神々は、その多くが無気力となっていた。
そうして何もかもがなぁなぁのままでも、時は歩みを止めず、
望む望まざる関係なく『その時』は訪れた。
花果山の頂に配された地母神の仙岩に星の霊気が流れ込み、精霊として、一つの命として生を得たのである。
あくる日
閃光が天界を照らした。
花果山頂上から放たれた光はくるくるとあちこちを照らして回っていた。
物覚えの良い神霊がいつぞやの仙界の予言の大神ではないかと騒ぎ、天界はにわかにどよめいた。
千里眼を持つ神霊が光の発生源を探ってみれば、そこには1人の精霊がいた。
閃光の原因は彼女から溢れる魔力が千里眼の視線を可視化させていたからだったのだ。
精霊はしばらくあちこちを見ていたがしばらくすると魔力を操作する感覚を覚えたのか、はたまた空を見つめるのにも飽きたのか、天界に差した光は消えた。
この事について、天界は王たる天帝は「今更、多少目が良いだけの山奥の精霊が1人増えた程度で何か問題が起こるはずも無いだろう。放っておけ」と言い放った。
この時点で美候王がどれだけ強力な力を備えているか、天帝たちは知らなかったし、強い興味も無かった。死期を悟った神霊たちはすっかり俗世に干渉するやる気を無くしてしまっていたのだ。
そんな中、仙人の中でも上位の存在である須菩提祖師はどうしても予言の不安がぬぐえず、精霊にお目付け役を付けることを決めた。
◇◇◇
中国南州の果て。
切り立った崖の奥の奥。
世人が立ち入れない山脈の天辺にある仙郷に須菩提祖師とその門弟が暮らしていた。
方寸山
斜月三星堂
門弟が方寸山で須菩提祖師に勉学を習う筆学道場の前。
2人の男が向かい合い、試合開始の合図を今か今かと待っていた。
勝負の理由? 暇を持て余した男子が2人揃ってやる事なんてそう多くは無いだろう。端的に言えば腕試し。
門弟の中でも腕の立つ2人の試合を前に門弟たちも勢揃い。どっちが勝つか仙人見習いなのに夕飯で賭けをしている者たちまでいた。
真紅の道着に赤銅色の短髪。見るからに格闘家風の門弟が向かい合う相手に指を差した。
「おいおい、
指を差された相手の白い法衣にウェーブのかかった青い髪の道士姿の男は戯けた様子で蓉空を注意した。
「
そうとも好敵手はこうでなければ張り合いがない。
「ハッハハハ、言うじゃないか蓉空。この前の勝負じゃ僕の幻術に手も足も出なかったくせに」
「治海の方こそ、前の前の勝負じゃ俺に切り刻まれたくせによく言う」
「ハッ! 今まで通りなら今度は自分が勝つ番だとても思っているのか? お生憎様! 当然ながら僕もお前が対策してくるのを見越して鍛えてきたんだ! 蓉空には申し訳ないが、今日も、僕が、勝つ!」
睨み合う2人の間に、審判役の門弟が間に割って立つ。
俺だ!
僕だ!
ギャイギャイ言い合う2人の間、審判が片手を振り上げた。
「始め!!」
先程までの稚拙な舌戦はどこへやら、合図の直後、空気がピンと張り詰め、その重い空気に審判役の門弟は思わずその場で固まってしまった。
2人の間に立つ審判。
控えめに言って邪魔。
けれど2人とも意に介さず各々勝手に動く。
先手を打ったのは──
治海が法衣の裾から符を取り出し振りかぶる。
──力、山ヲ抜キ──
蓉空、即座に跳躍。
試合前に両手に握り込んでいた髪の毛を剣に変換し、左右に投擲。
「ハァ!? お前いきなりソレ使うかよ!?」
治海の符が鳥の式神となって蓉空へ飛ぶ。
──剣、水ヲ渡リ──
蓉空は宙返りをしながら、まだ手の中にある髪の毛を更に剣に変換し治海の式神を切り裂きながら更に両手の剣を投げつける。
「こっのッ! 最後までやらせるかっての!!」
治海が青い符を取り出すと、そこから勢いよく水流が放たれた。
──心技、無欠ニシテ盤石──
宙返りの条件を満たし、
宙返りのアクションが増えた分、普通の雲乗りの術よりも筋斗雲は素早い。
蓉空の姿が消えたと同時に投げられた4本の剣がまるで意思を持っているかのように戻ってきて、4方向から治海に迫る。
「ズルいぞお前ェェ!!」
治海、苦し紛れの悪態を放ち
──両翼、共ニ命ヲ別ツ──
絶技 鶴翼三連
背後から現れた蓉空の両手の剣を含めた3対、5方向、6本の完全同時攻撃を受け、治海の姿が蜃気楼の様に消え失せた。
──手応えが無い。逃げられたか。
呆気に取られる観衆。
蓉空は流れる様に治海の居た位置を駆け抜け、注意深く辺りを見回す。
「何がズルいだ。始めから分身を用意していたお前の方がよっぽどズルいじゃないか」
蓉空がそう文句を言うと、道場の周りに砂嵐が巻き起こり、突然のことに観衆は思わず目を閉じた。
風が止み、目を開けるとそこには見た事の無い石造りの塔が立ち並ぶ異国の情景。
道場の周囲を取り囲む様に立つ塔の間を飛ぶ蓉空の頭上、一番高い塔の天辺に治海はふんぞりかえって立っていた。
「それを言ったのは僕じゃない。僕の分身さ」
「それは屁理屈だろ……」
「ハハハハハ、お前が囮相手に大技かましてくれたお陰でこっちも大技の詠唱が完了出来た。感謝するよ蓉空!」
「そりゃどうも。じゃ、そう言うことで、次は本気でいくぞ」
「知らないのか? 「次は」なんてのは負け犬の台詞なんだぜ!!」
治海が韻を結び終わり、幻術が完成する。
仙術
立ち並ぶ塔の群れ。
その天辺から次々と岩をも砕く強烈な水弾が降り注ぐ。
一発当たれば動きが鈍り、そのまま水弾の豪雨に叩きのめされてしまう。
それでいて本体は幻術のどこかに潜んでいて、塔の天辺でしたり顔をしている治海も幻影。
仙人が鍛錬の末に手に入れる魔力知覚の人工魔眼「浄眼」で見たとしても、周囲を覆う霧に掛けられた幻術のベールが術者の探知を阻む。
蓉空はそんな中で水弾の物量に押しつぶされる前に本体を見つけなければならない。
互いに一度は相手を負かした必殺技の応酬に観衆の門弟は大盛り上がり。
「一度見た技だ! そう簡単には当たらないぞ! 治海!!」
蓉空は水弾の雨を器用に躱しながら髪をその場で切り落とし、無数の剣に変えて塔の先端に向かって放つ。
水弾を放つ頂点を破壊された幻影の塔はすぐに崩れて消えてしまうがその分どこからともなく霧が這い上り、新たな塔が形成されてしまう。
「お前の方こそ! 剣を飛ばすしか能が無いじゃないか!!」
幻術の裏で実は割と際どい所を通り抜ける剣に戦々恐々しながらも、堂々とした声色で治海が言い放つ。
「これで決めるッ!!」
蓉空を中心に剣が輪になって整列する
2重
3重
4重
100本を超える剣輪が蓉空の周囲を舞う。
「へぇ? それでどうするのさ」
「こうするんだ!!」
4重の剣輪が急速に拡大し360度を切り刻む。
幻影の塔は一つ残らず吹き飛ばされた。
流石の治海も回避に集中せざるを得なかったが、蓉空の攻撃は当たらなかった。
「その程度か蓉空!!」
治海が勝利を確信して吼える。
幻影の塔は霧に極めて精巧な風景を投影した風船の塔。
治海の操る水が尽きない限り無限に復活する。
蓉空を復活した幻影の塔が取り囲む。
それだけでなく、先端だけでなく幻影の塔のあらゆる場所が円錐形に尖っておりその先には水分が蓄えられているのが分かる。
「この射角と密度じゃいくらお前でも耐えられないだろ!!」
治海が腕を振り上げる。
「終わりだ!!」
治海が腕を振り下ろすと同時に放たれた無数の水弾は蓉空に殺到し、広場を水浸しにした。
暴雨が過ぎ去った後に残っているのものは、
何も無し。
「へぇ、どう避けたかは知らないけど僕のとっておきを凌ぐなんてやるじゃないか。ま、万が一のために幻術を解いていない僕の周到さには敵わないだろうけ「俺の勝ちだ」」
ガツン
と
幻影の塔のうちの一つに隠れていた所を剣の腹で後頭部をぶっ叩かれた治海は、なすすべもなく地面に墜落した。
◇
歓声に沸く広場の中央、痛む頭をかかえた治海に蓉空が種明かしをする。
「最近、俺もやっと分身の術が使える様になったんだ」
「あの剣陣を広げた時に入れ替わった訳だ」
「それだけじゃないぞ。他にも作っていた分身をそのまま剣に変化させて飛ばしていたんだ。それで複数の視界からお前の居場所を探り当てたんだ」
「……フン。なるほどね。僕の幻術は霧に風景を写すから幻術耐性の高い相手でも騙せるけど複数の高速で飛び回る視点に一々風景を合わせるの不可能だ。というかそんなもの想定してないし。ったく、理論が全く通用しない突破の仕方しやがって。これじゃこの術はもう使えないじゃないか」
不貞腐れる治海に蓉空が良い笑顔でサムズアップ。
「次の新作も期待してるぞ」
「ああ、新しい術が出来たらな! それまで模擬戦はしないからな!」
「了解だ」
互いの健闘を讃える門弟の姿に好々爺のような朗らかな笑みを浮かべ、道場の奥から須菩提祖師が現れた。
「蓉空、こちらへ来なさい」
「あ、はい! お師匠様! ごめんな、行ってくる」
「気にするなって、もしかしたらただの説教かもしれないぞ」
「お説教を受けるならお前だろう」
「僕はそんな悪いことはしていませーん。修行が暇な時に街に繰り出してるだけですー」
「十分ダメだろ、ソレ」
「いいから早く行けよ。先生の様子から見て悪い話じゃ無いだろ」
「ああ」
蓉空は立ち上がった治海から離れ師匠の元へ。
「お師匠様、失礼致しました」
「構わん。友との友情は大切にせねばならん」
「はい」
「ところで蓉空、お主、今年でここに来て何年になる」
「ええっと、ちょうど100年になります。なにぶん武芸にしか才能の無い俺ですが、ようやく仙道の何たるかをカケラほどは悟れたと自負しています」
「うむ。不老長生の仙術をよくぞ無事に納めた。まだまだひよっこではあるがお前ももう仙人だ」
「ありがとうございます」
「儂は、お前もそろそろ独り立ちしても良い頃だと思った。それと同時にお前に一つの大きな役目を託したいと考えている。受けてくれるか?」
「そりゃあ当然、俺なんかで良ければ」
「卑下する必要は無い。不老長生の仙術を覚えられるのは門弟の中でも才と根気を併せ持つ者だけだ」
「お師匠様にそう言って頂けたなら光栄です」
「それに今回の役目を果たせるのは儂の門弟の中ではお前しかいないと思っておる。治海と違ってどこか垢抜けないお前だからこそ出来る役目だ」
「(褒められている気はあまりしないな……)っと、それは一体どんな役目なんでしょうか? お師匠様」
「うむ、お前にはこれからある場所に行ってもらう。その地の王たる精霊が悪の道へ陥らぬように諭し導くのだ」
蓉空はとても驚いた。
新米仙人の自分にそんな役目が振られるとは思っていなかったからだ。
「いやお師匠様。俺は武芸に一分の自負はあっても仙人としては未だ修行の身。俺に誰かを導くなんてとても出来ません」
「自信が無いのは分かる。だが、誰かを教え導くことこそ人に習うよりも多くの事を学べる。あの観音菩薩様ですら修行の只中なのだ。お前も仙道を歩き続けようと言うのなら、これくらいの事に挑戦出来なくてどうする?」
蓉空は深く考え……。
ぶっちゃけた話、師匠からこんな指示が飛んできたら受けるしかないのだが。
「分かりました。俺はまだ未熟者ですがその役目、精一杯務めさせて頂きます」
師匠の指示に従う覚悟を決めた。
須菩提祖師は鷹揚に頷くと
「うむ、では蓉空、お前に新たな名を与えよう」
「新しい名ですか?」
「蓉空とは空の
『悟空』か。前の名前より言いやすくて良いかもしれないな。
「ありがとうございます。お師匠様」
こうして、蓉空改め悟空は花果山へ旅立つことになった。
◇
数日後の明朝。
旅支度を整えて、悟空は師匠である須菩提祖師に挨拶をした。
「それでは行ってきます」
「うむ。達者でな」
須菩提祖師の前で悟空がトーンと蜻蛉返りをうつと何処からともなく雲が現れ悟空を乗せた。
雲乗りの術 亜種 筋斗雲の術
筋斗宙返りという大きなアクションを起こす代わりに通常の雲乗りの術式の何倍もの速度を出せる須菩提祖師が身軽な悟空にだけ教えた特別な法術。
「では!!」
悟空が雲を走らせると筋斗雲は一瞬のウチに地平線の向こうへと姿を消してしまった。
一飛び1万8千里
マッハ10の速さで飛行する筋斗雲に乗って悟空は仙郷から花果山へと飛び立っていった。
治海が慌ててやってきたが、その頃にはもう悟空の背中は空の向こうへ消えてしまっていた。
「アイツ、昨日挨拶したからって、僕たちに何も言わずに行っちまいやがった」
「別れは不要という事だろう」
「親友の門出なんだ。一言言わせろっての」
不満げな治海に須菩提祖師は笑った。
口が悪いものの、彼なりの友情が垣間見えたからだ。
「さ、道場に戻るとしよう」
ぶつくさ文句を言い続ける治海を背に、須菩提祖師は悟空の分の朝食を分けてやることに決めた。
悟空
赤銅色の髪、赤を基調とした金の縁取りの道着。真面目そうな顔立ち。
どこからどう見ても士■。だが武芸の才能があるので■郎ではない。
あくまで他人の空似。
スキルツリーがクーフーリンに近いためか、最終的にクー・フーリンと士郎を足して2で割ったような見た目になる。
飛剣操術
対人宝具 ランクD
原理は自身の髪の毛を触媒にして髪の毛を変化させた剣を操っているだけなので、似た様な事は現代魔術でも可能。
剣としては量産品にしてはよく切れる程度。
数と操作精度と準備していた場合の出の速さが利点。
この発展系が身外身の術(分身の術)になる。
治海
青い髪、白い法衣。軽薄そうなイケメン。
友情出演のワカメ。
水に関する仙術が得意。
再出演の予定は今のところ無い。
仙術 蜃境高楼大夏
大軍宝具 ランクB
霧に写した3Dアートの塔の先に水大砲を仕込んだ巨大幻術。
相手に直接幻術を掛けているわけでは無いので初見では確実に目をくらませられる。
霧に塗布した魔力によって魔力探知を妨害しており、浄眼程度の低級の魔眼なら遮断可能。
浄眼
修行によって目覚める魔力視の能力。
分類上は魔眼。
常人では見れない妖精や人の残穢が見える様になる、だけ。
この目を持った状態で死にかけると低確率で直死の魔眼に覚醒出来る(なお脳が直死の魔眼に対応出来なかった場合、負荷で死ぬ)
鶴翼三連
対人宝具 ランクC
Fate原作においてエミヤが開拓した投擲した4本の剣と両手の双剣の攻撃を全く同時に命中させる不可避の斬撃。
その完成度は音速より素早く動ける上に多少の未来視を持っていても回避出来ないほど。
ちなみにこの攻撃を剣一本でなんかよく分からないけど全く同時に3種の斬撃を放つ事で達成する技が
魔法級対人魔剣「燕返し」である。
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